0053 緑の大地
──ここまでのあらすじ──
リゼラの両親を元の姿に戻す方法を探すため、俺たちはエスぺリサ王国の首都オーランを訪れた。
異世界ラノベでお馴染みの冒険者登録イベントを早々に済ませ、情報収集のため別行動することになった俺は、そこでコリーという男の子と出会う。
ひょんなことからコリーの事情を知り、俺はギルドを介さず個人的に依頼を引き受けることを決め、行方不明になった孤児たちの捜索をすることに。
だが子供たちの行方を追う内、オーランの陰にうごめく陰謀に巻き込まれてしまい、翌朝、無実の罪で指名手配されてしまった!
同じく無実の罪で指名手配されていた港町の英雄アーシュラにあわやというところを救われた俺は、オーランの地下に広がる禁足地へと逃げ込み、そこで四組の銀等級冒険者パーティーと出会う。
彼らは一〇年前の大嵐でアーシュラに命を救われ、その恩を返すべく彼女の無実を証明するため自主的に調査を進めていたのだ。
孤児たちの失踪。
一〇年前の大嵐。
外洋に現れた超巨大クラーケン。
そして唐突な俺たちの指名手配。
テーブル上に集められた断片的な情報から、これらの事象がすべて裏で繋がっているかもしれないと気付いたのは、我らが天才宝箱ことアリアだった。
そして彼女の口から、闇に葬られた歴史の真実が語られる。
淫魔王アシュモネ。
かつて世界中に恐るべき疫病をばら撒き、催眠魅了の力で人々を疑心暗鬼に陥らせ、世界総人口の半分を死に至らしめた恐るべき魔王。
一〇年前、聖神教の司教を操り大嵐を起こさせた本当の黒幕は、歴史ごと闇に葬られた淫魔たちの女王だったのだ。
魔王の潜む王宮へと通じる海底洞窟は、魔物が跋扈する危険な道のり。
自分ですら命がけの道に子供は連れていけない。
真実を知ったアーシュラは、魔王を討つべく、仲間も連れず王宮目指して一人で走り出してしまう。
だがそれこそが敵の本当の狙いなのではないかと気づいた俺たちは、同じく置き去りにされた銀等級の先輩たちを護衛に雇い、危険な海底洞窟を進んでアーシュラの後を追った。
その道中、海竜の赤ちゃんに懐かれたりと、ちょっとしたハプニングもあったが、それはさておき。
どうにか王宮へ辿り着いた俺たちは、ギリギリのところでアーシュラを救出し、彼女が命がけで掴んだ値千金の情報で淫魔王の撃退に成功する。
だが、騒動はそれだけで終わらなかった。
淫魔王の催眠が解けたクラーケンが産卵のためオーラン沿岸へ急接近を始めたのだ。
どさくさに紛れて無血クーデターを成功させたラルフ王子の協力もあり、多くの冒険者が港に集い、オーランを守るべく一致団結。
多くの犠牲を払いつつも、どうにかクラーケンに傷を負わせることに成功し、最後は血のニオイを嗅ぎつけ現れた海竜の一撃がトドメとなり、海の怪物は水底に沈んだ。
結果的に俺はエスぺリサ王国の危機を救う形となり、その功績を評価され一気に銀等級へとランクアップを果たす。
新たにアーシュラを仲間に加え冒険者パーティー【聖銀の刃】を結成した俺たちは、当初の予定を大幅に繰り上げ、次の目的地を世界樹へと定めた。
アリアいわく、世界樹の雫にはあらゆる呪いや状態異常を回復する力があるのだという。
かくしてフリードレア連邦使節団の船に同乗した俺たちは、『緑の大地』を目指しオーランを旅立ったのであった────。
……ふぅ、長いあらすじだった。
◇
──緑の大地 緑の口──
神秘の霊薬『世界樹の雫』を求め、俺たちは帰国の途についたフリードレア連邦国使節団の護衛依頼を引き受け、彼らの船で海を渡った。
水難を退ける人魚の涙のおかげか、大きなトラブルに見舞われることもなく、オーランを出発して五日目の朝。
俺たちは無事、緑の大地唯一の港町『緑の口』へと到着した。
「このあたり……で、合ってるはずだよな」
「そのはずですわ」
町の地図と目の前の建物を見比べてアーシュラが自信なさげに口を開くと、横に立つアリアがこくりと頷いた。
アーシュラの父、大海賊ギオドラが遺した形見のロケットに隠されていた謎の紙切れ。
そこ書いてあった【緑の口:Y24:X3:くま】という暗号を頼りにやってきたのは、港からほど近い場所にある酒場町だった。
アーシュラいわく、XとYは冒険者が遺跡のマッピングをするときによく使う記号らしい。
Xが横軸、Yが縦軸を現しているそうだ。
お尻にくっついる数字は方眼紙のマス目の数を示していて、Xは左から、Yは上から数えるのが規則なのだとか。
そこまで聞いて、そういえば数学の授業でそんなこと習ったなぁと思い出したりもしたけど、それはさておき。
港の売店で買った観光ガイドマップに記号を当てはめると、ちょうどこの辺りになるはずなのだが……。
正直どこも似たような店構えで、どこが正解なのか分からない。
てっきり熊のマスコットでも置いてあるのかと思いきや、どこを見渡してもそれらしきものは見当たらなかった。
「ひとまず手当たり次第に入ってみるか」
と、意を決して酒場のスイングドアを潜ったアーシュラに続いて、俺たちも店内に入る。
まだ昼間だからか、照明の落とされた店内は薄暗く、俺たち以外の客は一人も見当たらなかった。
奥のカウンターに横並びで腰かけると、奥の厨房から店主と思しき厳ついスキンヘッドのエルフがのそりと顔を覗かせる。
デカい。それにすごい筋肉だ。
まるで熊みたいだけど、まさかこの人のあだ名が「くまさん」ということはないよな。
「注文は」
「ベリー酒のミルク割り」
店主が不愛想に聞くと、アーシュラがどこか探りを入れるような顔で酒を注文する。
すると店主は僅かに眉を上げて苦笑した。
「随分と懐かしい組み合わせね。ほら、飴ちゃんはサービスよ」
と、言いつつも出されたのはホットミルクと蜂蜜の飴。
露骨に子供扱いされ、アーシュラのこめかみに青筋が浮かぶ。
「おい! 俺はもう大人だ!」
「どう見てもお子ちゃまじゃないの。ボウヤたちも同じでいいかしら?」
「は、はい。お願いします」
少し遅れて俺たちの前にもホットミルクと蜂蜜の飴が出される。
飴を舐めながらミルクを口に含むと、二つの甘さが舌の上で溶け合って気分がよくなった。
んふふ、甘くておいしい。
「聞きたいことがある」
不機嫌そうにミルクを一気に呷り、口の周りに白い髭を生やしたアーシュラが暗号文の書かれた紙をカウンターの上に差し出す。
すると店主の目つきが俄かに鋭さを増した。
「あなた、それをどこで」
「親父のペンダントに入ってた」
アーシュラが形見のペンダントを見せると、店主は驚いたように目を見開き、大きな顔をずいと近づけてきた。
圧が凄い!
「あなた、もしかしてアーシュラなの!? ああ、よく見れば面影があるわ! どうして気付かなかったのかしら!」
「なんだよアンタ、オレのこと知ってんのか」
「知ってるも何も、セフィーのお腹からあなたを取り上げたのはアタシよ」
「なんだって!?」
この熊みたいなエルフ店主とアーシュラにそんな繋がりが!?
じゃあアーシュラはここで生まれたのか。どうやらいきなり正解を引き当てたらしい。
驚く俺たちを他所に感極まった店主は、涙ぐんだ目元をハンカチで拭った。
「あんなに小っちゃかったベイビーちゃんが、大きくなったのね……」
「くまってのは何なんだ」
「ここの屋号よ。この辺の店はどこも地下にある海賊港と通じてるの。海賊の船は表の港に泊まれないでしょ? だからヤンチャボーイたちが緑の大地に上陸するときは、ここに使いを寄こして合言葉で裏の港の入り口を開くのよ」
「秘密の港ってわけか」
「カッコいいでしょ? ちなみにその紙の数字と屋号は定期的に変わるわ。ココみたいな店が緑の口にはいくつかあって、今年はたまたまアタシの店だったってコト。運が良かったわね」
と、片眉を上げてニヤリと店主が笑う。
確かに他の店だったら「子供の来るところじゃねぇ!」と追い返されていたかもしれない。
「あ、そうだ。ギオドラから預かってたものがあったんだわ。取ってくるからちょっと待ってて」
そう言うと店主はのしのし肩を揺らして店の奥へ引っ込んでゆき、すぐに小さな銀の筒を持って戻ってきた。
表面に精緻な細工が施されていて、美術品としての価値も高そうだ。
「ギオドラ海賊団が沈んだって聞いて、一度開けてみようと思ったのだけど、古代の強力な魔法封印が施されてるみたいでどうやっても開かなかったのよ。でも、あなたならもしかして」
店主からアーシュラへ銀の筒が手渡される。
すると、筒の表面に彫り込まれた溝に光が走り、筒の片側が開いた。
中から出てきたのは一枚の紙。
片面に獣の爪痕のような文字(?)が書かれている。
「見たことねぇ文字だ。リゼラ読めるか?」
アーシュラが隣に座っているリゼラに紙を見せるが、やはり読めないらしく首を横に振った。
「古代獣人文字ってことは分かるんだけど、詳しく勉強してた訳じゃないからそれ以上のことは分からないわ。アリアはどう?」
「左に同じくですわ。古代から続く獣人族の王国は六〇〇年前の人魔大戦で滅びてしまっていますし、読み方を調べようにも翻訳書が無いとどうにも……」
「俺にも見せて」
回覧板のように回ってきた紙を受け取り目を通すと、爪で引っ掻いたような文字の上に日本語の翻訳が浮かび上がってきた。
「えっと……? 二つの月が重なり、赤の一等星と月と大地が交わる年────」
「ちょっとヒロト、読めるの!?」
「ああ、うん。文字の上に俺の故郷の言葉が浮かび上がって見えるから、なんとか」
「それで、なんて書いてあるんだ!」
興奮気味のアーシュラに急かされ、俺は紙に書かれていた文章を声に出して読み上げた。
「二つの月が重なり、赤の一等星と大地が交わる年。獣の王国は再び蘇るであろう。優れた才覚は闇の中でこそ輝くものなり。汝、昏き水底へ潜り勇気を示せ。汝の進む道こそが王道とならん。……だってさ」
念のため裏側も見てみると、隅の方に小さく、毛のように細い字で「換毛」と書かれていた。
……換毛? どういう意味だろう。そのまま毛が生え変わるって意味じゃないだろうし。
「二つの月が重なり赤の一等星と大地が交わる年って、何年?」
「今年よ。夜空の星の巡りがちょうどそうなるのが今年なの」
俺の疑問にマッチョ店主が答える。
「昏き水底へ潜り……か」
意味深な一文を読み上げ、アーシュラが顎に手を当て考え込む。
クラーケンに襲われて海に消えた両親のことを考えているのかもしれない。
「ギオドラは十五年前に一人でここを訪れて、この筒をアタシに預けたわ。もしかしたらその文章には何か秘密が隠されてるのかも」
「お父さ……親父が、一人で?」
「ええ、何か悩んでる様子だったわ。詳しくは話してくれなかったけどね」
なんだろう。何かあったのかな。
その後、出発ギリギリまでみんなで意見を出し合ったものの、結局答えは見つからなかった。
◇
──緑の大地 森の広場──
目を軽く閉じ、全身に闘気を行き渡らせていく。
薄く。鋭く。肌の表面に纏わせるように。
「行くぞッ!!!!」
恐ろしい速さで踏み込んできたアーシュラの拳に手を添え、横に逸らして受け流すと同時、反撃の拳を顔に叩き返す。
俺の拳は首をひねって躱され、すかさず飛んできた爪撃を幽歩で躱す。
打ちながら躱し、躱しながら打ち、受けては打って、打っては受ける。
一動作で攻撃と防御を同時にこなす、フルコンタクトの応酬。
激しい打ち合いの末、僅かに見えた隙に拳をねじ込むと、手首を掴まれ投げ飛ばされた。
空中で体勢を整え木の幹に着地すると、ロケットのような勢いでアーシュラが突っ込んでくる。
虚空瞬在。
アーシュラの背後へ瞬間移動し、空中で縦回転しながら踵落としを脳天へ叩き込む。
地上へ叩き落とされたアーシュラは、全身のバネを使ってしなやかに着地。
そこから間髪入れず落ちていた岩を握りつぶして散弾のように投げ放ってくる。
再びアーシュラの背後へ瞬間移動。
礫を回避しつつ回し蹴りを叩き込むと、同じく回し蹴りで攻撃を相殺され「ズドン!」と衝撃波が辺りに響いた。
「────多少はやるようになったじゃねぇか」
お互い背後に飛び退いて間合いを取り拳を構え直す。
フッと口角を吊り上げ、飛ぶような速さで踏み込んできたアーシュラが鋭い突きを放ってくる。
手で円を描くようにして突きを受け流し、拳で反撃。
拳は逸らされ、飛んできた反撃の拳を掻い潜るように躱し、戦局は再びフルコンタクトの近接格闘戦へ。
────緑の口を出発して今日で一週間。
俺とアーシュラは休憩の合間を使い、毎日のように手合わせを繰り返していた。
オーラン王宮での戦いでアーシュラは淫魔にレベルを吸われ、その後遺症で身体が子供になってしまっている。
身体が縮むというのは体術を得意とする彼女にとってかなり致命的だったようで、実戦形式の稽古で感覚の微調整をしているらしい。
それでもやり始めたばかりの頃は俺が一方的にボコボコにされていたが、今ではこうしてなんとか応戦できるくらいには俺の体術スキルも上達してきている。
「っ!?」
「まだまだだな」
鼻先数ミリの位置で寸止めを食らい、思わず息が詰まる。
激しい格闘戦を制し、構えを解いたアーシュラがニヤリと笑って俺の胸を軽く叩く。
「幽歩と虚空瞬在だったか? お前はまだそいつを生かしきれてねぇ。初見殺しにはなるが、それで倒し切れなかったらただの手品と変わらねぇよ」
「背後取っても対応してくるアーシュラが異常なんだよ」
「攻撃パターンが単調なんだよ。視線を読めばどこに飛ぶかも大体予想つくしな。そういうもんがあると思って警戒してれば、ある程度の武人ならこれくらい誰でもできる」
「えー!? うそだぁ」
「マジだって。お前はひとまず背中に目を付けろ。そうすりゃ視線の届かねぇところにも飛べるようになるだろ? そしたら流石にオレでも対応できねぇ」
「って、言われてもなぁ……」
ニュータ●プじゃあるまいし。
「……それよりよぉ。本当にその恰好どうにもならねぇのか?」
「だってこれが一番効率的だし」パァン!
おもしろ鼻眼鏡を取って頷き返し、ついでに尻を景気よく叩くと、アーシュラがうんざりしたように溜息を落とした。
実戦訓練で得られるスキル経験値を最大化するため、アーシュラと手合わせするときは常に漢セットを装備してやっている。
この世界に来たばかりの頃は抵抗があったけど、慣れてしまえばこれほど素晴らしい装備もない。
この格好になるだけで頭が冴えて、一度の手合わせで大きくコツを掴めるのだ。
天才の感覚、知っちゃったからには、もう……ね?
「そういう効率優先なとこ、どんどんパパに似てきたわね……」
「えっ、ホント!?」パァン!
「褒めてないわよ! あとお尻叩かない!」
俺たちの実戦訓練を木陰から眺めていたリゼラが、頭痛を堪えるみたくこめかみを押さえて深々とため息をつく。
師匠は俺の命の恩人で、人生の目標でもある。
その師匠の娘が似ていると言うなら、少しはあの人に近づけたということだ。こんなに嬉しいことはない。(パァン!)
「みなさーん! そろそろ出発しますよー!」
と、早朝の日課を終えた俺たちに声をかけてきたのは、使節団長のエハトゥさんだ。
すぐ隣には手綱で繋がれた相棒のルッコの姿もある。
使節団には一人につき一匹ずつ相棒となるガルダがいて、ルッコはモスグリーンの羽根とキリっとした目つきが特徴的な子だ。
友達の姿を見つけてピピが嬉しそうに顔を上げると、近づいてきたルッコが「くるる」と喉を鳴らしてピピに頬ずりした。
当初はぎこちなかった二人も今ではすっかり仲良しさんだ。
「おや、また新しい子が増えてますね。モッサモサですよモッサモサ! 精霊にまでモテるとは流石勇者さまですね!」
「ど、どうも……」
俺の背後をチラリと見やり、エハトゥさんが笑顔で肩をバシバシ叩いてくる。
彼いわく、どうやらここまでの旅路で俺に興味を惹かれた森の精霊たちが後ろについてきているらしい。
最初は一匹だけだったらしいのだが、日に日に増えて今はなんかもうモッサモサしてるみたいだ。
俺なんかのどこが気に入ったんだろう。
「ねぇリゼラ見てくださいまし! すぐそこでこーんな大きなドングリ拾いましたのよ!」
「ひっ!?」
アリアがボーリング玉くらいあるドングリを抱えて朝の散歩から帰ってくると、彼女の気配に驚いたエハトゥさんの肩がビクッと跳ねる。
「で、では全員揃ったようなので行きましょう! まだまだ先は長いですからね!」
怯えたように早口でまくし立てると、エハトゥさんはルッコを連れてそそくさと去っていった。
うーん。悪気はないんだろうけど。
「……やっぱりわたくしだけ避けられてますわね」
「みんな何かを恐れているみたいだけど何なのかしらね」
ちなみにオーランを出港したときから使節団のエルフたち全員があんな感じである。
リゼラの成人祝いのときもアリアにだけみんなどこかよそよそしかったもんな。
酔った勢いで丸飲みにされかけたエハトゥさんはともかく、他のエルフたちまでアリアを怖がって近寄ろうとしないので見ていて心が痛い。
唯一エルフの中でアリアを怖がらなかったのは、あの熊みたいなマッチョ店主だけだ。
あの人は常日頃から海賊たちの相手をしているから他のエルフとは感覚が少し違うのかもしれない。
「わたくし、怖くありませんのに……」
「アリアはなんつーか、よく分かんねぇんだよな。人族とも違ぇし、かといって魔物のニオイでもねぇ」
アーシュラがアリアのニオイをしきりに嗅いでうーむと唸る。
聖銀の刃結成にあたり、俺たちの事情はすでにアーシュラにも包み隠さず打ち明けている。
「でもキュリキアさまは、わたくしのことをミミックと仰いましたわよ?」
「そりゃ最初はそうだったのかもしれねぇが、今は完全に別モンだ。どっちかっつーと、この森に沢山いる気配に近いか……?」
と、アーシュラが俺のうなじの辺りをしきりに嗅ぐ。
エハトゥさんいわく、そこにいるのは分かっているのだけど、やっぱりちょっと恥ずかしい。
「うーん、やっぱこれとも微妙に違うっぽいんだよなぁ……。すまん、やっぱ分かんねぇや」
「そうですか……」
結局何も分からなかったのか、申し訳なさそうにアーシュラが耳をぺたんと伏せる。
もしや自分の正体が分かるのではと期待していたのか、アリアは拾ってきた大きなドングリを抱きしめ、残念そうにしゅんと目を伏せてしまう。
「元気出してアリア。長生きのエルフなら何か知ってるかもしれないじゃない」
「……そうですわね。エルフェリアは世界の記録庫とも言われる地。きっとヒントくらいあるはずですわ!」
リゼラに励まされいつもの調子を取り戻したアリアは、拳を握りしめて「ふんす!」と鼻を鳴らした。
アリアは強いな。切り替えも立ち直りも早い。俺も見習わないと。
気を取り直し、俺たちは使節団の人たちとともに夜営地を出発した。




