0050 出発前夜
アーシュラを旅の仲間に加え、俺たちは改めてギルドに冒険者パーティーとして登録を申し出た。
ギルドの規則上、パーティーとして正式に登録するには最低四人はいないといけないので、俺たちの今までの功績はすべて個人扱いでカウントされていたらしい。
「で、アンタたち、パーティー名はどうするんだい」
「それならわたくしに案がありますわ!」
受付のおばさんが俺たちに聞くと、アリアが手を挙げ申請用紙にパーティー名を書き入れる。
見れば全員がそれしかないと頷くほどしっくりくる名前で、満場一致でそれに決まった。
「冒険者パーティー『聖銀の刃』か。アンタたちらしくていいんじゃないかい。それじゃあこれで登録するからね」
俺たちのプレートにパーティー名の刻印が刻まれ、『聖銀の刃』はここに発足した。
ついでに裏面の(仮)も外れて、禁足地への出入りも解禁された。
「っと、そうだ。これが昨日鑑定してもらったオレの今のステータスだ。同じパーティーになったことだし見せておくぜ」
思い出したように鑑定結果の書かれた紙を腰のポーチから取り出した彼女は、俺たちにも見えるようにカウンターの上に用紙を広げた。
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アーシュラ ベオウルフ レベル25→3
たいりょく :200
まりょく :50
かしこさ :60
ちから :150
すばやさ :210
みのまもり :99
うんのよさ :33
スキル
技能系:『体術LV10』『索敵警戒LV9』『近接格闘LV9』『悪路走法LV9』『サバイバル知識LV8』『ダンジョン知識LV8』『魔物知識LV8』『ロープワークLV8』『投擲LV8』『鉈術LV7』『操船LV7』『艦隊指揮LV7』『応急手当LV7』『解体LV7』『共通語LV4』『海神語LV4』
異能系:『雷気操作』
系統外:『獣の嗅覚』『獣の耳』『獣の勘』
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「え、待って。弱っててこの数値!?」
「おう、クラーケン戦で多少はレベルも戻ったが、それでもまだまだだな。子どもと大人じゃ手足の長さも全然違ぇし、しばらくは感覚を慣らさねぇとまともに戦えねぇよ」
昨日「今は俺より弱い」とかイキって言っちゃったけど、一対一でやったら普通に負けそうだぞコレ。
俺より小さな女の子に“ちから”で負けてるのは流石にへこむ。
あの細腕のどこにこんなパワーが……。
「運動能力に関してはズバ抜けてますわね!」
「慣らしが必要みたいだけど、これなら戦力としても十分すぎるわ」
「つーわけでヒロト、しばらく慣らし相手になってくれや。今はオレより強いんだろ?」
「お、お手柔らかに……」
俺の内心の焦りを見抜いたのか、アーシュラが「ニィッ」と好戦的な笑みを浮かべる。
闘気でステータスを底上げする訓練だと思って、死なない程度に頑張ろう。
と、それよりも。
「それで、出発はいつにするの?」
「候補地へ向かう船の護衛依頼があればすぐにでも出発ね」
「そう思ってすでに依頼書を持ってきてありますわ! フリードレア連邦国使節団の護衛依頼。なんでも護衛の兵士が生野菜に付いていた寄生虫にやられて動けなくなってしまって、急遽代わりの護衛を雇うことにしたみたいですわ」
「あら好都合。ちょうどいいし受注してくるわ」
依頼を受けるため窓口へ向かうリゼラの背中を見送り、俺はアリアに次向かう国について訊ねた。
「フリードレアってどんな国?」
「エルフの国ですわ。大森林の中にある無数の小国家を中央政府が統括していて、各小国家の中から選出された議員が政治を行っていますの。首都のエルフェリアは世界樹の麓に寄り添うように作られた大層美しい都だそうですわ!」
エルフ。
笹の葉ように長い耳が特徴的な種族で、自然を愛し、精霊と交信する力を持つとされる。
遠く精霊の血を引くという彼らは、数百年の時を生きるほど長命で、見た目も美しいのだとか。
オーランでもエルフはたまに見かけたけど、やっぱりみんな美形だったし、美男美女の多い国なんだろうな。
「かの国の象徴とされる世界樹は遥か雲の上まで枝葉を伸ばす巨樹で、内部は広大なダンジョンになっているそうですわ。その世界樹から採れる『世界樹の雫』はあらゆる呪いや状態異常を解除するとっても貴重な霊薬なんですのよ」
そういうアイテムってゲームだといつももったいなくて結局最後まで使えないんだよなぁ。
けど、もしそれで師匠が元に戻せるなら試してみる価値はある。
「じゃあ次はフリードレア連邦のエルフェリアに行くんだね」
「そういうことですわ! どんな景色を見られるのか楽しみですわね!」
「依頼受けてきたわよ。明日の朝、二回目の鐘が鳴るころに港へ集合ですって」
と、受付を済ませたリゼラが戻ってきた。
「でしたら、今までお世話になった方々にお別れを済ませませんとね」
そんなわけでギルド一階の酒場へ向かうと、カウンターの向こうでグラスを磨いていたマスターに声をかけられた。
「行くのか、アーシュラ」
「おう。しばらくオーランには戻らねぇ。みんなに夜ここへ集まるよう言ってくれねぇか」
「……寂しくなるな」
「だから最後にパーっとやるんだろうが。頼んだぞギルマス」
え、あの人がギルドマスターだったの!?
「今夜は俺のおごりだ。存分に楽しんでいけ」
「へへっ、あんがとよ」
マスターにお礼を言い、俺たちはマーサさんに別れの挨拶を済ませるため孤児院へ向かった。
◇
──さざなみ孤児院──
窓の外からピピと遊ぶ子どもたちの元気な声が聞こえてくる。
孤児院にやってきた俺たちはマーサさんに明朝旅立つことを打ち明けた。
「……そう。ヒロトさんたちと一緒に行くのね」
「ありがとう、マーサ先生。尖ってばっかだったオレを見捨てず育ててくれて。アンタには感謝しかねぇ」
アーシュラが深く頭を下げると、マーサさんはゆるゆると首を横に振り、少し寂しげに微笑んだ。
「感謝しなければならないのはこちらの方。あなたは追われている間も身を粉にして子どもたちのために動いてくれましたね。あなたの人生に関われたことを誇りに思いますよ」
「いつか必ず帰ってくる……っ。だからそれまで、どうか元気で」
「ふふっ。冒険のお話、楽しみにしているわ。私も長生きしないとね」
俯いてぽろぽろと涙を溢すアーシュラを、マーサさんがそっと抱きしめる。
マーサさんはすでにかなりの高齢だ。もしかしたらこれが二人の今生の別れになるかもしれない。
それでもアーシュラは両親の真相に迫るため、そして家族の仇を討つため、旅立ちを決意した。
きっと長い旅になるはずだ。
「ヒロトさん。どうかこの子のことをよろしくお願いします」
「はい……っ。必ずまた来ます。マーサさんもどうかお元気で」
悲しい別れにはしたくなかった。
だから俺は溢れそうになった涙を拭い、笑顔で答えた。
それから俺たちは夕方まで子どもたちと思いっきり遊んで、別れを惜しまれながらも孤児院を後にした。
◇
──冒険者ギルド オーラン支部──
その日の夜。
ギルドへ戻ると、すでに銀等級の先輩たちや噂を聞きつけた町の冒険者たちが一階の酒場に集まっていた。
最初にここへ来たときよりも随分と人が減ってしまっている。
もしかしたら。
どこか祈るような気持ちで親切にしてくれたおじさん四人組の姿を探すが、やはりどこにも見当たらない。
彼らの魂はキュリキア様のところへ無事に行けただろうか。
「ギルマスから聞きやした。姉さん、行っちまうんすね」
「寂しくなるよ……」
「お前たちにも世話になったな。ありがとう」
涙ぐんで別れを惜しむビリーさんとマリーさんを、アーシュラが苦笑しながら抱き寄せる。
「本当に行っちまうだか姉さん!? 行かないでくんろ!」
「よせザック! 考えあってのことだ。お前もプロなら笑顔で送り出してやれ」
「うぅ……っ、うおぉぉぉん! 嫌だぁぁぁ! 姉さぁぁぁん!」
「ったく、ザックの泣き虫は昔からちっとも変わんねぇな。ダインも、一番身体の弱かったお前が今じゃ銀等級だ。お前ならもっと上にも行ける。頑張れよ」
「……っ、はい」
大泣きしたザックさんを宥めつつ、ダインさんに餞別の言葉を贈ったアーシュラは、周囲を見渡して声を張り上げた。
「みんなも聞いての通りだ! オレは明日、勇者ヒロトと一緒にオーランを旅立つ!」
彼女を見つめる冒険者たちの顔は、やはりどこか落ち込んでいて暗い。
「オレは大海賊ギオドラの謎を解き明かして、いつか必ずこの街に戻ってくる! だからそれまでお前たちがオーランを護ってくれ! 頼むぞみんな!」
「応!」「任せろ!」
アーシュラの言葉を受け、冒険者たちの暗く落ち込んでいた顔にやる気が満ち満ちていく。
そうこうしている内に、テーブルの上にはいつの間にか酒が並々と注がれたジョッキが用意されていた。
宴の準備も整ったところで、カウンターの向こうに立っていたマスターが「ごほん」と咳払いし、全員の注目を集める。
「英雄の旅立ちだ。笑って送り出してやろうじゃないか。今日は俺のおごりだ。飲んで食って存分に騒げ!」
「よっ! 待ってました!」「マスター太っ腹!」
「オーランは俺たちに任せてくだせぇ!」
「我らが英雄の旅立ちを祝して!」
「「「「「「乾杯!!!!」」」」」」
マスターの一言を受け、冒険者たちが一斉に乾杯する。
オーランでの最後の夜を飾る大宴会が始まった。
「わたくしたちもシャワシャワで乾杯ですわ!」
「じゃあ『聖銀の刃』結成を祝して!」
「「「「乾杯!」」」」
俺たちも名物のシャワシャワで乾杯し、青く輝く液体をグイっと流し込む。
爽やかな柑橘系の甘さの中にほんのり塩気も感じる。微炭酸で、のどごしも爽快だ。
思ったより美味いかも。
「はーいおまちどう。ご注文のトド鯛のパリパリサラダと~、ギョロギョロのオーラン揚げと~、バクレツシラス入り卵焼き~。それからそれから~、クラーケン焼きと黒艶貝の酒蒸しにツラヌキウオの一夜干しで~す!」
「ちょ、多い多い! 誰こんなに頼んだの!?」
「わたくしですわ!」
しばらくするといつの間にかアリアが勝手に注文していた料理をウェイトレスさんが次々と運んできた。
どれもこれも美味しそうだけど、すさまじく量が多い。このテーブルだけで十人前くらいあるぞ!?
「どうせギルマスのおごりだ。食え食え!」
少年漫画の主人公みたいな勢いでアーシュラの胃袋の中へ料理が次々消えていく。
やばい、うかうかしてたら全部食われる!?
「お、俺も! いただきます! ……うまっ!?」
「あら、このお魚美味しいわね」
「ん~! 美味ですわ! 海竜がクラーケンを襲う理由も分かりますわね!」
するとクエスト掲示板の方から陽気な弦楽器の音色がジャカジャカと響いた。
見ればクラシックギターに似た民族楽器を持ったビリーさんが歌を披露していた。
「これより語るは最も新しい勇者の勲! 海竜の子と絆を結んだ我らが勇者、ヒロト・スズキの大冒険、とくご清聴あれ!」
「わー!? やめてやめて! 恥ずかしい!」
食べて飲んで笑って騒いで、オーランでの最後の夜は賑やかに過ぎていった。




