0049 レベルアップ
──冒険者ギルド オーラン支部──
王宮から宿へ戻る帰り道。
「あ、そういえばクラーケン撃退クエストの報酬、まだ受け取ってなかったよね?」
「そういえば。バタバタしてて忘れてましたわ!」
「じゃあギルドに寄ってから帰りましょ」
そんなわけで、三人でギルドへ立ち寄ったのだが────。
「ああ、アンタたちかい。丁度よかった。おめでとう。アンタたちは今日から銀等級冒険者だ」
受付に顔を出すなり、バネッサさんから銀のプレートをそれぞれ手渡された。
プレートにはそれぞれ俺たちの名前が刻まれている。
どう見ても銀等級の冒険者証だ。……って、ええええ!?
「俺たちまだ登録して四日ですよ!?」
「もちろん史上最速記録だよ。こんなこと異例中の異例さ」
裏面を見てみると、魔法のスタンプで(仮)と押されていて、その横に剣を咥えた海竜の紋章が刻印されていた。
なんだ(仮)って。
「クラーケン討伐での貢献度に加えて、王宮から魔王撃退の功績を称えたいと後押しがあってね。相談の結果そういうことになった。ただし禁足地への出入りはパーティーの合計レベルが20以上になるまで禁止だ」
「あくまで限定的な昇級ってわけね。受けられる依頼も実質銅級までって認識であってるかしら」
「理解が早くて助かるよ。裏の仮スタンプも、アンタらの合計レベルが規定値に達したときにギルドで外してもらえるからね。そのプレートはアンタたちへの勲章だと思いな」
「それでエスぺリサ王家の紋章が入っていますのね!」
アリアがプレートを光にかざすと、床に王家の紋章が浮かび上がった。
おお、こんなギミックが!
「言うまでもないけど悪用厳禁だからね。王家の名を騙って悪さしたら問答無用で首が飛ぶと思いな」
「わ、分かりました」
首が飛ぶって、斬首的な意味でだよな。こわ……。
「ま、アンタたちなら心配ないとは思うけどね。それとこれが今回の報酬だ」
と、今回の撃退クエストの報酬金額が書かれた小切手を一枚渡された。
基本報酬で五〇〇万ディア。そこへさらに追加報酬でエスぺリサ王国通貨のレタでさらに一〇〇〇万とある。
「額が多いからこっちで口座開設の手続きを途中まで進めさせてもらったけど構わないね?」
「助かるわ」
「口座に預けた金は基本どこの国の冒険者ギルドでも引き出せるよ。ただし額が大きいと地方のギルドじゃ満額は下せないこともあるから気を付けな。あとは本人確認用の魔力登録を済ませれば手続き完了だ」
すでに用意されていた水晶玉に手を乗せると、水晶玉の中心がぼんやりと青く光った。
どうやらこれで登録完了らしい。
初めて来たとき銀行の窓口みたいだと思ったけど、実際に銀行みたいなこともやっていたようだ。
「あ、君たち! ついでにレベルの再測定もやってきなよ。今回は大物だったから参加者の殆どがレベルアップしてたし、君たちのレベルも上がってるはずだよ」
隣の窓口から鑑定師のお兄さんが声をかけてくれたので、せっかくだし再測定も受けていくことにした。
「フフフ……ッ! 久々にレベル鑑定を受ける人が大勢押しかけたから、僕の鑑定スキルもレベルが上がって三人までなら同時に見れるようになったのさ! さあ今度こそ君のステータスを暴いてやるぞ! ホァァッ! カァ────ッッ!!!!」
やけにやる気なお兄さんの目がギュピーン! と輝き、結果が紙に書き出されていく。
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リゼラ クラウロード レベル5
たいりょく :34
まりょく :584
かしこさ :500
ちから :35
すばやさ :50
みのまもり :29
うんのよさ :25
スキル
技能系:『魔法学LV9』『妖精語LV9』『共通語LV9』『海神語LV9』
『火神語LV9』『地神語LV9』『風神語LV9』『雷神語LV9』『解剖学LV9』『医学LV9』『薬学LV9』『数学LV9』『物理学LV9』『気象学LV8』
『宮廷作法LV7』『古代語LV7』『世界史LV7』
『杖術LV5』『魔物知識LV5』
異能系:『超速演算』
系統外:なし
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スズキ ヒロト レベル7
たいりょく :70
まりょく :28
かしこさ :21
ちから :70
すばやさ :70
みのまもり :70
うんのよさ :31
スキル
技能系:『剣術LV7→LV8』『短剣術LV5→LV6』
『楽器演奏LV3(半減値)』『絵画作成LV5』『模型作成LV5』
『日本語LV4』『料理LV4』『共通語LV4』『サバイバル知識LV3』
『雑学LV2』『世界史(地球)LV2』『数学LV2』『英語LV2』『科学LV2』『魔法学LV1』
異能系:なし
系統外:『勇気』『絶対音感』
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アリア レベル6
たいりょく :ひみつ
まりょく :ひみつ
かしこさ :ひみつ
ちから :ひみつ
すばやさ :ひみつ
みのまもり :ひみつ
うんのよさ :999
スキル
技能系:『共通語LV10』『妖精語LV10』『海神語LV10』
『地神語LV10』『火神語LV10』『風神語LV10』『雷神語LV10』
『古代語LV10』『魔物知識LV10』『雑学LV10』『博物学LV10』
『数学LV10』『建築学LV10』『音楽知識LV10』
『医学LV9』『世界史LV9』
『地理学LV8』『風俗学LV8』『美術知識LV8』
『宮廷作法LV7』『料理LV4』
異能系:『■■■■■■』『■■■■』『■■』
系統外:『■■■■』
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「ぬわあああぁぁぁッ!? レベル7の鑑定スキルでもまだ見れないのか!?」
「ふふっ、乙女の秘密はそう簡単に暴けなくってよ」
「チクショ────ッ!!!!」
またも敗北を喫したお兄さんがカウンターに拳を叩きつけて悔しがる。
スキルレベル7って、確か達人級の使い手だったよな?
それでも見れないとなると、やっぱりアリアって実はものすごく強いのかもしれない。
「っていうか君、その右目どうしたのさ」
「おほほほ! †闇の魔眼†ですわー! 近寄ると……火傷しますわよッ!」
「あー、なるほどね」
アリアがカッコいいポーズを決めてキリッと笑うと、お兄さんは生暖かい目で微笑んだ。
ちなみにあの眼にどんな力が宿っているのかは、まだ何も分かっていない。
本人いわく、何かできそうな気配はあるそうなのだが、どう使えばいいのかさっぱりらしい。
と、そんな二人の漫才はさておき。
俺だけレベルが4つも上がってるのはなんでだ。
「この急激なレベルの上がり方……多分クラーケンの魔臓にミスリルの短剣を突き刺したせいね」
「どういうこと?」
「ミスリルには魔力を分解して魔素に戻す力があるのよ」
「ああ、そういうことか」
クラーケンの魔臓にミスリルの短剣を突き刺したとき、俺は青い光に包まれた。
あれはきっと大量に分解された魔素だったんだろう。
確か師匠もレベルアップには大量の魔素が必要みたいなことを言っていたし、今回は偶然条件が揃ってこうなったのか。
「それでもあんな化物を倒しても、たったの4しか上がらないんだな……」
「何言ってるの。一度の戦闘でレベルがこんなに上がること、そうそうないわよ」
ラノベ主人公みたいにチート使って楽々レベルアップでいきなり最強! なんて、所詮はフィクションってことか。
聖神の加護があれば、結果も違ってきたんだろうけど。
不意に思い出されるのは、王宮に現れた黒仮面の言葉。
聖神教と関わるな、か……。
「なんにせよ、これであと一人、レベル2以上の仲間が加わればギルドへ正式にパーティーとして申請できるわね」
「予定を大きく繰り上げられますわ!」
「予定って?」
「ヒロ……う゛んっ! アンタがお節介焼いてる間に色々調べて、いくつか目的地の候補を絞っておいたのよ」
なにやら不自然な咳払いの後、リゼラが杖で床を一突きすると、空中に世界地図が表示された。
「パパとママを元に戻せる可能性がある場所やアイテムで、はっきりとした所在が判明しているのは『世界樹の雫』『聖なる泉』『迷宮都市の未到達階層』の三つよ」
「その内『世界樹』と『聖なる泉』は銀等級レベル、『迷宮都市の未到達階層』は金等級レベルの禁足地に指定されていますわ」
「だから当初の予定ではギルドの依頼をこなしつつレベル上げに専念してランクアップを目指すつもりだったのよ」
「だけど今回のオーランの一件で俺たちはいきなり銀等級に昇格して、レベルも大きく上がった。だから予定短縮ってわけか」
ここから一番近いのは隣の大陸にある世界樹か。
一番手っ取り早いのは新しく仲間を加えることだけど、問題は彼女が了承してくれるかだよなぁ……。
「なんだよ、面白そうな話してるじゃねぇか」
と、俺たちの会話に割り込んできたのは、ちょうどギルドに顔を出したアーシュラさんだった。
どうやら変態ショックから立ち直ったらしい。
「その旅、オレもついていっていいか」
「えっ!? いや願ってもないですけど、どうして急に!?」
俺が問い返すと彼女は頷き、腰のポーチから小さな紙切れを取り出して俺たちに見せてきた。
紙には【緑の口:Y24:X3:くま】と、書かれている。
「なんですかこれ。……くま?」
「親父のロケットに入ってた。形見の指輪を使わねぇと開かねぇ細工が施されてたんだ」
「何かの暗号かしら」
「緑の口は、緑の大地で唯一の港町ですわよね。YとXは地図の横軸と縦軸を表しているとして……なんなんですの? くまって」
俺より頭のいいリゼラとアリアでさえ、最後の「くま」が何なのか分からないらしく、難しい顔で首をひねるばかりだ。
「オレにも分からねぇ。だからそれを知りに行くんだよ」
「また急な話ね」
「目の前に追うべき謎があるんだ。ここで冒険しなかったら冒険者じゃねぇだろ。……この紙切れはきっとオレの知らねぇ両親の秘密に通じてる。そんな気がするんだ」
アーシュラさんはどこか確信した様子で頷き返すと、小さくなってしまった自分の手に視線を落とす。
「それに、お前らと一緒に行けば……」
それはギリギリ聞こえるかどうかの小さな呟き。
それでも彼女のゾッとするほど冷たい瞳を見れば、何を言わんとしたのかは大体想像できた。
あのクラーケンは彼女の両親が率いていた海賊団の仇で、そのクラーケンを操っていたのが淫魔王だった。
何より奴はケルセスを唆して嵐の笛を使わせ、アーシュラさんの第二の故郷を破壊している。
彼女の復讐はまだ終わっていない。
「────ま、レベルは下がっちまったが、スキルや冒険者としての経験まで消えたわけじゃねぇ。役には立つと思うぜ?」
だが、そんな本心が垣間見えたのは一瞬のこと。
まるで俺が見たものがすべて嘘であったかのように、顔を上げた彼女は自信ありげな笑みを浮かべていた。
なんとなく不安になって振り返るが、二人ともアーシュラさんが隠したものに気づいた様子はない。
「アーシュラさまが仲間になってくれたらとても心強いですわ!」
「むしろこっちからお願いしようと思ってたくらいよ」
正直、アーシュラさんが旅の仲間に加わってくれるなら、俺としても心強い。
一抹の不安はあるものの、それは彼女自身が向き合うべき問題だ。
復讐に囚われず前を向いて欲しいとは思うが、俺がどうこう言えることではないし、言うべきでもないだろう。
彼女の力と経験は、この先必ず必要になる。
仲間たちの総意を背負い、俺はアーシュラさんに手を差し出した。
「よろしくお願いします。アーシュラさん」
「呼び捨てで構わねぇよ。敬語も不要だ」
「え、でも」
「前に言った言葉は取り消す。お前はただのガキでも、ましてや卵でもなくなった。もう立派な救国の勇者だ。改めてこの街の冒険者を代表して礼を言うぜ。ありがとな、ヒロト」
差し出した手が力強く握り返される。
真っ直ぐに俺を見つめてくる翡翠の瞳には、確かな信頼が宿っているように感じられた。
少しくすぐったかったけど、それ以上に彼女が俺を一人前だと、対等の相手だと認めてくれたことが嬉しくて。
俺は口の端が僅かに上がるのを自覚した。
「わかった。これからよろしく、アーシュラ!」
「おう!」
改めて俺が名前を呼ぶと、アーシュラは「にっ」と屈託のない笑みを浮かべた。




