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平凡勇者は挫けない【5章まで毎日投稿】  作者: 梅松竹彦
チュートリアル

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0005 魔法都市ベルパドーラ

 約二週間にも及ぶ長旅を経て、俺たちは魔法都市ベルパドーラに辿り着いた。

 岩山の斜面に設置されたゲートを潜り抜けると、そこは目も眩むほどの大都会。

 元々あった大空洞を利用する形で都市開発が進められたのか、岩山の中だというのにあちこちに高層ビルが立ち並んでいる。

 主要な幹線道路には空飛ぶ車やガルダたちが行き交い、空中に映し出された立体広告がなんとも未来的だ。


 そういえば岩山の中なのに妙に明るいな。妙に思って首を真上に向けると、どういうわけか空が見えた。


「あれは透過の魔法で外の景色を映し出しているんだ」


「へぇー」


 今まで立ち寄った町と比較しても、なんだかここだけ文明が数百年は進んでいるような印象だ。

 魔法の研究が盛んに行われている街だけあって新技術が試験的にあちこちで取り入れられているのかもしれない。


 ガルダ専用道路を通って街の中心部に向かって進んでいくと、都市を上下に貫く水晶塔の麓に辿り着く。

 もしかして全部本物のクリスタルなのかな。

 目を凝らせば透明度の高い壁の中を人や車を乗せた床が上下しているのが見えた。どうやらここは巨大なエレベーター施設のようだ。


 空中に表示された案内標識に従い、四番ゲートから塔の中へ入場する。

 塔の内部は大きく四分割されていて、それぞれ歩行者、乗用車、大型車両、騎獣の専用区画になっているらしい。

 出入り口のゲートも四つの区画それぞれに設置されていて、それぞれの区画は独自の運行ダイヤで動いているようだ。


 定刻通りエレベーターが動き出し、大都会の景色がぐんぐん下へ遠ざかっていく。

 一階から乗り込んで、二階、三階、四階と順に止まり、最上階で降りる。


 ゲートを出た先は高台広場だった。

 手すりの傍まで駆け寄ると視界がぐっと開けて、俺たちが旅してきたエルデンバーグ王国の雄大な自然が目に飛び込んでくる。

 岩山の上から見下ろす大地に遮るものはなく、遥か地平の先に覇龍山脈の稜線が一望できた。

 風が気持ちいい。いい景色だ。


「行こうヒロト。もうすぐだ」


 師匠の声に振り返れば、天をつらぬく巨塔が俺たちを見降ろしている。

 地上からも見えたけど、近くで見ると本当に大きいな。


 師匠に手を引かれ鞍上に戻ると、ピピがゆったりとした歩調で歩き出す。

 岩山の山頂は未来的な都会の喧騒とはうって変わり、庭付きの大きなお屋敷が立ち並ぶ閑静な場所だった。

 どうやらこの辺りは高級住宅街らしい。

 やがてピピは一際大きなお屋敷の門を潜ると、広い前庭を横切り玄関の前で俺たちを下ろした。


「ありがとうピピ。ここまでご苦労だったな。ゆっくり休んでくれ」


「くぇっ」


 師匠に撫でられて嬉しそうに目を細めたピピは、そのまま慣れた様子で屋敷の裏手へと去っていく。

 師匠が玄関の扉を開けると、一人の老執事が俺たちを出迎えた。


「おかえりなさいませ旦那様」


「皆に変わりはないかギルスティン」


「ええ。奥様もお嬢様も、いつも通りでございます」


 豊かな白髪をオールバックにしていて、口元の白い髭は八の字に整えられている。

 背筋もピンと伸びていて、カッコいいお爺さんだ。


「そちらが例の?」


「ああ」


鈴木すずき大翔ひろとです。お世話になります」


「当家の執事長をしております。ギルスティン・クライスと申します。事情は旦那様より伺っております。どうぞ我が家と思ってお寛ぎください」


「ありがとうございます」


 やや緊張しつつ挨拶すると、ギルスティンさんは丁寧に腰を折ってにこやかに挨拶を返してくれた。

 どうやら事前に俺のことは伝わっていたらしい。


「長旅でお疲れでございましょう。風呂の用意ができておりますが、いかがなさいますか」


「そうだな。まずは風呂にしよう。マリエラたちはどうしている?」


「奥様は塔の研究室に。今週は帰れそうにないとのことでございます。お嬢様は課題をこなすため病院へ向かわれました」


「そうか……。当面は予定も無いし、のんびり待つとしよう。ああそうだ、土産にベヒモスの肉が山ほどあるんだ。ヒロトのためにもどんどん使って欲しい」


「かしこまりました。料理長に伝えておきます」


「行くぞヒロト。我が家の風呂は広いぞ!」


 魔法の袋をギルスティンさんに預けた師匠はそのまま俺を連れて屋敷の中をずんずん進んでいく。

 しばらく行くと長い廊下の先にそこだけ暖簾のれんが掛かった場所があった。

 洋風のお屋敷の中に突然和のテイストが出てきて、なんともミスマッチである。


 藍染めの暖簾をくぐって中に入ると、そこは脱衣所だった。

 テレビでしか見たことないけど、内装は昔ながらの銭湯のそれに近い。

 大きな鏡のついた洗面台の向かいには脱衣籠の置かれた棚があり、奥にはレトロなデザインの体重計もある。


 曇りガラスの引き戸を開けると多種多様な湯船が俺たちを出迎えた。

 薬湯、炭酸湯、ジェットバス、電気風呂、打たせ湯、寝そべり湯、水風呂にサウナまである。

 そしてやっぱりというか、ここの壁にも聖神教由来の宗教画が描かれていた。


「家の中にスーパー銭湯がある……」


「金だけは無駄にあるからな。半分は俺の個人的な趣味だが、もう半分はマリエラの研究用だな」


「研究?」


「魔法に頼らない健康増進法の模索と言っていたな。浴室に流す音楽の周波数を変えたり、お湯の成分や石鹸の香りなんかも定期的に変えているそうだ」


 なるほど。そう聞くと確かに実験場っぽい。

 ちなみにこのお風呂目当てに屋敷の使用人になりたがる人もいるくらいには人気の施設らしい。



 ────異世界に来て一番助かったのは、この世界にも入浴の文化があったことだ。

 ここまでの旅路でいくつも町や村に立ち寄ったが、どんな小さな村にも必ず公衆浴場があり、おかげで慣れない長旅も快適に過ごせた。

 師匠いわく、そうした公衆浴場のお湯にはあらゆる感染症に効く魔法薬が混ぜられており、浸かるだけで治療と予防が両立できるのだとか。


 地球に持って帰ったら命を狙われるレベルのとんでもない薬だが、それが開発された経緯もなかなか壮絶だった。


 なんでも今から四〇〇年ほど昔に魔王が致死性の感染症を世界中にばら撒き、そのせいで世界総人口の半分近くが犠牲になる大災厄があったらしい。

 そんな世界滅亡の危機から人類を救ったのが聖神教だった。

 世界中の信者から集めた豊富な資金力を使って魔法薬をいち早く完成させると、布教活動と並行して世界中にそれを届けたのだ。


 もともと聖神教は戒律で日々身体を清潔に保つことを定めており、公衆浴場というスタイルも当時に広まったそうで、布教と感染症の治療を同時に行えて効率的だったのだろうとは師匠の談だ。

 そのため公衆浴場の壁には必ず宗教画が描かれており、俺が屋敷の風呂場の壁を見て「やっぱり」と思ったのもそういうワケがある。


 と、そんな異世界のお風呂にまつわる歴史小噺はさておき────。



 大きな風呂で旅の埃を落とした俺は、夕食までの隙間時間を使い屋敷の図書室で魔法について勉強することにした。

 ここまでの道中で俺はこの世界で広く使われている共通文字を師匠から習い、ある程度なら読み書きもできるようになっている。

 書き取りの練習にもなるし、何より念願の魔法が使えるようになるかもしれないのだ。やらない手はない。


 師匠から借りている漢セットを着れば普段より一〇〇倍も賢くなれるので、文字の勉強も苦じゃなかった。

 むしろ眠くならずに教わったことがすんなり理解できるから、生まれて初めて勉強が楽しいと思えたくらいだ。


 そんなわけで今日も服を脱ぎ捨て、漢ふんどしとおもしろ鼻眼鏡でお勉強である。

 真っ赤なネクタイと星型ニップルシールのせいで変態度はさらに倍増だ。我ながら酷い格好とは思うけどこれが一番効率がいいのだから仕方ない。

 ……俺もだいぶ師匠に毒されてきたな。(パァン!)


 ともあれ、まずは本棚から一番簡単そうな『魔法使い入門』という本を手に取ってみる。

 著者は大錬金術師ゼロス・バルトホーク。

 自分で大錬金術師なんて名乗ってしまうあたり、ゼロス氏の濃さが伺える。

 裏表紙を開いてみると、どうやら錬金術のみならず魔法学や医学の分野でも多くの功績を残した人らしい。


「……ん?」


 裏表紙を開いた拍子に紙切れが一枚、はらりと床に落ちた。

 なんだろうと思い拾ってみると古ぼけたカラー写真で、ウニみたいなトゲトゲ頭のお爺さんと一緒に若い頃の師匠が肩を並べて写っている。

 師匠の隣に写っている赤髪の美人さんは話に聞いた奥さんのマリエラさんだろうか。

 大事なものかもしれないし、元の場所に戻しておこう。


「さーて肝心の中身は────うげっ。文字びっしり」


 慣れない活字の専門書に思わず身構えてしまったが、今の『かしこさ』なら目も滑らないし問題なく読めそうだ。

 内容を斜め読みしながら、重要そうな部分だけピックアップして文字の練習がてら紙に書き写していく。



 ─────────────────────────

 魔法を発動させるには『魔力励起』と『術式構築』の二つの段階を踏む必要がある。

 魔力励起とは、自然界に存在している魔素を特殊な呼吸法などで体内に取り込み、自身の生体魔力と反応させて扱いやすい状態に変化させることを言う。

 これは魔法使いの基本技術である。


 生体魔力とはあらゆる生命体がその生命活動の中で自然と生じさせる、ある種の万能エネルギーとでも言うべきものだ。

 生体魔力はそれ単体ではこの物理次元に何ら影響を及ぼさないため『怠け者のエネルギー』などと呼ばれることもあるが、ワシに言わせればセンスの欠片も無いこと甚だしい。

 何故なら生体魔力は励起させた後に特定の手順を踏むことで、ポテンシャルエネルギーや運動エネルギー、さらにはありとあらゆる物質に変換可能であるためだ。

 その手順こそが『術式構築』であり、筆者が生体魔力を万能エネルギーと呼ぶ所以でもある。

 怠け者よりそっちの方が絶対カッコいいじゃろ。最初に言い出したやつセンスなさすぎ(失笑)。

 ─────────────────────────



「筆者のアクが強いなぁ……」


 自分で大錬金術師を名乗っちゃう時点で何となく察してたけど、ゼロス氏の隠しきれない“濃さ”が文面からも滲み出ている。

 まあ読んでて面白いからいいけどね。

 後で見返して分かりやすいよう、息抜きがてら自分なりの解釈図をノートの隅に描きつつ、さらに本を読み進めていく。



 ─────────────────────────

 なおこれは余談であるが、長らく生体魔力がどのようにして生成されているかは謎とされてきた。

 しかし筆者の研究により、どうやら魂が大きく関わっているらしいことが分かってきた。

 魂はそれ自体が無限の容量を持つ情報記録媒体であり、ある種のエネルギーを生み出す生成機関でもある。

 魂が生み出すエネルギーを指して『精気』や『チャクラ』などと言うこともあるが、ここでは分かりやすく『魂力こんりき』で統一する。

 なお先に並べたものは呼び方が異なるだけで、すべて同じものである。


 突き詰めてしまえば有機化合物の塊でしかない我々が生命たりえているのも、この『魂力』があるためだ。

 卵子と精子が結合し受精卵となった段階で、我々の肉体には魂が宿り『魂力』の生成が開始される。

 やがて一個の生命として誕生すると魂は『魂力』の生成を止め、その総量がその個体の寿命となるわけだ。


 ここからはまだ仮説の段階だが、生体魔力とは一日の生命活動で消費されなかった余剰分の『魂力』が変質したものとワシは睨んでいる。

 その根拠として、長命な種族ほど生体魔力の保有量が多いことが挙げられる。

 またすべての種族共通で、肉体の老化と共に生体魔力量が減少していくことについても着目したい。


 小動物を使った観察実験においても、生命維持に消費される『魂力』量は、肉体の老化と共に増大していくことが確認できた。

 あとは魂力が生体魔力に変質する過程さえ観測できればワシの仮説は立証されるのだが、これがなかなかどうして難しい。

 いやホント、マジでわからん。誰か助けて。

 ─────────────────────────



「助けてと言われても……」


 大錬金術師でもたどり着けない答えが俺なんかに分かるはずもない。

 それよりも歳を取るほど魔力量が減るというのは意外というか、素直に驚きだ。

 魔法使いと言えば何百年も生きた老人みたいなイメージがあったけど、この世界だと魔力量は若い人の方が多いらしい。

 とはいえ老魔法使いは知識も経験も豊富だろうし、いざとなれば少ない魔力でクレバーに戦うんだろう。それはそれでカッコイイな。



 ─────────────────────────

 なお生体魔力の総量が多いほど、励起させた際に扱えるエネルギー量も増えるため、生体魔力量は魔法使いの才能を測る一つの目安となる。

 魔力を励起させるには瞑想状態となり、魔素と生体魔力を上手く反応させる必要があるが、まったくの初心者が自力でこれを行うことは非常に困難だ。

 そのため教師役となる魔法使いの補助を受けながら感覚を掴んでいくのが一般的な訓練方法となる。

 ─────────────────────────



「じゃあ転生して赤ちゃんの内から魔力トレーニングみたいなことはできないのか」


 俺みたいな召喚者がいるんだし、日本からの転生者も探せばいるのかな。

 いつかそんな人と会えたら体験談とか色々聞いてみたい。

 ……思考が逸れた。続き続き、と。



 ─────────────────────────

 熟練の魔法使いともなれば瞑想は不要となり、呼吸のコントロールだけで魔力励起が可能となる。

 一般的に魔力励起を瞑想無しで行えるようになることが一人前の魔法使いの証とされている。


 なお異能系スキルも発動の原理は魔法と同じだが、スキル自体に魔力励起や術式構築を補助する機能があるため、スキル保有者はこれらの知識や技術を習得しておらずとも異能を自在に発動できる。

 このようにスキルが人間の行動や意思を読み取り、補助的な効果をもたらす現象は、技能系・系統外問わず確認されている。 

 異能系スキルが使用者の想像力次第でその効果や範囲、威力を大きく変えるのも、スキルが使用者のイメージを読み取りその通りになるよう術式を自動構築するためだ。


 ちなみに、スキルやステータスを神(笑)が人類に与えた恩寵であるとする宗教団体(失笑)も存在するが、近年ワシが神代の遺跡から発掘した重要な発見により、これらの力は失われた神代技術により構築された大魔法であることが判明している。

 これは確たる証拠に基づいた歴然とした事実だ。

 しかし聖神教(爆)はその事実を認めておらず、かの邪教を国教とする哀れかつ無知蒙昧な国で著者の発見した崇高なる事実を公言すれば処刑もあり得るので注意されたし。くそが。

 ──────────────────────────



「最後にちょっと本音漏れてる……」


 現実にゲームみたいなステータスがあるなんて変だなとは思ってたけど、やっぱり人工的なものだったのか。

 ていうかこれって聖神教からしたら普通に禁書だよな。剣聖の家に置いてあって大丈夫なのか?


 ……ま、置いてあるってことは大丈夫なんだろう。

 怖いしあんまり深く考えないようにしよう。



 ──────────────────────────

 次に『術式構築』だが、これは魔法において極めて重要な工程であり、魔法使いの一番楽しい部分でもある。

 『魔力励起』によって変換したエネルギーは例えるならまだ何の仕事も与えられていない『暇な労働者』だ。

 術式構築は労働者たちに仕事の内容を伝える工程のことを言う。

 例えば火の玉を飛ばす魔法にしても


【燃料】【発火】【燃焼時間】【燃焼温度】

【火の玉の直径】【進行方向】【飛距離】【速度】


 と、最低でも八つの定義が必要になる。

 無論、指示が曖昧なものであれば労働者たちはどのように作業すればよいか分からないため、定義に一つでも矛盾や抜けが含まれていれば魔法は思い通りに発動しない。


 魔法を上手く発動させるコツは『可能な限り詳細に』『理路整然と』術式を組むことである。

 これは会話のスキルとしても有用であり、人生のあらゆる場面で役に立つため練習しておいて損はない。

 多くの生物は脳内に魔法演算回路があり、これは思考やイメージと直結している。そのためどれほど優れた魔法使いでも一度に複数の魔法を使うことはできない。

 これはあごの先端にひじの先を付けようとしても不可能であるように、脳が魔法演算領域となっている生物すべてに共通する構造的な仕様である。


 かの大魔法使いディルレアのように【完全並列思考】スキルやそれに類する能力を持っていれば話は別だが、同時に二つ以上の魔法を発動させようとした場合、脳にかかる負荷は二乗となるため仮にできたとしてもオススメはしない。

 なお自然界には生命維持のため常に異能を使用している種も多く存在し、そういった種は脳とは別に無意識下で自動的に異能を発動するための臓器【魔臓】を持っている。

 ──────────────────────────



「そっか、ベヒモスの巨体は異能ありきのものだったんだ」


 そりゃそうだ。あれだけの巨体、異能で支えなきゃ自重で動けないだろうし。

 ……あれ? でもステータスやスキルが人工的なものなら、異能ありきで存在している巨大生物はどうなんだ?

 うーん。その辺のことは書かれてなさそうだな。今度調べてみるか。



 ──────────────────────────

 魔法術式は現象の発生から終了までが矛盾なく定義されていなければならず、一つでも矛盾した点が混じっている場合、魔法は発動しない。

 例えば燃料を指定せずに発火を定義しても、可燃物が無いため火は起こり得ない、といった具合だ。


 そのため多くの術式は矛盾が発生しないよう定型文化されている。

 定型文化された術式で魔法を行使した場合、定められた量の魔力を消費し、定義された通りの挙動を取って終了する。

 しかし術理を深く理解した魔法使いであれば、術式に独自の変数を組み込むことで発生させた現象を意のままに操ることや、複数の定義を組み合わせることで異能よりも複雑かつ高度な現象を引き起こすことも可能である。

 ──────────────────────────



「つまりめちゃくちゃ勉強すれば、火の玉の軌道を自分の意思で曲げたり、炎の鳥に変えたりできるようになるのか」


 この理屈なら漫画やアニメの必殺技とかも再現できそうだ。

 ……まあ、今の俺じゃ『まりょく』のステータスが3しか無いから「しかしMPがたりない!」で終わりそうだけど。



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 魔法を発動させるには都度術式を構築しなければならないが、焦りや体調不良などで術式に誤った数値が入力されるなどした場合、魔法が術者に襲い掛かり不幸な事故となるケースが後を絶たない。

 そこで役に立つのが呪文詠唱だ。

 これは定型文化された術式内に組み込まれた安全機能であり、定められた呪文ワードを唱えることで術式を自動的に構築し安定した魔法の発動が可能となる画期的な発明である。

 呪文の登場により、未熟な魔法使いの暴発事故は大幅に減り、如何なる状況においても安定した魔法の発動が可能となった。


 しかしながら熟練の魔法使いであるほど、無詠唱を好む者が多いのも事実である。

 これは魔法使い同士で戦う場合、呪文の冒頭部分(※最長で三節)を聞けば、相手がどの魔法を使ってくるか分かってしまうためだ。

 相手が発動しようとしている魔法が分かれば対策は容易である。

 この世に存在するおおよそすべての魔法にはそれに対抗すべく編み出された反転術式が存在しているためだ。

 多くの魔法使いが即死魔法や自動追尾を使わない理由もここにある。

 ──────────────────────────



「確かに即死魔法が自分に跳ね返ってきたらシャレにならないもんな」


 そもそもそんな危険な魔法を人に向けるな、という話ではあるのだが。

 そういえばここベルパドーラには魔法学校があるそうだけど、生徒同士の喧嘩はやっぱり魔法の撃ち合いになるのかな。



 ──────────────────────────

 なお無詠唱だからといって相手が使おうとしている魔法を判別する方法が存在しないわけではない。

 魔法が発動する際、励起した魔力は魔法使いのみが知覚可能な魔力光を放つ。

 高度に熟達した魔法使いであれば、魔力光の揺らぎなどから相手がどのような魔法を発動しようとしているか読み取くことも可能だ。


 また相手の肉体や精神に直接作用する魔法は彼我のステータスに開きがあるほどその効果は弱まり、「まりょく」の値に十倍以上の開きがあれば無効化されてしまう。

 魔物の多くは人類よりも遥かに高いステータス値を持っているため、魔物に対して状態異常魔法や即死魔法を使っても殆どの場合効果が無い。

 ゆえに魔法を使って魔物を討伐するのであれば、生物学的弱点を突くことをオススメする。


 ワシの一押しは対象の気道を真空の層で塞ぐ魔法な。

 アレは良いぞ。肺呼吸生物をほぼ確実に殺せる上に、毛皮などの素材を傷めずに済む。

 人類相手にも極めて有効なので嫌いな奴を苦しめて殺したいときなどに是非!

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「いや是非! じゃないよ!?」


 どうしたの急に!? 怖いなぁ……。


 ──────────────────────────

 なお魔法発動のプロセスを人の手によらず機械的に実行する技術も存在し、それらは魔法と区別をつけるため便宜上『魔導』と呼ばれている。

 魔導技術は現在飛躍的な発展を遂げており、人が魔法を唱えなくなる日も近いだろう。

 ちなみに魔導技術を最初に生み出したのもワシじゃ。みんなもっとワシを崇めろ。

 研究費支援のご相談は下記住所へ連絡を寄こされたし。いつでも待っとるからの。いやホントマジで!


 迷宮都市第三区 五番街 ●▲●ー■◆●◆

 ゼロス・バルトホークのわくわく魔導研究所

 ──────────────────────────



「また本音漏れてるし」


 でもいいなぁこういうの。

 ロボットみたいな魔導兵器とかあったりするのかな。あるなら触りたいし乗ってみたい。なんなら自分用に一機欲しい。

 ……いけない、また思考が逸れた。


 そこからさらに本を読み進めていくと、最後のページにいくつか初心者用の魔法が載っていた。

 窒息魔法だけ太字で書かれてて圧が凄い。


「この【失せもの探しの魔法】とか便利そうだな」


 呪文も一番短いし、定義を変更すれば人探しにも使えるらしい。暴発しても怪我の心配も無いから初心者の俺でも安心だ。

 魔力励起できるようになったら練習してみようかな。


「意外と面白かったな、この本」


 と、俺が本を閉じたその時。

 ガチャ、と図書室のドアが唐突に開かれ────びっくりするほど綺麗なお姉さんとばったり目が合った。


 大学生くらいだろうか。廊下の窓から差し込んだ夕日を浴びて長い深紅の髪がキラキラと輝いていた。

 袖口にフリルの付いた襟付きのシャツをラフに着こなし、肩には黒地のケープを羽織っている。チェック柄の赤いプリーツスカートもよく似合っていた。


 かなりの高身長で、その上厚底のブーツで底上げしているからものすごく背が高く見える。

 抜群のプロポーションも相まって、まるで漫画の世界からそのまま飛び出してきたみたいだ。


「────へ」


 なんて、俺が思わず見惚れていると、お姉さんの顔がみるみる赤くなっていく。


「変態っ!!!!」


 顔を真っ赤にしたお姉さんが叫ぶと、その手の中にアニメの魔法使いが使うような長杖がぱっと現れる。

 頭に大きな黒い宝玉が付いた立派な杖だ。

 かと思えば、俺に向けられた黒い宝玉の周囲に雷光がバチバチと迸り……。

 って、これヤバいんじゃ!?


「待っていきなり電撃はぎゃああああああッ!!!!」




 ◇




 ──クラウロード邸 食堂──


「酷い目にあった……」


「すまんヒロト」


 夕食の席で。

 チリチリアフロになった俺に向かい、師匠がテーブルに手をついて深々と頭を下げた。

 あのあと騒ぎを聞きつけた執事のギルスティンさんの手で俺はトドメを刺される前に救出され、今に至る。


「あんな格好、普通は変質者だと思うわよ」


 師匠に叱られてご機嫌ナナメな赤髪のお姉さんがむすっとした顔で正論パンチを繰り出す。

 くっ、反論できない。


「それより、パパも帰ってきたなら連絡くれればよかったのに」


「すまんすまん。課題の邪魔をしては悪いと思ってな。改めて紹介しよう。娘のリゼラだ」


 実の父親から紹介されても、リゼラは拗ねたように顔を背けたままこちらを見ようとさえしない。

 確かにさっきのことは俺が八割悪かったけど、それはそうと謝罪の言葉さえないのはどうなのさ。


「ヒロトはしばらくこの家に住まわせる。リゼラも仲良くするんだぞ」


「私はもうすぐ出ていくんだから関係ないでしょ。住むならどうぞご勝手に」


 リゼラは俺を横目でジロリと睨み、料理の皿を持って食堂から出て行ってしまった。


「こらリゼラ! 待ちなさい! ……参ったな」


 師匠が困り顔で後ろ頭を掻く。

 遅めの反抗期かな。家庭の事情がうっすら垣間見えてちょっと気まずい。


「もうすぐ出ていくって、一人暮らしでも始めるんですか?」


「一人で旅に出たいと言って聞かなくてな。本当は魔法学校を卒業した後すぐに旅に出ようとしていたんだが、子供の、ましてや女の一人旅など危険すぎるからな。俺が止めたんだ」


「旅に出るって、どこか行きたい場所でもあるんですかね」


「まあ色々と、な……。そんなわけで今は魔法の修行中なんだ。成人するまでのあいだ、マリエラから毎月出される魔法の習得課題をすべてこなせば旅立ちを認めるという条件でな」


 師匠の少し濁すような言い方が気になった。

 なんだろう。何かあるのかな。


「それより明日からは筋トレをメインにやっていくぞ。技を磨くのも重要だが、基礎ステータスも伸ばせるところまで伸ばしておきたい」


「分かりました。よろしくお願いします」

本日はここまで

明日からは18:00に1話ずつの公開となります。


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カクヨムでも先行掲載中ですので続きが気になるという方は下記URLから是非!

https://kakuyomu.jp/works/16817139556180771656

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