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【5章完結】平凡勇者は挫けない【7章まで毎日投稿】  作者: 梅松竹彦
第六章 不死魔王決戦編

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0122 神眼石の義眼

 ──地獄(side大翔)──


 そこは赤く煮え立つ溶岩地帯。

 炎を噴き上げるマグマの沼を避けながら、松明のように燃え盛る死者たちが列を成してぞろぞろと横切っていく。

 時折マグマの沼から顔を出した大ナマズが死者たちを丸のみにして悲鳴が上がるが、そちらは無視して今は目の前に集中する。


「ぎゃあああああ!?」


「あっ!? ごめんなさい!」


「何やってるネ! 痛みばかり与えて! かわいそヨ!」


 また失敗した俺をジョッピがどやす。

 俺に斬られた死者は泣きながらどこかへ逃げてしまった。本当にごめんなさい。


 灼熱の中、俺は目の前を通り過ぎていく死者たち目掛けて剣を振るっていた。

 斬ろうとしているのは死者が幽玄冥道(タルタロス)で捨てきれずここまで抱えてきた記憶。

 より正確に言えば、その記憶に対する執着心だ。

 そんなもの本当に斬れるのか俺自身半信半疑だけど、キュリキア様いわく、これが魂を鍛えることにも繋がるらしい。


「お前ホントに才能ないネ」


「うるさいな! そんなの自分が一番よくわかってるよ……」


「見えないモノ斬る。なのにお前まだ肉の目で見てるヨ。だからダメね」


 ここへ来てヒントのようなものを出すジョッピだが、だからといってすぐにできるようになるわけもなく。

 心の目で見なきゃいけないなんてのはとっくに分かってるんだよ。そのやり方が分からないだけで。


 それに加えてこの熱さだ。

 集中力なんてとっくの昔に燃え尽きて灰になってる。

 キュリキア様から借りた獄卒制服のおかげで灼熱の中でも身体が燃え尽きることはないけど、それでも熱いものは熱い。

 呼吸する度に魂が端から焦げ付いていくのを感じる。


 ちなみに獄卒制服は黒を基調とした軍服の礼装みたいなデザインだ。

 凄くかっこいいし正直このまま貰って帰りたい。修行が終わったらキュリキア様に頼んでみようかな。

 などと関係のないことを考えつつもそれから百人ほど斬ったが、結局糸口さえ掴めず。ただただ無駄な時間が過ぎていく。


「……はぁ。……はぁ。くっ!」


「そろそろ時間ネ。一度冥界上がるヨ」


 手拍子一つ、ジョッピがキレキレのステップを踏む。

 すると景色が一瞬で極寒の銀世界に入れ替わった。

 魂まで凍り付きそうな極寒の中、俺はその場で座禅を組み瞑想に入る。

 このルーチンをすでに五回は繰り返しているけど、本当にこんなので強くなってるのか?

 ……美乃梨は大丈夫かな。怪我なんてしてなきゃいいけど。


「また余計なこと考えてるネ!」


「痛てっ!?」


 美乃梨のことを考えていたらジョッピに木の棒で思い切り肩を引っ叩かれた。

 いけない、集中しなきゃ。

 ……恋人のこと心配しただけなのに、それを「余計」呼ばわりされるのはちょっとムカつくな。


「お前雑念多すぎヨ!」


「痛いっ!」


 また叩かれてしまった。

 するとその拍子に右目がポロっと取れてしまい、吹雪に攫われてどこかへ飛んで行ってしまう。

 あああああああ!?


「アチャー。めんごネ」


「めんごじゃないよ!? どうするのさ俺の右目!」


「代わりにその石嵌めとくヨ! ジョッピにお任せネ!」


 青い石のペンダントを顎で指し示し、ジョッピが人差し指をくるくるっと回す。

 すると彼の指先から迸った謎のキラキラがペンダントを包み、直後「ぼわんっ!」と紫の煙が弾けて、青い石は透き通るような空色の義眼に変わった。


 ジョッピが「ふっ!」と息を吹きかけると、義眼が俺の右目に向かって飛んできて、ぽっかり空いた穴にすっぽり収まる。

 ん? おお、普通に見える。よかった……。


「お前、その石どこで拾たネ?」


「これ? 覇龍山脈の麓の村で貰ったんだよ」


「あー。あそこネ。それとても貴重な石ヨ」


「そうなの?」


「神眼石(しんがんせき)言うネ。■■■■が結晶化したものヨ」


「ごめん、よく聞き取れなかった。なんて?」


「だから■■■■ネ」


 やっぱり聞き取れない。


「あやー! これ生きてる奴に言ちゃダメだたヨ! わすれロ!」


 両手で口元を覆って「はわわ」とぶりっ子ポーズするジョッピ。

 うーん壊滅的に可愛くない。

 気にはなるけど、なんか怖いし聞かなかったことにしよう。


「とにかく! その石、人の想い繋ぐ力あるヨ」


「想いを、繋ぐ……」


 やっぱりそうだったのか。

 今までもこの石が光を放つとき、俺は不思議な体験をしてきた。

 俺自身が生きたまま冥界に落ちたことも関係しているんだろうけど、今までのことを考えるとやっぱりこの石の力は大きかったように思う。

 その石が俺の右目になった。そのことは何かとても大きなことのような気がする。


「そろそろ時間ネ。また地獄戻るヨ!」


 ジョッピがキレのあるステップを踏むと再び景色が灼熱地獄に切り替わる。

 あと何回(ナンかい)このステップを拝むことになるんだろう。

 ……よし、がんばろ!




 ◇




 ──草原の大地 エスぺリサ王国(sideアーシュラ)──


 王宮を出たアーシュラは、案内役の兵士と共に軍用の魔導車(バギー)に乗り込みオーランを出発した。

 北東に向かい未舗装の原野を一時間ほど進むと、一面の草原は草木も疎らな岩場に変わり、その岩場の影にぽっかりと口を開いた洞窟が見えてくる。


「随分厳重だな」


 洞窟の周囲は鉄条網が張り巡らされており、最新式の魔導銃で武装した兵士たちが虫けら一匹見逃すまいと各所で目を光らせていた。


「極秘施設ですので。ここで見たこと聞いたことは口外無用に願います」


 案内役の兵士は口の前で人差し指を立てた後、親指で自分の喉を掻き切る仕草をした。

 口外すれば救国の英雄と言えど命はない、ということだろう。

 ただならぬ雰囲気に尻尾をピンと立たせたアーシュラが頷き返し、二人は正面ゲートを潜って鉄条網の内へと入る。

 すると兵士は正面の洞窟へは向かわず、その手前に建てられた四角い建物へとアーシュラを案内した。


 中に入ると、そこはエレベーターホールだった。

 虎模様のラインで囲われた内側は遥か地下まで続く吹き抜けになっており、手前には昇降機を操作するパネルがある。


「この先を見たらきっと驚かれますよ」


 どこか得意げな表情で言いつつ兵士がパネルを操作し、鍵穴に鍵を差し込む。

 すると虎模様のラインの内側に手すり付きの昇降機が上ってきた。


 二人が乗り込むと昇降機は地下に向かって動き出す。

 暗い縦穴の壁に埋め込まれた魔導灯の光が定期的に二人の顔を浮かび上がらせる。

 しばらくすると突然前方の視界が開け、眼下に広がった光景にアーシュラは目を見開いた。


「おい、これって……!」


「ようこそ。ネクロポリスへ」


 それはまるで、星空をそのまま地の底へ持ってきたかのようだった。

 広大な地下空間を埋め尽くす勢いで高層ビルが建ち並ぶ光景は、いつか黒仮面が見せてくれた神代の街並みを彷彿とさせる。

 地上の町並みと比較しても、文明レベルが数百年は進んでいるような印象だ。


「実はここ、ダンジョンの中なんですよ」


「ゼロス爺さんの秘密基地みてぇだな」


「おや、ご存じでしたか」


 聞けば、ダンジョン内の時間流や魔物の発生を制御するための技術は、ゼロス本人から提供されたものなのだという。

 この場所自体が重要国家機密のため、都市の住人たちは一生をここで過ごさねばならないが、代わりにすべての住人に長寿の霊薬が配給され、医療や娯楽も充実しているとのことだった。


「人口は二万人。すべて研究者と技術者、並びにその家族ですね。通常時は外より一〇〇倍速で固定ですが、管制塔の制御で時間の流れる速度はプラスマイナス五〇〇倍まで調整可能です」


 と、兵士が指差す先にアーシュラが目を向ければ、都市の中心部に一際背の高い建物が見えた。

 ビルの集合体といった感じの見た目で、黒塗りの外観はどこか要塞めいている。


「食料はどうしてんだ」


「完全自動生産です。別区画に専用の場所がありまして、そこで食料の生産から加工まですべて魔導で自動化されています。都市内のレストランや娯楽施設で働いている従業員も全員が自動人形(オートマタ)です」


「へぇ、じゃあお偉い先生らは秘密兵器の開発に専念できるってわけか」


「ネクロポリスはこの中だけですべてが完結するよう作られています。いざとなれば国民すべてを収容可能なシェルターにもなります」


 そうこう言っている間にも昇降機は都市区画よりもさらに下へと潜っていく。

 やがて二人を乗せた床板がふわりと停止し、正面の金網が上下左右に開いた。

 岩壁が剥き出しになった通路を奥へ進むと、頭上の圧迫感が消え、広大な空間に出る。


 まず目に飛び込んできたのは、骨格剥き出しの状態で置かれた人型機械だ。

 全長は十八メートルほどで、現在は組み立て作業中なのか、周囲を作業用の車両が忙しなく行き交っている。

 人型機械の前を横切り奥の部屋へと通されると、研究者らしき白衣の青年とグレーのつなぎを着た技術者たちがホワイトボードの前で意見を交わし合っていた。


「────やはり関節部を電磁駆動方式にしたのは正解でしたね。運動性能が三〇%も向上しました」


「ええ。素材を工夫すればもう少し性能を上げられそうです。次は魔素含有量をもう少し増やしてみましょう」


「オサラギ局長! ベオウルフ氏をお連れいたしました!」


 案内役の兵士が敬礼すると白衣の青年が振り返る。

 歳は二〇代前半くらいだろう。

 細長い面立ちの青年で、殆どアフロに近いぼさぼさの黒髪が特徴的だった。


「やあやあ、ご苦労様です。あなたがアーシュラさんですか! お噂はかねがね! 自分はヒューゴ・オサラギ。この研究所で主任をやらせてもらってます」


「アーシュラ・ベオウルフだ。世辞はいいから本題を言ってくれ。仲間が魔王城で待ってんだよ」


「ややっ、これは失礼。国王様からお話は伺っています。どうぞこちらへ」


 兵士から案内役を引き継いだヒューゴは、アーシュラを連れてハンガーデッキをさらに奥へと進んでいく。


「これからお見せするのは我が国の最高機密。正真正銘、最新鋭の機体です」


「じゃあやっぱラルフが持って行けって言ったのは」


「ええ。人(・)型(・)機(・)械(・)です。自分らは巨人機甲(ギガスマギア)と呼んでますがね。あの機体が魔王討伐に使われるかもしれないだなんて、開発者冥利に尽きますよ!」


 そう語るオサラギはとても生き生きとしており、なんとなく大翔と話が合いそうだとアーシュラは思った。

 もしここに大翔がいたなら興味があちこちに移ってしまい、永遠に本題へたどり着けなかったかもしれない。

 説明を受けつつハンガーデッキを奥へと進んでいくと、オサラギはとあるハンガーの前で歩みを止めた。


「さあ着きました。こちらが勇者ヒロト氏が国王陛下に依頼された、彼の専用機となります!」


 それは磨き抜かれた白銀の装甲が美しい巨人だった。

 両腕にそれぞれ一本ずつ、折り畳み式のブレードを装備しており、背中には刃を並べた翼のようなものも見える。

 眉間から左右に向かって上向きに角が生えており、凛々しくも立体的な面立ちはどこか甲虫めいた威圧感があった。


「へぇ、カッケーじゃん」


「そうでしょうとも! 名をシルバリオン・ソーディア。現状、この星で最強最速の機体です! コイツなら聖地マテリオペテルスまで一〇分とかからないでしょう」


「速っ!?」


「ここから春風の大地最東端までだいたい一五〇〇㎞くらいですから、音速表記なら約マッハ七.三七ですね。あくまでカタログスペックですが」


 どう考えても過剰スペックだが、頼まずともロボット好きの王様が莫大なポケットマネーを湯水のように注いでくれるため、開発陣も調子に乗ってしまったのだ。

 と、それはさておき。


「この機体をあなたに預けます。どうかヒロト氏へ届けてあげてください」


「分かった。確かに受け取ったぜ」


 オサラギ主任からシルバリオン・ソーディアの起動鍵を受け取り、アーシュラははっきりと頷いてみせる。


「……つっても、どう動かすんだこんなもん」


「目的地までは自動操縦(オートパイロット)で飛行します。細かい制御は機体がやってくれますのでアーシュラ殿は座ってるだけで大丈夫です」


「そりゃ助かる」


 ひとまず動かす分には問題なさそうだと分かり、アーシュラは身軽な動きでコクピットに身体を滑り込ませる。

 コクピット内は以前乗った機体と比較すると少し手狭に感じた。

 人族の体格に合わせてコクピットのサイズが見直されたためだ。


 正面モニターの真下にはスイッチパネルがあり、足元には機体脚部と連動したフットペダルがある。

 ざっと見た感じ、青月からの脱出に使った機体より計器やスイッチの配置がシンプルになっているのが素人目にも分かった。


「鍵穴は……。おっ、ここか」


 アーシュラが先程受け取った鍵を鍵穴に差し込む。

 一拍置いて正面モニターが点灯し、画面に文字列が表示され制御OSが起動。正面のハッチが閉まる。

 するとコクピットの内壁に外の様子が三六〇度フルスクリーンで映し出された。


『機体から降りたいときは【自動操縦終了】と声に出して言ってください! これからカタパルトで発進させますのでシートベルトをしっかり締めて!』


 モニター正面にオサラギの顔が別窓で映し出される。

 指示通りシートベルトを締めると、格納庫内に警報音が鳴り響き、職員全員が安全地帯へ退避したところで機体が独りでに歩き出した。

 機体は垂直射出式のカタパルト装置へ移動すると、壁に背中を預けるような姿勢で再び動きを止める。

 直後、足元が固定され、頭上のシャッターが開く。


「あ、しまった。ヒロトも別の場所に飛ばされてる可能性もあんのか!」


『問題ありません。バルトホーク博士から転移門の鍵を受け取っていますよね? あれが目印になってくれるので必ずヒロト氏のところまでたどり着けます』


 菱形の結晶体を思い出し、アーシュラが「アレか」と声を上げる。


『といっても、自動操縦はあくまで目的地まで連れて行ってくれるだけなので、途中で敵と遭遇したらどうしようもないんですけどね』


「ダメじゃねぇか!」


『青いスイッチを押すと操作説明書が開きますので、万が一のために読んでおいてください。大丈夫、操作自体は簡単なので!』


「なんで出発間際に言うんだよッ!!!!」


『それでは良い空の旅を!』


 強化ガラス張りの管制室へ移動したオサラギが有無を言わさずカタパルトの発射スイッチを押す。

 直後、電磁カタパルトに紫電が迸り、レールに沿って機体が上へと超加速した。


「ぐおぉぉぉぉぉぉっ!!!?」


 強烈なGに晒されアーシュラの視界が色調を失う。

 脳への血流量が低下したことによるグレイアウトだ。

 全身に力を込めて気絶だけはすまいとどうにか耐えると、数秒後、アーシュラは空の上にいた。

 機体背部で翼が展開し、機体が空の上でふわりと静止する。


「くそっ、あの野郎。覚えてろよ」


 などと悪態を吐きつつもアーシュラは直前に言われた青いスイッチを探し始める。


「青いスイッチ、青いスイッチ……。これか?」


 スイッチを押すとコクピット内の各所にARウィンドウが開く。

 空中に浮かぶように現れた画面には各部の説明が記されていた。

 これならどの箇所について説明しているのか一目で理解できる。


「なんだ。案外簡単そうじゃねぇか」


 分かりやすい説明書にひとまず胸を撫でおろし、アーシュラが改めて外へ目を向ければ、眼下には大海原が広がっている。

 すると発進直前に言われた通り、機体は自動で姿勢を整えると、刃の翼を広げて遥か大空へ羽ばたいた。


「待ってろよヒロト! ぜってー届けてやっからな!」




 ◇




 ──エスぺリサ王国 首都オーラン 王宮──


 執務室で仕事に忙殺されていたラルフは、ふと外から響いた空を裂く轟音に顔を上げる。

 窓の外に目を向ければ空を一直線に斬り裂くように駆けていく白銀の煌めきが見えた。


「……頼んだぞアーシュラ」

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