0103 伝説の鍛冶師
「やあみんな☆ 一話ぶりのボクだよッ!!!! ボクがいなくて寂しかったかい? アッハハ☆ わかってるって! そうだろうとも! さあみんなお待ちかね! ボクの活躍を見てっ! このっ! ボクのっ!! 大☆活☆躍をッ!!!! スゥー……ッ。さぁみんな一緒に~☆ キラキラプリプリスーパーラヴァエルゥゥゥッ☆ ビィィィィィィィム!!!!!!!!」
ラヴァエルが両手でハートマークを作ると、そこからハート型のビームが大放出され、俺たちの行く手を阻んでいた遺跡の守衛ロボが一瞬で蒸発した。
ネーミングセンスは幼稚園児以下だけど、威力だけは本物だった。
「さぁ邪魔者はいなくなった! どんどん行こうっ☆」
邪魔者を物理的に消滅させたラヴァエルがるんるんスキップで先へと進んでいく。
現在地は地下のモールエリア。
中心に大きな噴水広場があり、向かって正面には上へ続く階段が左右に二つ。
三階まで吹き抜けになっていて、各階には様々な店舗が軒を連ねていた。
店の中を覗いてみると、ずっと雪の下に埋もれていたおかげか、数万年経った現在でも風化を免れたかつての商品たちが殆ど当時のまま残されている。
先程襲ってきたロボットも、接客用に作られたものを無理やり改造したような感じだった。
思っていた遺跡とはだいぶ毛色が違うけど、これはこれで当時の様子をイメージできるので廃墟探検のような楽しさがある。
「なんだか魔法都市のショッピングモールを思い出すわね」
「見てくださいまし! あっちでガルダ用の騎乗具を見つけましたの! ほーらピピちゃん、着けてあげますわね」
「あら綺麗じゃない。よかったわねピピ」
「くえっ!」
キラキラ光る綺麗な手綱と鞍に付け替えてもらってピピもご機嫌だ。
触ってみると金属みたいな感触だが驚くほど軽い。素材は何だろう。
「ハッハァーッ☆ みんなー!!!! ちゅうもーくっ☆☆☆☆」
と、水着売り場で何かを見つけたらしいラヴァエルが一人で試着コーナーへと入っていく。
するとどこからともなく軽快なBGMが流れ出して、ライトアップされたカーテンの向こうでラヴァエルのシルエットがくねくねと踊り出す。
関わると疲れるからほっとこう。
「おい見ろよヒロト! あっちにこんなのあったぞ!」
アーシュラがどこかから見つけてきた機械式のガントレットを「ガシャン!」と変形させて決めポーズを取る。
うわ何それカッコいい! 俺も欲しい!
早速アーシュラと一緒にガントレットを見つけた一角へ向かおうとすると、謎のBGMの音量が上がって壁一面にラヴァエルのシルエットが映し出される。
ええいうるさいな!
「お ま た せっ☆ さぁ酔いしれたまえよ! このっ! ボクのッ!! 完っ璧な肉体美にッ!!!! ァカーテンオープン☆」
カーテンが勢いよく開け放たれると同時、ヴンッ! とラヴァエルの足元にどこか見覚えのある魔法陣が広がった。
あの模様、どこかで見覚えが……あっ! 魔法都市で見た転送魔法陣!
「あっ、こういうタイプの罠は予想してなかったな待ってコレまずいってやだやだやだ!!!! 画面から消えたくな」
シュッ、と。
最後まで喧しかったラヴァエルが俺たちの前から忽然と消え失せる。
ふぅ、ようやく静かになった。……じゃない!
アイツがいなくなったらどうやってこの遺跡を攻略するんだよ!?
「ふむ。彼の炎の原理がだいたい分かったぞ」
噴水広場に残されていた守衛ロボの灰を調べていたデオさんが、ぼそりと口を開いた。
「おそらく【聖火天使】の本質は物質組成の強制変換だ。相手のステータスに左右されず、あらゆるモノを超可燃性の物質に変換しているのだろう。それでいて燃焼範囲や燃焼速度、熱量の操作も思うままとは、なんとも恐ろしい力だ」
口を動かしつつも、デオさんは背負っていた大荷物を床に下ろして広げ始める。
どこにあれだけの質量が詰め込まれていたのか、ガシャンガシャンと音を立てて荷物が変形していき、やがて広場に小さな鍛冶場が現れた。
おお! カッコいい!
「しかし原理さえ分かってしまえばどうということはない。少年、矢を少し預かるぞ」
「まさかこの矢にラヴァエルの能力を!?」
「オリジナルには程遠いだろうが、遺跡の防壁くらいなら突破できるようにはしてやれる。罠と敵は自力でどうにかしてくれ」
「そうね。いつまでも他人に頼りっぱなしなんて、つまらないもの」
リゼラが同意を求めるように俺たちに視線を投げる。
頷くタイミングはみんな同じだった。
どうやらみんなラヴァエルのハイテンションにうんざりしていたらしい。
「ああ。うるさいのがいなくなってせいせいしたぜ」
「あのまま二度と帰ってこないことを祈りますわ」
「あ、でもラヴァエルポイントまだ消えてないよ……」
「「そういえば……」」
「くえ……」
聖火天使がいなくなっても、ポイントの星は俺たちの頭上でいまだ鬱陶しく輝き続けている。
永久不滅ポイントだったらどうしよう。
お店で現金代わりに使えるならともかく、こんなのがずっと頭の上でピカピカしてたら目立ってしょうがない。
「こんなもの! こうして! ギュッとして! こうですわ!」
アリアが俺たちの頭上から星を引っぺがし、ギュッと一つに纏めて噴水に向かって叩きつける。
すると星は粉々に砕け散り、砕けた粉末はラヴァエルの笑顔を形作ると……。
────消えないな。
いつまで残り続けるんだよ。さっさと消えてくれ。
「あの能力だけは本当に謎だな……。どんな原理でこうなっているのか皆目見当もつかん。実に興味深い」
いつまでも消えずに残り続けるラヴァエルの怨念(?)をまじまじと眺め、デオさんが真剣な顔で髭を撫でる。
その眼差しはまるで恐竜図鑑を買ってもらった少年のように輝いていた。
相変わらずというかなんというか。六〇〇年経ってもこういうところはちっとも変わってないらしい。
「あんなもの研究しなくていいですよ!」
「そうね。時間の無駄だわ」
「そ、そうか? しかし中々興味深……「深くないです! ぺらっぺらのスッカスカですよあんなもの!」
ラヴァエルの置き土産に興味津々なデオさんの視線を身体で遮り、俺は言葉を被せて彼の意識をこちらに向けさせた。
ああもう! 後ろで構って欲しそうにピカピカ光るなよ!
残りカスだけでもこんなにうるさいなんてどうなってるんだ。
「それより矢を改良してくれるんじゃないんですか!?」
「おお、そうだったな。早速取り掛かろう」
俺が矢筒を突き出すと、デオさんはラヴァエルのキラキラ笑顔(物理)に気を取られつつも炉に火を入れて黙々と作業を開始した。
矢から取り外された鏃が耐熱性の金皿の底に一つ、二つと積み上がっていく。なんだかエビの尻尾取りみたいだ。
いっぱいになった金皿はそのまま燃え盛る炉に入れられ、鏃は瞬く間に真っ赤に燃え盛る金属のスープに変わった。
金皿が炉から取り出されると、煮え立つ金属の熱気がここまで伝わってくる。
するとここでデオさんは道具箱を開いた。
箱の中は素材ごとに区切られており、デオさんはその中から三種類の粉末をそれぞれ大きさの違う計量スプーンでキッチリ計って金属のスープへ投入していく。
直後、金皿から真っ青な炎が「ボォッ!」と立ち昇り、一瞬で鎮火する。
どんな魔法を使ったのだろうか。一瞬で熱が引いた金皿の底には、薄紫色の金属が淡い光を放っていた。
金皿がひっくり返され、薄紫色の金属がゴトリと落ちる。
随分綺麗に剥がれるものだな。あの金皿に秘密がありそうだ。
薄紫色の金属はそのまま金床に乗せられ、そこへハンマーが思い切り振り下ろされる。
ドワーフの固有スキルか、あるいはデオさん自身の異能か。
ハンマーの一打で薄紫色の金属は魔法のようにぐにゃりと形を変えて分裂し、十個の鏃になった。
「ほれ、終わったぞ」
打ち直された矢を収めた矢筒が俺に手渡される。
作業開始からここまで一〇分もかからなかっただろう。とんでもない早業だ。
矢筒から一本引き抜いてみると、鏃が仄かに赤く輝いており、指を近づけてみると微かに熱気を感じた。
「刺さったものを焼き尽くす焦熱の矢だ。よく考えて使え」
「ありがとうございます!」
「時間と素材があればもっと数を揃えられたのだがな。まあ有り合わせで作ったにしては上出来だろう」
作った本人はイマイチ納得いっていない様子だったが、それはさておき。
「スゲーもん見ちまったな!」
「ですわね! 名工デオ・ミスリルの作業風景だなんて、これだけで一遍の詩になりますわ」
「凄すぎて何してるのか殆ど理解らなかったけど、ともあれこれで先に進めるわね」
「そうだね。行こう」
伝説の鍛冶師の早業に興奮気味な三人にそれぞれ頷き返し、俺は再び遺跡の探索を再開した。
……未だに消えず残り続けるラヴァエルの寂しそうな顔を置き去りにして。
お風呂場に生えたカビくらいしつこいな。
もう知るか。無視だ、無視!
◇
──遺跡最深部──
広大な地下空間を埋め尽くすように、黒い柱が規則正しく列を成している。
柱の表面には文字がびっしりと刻まれており、それら一つ一つの文字は点いたり消えたり、明滅を繰り返していた。
それらは数万年の時を経た今もなお動き続ける超古代の演算機。
遺跡を維持管理するための中枢でもある。
そんな神代叡智の結晶とも言える柱の合間を、巨大な影がウロウロと歩き回る。
「はぁ……。やーっと静かになりよったわ」
影がうんざりした目を向けた先には、巨大な氷柱がある。
決して溶けることのない凍土竜の魔力を宿した氷の中には、転移の罠を使ってようやく封じ込めた聖火天使の姿があった。
今にも動き出しそうなほど活き活きとした笑顔ではあるが、それはさておき。
いかに万物を燃やし尽くす天使と言えど、この氷だけは溶かせないようだ。
「絶対溶けない氷と何でも燃やす炎。矛盾対決はワイの勝利やな。おつむがパーでホンマ助かったで。やっぱチートに頼り切りやと、脳みそも縮むんやろなぁ。アカンで自分、もっと頭使って生きな」
ナハハ。と、氷漬けのラヴァエルに向かってどこか得意げに説教を垂れる巨大な影。
「さーて、後はハーレム小僧とドワーフのジジイか。フヒヒッ、今に見とけよ……!」
目の前に開いたシステムウィンドウを鋭い爪でポチポチと突き、影は遺跡の設定を変更していく。
ウィンドウが発する薄明かりに照らされたその顔は、仄暗い愉悦に歪んでいた。
◇
──鉄砂の大地 魔帝国首都遺跡 総合病院──
天井付近に浮かぶ光球の輝きが、手術台の上で横になった美乃梨の寝顔を白く照らしている。
手術台の周囲にはゲーム画面のようなウィンドウが幾つも浮かんでおり、美乃梨の心拍や血圧などがリアルタイムで表示されていた。
「これより魔石摘出手術を開始する」
手術用のゴム手袋を嵌め直し、マスクで顔を半分隠したゼロスがややくぐもった声を発した。
手術台の向かい側に立っていたアシュモネが頷き返し、美乃梨の額に手をかざす。
瞬間、アシュモネの脳裏に光が満ちた────……。
────────
────
──
「……随分と作画コストの安そうな景色だこと」
美乃梨の精神世界へ侵入したアシュモネがつまらなそうに鼻を鳴らす。
辺り一面、どこもかしこも黒一色に塗りつぶされている。
そんな中、鎖に繋がれ宙吊りにされた美乃梨だけが薄青く輝くバリアに守られ、黒に染まらず形を留めていた。
コールドスリープを施す際、リゼラが仕込んだ精神防壁である。
「ふぅん? なかなか頑丈な精神防壁ね。優秀優秀」
などと言いつつも、苦も無くするりと防壁をすり抜けたアシュモネがおもむろに手刀を振るう。
たったそれだけで鎖は断ち切られ、一面を染め上げていた黒もまるで波が引くように遠ざかっていく。
黒の波が引いていくと、そこに現れたのは麗らかな春の陽気に満ちた菜の花畑。
近くのベンチに腰を下ろしたアシュモネは、美乃梨を膝の上に寝かせ、しばしの間、風が運んでくる春の香りに包まれ穏やかな時を過ごした。
「……あれ、私……」
しばらくすると美乃梨が目を覚ました。
肉体的にはノンレム睡眠からレム睡眠へ移行した状態。つまりは夢の中だ。
美乃梨はぼんやりと辺りを見渡し、懐かしい思いに囚われる。
そこは渚がまだ生きていた頃に遊びに来た、思い出の場所だった。
その日は大翔の体調も良く、三人揃って遠出した記憶は後にも先にもここだけである。
懐かしい記憶が呼び起こされたからか、大きな花畑にはしゃぐかつての自分と渚、それを両親たちと見守る大翔の姿が影法師のように現れた。
「って、お、お母さん!? なんでそんな恰好してるの!?」
と、ここでようやく美乃梨は大切な思い出の中に異物が紛れ込んでいることに気付き、目を剥いた。
夢の中に母が二人。しかも片方は砂漠の踊り子風の扇情的な衣装だ。これで驚かない方がどうかしている。
が、よくよく見れば母親より幾分か若いし、胸も大きい。
大学生くらいだろうか。似合っているとは思うが、こうも似ていると恥ずかしさの方が勝る。
「二度とその顔でお母さんと呼ばないで頂戴」
「ご、ごめんなさい……」
アシュモネがまるで苦虫を噛み潰したような顔をすると、美乃梨はすぐにピンときた。
この顔、大翔の記憶の中で見た顔だ。確か名前は────。
「あなた、アシュモネさん……ですよね?」
「……口の軽い彼氏ですこと」
「ゼロスさんと仲直りしたんですか?」
「見たまんまの思考回路のようね」
花畑を見渡し毒づくアシュモネ。
だが言われた当人はさして気にした様子もなく、母親そっくりの顔を見上げ、やや呆れたように口を開いた。
「素直になればいいのに」
「うるさいわよ」
アシュモネに睨まれてしまい、美乃梨はむぅと口を噤む。
とはいえ、こうして彼女がここにいるということは、何らかの形でゼロスと再び関係を持ったということだ。
でなければ赤の他人の自分を助ける理由がない。
美乃梨が思ったことを口に出そうとすると、アシュモネはそれを手で制して先に口を開いた。
「あなたは知らなくてもいいことよ」
「っ! ……心を読んだんですか?」
「私に隠し事できると思わないことね。あなたは捕らわれのお姫様でいればいいの」
そのとき、二人の頭上を大きな影が横切る。
翼を広げた一匹の黒竜が菜の花畑に降り立ち、黄色い花吹雪が舞った。
見れば大きく開かれた顎の奥には灼熱が渦巻き、今まさに地獄の業火を吐き出さんとしている。
「暴れないの」
たった一言。それだけで決着はついた。
炎を溜め込んだ顎には轡が噛まされ、竜はどこからともなく現れた巨大な檻の中に閉じ込められてしまう。
一瞬の出来事に美乃梨が驚いたまま固まっていると、アシュモネは竜の首輪と繋がった鎖を無造作に引っ張る。
すると漆黒の巨体が地面の上に引きずり倒され、勢い余って鉄格子に鼻先をぶつけて竜が涙目になった。
「精神世界で私に勝てるとでも? 舐め過ぎよアナタ」
「す、すごい」
「さて、しばらく暇ね……」
手持ち無沙汰に握りしめた鎖をジャラジャラと弄ぶアシュモネ。
すると何かろくでもないことを閃いたのか、ニヤリと目を細め、口角を僅かに吊り上げる。
猛烈に嫌な予感がして美乃梨が後ずさろうとすると、いつの間にか手足を鎖に繋がれていた。
「嫌! 放して! 何するつもりですか!?」
「何って、嫌がらせに決まってるでしょ♡」
アシュモネの指が美乃梨の首筋を「つぅ」と撫でる。
たったそれだけで甘く痺れるような快感が全身を貫き、自分が自分でなくなるような感覚に美乃梨は恐怖を覚えた。
さて、どう調理してやろうか。
舌なめずりしてアシュモネが美乃梨の顎をくいと持ち上げ瞳を覗き込む。
すると、次の瞬間。
まるで弾かれたように手を離したアシュモネは、すぐさま美乃梨の拘束を解いて後ずさる。
「────嘘よ。こんな……」
「??」
わけがわからず首を傾げる美乃梨。
その仕草があまりに自分の娘とそっくりで、脱力したアシュモネは力なく笑う。
「ふっ……。ははは……。あーあ、ほーんと嫌になっちゃうわ。あの事故がこう繋がるなんて」
「あの、さっきから何を」
「あなたは知らなくていいことよ。でも、そうね。一つ教えてあげる。あなたの魂は目覚めつつあるわ」
「魂、ですか?」
「これから大変でしょうけど、まあ頑張りなさいな」
「え!? それだけ!? もっと説明とかないんですか!?」
「どうして赤の他人にそこまで親切にしてやらなきゃいけないのよ。ほら、手術も終わったみたいよ。とっとと目覚めなさい」
アシュモネが上を指差すと空に亀裂が走り────ぱりん、とガラスが割れたような音がして、大きな穴が開いた。
強烈な浮遊感に捕らわれた美乃梨は、わけもわからないまま空に開いた穴へと吸い込まれていった。




