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【5章完結】平凡勇者は挫けない【7章まで毎日投稿】  作者: 梅松竹彦
第五章 厳冬の大地編

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0102 神代の遺跡

 明けて翌朝。


「み な さ ま────ッ!!!! ごーきげんよう!!!!」


 飛行機雲を引き連れて空をカッ飛んできたドリルが村の上空でガチャガチャと変形し、少女の姿に変わる。

 直後、空中でトランスフォームしたアリアが俺たちの前にヒーロー着地を決め、その衝撃でパウダースノーが舞った。


「マジかよ。アリアが迷わず到着しやがったぞ」


「今日は魚の雨でも降りそうね」


「隕石かもよ」


「くえ」


「あなたたち、わたくしのことなんだと思ってますの?」


「「「制御不能の暴走機関車」」」


「まぁ! そんなに褒められると照れますわーっ!」


 褒めたつもりはないんだけど。

 と、それはさておき。


「ハーッハッハァ☆ おはようみんな! 素敵な朝だねッ☆」


「ご自慢の翼でとっとと国にお帰りあそばせ」


 しれっと俺たちに混ざってきたラヴァエルに気付き、アリアがジトっと湿気を帯びた視線を向けた。


「フフッ☆ どうやらボクの最高に美しい美炎天翼《ラヴァエルウィング》が見たいらしいねっ!!!!」


「いいえ結構です! 話が進まないのであなたは黙っていらして!」


 アリアにきっぱり断られてラヴァエルがしゅんとなる。


 そうか、うるさいのにはうるさいのをぶつければいいんだ。

 音波同士がぶつかり合って相殺するみたいな。


「ヒロトさま、今ものすごーく失礼なこと考えませんでした?」


「ハハハ、ナンノコトカナ」


「それで、どうしてこの人がここにいますの?」


「実はかくかくしかじかで」


「まるまるうまうまですわね!」


「なんでそれで通じるのかしら……」


「うふふ、時には道に迷うことも必要ということですわ!」


「はいはい、仲のいいことで羨ましいわ」


 リゼラが拗ねたようにぷいと顔を背けると、ようやく準備を終えたデオさんがかまくらハウスからひょっこりと顔を出した。

 随分な大荷物だな。背丈より荷物の方が大きいじゃないか。


「みんな揃ったようだな。では出発するとしよう」


「いざ悪竜退治ですわー!」


 そんなこんなでアリアも無事合流し、俺たちはデオさんの案内で村を出発した。




 ◇




 俺たちが村を出ると天候はすぐに吹雪に変わった。

 どうやっているのかは知らないけど、悪食竜はこちらの動きを感知しているらしい。


 リゼラにバリアを張ってもらい一塊になって吹雪の中を進んでいくと、やがて白い斜幕の向こうに大きく口を開いた洞窟が見えてきた。

 ひとまず雪が入ってこない場所まで進み、全員いることを確認してホッと一息。


「いやぁ酷い吹雪だったねッ☆ みんなボクの炎で温まるといいよ! この! ボクの! 炎でね!!!!」


 ラヴァエルが指を鳴らすと彼の全身からバッと炎が吹き上がり、洞窟内の気温がみるみる急上昇していく。

 ふぅ、温ま……あっつい!


「いちいち喧しい人ですわね……」


「構うと余計うるさいからほっときましょ」


「ハハッ☆ ねぇねぇ、ボクを見て。ねぇ見て! 見てっ! ハハッ☆ アハハッ☆」


 シャバダバと反復横跳びを始めたラヴァエルを無視してさらに奥へ進むと、ある部分を境に洞窟の内壁が剥き出しの岩から人工物に変わった。


 これは……何かの金属だろうか。軽く叩いてみると少し高い音がした。

 リゼラが杖を高く掲げると、杖頭から生じた光の玉が上に向かって飛んでいき、辺りを昼間のように照らし出す。


「これは……物資の搬入口かな」


 見て感じた印象をそのまま口に出すと、俄然そんな気がしてきた。


 目の前には固く閉ざされたゲートがあり、左右の壁際にはコンテナの残骸のようなものがいくつか転がっている。

 それらがいったいどれほどの年月ここに転がっていたのか、俺では見当もつかない。


「確かにそんな感じですわね。建物の雰囲気も月面の基地を思い出しますわ」


「……ダメね。見たこともない言語で術式が組まれてる。これを解除するのは骨が折れるわよ」


 閉じたゲートに触れて何かを調べていたリゼラが残念そうに首を横に振った。

 もしかしたらと期待してたけど、リゼラでもダメか。


「それで、君はこの閉ざされた扉をどう開けるつもりかね」


 巨大なゲートに触れデオさんが振り返ると、ラヴァエルは待っていましたとばかり瞳を輝かせた。


「よくぞ聞いてくれましたっ!!!! 知りたい? みんな知りたいよねぇ! そうだろうとも!」


「どうせ炎で燃やすんでしょ。御託はいいからさっさとやんなさいよ」


「えぇぇぇぇぇっ!? どうして分かったんだい!? アッハァ! こいつは一本取られたね☆ 賢いお嬢さんにはラヴァエルポイント五ポイントあげちゃうよっ☆」


「いらないわ」


 真顔で断ったにもかかわらず、リゼラの頭上に「ピコンッ☆」と星が付いた。

 よく見れば星の中心に数字の五と書かれている。

 リゼラが必死に手で星を掴んで捨てようとするが、すり抜けてしまってどうにもならない。


「ちょっと!? 何よコレ! 消しなさい!」


「それはラヴァエルポイント! 一〇〇ポイント溜まるとぉぉ! なんとっ! 四名様で行くアリオーン聖法国観光ツアーへご招待!!!! 強制転移の片道切符だけどね☆ ついでだからみんなにも一ポイントずつあげちゃう!」


「いらねぇよ!」

「いりませんわ!」

「いらない!」

「くえぇっ!」


 と、全力で断ったが、ラヴァエルがくるくるっとターンを決めて投げキッスすると俺たちの頭上にも星が付いた。

 どうすんだよこれ。全員の合計で一〇〇ポイントなのか、一人で一〇〇ポイントなのかで話変わってくるぞ。

 なんにせよ、これ以上貰わないようにしないと。


「くそっ! なんだこれ取れねぇ!?」


「あら、取れましたわ。アーシュラにあげますわね!」


「おいコラそんなもん押し付けるな! ぐわぁぁっ!?」


 アリアが自分の星を投げつけたせいで、アーシュラが二ポイントになってしまった。かわいそうに……。

 なんてふざけている間にも、ラヴァエルは炎を纏わせた剣を閃かせ、道を塞いでいた扉を燃やし尽くしていた。


「さぁ道は開かれた! ついてきたまえよ! このボクにっ☆ 聖火天使ラヴァエル様が君たちを導いてあげよう☆ らんららんららんっ☆」


 一人だけ気分ルンルンなラヴァエルが浮かれぽんちにスキップしながら先へ進んでいく。

 すでにもうあのハイテンションに疲れてきてるけど、遺跡のセキュリティを解除する手段が俺たちに無い以上アイツについて行くしかない。


 げんなりと肩を落としながらも、俺たちは仕方なくラヴァエルの後に続いた。

 先が思いやられる……。




 ◇




 ──鉄砂の大地 旧魔帝国首都遺跡──


 広大な砂漠の只中に無数の高層ビルが天を貫く槍のように突き立っている。

 住人だけが消えた都市は、六〇〇年の歳月を経てもなお目立った風化もなく、かつての姿のままそこにあった。


「よもや魔帝国の都市が未だに残っていようとはな」


「今は私たちが有効に使わせてもらってるわ」


 ガラスの一枚すら割れることなく形を留めた街を見渡し、ゼロスは感心したように声を漏らす。

 都市全体をすっぽりと覆い尽くす半球形のドーム。あれが風や砂の侵入を防ぎ、建物を風化から守ったのだろう。

 ガラス張りの建物の中にはのびのびと羽を伸ばす淫魔たちの姿も見える。


「こっちよ」


 ゼロスたちを都市の中心部へと誘うのは、砂漠の踊り子の衣装に着替えたアシュモネだ。

 その後ろをサボットが一言も発さず忠犬のごとく付き従い、彼が背負う半透明のカプセルの中には美乃梨の姿もある。


 魔王ドラジス討伐の旅ではついぞ訪れる機会のなかった敵の首都に興味を惹かれつつもゼロスが一人感慨に耽っていると、先を歩いていたアシュモネが不意に立ち止まる。


「ここよ」


 そこは魔帝国の首都で最も大きな総合病院の跡地だった。

 元は白かったであろう壁は経年劣化で黄ばんでいたが、建物自体はとても六〇〇年前のものとは思えないほどしっかりしている。

 中に入ってみれば明かりが付いており、掃除の行き届いた床には埃一つ落ちていない。


「奥で彼が待ってるわ」


「彼だと? 誰のことだ」


 ゼロスの問いを無視してアシュモネは彼を奥へと案内する。

 エントランスのエレベーターで四階へ上がり廊下を進むと、突き当りに木製の両開き扉が見えた。


「連れてきたわよ」


「ありがとう。二人とも入ってくれ」


 部屋の中から返事があり、アシュモネが扉を開ける。

 執務机の向こう側、革張りの椅子に腰かけていた学ランの少年が振り返ると、ゼロスは驚きのあまり顎を落としそうになった。


 劔《つるぎ》正義《まさよし》。

 かつて旅の苦楽を分かち合い、共に魔王を討ち果たした仲間が、当時と変わらぬ姿のままそこにいた。


「どういうことだ!? なぜマサヨシがここにいる!? いや、そもそも本物か貴様!?」


「絶倫巨根」


「ゲッフンゲフン! ……どうやら本物らしいな」


 当時あの場にいた者しか知りようのない、思い出したくもない事件のキーワードを口に出されては信じるしかなかった。

 老いても中身はかつてのままと知り、正義は苦笑を浮かべつつも戦友《とも》との再会を喜んだ


「久しぶりだねゼロス。随分と貫禄が出たね?」


「素直に老けたと言えばいいものを。どんな魔法を使った? ワシでさえこれだというのに。どうしてお前は逆に若返っておる」


「神代の技術でちょっとね」


 ゼロスが探りを入れると、マサヨシはわざとらしく肩を竦めるだけでハッキリとは答えなかった。

 元より世間話程度のつもりだったため、ゼロスはそれ以上追及せず、早々に本題を切り出す。


「それで、ワシに何の用だ」


「せっかちなのも相変わらずだ。かつての戦友とクラスメイトの顔を見に来た。それじゃだめかい?」


「つまらん嘘を吐くな。世界各地で起きている事件。裏で糸を引いていたのはお前だな?」


 ゼロスが視線を鋭くすると、正義はさして驚いた様子もなく「まあバレるよね」と正直に白状した。


 部屋に入る直前、アシュモネは「連れてきた」と口にした。

 そのことからも二人が協力関係にあることは明らかで、エスぺリサ王国でのアシュモネの暗躍も、正義の指示によるものだったのではないかという推測が成り立つ。


 そして、それにより起きた結果を見れば、おのずと正義の目的も見えてくる。


「かつては神の尖兵だったお前が、神に反旗を翻すか」


 ゼロスの言葉に正義は首を横に振った。


「少し違う。確かに僕は神を殺すつもりだけど、やるのは僕じゃない。僕には無理だ」


「どういう意味だ」


「そのままの意味だよ。今の僕にできるのは、せいぜい新しい主人公が活躍するための舞台を用意するくらいさ」


 ゼロスの問いに、正義は皮肉っぽい笑みを浮かべてみせる。

 どうやら詳しく答えるつもりはないらしい。


「一つ確認させろ」


「なんだい」


「四〇〇年前のことは、お前が裏で糸を引いていたのではないのだな?」


 白衣の懐から取り出したリボルバー拳銃を正義の眉間に突き付け、ゼロスが声音を低くする。

 籠められた弾丸はステータスを無効化し、当たりさえすればどんな超越者だろうと確実に葬れる特別製だ。


 この六〇〇年、正義が神を殺すため歴史の影に身を潜め陰謀を巡らせていたであろうことは想像に難くない。

 しかし、もしそうだとしたら、娘を死に追いやったあの事件にも間接的に目の前の男が関わっていた可能性が出てくる。


(……場合によっては)


 神殺しの前にかつての戦友を殺さねばならなくなる。

 どこか祈るような目つきでゼロスが銃口を向ける中、正義は顔色一つ変えず口を開いた。


「誓って僕じゃない」


 一分《いちぶ》の揺らぎもない瞳がゼロスを見つめ返す。

 異能による鑑定結果は白。だが正義には異能による鑑定さえ騙す言霊《ウラワザ》がある。


 嘘か。真か。


 拳銃の引鉄がジワジワと引き絞られていく。

 しかしそれでも正義の瞳は揺らぎもしなかった。


 バンッ!!!!


 寸前で銃口が真上に向けられ、天井に穴が開いた。

 ゼロスはそのまま拳銃を白衣の懐に仕舞うと、どこかもどかしそうに後ろ頭を掻いてアシュモネに視線を投げる。


「時間が惜しい。手術を始めるぞ。お前も手伝え」


「はぁ? どうして私が」


「ミノリの体内にある魔石は意思を持っておる。摘出の際、おそらくミノリの精神を人質に取り抵抗してくるはず。お前の力があればミノリの精神を保護するくらい朝飯前だろう」


「どうして私が赤の他人を助けなきゃいけないのよ」


「僕からも頼むよ」


 と、正義も椅子から腰を上げ、アシュモネに深々と頭を下げた。

 しかしアシュモネは「付き合ってらんないわ」とそのまま部屋を出ていこうとする。


「また逃げるのか」


 その背中にゼロスの言葉が刺さった。


「……なんですって?」


「また逃げるのかと言ったのだ。この臆病者!」


 アシュモネが振り返りざまに放った平手打ちは、しかし手首を掴まれ止められてしまう。

 振りほどくのは簡単だ。アシュモネが軽く力を籠めれば、それだけでゼロスは吹き飛び、壁に叩きつけられるだろう。

 だが、その一押しが、どうしてもできない。


「痛い! 離してよ!」


「痛いだと? ワシのような老いぼれの力で魔王に痛みなど与えられるものか。振りほどきたいのならそうすればいい。ほれ、どうした。お前の力ならこんな老いぼれ、簡単に吹き飛ばせるだろう!」


 鋭さを増したゼロスの瞳が「逃がさん」と強く訴えかけてくる。

 二人はしばし無言のまま睨み合い、やがて根負けしたアシュモネが目を逸らす。


「……今更そんなことして何になるっていうのよ」


「分かっておる。……だが、それでも救ってやりたいのだ。この子はまだ生きておる。救ってやれる手段があるのだ! ……頼むっ」


 後悔を噛み締め、ゼロスが俯く。


 また逃げるのか。

 夫の口から出た鋭い言葉がアシュモネの胸の内をちくちくと跳ね回る。


 美乃梨は実の娘でもなんでもない、娘に似ているだけの赤の他人。

 そう言い訳して逃げることは簡単だ。

 しかし今また逃げてしまえば、この少女は助からず、ゼロスはそれを死ぬまで悔やみ続けるだろう。


「……っ。ああ、もう! 来なさいサボット!」


 掴まれた腕を振りほどき、アシュモネはサボットを引き連れて院長室を出ていく。


「なにボサっとしてるのよ。やるならさっさとやるわよ! まったく、これっきりなんだから!」


 顎をしゃくってゼロスを急かし、やけに速足で去っていくアシュモネ。

 そんな彼女の背中を見送り、正義が苦笑を零す。


「素直じゃないなぁ」


「お前にはやらんぞ」


 ジロリ。と、思いのほか湿度の高い視線を向けられ、正義は慌てたように首を横に振った。


「違う違う! 彼女とはそういうのじゃないさ。今は利害が一致しているから協力してくれているだけだよ」


「ハンッ、どうだかな。どうせそうなるように仕向けたんだろう。お前は昔から口先で人を操るのが上手いからのう」


「ひどいな。僕はそんな腹黒じゃないよ」


「よく言う。……もしもアシュモネを使い捨てるような真似をしてみろ。生まれてきたことを後悔させてやる」


 最後にギロリとひと睨みして釘を刺したゼロスは「フンッ」と鼻息一つ踵を返し、院長室を後にした。






「────肝に銘じておくよ」

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