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【5章完結】平凡勇者は挫けない【7章まで毎日投稿】  作者: 梅松竹彦
第四章 迷宮都市編

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0091.c 俺の知らない君 後編

 山間(やまあい)を吹き抜ける涼しい風に乗り、祭囃子と人々の喧騒が遠く響く。

 コオロギたちの涼しげな声を背に浴びつつ、人の流れに乗って賑やかな方へ向かうと、明かりの灯された山の神社が見えてきた。


 中二の夏休み。

 神社のお祭りに朱莉も連れて三人で出かけたときの記憶だろう。


 久々に美乃梨と遊べて嬉しかったのか、普段大人しい朱莉もこの日ばかりはいつになく大はしゃぎだった。

 射的、金魚すくい、型抜きと出店を回り、屋台でチョコバナナを買ってベンチで一休み。


 チョコまみれになった口元を俺が拭ってやると、朱莉がにへっと笑い返す。

 それから三人で太鼓櫓(たいこやぐら)を囲んだ盆踊りに参加して、打ち上げ花火を見終える頃には朱莉もすっかり電池切れで船を漕いでいた。

 それで結局、俺がおんぶして帰ったんだよな。


「朱莉ちゃんぐっすりだね」


 神社からの帰り道、俺の背中ですやすや眠る朱莉のほっぺをぷにぷに突いて美乃梨が笑う。

 可愛い寝顔しちゃって。


 ……朱莉、元気にしてるかな。

 お腹空かせてないかな。寂しくて泣いてないかな。夜はちゃんと歯磨きして、温かくして寝てるかな。

 ああ、心配だ……。


「今日は誘ってくれてありがとう。朱莉もすごく喜んでたよ」


「ううん、こっちこそ。ひさびさに二人と遊べて楽しかった」


 しばらく無言の時間が続く。

 家も隣でクラスも一緒とはいえ、中学に上がってからは部活も始まり、放課後の時間は別々になってしまった。


 そうして生まれた些細な隙間。


 そうこうしている間にも、身体はどんどん大人へ近づいていく。

 もうあの頃のままではいられない。

 一度開いた隙間は無限にも等しい隔たりのように思えてならなかった。


 ……美乃梨も同じ気持ちだったんだ。

 だから朱莉を誘うつ(・)い(・)で(・)を装い、俺を夏祭りに誘った。

 だから俺も、朱莉を言い訳にしてその誘いに乗った。

 これ以上心の距離が開いたら、なんだか取り返しがつかないような気がしたから。


 だけどいざ二人きりになると、何を話していいか分からなくなってしまう。

 昔はあんなに自然に話せていたのに。


「痛っ」


 足の親指と人差し指の間に痛みを感じ、美乃梨が足を止める。


「どうしたの?」


「草履の鼻緒が切れちゃって」


 見れば足の指の間が擦り剝けていた。


「とりあえずそこの公園まで行こう。掴まって」


「う、うん。ありがと……」


 美乃梨が俺の肩に掴まり、けんけんで近くの公園まで移動する。

 朱莉をベンチに寝かしつけた俺は、浴衣の帯に結んでいた巾着袋から取り出した絆創膏(ばんそうこう)を美乃梨に「はい」と手渡す。


「貼ってくれないの?」


「え? なんで?」


「なんでって、この恰好だと着崩れちゃうでしょ」


「あ、そういうこと!? ごめん」


「いいよ。……よかった」


「え?」


「ううん。なんでもない」


 このとき美乃梨が見せた苦笑の理由が、今ようやく分かった。

 気が利かない俺を見て他の女の影が無いことに安堵していたなんて、分かるわけがない。


 美乃梨がベンチの端に腰掛け、擦りむいた足を俺に「ん」と突き出す。

 この時の照れくさそうな、だけどどこか俺を誘うような美乃梨の表情は、今でも目に焼き付いている。

 素足を目の前に突き出されるという非日常に俺がドキドキしてしまったのは言うまでもない。


 気恥ずかしさを誤魔化すため手早く絆創膏を貼り終えた俺は、手に残る素足の感触を忘れようと草履の修理に取り掛かる。

 美乃梨は草履の鼻緒を結び直す俺の横顔を、少しボーっとしながら眺めていた。

 次第にその視線は汗ばんだ首筋から鎖骨へと下りていく。

 俺にとっては毎日のように見てきた自分の身体だし、今更何とも思わないが、美乃梨にとってはそうじゃなかったらしい。


 よくよく考えたら今の状況、めちゃくちゃ恥ずかしいな。

 俺は何を見せられているんだ。


「直ったよ」


「へぁ!? え、あ、ありがと……。すごいね」


 俺の身体を眺めるのに夢中になっていた美乃梨が挙動不審になりながらも返事を返す。


「別に大したことないよ」


 俺の遠慮がちな笑顔にまたドキリ。

 美乃梨の感情だって分かってはいるんだけど、なんかナルシストみたいで複雑だ。

 乙女フィルターを通したせいか、俺の背後で大輪の薔薇(幻覚)が咲き乱れている。

 今時少女漫画でも見ないぞこんな表現。


 もうやめて! 恥ずかしい! こんなの俺じゃない! いや俺だけど! 

 頭がおかしくなる!!!! うわーっ!!!!




 ▽




 心までカビつきそうな梅雨の季節に一日だけ訪れた晴れの日。

 その日は部活も無く、今日は久々に二人でどこかへ遊びに行こうか、なんて横山さんと話していたその時。

 階段を下りようとしていた二人の行く手に一人の少年が立ちはだかる。

 ────月島君だ。


「藤谷さん! よかったらこのあと一緒に」


 やはり今度も月島君が言い終えるより早く、美乃梨は動いた。

 素晴らしい反射神経で踵を返した美乃梨は、躊躇うことなく廊下の窓を開け放ち、晴れ渡る空に向かって飛んだ。


 今回も見事な五点着地。

 ぽかんとした顔でこちらを見下ろす二人に「あばよ」とサインを送り、美乃梨は上履きのまま校舎の裏門から猛ダッシュで帰っていった。


 下駄箱に置き忘れた靴は横山さんが後で家まで持ってきてくれたが、「危ないことするな!」とこってり怒られたのは言うまでもない。そりゃそーだ。


 ちなみにこの件がきっかけで横山さんと月島君は顔見知りになり、夏休み明けから付き合い始めたらしい。

 いわく、横山さんの押し切り勝ちだったとか。

 意外とガンガン攻めるタイプなんだな、委員長。




 △




 また場面が入れ替わる。

 今となっては懐かしささえ感じる中学の教室だ。黒板の横にストーブが置いてあるので冬だろう。


「さりげなく。さりげなく渡すだけ。さっと、軽い感じで……」


 鞄の中身を気にしながら美乃梨が小声でブツブツと呟いている。

 視線の先には二つ前の席に座る俺の背中がある。


 ────っ! そうかバレンタイン! 

 手作りのやつ用意しててくれたの!? 貰った覚えないけど!?

 ほら見てよ、あのソワソワした背中!

 ……数時間後には敗北者の哀愁を背負うことになる男の背中だ。ちくしょう。

 この頃は俺もすっかり美乃梨のことを異性として意識していて、そのせいで以前のように気軽に話しかけられなくなってたっけ。


「おはようみのりん!」


「ひゃわぁ!?」


 突然背後から抱き着かれて振り返ってみれば、やはりというか横山さんだった。


「な、なんだ真希ちゃんか」


「なんだとはご挨拶な。それで、いつ渡すの?」


「な、ななななななんのこと!?」


「今日だけは私、メガネ曇っててなーんにも見えないから」


 グッ! と、親指を立てて美乃梨にエールを送り、横山さんは自分の席へと向かった。それでいいのか委員長。

 ともあれ親友からのエールに奮い立った美乃梨は「よしっ!」と力強く頷き、席を立とうとしたところで……。


 キーンコーンカーンコーン。


 朝のチャイムが鳴ってしまい、上げかけた腰はそのまま静かに下ろされた。

 あぁ……。


 その後もクラスの女子全員に友チョコだけは配れたものの、何かと邪魔が入ったりタイミングが合わなかったりで、結局本命チョコだけ渡せないまま放課後になってしまう。


 今度こそ。

 そう思って教室を見渡すと、偶然目が合った担任の山中先生に呼び止められ雑用を頼まれてしまった。

 急いで用事を片付けて教室に戻ってみれば、すでに俺の姿はどこにもなく……。


「あれっ、ヒロ君は!?」


「ぷぇ……。無理……」


「委員長の鬼ぃ……」


 美乃梨の姿を見るなり、教室に残っていた仲良し二人組の安藤さんと田中さんが燃え尽きたボクサーみたくガックリと崩れ落ちる。

 どうやら気を利かせた横山さんが二人を巻き込んで俺を引き留めようとしていたらしい。


 そういえばあの日、今まで一度も話したことのなかったこの二人から声をかけられたっけ。

 ずっと小声だったし、そのくせ早口だから何言ってるのかちっとも聞き取れなかったんだよな。

 この日は朱莉と一緒にチョコケーキ作る約束があったし、だから丁重に断ってすぐ帰ったんだけど……こんなことなら残ればよかった。


「だってあなたたちいつも壁になりたいとかアホなことぬかしてるじゃないの」


「ウチらは鈴木家の壁になって推しの一挙一動に至るまでを見守らせていただきその尊みを摂取して生きる精霊的なヤツになりたいのであって物理的な障壁にはなれないの!」


「国語の音読は噛み噛みなのによくもまあスラスラと」


 早口でまくし立てる安藤さんに横山さんも呆れ顔だ。


「フヒッ……。でもあのちょっと困った笑顔はよかった……。これで一〇〇年は生きられる……。ドゥフッ!」


「あんな儚い笑顔で妹の保育園のお迎えが、なんて言われたら誰も止められんて……。ホンマごちそうさん……ぐふっ」


 委員長から呆れられようが気にも留めず、二人は天にも昇りそうな顔でとうとう力尽きた。


「……渡せなかった」


 横山さんの壁作戦も失敗に終わり、とうとう学校でチョコを渡す機会を完全に失った美乃梨がしゅんと肩を落とす。


「今からでも家に直接渡しに行けば? どうせ隣なんだし」


 横山さんが若干呆れたように言うと、美乃梨は熱くなった顔を両手で覆い、ブンブンと首を横に振る。

 ……俺が料理得意だから? 不格好な手作りチョコを渡すのが恥ずかしくなったって?

 作ったチョコケーキお裾分けしに行こうか悩みに悩んで、結局渡す言い訳が思い浮かばなかった俺に何かを言う権利なんてないです。はい。


「安藤さんと田中さんも、巻き込んでごめんね?」


「いやいやいやいや!? 全然全然! ウチらだってチョコ貰ったし!」


「むしろ健康になったまであるし!? ごちそうさんですホンマ!」


 燃えカスのようになっていた二人に美乃梨が頭を下げると、二人は顔のパーツが吹っ飛ぶんじゃないかというくらい頭を横に振った。


「はぁ……。結局こうなったか。で? そのチョコどうするの」


「もういい。真希ちゃんにあげる」


 美乃梨が鞄から取り出したチョコを「ん」と横山さんに突き出す。

 可愛くラッピングされた艶々のボールチョコだ。プロレスラーの拳骨くらいあるけど。


「本当に鈴木君に渡す気はないんだね?」


 小さく頷き、なおも横山さんにチョコを押し付ける美乃梨。

 やれやれとため息一つ、横山さんが手を受け皿の形にすると、ラッピングされたチョコがその上に落され────。


 ズシッ……!


「おわっ!? え、なにこれ鉄球!?」


 チョコの物理的な重さに横山さんが半歩よろめいた。まあそうなるよね。


「何って、チョコだよ」


「嘘つけ! チョコがこんな重いはずないでしょうが! だいたいサイズからしてすでにおかしいし!」


「えへへ、ちょっと材料買いすぎちゃって」


「……ちなみにどれだけ買ったの?」


「特売のやつを五キロくらい」


 本人いわく、多少失敗しても大丈夫なようにとネットで五〇〇グラムのものを注文したつもりだったらしい。

 ところがいざ届いた箱を開けてみたら業務用のチョコレートが五キロも入っていたそうだ。


「……で、まさかそれ全部使ったの?」


「男の子ならお腹いっぱい食べれる方が嬉しいかなって」


「どうしてバレンタインに田舎のおばあちゃん理論持ち出すかな!? ていうかどれだけ圧縮したら五キロの材料がこんなサイズになるの!?」


「頑張った!」


 ふふん! と美乃梨が得意げに胸を張る。

 確かに水風船使ってチョコドームとか、チョコのお皿作る方法はあるけどさ。

 まさか中身ギッチギチに詰めて圧縮するとは誰も思わないじゃん。

 後半の方なんて祈りながら詰めてたし。


 祈ってどうにかなる圧縮率じゃないんだよなぁ。どうなってるんだ。

 魔法でも使った? いやそんなまさか……。


「こんな重いもの押し付けられても困るってば!」


「や、やっぱり重いかなぁ……」


「二重の意味でね! こんなの貰ったら鈴木君脱臼しちゃうよ!」


 横山さんにバッサリ切り捨てられ、美乃梨がしゅんと肩を落とす。

 流石にこれくらいじゃ脱臼しないよ!

 結局、鉄球チョコは美乃梨に返却され、あまりの硬度に割って食べることもできず今も部屋に飾ってあるらしい。




 ▽




 締め切られたカーテンの隙間から西日が薄く差し込んでいる。

 オレンジの光に薄ぼんやりと照らされた部屋は、陰影が濃すぎて細部まではよく見えない。


 ここは……美乃梨の部屋か。

 小学生の頃に何度か渚と一緒にお邪魔した記憶があるけど、あの頃から殆ど変わってないな。

 と、それはさておき。


 目の前には大きな姿見。

 そこに映る美乃梨の姿はいつになく色っぽい。というより、かなり際どい。


「……えへっ。作っちゃった」


 姿見の前で美乃梨がくるりと回ると、向こう側が透けるほど薄いスカートがひらりと舞った。

 それは俺がこの世界に来る直前まで放送していた夏アニメのヒロインのコスプレ。

 原作は現在も連載中の大人気漫画で、敵組織の紅一点。名前をサキュバスプリンセスのリリベルという。


 そう、サキュバスだ。


 だからすっけすけのベビードールみたいなスカートの下が紐同然のティーバックだったとしても何も不自然な点はない。

 ないったらないのだ。


 ともあれ人気投票では主人公とライバルに次いで堂々の三位にランクインし、アニメ化でさらに人気が爆発した今乗りに乗ってるヒロインが……目の前にいる。

 正直、中学生が一人で作ったとは思えないクオリティーだ。


 きっかけは俺が学校で田中君に話題を振られて「あれ面白いよね」と言ったのを美乃梨が耳聡く聞きつけたのが始まりだった。

 そこから俺と話す口実になればとアニメを見始め────気付けばすっかりドハマりして原作漫画も全巻揃え、ついにはコスプレ衣装まで自作し、今に至る、と。

 何が『美乃梨があんな痴女みたいな恰好するわけない!』だよ。

 あのときの俺を殴りたい。


 ……頑張って作ったのに他の女(そっくりさん)と比較されるのは嫌?


 俺だってあんなヤツのこと考えたくないよ。

 でもこれは有名なネットミームを先に知ったせいで原作漫画のシリアスなシーンでも変な笑いが出るみたいな話で、分かっててもどうしようもないんだ。


 美乃梨と何かある度に淫魔王(あいつ)の顔が浮かぶの、割と最悪だな?

 くそっ、なんて厄介な呪いだ!


 え? じゃあせめて衣装の感想を言え!?

 …………とても可愛(えっち)いと思います。


「きゃはっ♡ 視線がヤラシーんですけど~?」


 美乃梨が鏡に向かいセクシーポーズを作り生意気な笑みを浮かべる。

 完璧な原作再現。俺は死んだ。


「……何やってるんだろ、私」


 すん。と、急に正気に戻った美乃梨がそのままの格好でベッドに倒れ込む。

 あぁ、天井しか見えなくなっちゃった。残念。


 なんて思っていたのも束の間。

 美乃梨の手がまるで吸い寄せられるように紐同然のTバックへと伸びてゆき、次第に息遣いも荒く……。

 あっ待ってコレ本当にまずいやつ【自主規制(カット)!】




 △




 気付けば俺は懐かしい雑踏の中を歩いていた。

 駅前の大通りだ。人が多いので休日だろう。


「……どうしよう」


 おもちゃ屋のショーウィンドウを眺め、美乃梨は悩んでいた。 

 ガラスに映った美乃梨の顔はごく最近のものだ。

 ────そうか。俺の誕生日にサプライズパーティーを。


「やぁ、藤谷(ふじたに)さんじゃないか。こんなところで奇遇だね」


「わっ!? つ、劔君!?」


 と、おもちゃ屋から出てきた劔がショーウィンドウとにらめっこしていた美乃梨に声をかけてきた。

 その手にはラッピングされたおもちゃの箱がある。


「それ、誰かへのプレゼント?」


「うん、弟に。もうすぐ誕生日だからさ。藤谷さんは?」


「えっと……」


 聞き返され、美乃梨が言いよどむ。

 ひとまず俺への誕生日プレゼントとしてプラモを用意したはいいものの────待って劇場版公開記念で期間限定販売されたやつじゃん!? 

 欲しかったけど転売ヤーのせいですぐ売り切れちゃって買えなかったやつ! よく手に入ったね!? まさか転売品じゃ……。


 えっ!? バ●ダイ本社に手紙を送った!?


 そしたら社長にまで話が届いて? 映画のブルーレイボックス発売と併せて再生産が決定して、本社から家まで見本品が郵送されてきた!?


 ────帰ろう。絶対に(断固たる決意)

 こんな貴重な品を積みプラにしたまま放置なんて許されない!


 ともあれサプライズパーティーを開くからには、もう一つ何か特別なものを、できれば普段から身に付けられるようなアクセサリーを贈りたいと美乃梨は考えていた。

 だが指輪やネックレスでは学校につけて行ったら没収されてしまうし、かといって男子の俺にヘアピンやヘアゴムを渡しても意味が無い。

 ここ一ヵ月、美乃梨はそのことで頭を悩ませていた。


「何か悩み事があるみたいだね。もしかして鈴木君のことかい?」


「な、なななななんで!?」


「待って。当ててみよう。……うん、例えば誕生日に贈るプレゼントについて悩んでるとか」


「……どうして?」


「ちょっとした推理さ。よければ相談に乗るよ? ちょうど男子の意見も欲しいと思っていた。そんなふうに見えるけど」


「め、名探偵……」


 悩みをピタリと言い当てられ、美乃梨の心臓がドキリと跳ね上がる。

 ほんっと劔はさぁ! そういうとこだよ! 誰彼かまわずイケメンムーブかまして! やめろよ!


「じ、実は……」


 名探偵に心の内を暴かれ、とうとう観念した美乃梨はすべてを白状した。


「────なるほど。それは悩んで当然だね。ちなみに予算はどのくらい?」


「小学生のときから溜めてたお年玉があるし、割と」


「うーん……。じゃあ腕時計なんてどうかな」


「時計?」


「ロボットが好きなら、カッコいい時計とか喜ぶんじゃないかな。中身の構造が見えるやつとかさ」


 俺の好みまでピタリと言い当てられ、今度は俺がドキッとしてしまう。

 ……ああそうだよ。そういうのもめちゃくちゃ好きだよ。言い当てられたのは癪だけど!


「でもそういうのって高いんじゃ」


「待って、今調べてみるよ。……へぇ、安いので一万円以下のもあるみたいだね」


「よかった、それなら買えそう」


「アンティークショップならお手頃でカッコいいやつも見つかるかもね。近くにいい店を知ってるから案内するよ」


「ありがとう!」


 言うが早いか、劔は美乃梨を連れてアーケード街の裏手に通じる横道へと入っていく。

 そういえばこの場所、この景色、どこかで…………あっ!? 

 俺が二人を見かけた場所じゃん!!!!

 ……なんだよ。そういうことだったのか。


「ここだよ」


 それから数分ほど歩いてたどり着いたのは、こぢんまりしたレトロな雰囲気の店だった。

 ガラス張りのショーケースの中で白いスーツを着た猫の紳士がシルクハットを胸に当てキザっぽくお辞儀している。


「わぁ、可愛いお店! こんなところにこんなお店あったんだ」


「うん。父さんの知り合いに教えてもらったんだ。……っと、鈴木君に余計な勘違いをされてもつまらないし、僕はこの辺で。いい時計が見つかるといいね」


「ありがとう劔君。また明日ね!」


「うん、また明日」


 店の前で美乃梨と別れた劔は、弟へのプレゼントを抱えて足早に帰っていった。

 ……ごめん劔。美乃梨も。師匠の言う通り、本当にただの勘違いだった。


 ホッとしたような、今まで悩んできた自分が恥ずかしいような。いろいろな感情が渦巻く中、懐かしい景色がぐんぐん遠ざかっていく────。

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