自転車(空気入れ)泥棒(12)…実際の話
で、その…本筋に戻りますが、なけなしの金で買った空気入れを取られてすっかりしょげ返ったアントニオが…い、いや、つまりその〝わたくし〟が、501号室の自分の部屋へと戻ってまいります。73という老齢の身ですから5階までの登攀は本当につらいようです。しかしこれを霊視女の注進で素早く知った、彼の真下の部屋の401号に陣取る御一党が算段を巡らします。
ズべ公「おい、みんな、あの野郎が冴えない面をして階段を上って来るよ。ふふふ。どうお迎えするんだい?」
ばってん「おー、わかった。んじゃ兄弟、クソモト、ど派手にコンプレッサーを鳴らしたれや。もっと滅入らせたれ。そしたら野郎、思い余ってケーサツに垂れ込むかも知れねえからよ」
クソモト「オーケー。じゃ(女2人に)いい頃合いを云ってくれ」
ズべ公「あいよ。任せな」
便子「ホント、悪い人たちだ。何せこの稼業を始めてから20年だからね。その間ずっと親分から生活費もらってるからさ、結果を出さない限りもう止められないんだよ、この人たち」
チンピラA「20年すか!すっげえなあ…それで?その金ぜんぶド派手に使って来たんですか?」
便子「使いやしねえよ、あんた。あたしら感心にも、ちゃんと貯金して来たんだ」
ばってん「でめえで云ってりゃ仕方ねえわな。ガハハハ」
ズべ公「見せてやろうか?チンピラA、あたしらの貯金通帳を。ゼロの数を数えたら、おまえ魂消るよ」
チンピラA「へえ、是非」
ばってん「(ズべ公に)やめとけ、おろかもん。それよりもな、チンピラA。おめえも励めばこんな金稼げるんだぜ。こんな楽な暮らしをしてな。管理人の爺がもらってる、チンケな又貸し料なんぞ目じゃねえぞ。いいか?おめえもまだパシリばってん、せいぜい励めや。な?」
チンピラA「へい、ばってん。あ、いや、合点です」
ばってん「ガハハハ。この野郎…」
ズべ公「しっ!野郎、着いたよ。すぐに部屋ん中入るよ。こっからは声を落としな」




