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大型の転移魔法陣

目的地――平原エリアの転移基地まで、あと一息だ。


地平線の彼方に輝く『連嶺』は余り変わらないように見えるが、天球は確かに回転していた。真夜中の刻を刻んでいた深邪星エレボスは、西の空で妖光を失いつつある。タイムリミットでもある夜明けの刻が近いのだ。


バーサーク捕獲部隊による包囲を破って逃走に成功したものの、エメラルドの胸中には、苦い思いがわだかまっていた。


追手に加わっていた下級魔法神官は、あの時、確かに言っていた――『手がかりの真正性については、ロドミール神官が保証しています』と。


(では、バーサーク化する個体として、私を捕獲するように通報したのは、ロドミールなのだ!)


ロドミール本人が何を考えていたにせよ、こうして本気で、追手を差し向けてまで、バーサーク化阻止の試みを妨害して来るとは想定していなかった。


――バーサーク化の呪いを仕掛けられる程に、自分は忌むべき者と見なされていたのか。


――ロドミールは、それ程に本気で、この身をバーサーク化する個体としたかったのか。


自分でも、全くのヒステリーだと分かっているが、思考の筋が混乱して行くのを止められない。苦い思いの次に湧き上がって来たのは、怒りだ。


――感情の暴走が、バーサーク化につながると言う――


しかし、幾ら抑え込んでも、内から湧き上がる深い怒りは、押しとどめようが無い。激情に歯を食いしばり続けるエメラルドの身の奥では、バーサーク化の前駆症状としての、有棘性の鱗の不吉な軋みが広がり続けていた。


エメラルドの自制心を取り戻したのは――頼りになる相棒、クラウン・トカゲだ。クラウン・トカゲは、急に足を止めたのである。


「相棒?」


一瞬、怒りに我を忘れていたエメラルドは、行く手に素早く目をやり、ハッと息を呑んだ。


「――着いた……!」


そこは、物流の要たる大型の転移基地――それも、大規模な中継ハブ駅だった。


エメラルドが居る小高い丘の上からは、ひときわ目立つ、円筒形をした建築物が見える。その円筒形をした建築物の胴回りは、堂々としたサイズだ。時として数体ほどの大型竜体が翼を休めるのに利用する、大型の見張り塔にも匹敵する規模だ。


床面積の大きさに対して、建物は意外に平たく見える。せいぜい5階層程度の高さといったところだ。断崖絶壁の摩天楼を見慣れているエメラルドにとっては、低層の建築物である。


円筒形をした建築物の屋根部分は、ドーム型をしている――屋根の覆いは無く、梁構造が丸見えだ。中央部分でひときわ高くスッと立ち上がった1本の支柱の周り、強化加工を施された金属製の梁が蜘蛛の巣構造となって、円筒形の建物の上に緩やかな曲線を描いている。張力構造を備えたハイテク建築物である。


金属製の支柱に金属製の梁。雷電シーズン中の落雷事故を防ぐための物だ。


その建物本体をグルリと取り巻いているのは、竜王都の物と同じ城壁だ。竜王都の物と同じように、フライング・バットレス風の構造体が、壁面に規則的に並んでいる。大型の転移魔法陣が事故を起こすと、爆風が四方八方へ飛び散る事が知られている。突風やつむじ風どころでは無い。周りに被害が及ばないように、城壁で封じ込める形になっているのだ。


微かな星明かりの下ではあるが、その円筒形をした転移基地を取り巻く城壁の外には、やはりそれなりの規模の倉庫街が、放射状に並んでいるのも一望できる。倉庫街とセットになった、三本角トリケラトプス用の厩舎を兼ねた駐車場も並んでいるのだ。


これ程の大型の転移基地となると、夜間は完全休業となる。日が出ている間、大量のエーテルを費やして大型の『転移魔法』を繰り返す――と言う激務に追われた転移魔法陣の作業員――魔法職人アルチザンたちは、各自、安全対策を施した寮に戻って、グッスリと寝入っている筈だ。


「行くよ、相棒!」


エメラルドの指示に応え、クラウン・トカゲは、頭頂部のフッサフサをなびかせて、円筒形の建築物へと真っ直ぐに駆け出した。入り組んだ倉庫の群れも何のその、断崖絶壁を縦横する脚力でもって倉庫の屋根に飛び上がると、そのまま屋根を伝って、ショートカットさながらに爆走して行く。


断崖絶壁に建造された城壁の高さに比べれば、この転移基地を取り巻く城壁の高さなど、物の数では無い。エメラルドとクラウン・トカゲは、フライング・バットレス風の構造体を駆け上がり、さながら鳥のように、城壁をヒラリと飛び越えて行った。


*****


円筒形の建築物の中は、ほぼ真円に近い円形の床を持つ、広大な空間だった。


ガランとした大広間――その中央部に、1本の壮大な支柱が天を突くかのように立っている。


広大な空間は吹き抜けとなっており、差し渡された梁の間から、夜空が見える。蜘蛛の巣のような張力構造のラインに沿って組まれた、覆いの無いドーム屋根は、大型の転移魔法陣の稼働に伴う大風の発生を受け流すための、巨大な開口部そのものだ。魔法陣の稼働に失敗した場合に出て来る爆風も、覆いの無いドーム屋根から出て行くようになっている。


真円の形をした大広間の周縁部を、アーケード回廊が巡っている。アーケードの列柱の間ごとに、円筒形の建物を取り巻く城壁が見えた。アーケード回廊の礎石は城壁素材で出来ており、そこから半地下と言った感じの溝が掘られている。万が一、事故が起きた場合、作業員たちはこのアーケード回廊から半地下となっている溝に飛び降りて、爆風をやり過ごす事になっている。二重三重に安全対策が取られている訳だ。


メンテナンス作業のためであろう、地上から屋上へと向かう長い梯子が、円筒形を成す内壁の構造に沿って各所に設置されているのが目につく。


エメラルドはクラウン・トカゲから降りると、魔法の杖を夜間照明に変えて早足で歩き回り、広々とした床一面に描かれている多数の転移魔法陣をチェックしていった。


真円をした基底床は、城壁素材に準じるレベルの緻密な《地魔法》が施された、非常に堅牢な濃灰色の一枚板で出来ていた。ダイヤモンドより硬く、鋼鉄より粘りがある。そこに、魔法陣パターンの形をした溝が、精密に刻まれている。転移魔法陣を稼働させる時は、この基底床に刻まれた溝に沿って、白く光るエーテル流束を流すのだ。


小型の転移魔法陣は、大広間の基底床の円周部分に沿ってズラリと並んでいる。


中型の転移魔法陣は、お互いに多少の間を空けつつ、大広間の中心に程近い場所に、規則的に散在していた。


最も巨大な転移魔法陣は、やはり中央部にあった。魔法陣の中心軸が、この円筒形の建物の一本柱となっている支柱と一致している。


――流石、多数の転移ゲートを備えた、大型の転移魔法陣と言うべきか。


最大サイズの転移魔法陣は、その直径が大きいため周囲の転移魔法陣と重なり合っている。中小型の転移魔法陣を付属の転移ゲートとして抱えるスタイルだ。


やり方次第では、1回の稼働で、小分けされた多数の荷物を多方面に、一斉多発的に同時転送できる。作業員の体力を極力、無駄使いしないような稼働スケジュールが組めている筈だ。


――狙うべきは、この最大サイズの転移魔法陣だ。


次に取るべき行動を思案し始めたエメラルドは、不意に、不安そうな面持ちで後を付いて来る相棒に気付いた。手の届く所に、うなだれるように降ろされたクラウン・トカゲの頭頂部の繊細なフッサフサを、ことさらにモフモフしてやる。


「相棒、しばらく私から離れておいで。私は当分の間、正気じゃ無くなるかも知れないからね」


相棒は――不思議な事だが――エメラルドの事情を察知しているかのようだった。クラウン・トカゲは長い首を巡らせて、暫しの間、鼻をヒクヒク動かした。そして、目当てが付いたかのような様子で、大広間の周縁部をぐるりと仕切っているアーケード回廊のアーチを潜って行った。


クラウン・トカゲは、アーケード回廊の礎石の下に身を沈めた。半地下構造となっている溝――避難場所に身を潜めたのだ。


エメラルドは、今更ながらに、相棒の察しの良さに舌を巻いた。

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