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幕間…『魔法の杖』概論

エメラルドはロドミールが個室を出て行くのを見送った後、長持の中を改めた。フタの裏の収納スペースに読みかけの本を詰めていたのを思い出し、読書には良い機会だと思ったのだ。


魔法アルスの杖』を取り巻く若干の歴史と知識をまとめた本である。最も身近な道具なのだが、余りにも身近過ぎるために却って知らない事が多く、冒頭部の内容からして感心させられたものだ。


エメラルドは、改めて冒頭部から読み直し始めた――


*****


――魔法アルス工学入門シリーズ、『魔法の杖』概論より――


この世界は、四大エレメント《火》、《風》、《水》、《地》によって構成されている。そして、四大エーテルとは、四大エレメントが生成する四種のエネルギー場の事を言う(場についての精密な定義は、物理学の本を参照されたい)。


各種のエーテル操作術『魔法アルス』によって、古典的な物理手段を跳躍した結果を得る事が出来る。


『魔法の杖』は、人類によって発明された。超古代においては、『人類』と呼ばれる種族が唯一、『知性』なるモノを持ち、種族的繁栄を独占していたのである。


さて、『魔法の杖』には無数と言って良い形態があり、『ただの一本の棒(基本形)』から、多種多様な宝石細工を施した『宝器』、権威の象徴を施した『笏』まで、色々ある。


当然ではあるが、天然素材をそれらしく成型しただけでは、『魔法の杖』にならない。四大エレメントをそれぞれ司るとされる四大『精霊王エレメンタル』が、四つの有効なシンボル記号として刻まれて初めて、『魔法の杖』としての機能を発揮するのだ。


――ただし、四大『精霊王エレメンタル』なる神的な存在が、本当に存在するかどうかは今なお解明されていない。四つのシンボル記号は、世界最初の魔法陣にして神聖文字である。学問的誠実さを追求する限りにおいては、そういう、究極の、『万物の理論』という意味での《場の単位》が存在するのだ、と言うべきである。


『魔法の杖』を製作するには、先述したように、四つの有効なシンボル記号を、位相幾何のルールにのっとって任意の場所に刻めば良く、色や形にこだわる必要は無い。これが、『魔法の杖』のデザイン可能性を無限に広げているのだ(位相幾何については、数学の本を参照されたい)。


――賢明な読者諸君は、此処で既に気付いたと思うが、『魔法の杖』の拡張バージョンにして特化バージョンが、巷で見られる『魔法陣』なのだ。


エーテル魔法のパワーを発動する全ての魔法陣は、四大エレメントを司る四大『精霊王エレメンタル』のシンボル記号が、必ず入っている。生物・無生物を問わずだ。


生物が、その根源に授かった天然の魔法陣が、すなわち《宿命図》と呼ばれる物だ(なお、《宿命図》占術教本の序文を、補足資料として付記した。必要があれば参照のこと)。


魔法陣を通じて各種のエーテル魔法を発動する時、元々は無色透明である不可視のエーテルは、それぞれのエレメントに応じた色(シンボル色)で光り輝く。《火》の赤、《風》の白、《水》の青、《地》の黒。


我々が、目的に応じて様々な魔法陣を人工的に作成する時は、エーテル魔法の効率アップのため、各種のシンボル記号に応じた各種のシンボル色を入れるのが定番だ。


※他の色を自由に使っても問題は無いが、その場合、パワー効率が格段に落ちる事が分かっている。よほど自民族の特色を出したいと言うような、狂信的なまでの自民族中心主義エスノセントリズムの持ち主でも無い限り、滅多にやらないだろう。


――『人類』と『魔法の杖』の歴史に、学ぶべき事は多い。以下、簡単に記そう。


超古代のミレニアムが終わる頃、『世界終末予言』なる『バーサーク的な存在』が、人類社会を席巻した。その詳細は明らかでは無いが、最終戦争ハルマゲドンが始まり、破滅的なまでのエーテル魔法が横行した事が知られている。その結果、四大エレメントのバランスが遂に崩れ、全世界レベルの変動が起きた。


最も大きな世界的変化は、天球の回転軸の変化である。


元は『銀河(天の川)』などといった名前で呼ばれていた、天球のほぼ中央部を横断していた星々の壮大な帯は、地平線にまで下がった。


現在は、回転軸の刻々のズレもあって、微妙に半円形をしたギザギザの不定形の山脈か虹のように地平線上で輝き続けているという状態だ。ゆえに、『軸光山脈』、『連嶺』、『時の虹』などと呼ばれるようになっている。『時の』というネーミングは、かつての北極星さながらに、時と方角のガイドとなるからだ。


四大エレメントの均衡が崩れた事によって、気象も不安定になった。


定期的な巨大エーテル乱流――《雷電》と呼ばれる狂乱的な荒天に見舞われる季節が生まれたのも、大きな変化だ。これについては、更に込み入った専門的な説明が必要になるので、割愛する。


人類は、破滅的なまでのエーテル魔法を横行させた事で、更にとんでもない置き土産を残した。


生物兵器として作成されていた、各種の亜人類である。現在の大陸公路に生きる我々の祖先だ。人類は、元々知性の無かった動物を適当に選び、強い生命力と知性とを与え、更に人体変身能力を付け加えたのだ。


これら亜人類が人類に対して反逆を起こした事も、人類絶滅のきっかけになっている。人類・亜人類入り乱れる大陸公路で、遂に全世界レベルの変動が起きた時、生命力の強い亜人類しか生き残れなかったのである。


――獣人、竜人、鳥人、魚人。


かつての大絶滅の危機を乗り越え、現在の大陸公路に繁栄する亜人類を大別すれば、こうなる。そして、これら四種の亜人類のそれぞれに対して、科、属、種の単位で区別できるような各種族が属している。


ちなみに獣人に属する全種族を数えれば、レオ族、ネコ族、ウルフ族、イヌ族、クマ族、パンダ族、ウサギ族である。元となった動物については、説明は不要だろう。


*****


補足資料『《宿命図》占術教本』序文より――


古き《謎》はかく語りき…

宿命は生を贈与して

運命は死を贈与する

しかしこれら二つのものは

一つの命の軌道を辿る――


《宿命図》は個人によって内容が異なる。


神官の《神祇占術》を通して観察すると、個人の《宿命図》は、3次元立体の星空――ボンヤリとした形の、範囲のハッキリしない量子で構成された天球のように見える。超古代の人類は、それをハイパー・ホロスコープ、アカシック・レコードの一部、霊魂、魂の地図、運命の設計図などと言っていたが、それは今は置いておく。


そのボンヤリとした天球の如き範囲の中に、万物照応のルールに沿って、四大エレメントの素粒子――御霊みたま――が星々のように配列されている。世界の四種のエネルギー場、すなわち《四大》エーテル流束が、その素粒子と反応し生命の炎となってきらめくので、《宿命図》は3次元立体の星空のように見えるのだ。


透視能力に優れた者であれば、その3次元立体の星空の如き《宿命図》の中に、屈折の相、反射の相など、《宿命図》の星々のエーテル反応の軌道が結ぶ個性的な相関――すなわち、ホロスコープで言うアスペクトのようなパターン――を見い出す事が出来る。大凶星とされる《争乱星ノワーズ》のような相も。


個人の《宿命図》に含まれる四大エレメントの含有量には偏りがあり、その偏りの度合いによって、いずれかの《霊相》の生まれと判定される。《霊相》の傾向次第で、得意とする《四大》エーテル魔法の種類も偏って来る。


ちなみに、大自然によって授かった「偏り」や「混在」が無いと、生命の根源パーツ《宿命図》として機能しない。


これが世界の不思議な所で、いわゆる無属性や全属性と言ったような完全な均衡タイプの《宿命図》、或いは純粋な火属性、水属性といったような単一タイプの《宿命図》は、存在しないという事が知られている。


完全な均衡タイプの代表的な物が「竜体(本体)解除の魔法陣」であるし、単一タイプは、例えば「拘束魔法陣(地属性)」、「転移魔法陣(風属性)」として機能する――

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