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神殿に集える者たち

竜王都の大神殿。


幾つもの高い塔や反り返った屋根の数々に彩られた、その複合型の巨大建築は、竜王都の創建の頃から、少しずつ増改築されて来た物だ。岩山の頂上にある一等地の、かなり広い部分、それも緑豊かなエリアを独占している。


最も古い部分は「聖所」と呼ばれている。巨大建築の中心部に、ポッカリと空いたスペース――中庭のようにして存在する。この周りに最初の建物が出来、それが外側に向かって増改築され拡張していって、今のような複合型の巨大建築になったのだ。


この「聖所」と呼ばれるスペースは、此処が神殿に相応しいとされた『理由』が存在する場所でもあるが、現在は聖なる《神龍》の住まう聖地とされており、非常に限られた特別な人々しか立ち入る事が出来ない。


特別に立ち入り許可を得ている、数少ない大神官たちの説明によれば。


――「聖所」は、長い時を経て偉大な樹幹となった退魔樹林と、原初の緑の下生えに覆われていて、いっそう荘厳な虹色の光の雨の降り注ぐ場である、という事になっている。


竹によく似た樹形をしている退魔樹林。成熟した樹幹サイズで、よく見かけるのは、せいぜい2、3人が手をつないで足りる程度であるが。「聖所」のものは、10人以上が手をつないでも回り切れない程の、驚くべき規模であると言う。


その中心の空き地に、《神龍》を礼拝するための、創建当時の様式の礼拝所がポツンと置かれている――


歴史は伝説となり、伝説は神話となる。今や、「聖所」の最奥部に存在するとされる《神龍》は神格化された存在であり、神殿の『絶対不可侵の権威』を保証する物となっていた。


――神殿政治は、《神龍》をトップとする、古代の神託政治さながらの王権神授スタイルだ。


神殿の支配体制は、4名の大神官長の下、大神官、上級魔法神官、下級魔法神官、そして方々の街区や地方に赴任している一般の神官(特定占術と治療魔法のみ扱う)から成る。


なお、その他に、神殿と《神龍》を専門に守護する特殊な神官――4名の『盾神官』が存在するのだが、彼らは神殿政治には直接タッチしていない。


神殿の基本方針は常に、《神龍》の意思を占い、その神聖なる結果に沿う事を理想として、4名の大神官長と、数少ない大神官による『大神官会議』で決定されて来た。


世俗と密に関わる実務的な部分は、『上級魔法神官会議』が担う。4名の大神官長の臨席の下、大神官たちのうち委任されて議長を務める者が会議のプログラムをコントロールし、そこで、神殿に属するほとんど全ての上級魔法神官たちが、議題について議論したり提案したりするのである。


*****


――その日、午前の半ば辺りの刻に、緊急の上級魔法神官会議が開催される運びとなった。


急に決まったスケジュールとあって、神殿の中では、朝も早いうちから、下準備をしている下級魔法神官たちが忙しく立ち回っていた。上級魔法神官たちも、今回の緊急会議の内容を前もって把握するべく、秘書や助手を務める下級魔法神官たちから上がって来る会議資料に、次々に目を通している。


神殿の受付ロビーに程近い大食堂の中でも、多くの上級魔法神官たちが朝食もそこそこに、半透明のプレートに詰め込まれた会議資料を展開する光景が広がっていた。


半透明の魔法素材で出来たプレートの盤面は、開いた本と同じくらいの大きさだ。従来の水晶玉より操作性が良い上に、詰め込める情報量が多く、情報処理スピードが速い。そのため、会議記録や速記記録を取る時などに広く使われている。元は文官の必須の仕事道具として開発された物だが、魔法職人アルチザンによる改良が重ねられ、今や、神官にとっても欠かせない仕事道具となっていた。


――大食堂の端には、出入口を兼ねる大きな「平底円門」が並んでおり、そこから朝の光が差し込んで来る。「平底円門」は、丸窓の底部が大地につき少し欠けた形をしていて、辺境では「洞門どうもん」と呼ばれている。建物の内と外をつなぐ、竜王国独特の出入口用の建具である。


朝食の席の上、ライアス神官も《火》の上級魔法神官の1人として、半透明のプレート盤面に次々に展開される資料に目を通している。弟子にして助手エルメス神官が、大急ぎで準備した資料である。


予想通り、『疑惑の総合商店を速やかに取り締まるか、それとも泳がすか』に関する政治決定の件が主要テーマになっていた。その次に重要なテーマが、『見張り塔の戦い(引き分け)における戦後処理の方針』だ。そして、いつもの『次のバーサーク危険日に関する占術予測の検討』。


ライアス神官は面を上げ、「エルメス君」と、いつものように傍に控えている若い弟子の名を呼んだ――


――その時、エルメス神官が応じる前に、別の焦ったような声が割り込んで来た。


「済みません、ちょっと宜しいでしょうか?」


ライアス神官とエルメス神官は、朝食テーブルの席に立ち寄った人物を振り向いた。


――若い男だ。しかし、エルメス神官よりは明らかに年上で、あと数年もしたら中堅の年齢層に入るという頃合いである。


身に着けている神官服の装飾は、青い鱗紋様に彩られている。《水》の上級魔法神官だ。標準的なアッシュグリーン色の長めの髪を、後ろで簡素にまとめている。濃い水色の目が印象的な、すこぶる眉目秀麗な容貌は、遠目にも目立つだろうと思われた――


エルメス神官が素早く応じる。


「何か御用でしょうか?」


「昨日、隊士がバーサーク傷を負ったと言う情報を小耳に挟んだのですが、詳細をご存じありませんか? 昨夜遅くに出張から戻ったばかりで――私の知人の隊士かも知れなくて」


エルメス神官は、ひとつに結わえるにはまだ短すぎる髪に指を突っ込んで考え始めたが、すぐにピンと来た――と言った様子で、再び口を開いた。


「昨日の出来事でしたら、エメラルド隊士ですね。昨夜は付属医療院の高度治療室に入っていましたが、今朝はもう個室の方に移っているかも知れません。詳細を知りたければ、医療院の女性スタッフに聞いて下さい」


エルメス神官は、エメラルドとセレンディの食事担当を務める、若い女性スタッフの名を挙げた。《水》の上級魔法神官は、エメラルドの名に、うろたえたような顔をしている。果たして、ビンゴだったようだ。


「ライアス殿、エルメス殿――情報、感謝いたします」


濃い水色の目をした眉目秀麗な男は、一礼して速足で去って行った。ライアス神官とエルメス神官は、その様子を暫く眺めた。


――過去10数回ほど、上級魔法神官会議の時に顔を合わせたという記憶があり、1回、自己紹介をし合ったという記憶も確かにある。だが、咄嗟に名前を思い出せない。


見ていると、大食堂の出入り口「平底円門」アーチの1つに差し掛かったところで、くだんの《水》の上級魔法神官は、ちょうど向こう側からやって来た若い女性と衝突した。2人ともに驚きの声を上げた後、丁重に謝罪を交わし合っている。お互いに頭の中が一杯で、注意散漫だった様子だ。


――この場所に不慣れな様子の若い女性の方は、果たして、新しく入って来た秘書、地のティベリア嬢だ。綺麗な濃紺色の目の美人である。エルメス神官と同じように、神殿の事務や助手の方面を担当する、下級魔法神官の女性用の神官服をまとっている。


エルメス神官はハッとした。それはまさに天啓だった。


――謝罪を済ませた後、お互いに初対面の場合は、自己紹介が続く筈だ。


エルメス神官は早速、ペン程のサイズに縮小していた魔法の杖をこっそりと振り、《風》魔法の一種『地獄耳』を発動する。小さなライアナを真似して、スパイもどきの一連の作業を済ませた後、エルメス神官は、ライアス神官を振り返った。


「彼の名前は、『水のロドミール』でした」


ライアス神官は苦笑しつつ、「今度は名前を忘れないようにしよう」と返した。

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