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落ちこぼれ聖女候補に転生した魔王は静かな隠居暮らしを目指す~今度こそブラックな人生はごめんです!~  作者: あんずのかおり


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第82話 変貌する者達

苦しみに呻くボーレック達。


その場を満たす空気は、異様なまでの重苦しさを帯びていた。


そして、その異様な空気の中に、あまりにも場違いな笑い声が響き渡る。


「あはっ……あははははははっ!!」


ヴァレリアは腹を抱えるほど愉快そうに、ボーレックの苦しむ姿を見て笑っていた。


「て、テメェぇぇぇ……! い、一体……俺に、何をぉぉぉ……!!」


地面を掻きむしりながら、ボーレックが叫ぶ。


そんな彼を見下ろしながら、ヴァレリアは口元を歪めた。


「今回あんた達にあげたの、“特別製”なんだよぉ」


楽しげに告げる。


「だから、効くだろ?」


「が……がぁぁぁぁぁぁっ!?」


次の瞬間、ボーレック達の身体が大きく膨れ上がった。


筋肉が異常に膨張し、骨が軋む音が響く。


皮膚を突き破るように黒い体毛が生え、両腕は獣のように変形していく。


口元は裂けるように突き出し、鋭い牙が並び、それはもはや、人間の姿ではなかった。


その場にいた誰もが息を呑む。


「な……何、あれ……?」


ユティナの声が震える。


「人間が……魔物になった……?」


レイモンドも、唖然としていた。


一方で、レブン公爵だけは険しい表情でその姿を見据える。


「……クローウェアウルフ、か」


低く、その名を呟く。


クローウェアウルフ――。


巨大な狼を思わせる人型の魔物。


全身を覆う黒灰色の体毛に鋼のように発達した筋肉、獲物を容易く引き裂く鋭利な爪。


並外れた膂力と俊敏性を併せ持ち、その凶悪性から通常でもCランク冒険者パーティによる討伐が推奨される危険種である。


そして、変貌したのはボーレックだけではなかった。


苦しみ悶えていた盗賊達の身体も次々と膨れ上がり、骨が軋む音を響かせながら、人の姿を失っていく。


伸びる牙、裂ける口元に黒く染まる爪。


やがてそこには、複数のクローウェアウルフが立っていた。


「グルルルルル……」


低く唸る声が響き、獣のような殺気が空気を震わせる。


そしてクローウェアウルフ達は、ゆっくりと辺りを見回し、赤黒く濁った瞳が、レイモンド達を捉えた。


殺気が、一斉にこちらへ叩きつけられる。


次の瞬間――クローウェアウルフ達が咆哮を上げ、レイモンド達へ雪崩れ込むように襲い掛かった。


「くっ……! 殿下とカナリーはロクサーナとユティナを! クローウェアウルフはこちらで抑え込みます! 皆、怯むな……行くぞ!!」


レブン公爵の怒声が響く。


「すまない……!」

「旦那様、必ずユティナ様とロクサーナ様をお救いします!」


レイモンドの言葉に力強く応え、レブン公爵は馬を駆った。


迫るクローウルフへ真正面から突撃する公爵。


その背を追うように兵士達も雄叫びを上げ、戦場へ飛び込んでいく。


剣戟と咆哮が激しく交錯し、森に凄まじい戦闘音が轟いた。


その間に、レイモンドとカナリーは馬から飛び降り、駆ける。


二人の視線の先にいるのは――ノルドに囚われたユティナだった。


「あははははっ! 面白ぇことになってんなぁ〜♪」


場違いなほど陽気な笑い声。


ヴァレリアは、まるで他人事のようにその光景を眺め、愉快そうに肩を震わせていた。


一方で、ゼーグルは騒ぎ立てることもなく、静かにクローウェアウルフ達を見据えている。


「……なるほど。博士の言う通り、クローウェアウルフへと変異したか」


「ひとまず、実験は成功ってことか?」


「ああ、そのようだな……」


二人は、まるで戦場ではなく研究結果でも観察するかのような目で、レブン公爵達へ襲い掛かるボーレック達を見つめていた。


「……これで、少しは時間稼ぎにはなるだろう」


淡々と告げるゼーグル。


「ああ、そうだなぁ〜♪」


ヴァレリアは笑みを浮かべたまま、くるりと踵を返す。


「それじゃあ盗賊団の皆さん、せいぜい私達のために頑張ってくれよぉ〜♪」


ひらひらと手を振りながら、ヴァレリアは森の奥へ姿を消していく。


そしてゼーグルもまた、拘束されたロクサーナを軽々と持ち上げ、そのまま肩へ担ぎ上げた。


「いやっ! 離してっ!!」


ロクサーナは必死にもがき、抵抗するが、ゼーグルは意に介さない。


その足取りは変わることなく、静かに森の奥へと進み始めた。


「ロクサーナちゃん!」


ユティナの叫びが響いた。


(このままロクサーナちゃんが……。とにかく、この拘束から逃げないと……!)


ユティナは、自分を拘束している叔父――ノルドへ視線を向ける。


「ボ、ボスや仲間達が……魔物に……」


ノルドは、目の前で起きた異常事態を理解できず、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「ユティ!」

「ユティナ様!」


レイモンドとカナリーの声が飛ぶ。


その声にハッと我に返ったノルドは、慌てるようにユティナを強く引き寄せた。


「く、来るんじゃねぇ!」


咄嗟に腰の短剣を抜き、ユティナの首筋へ突きつける。


「ノルド、ユティを離せ!」


レイモンドは剣を抜き放つ。


カナリーもまた両手に短剣を構え、僅かな隙すら逃すまいとノルドを睨みつけていた。


「もう諦めなさい! 貴方に逃げ場はないわ!」


だが、ノルドはなおもユティナを盾にしたまま叫ぶ。


「うるせぇ! それ以上近づけば殺すぞ! お、俺は本気だ!」


短剣の刃がユティナの首筋に食い込み、血が、ツゥ……っと一筋流れ落ちた。


「……っ!」


レイモンドの表情が険しく歪む。


カナリーもまた動きを止め、唇を強く噛み締めた。


下手に動けば、ユティナの命が危ない。


二人は最大限の警戒を保ちながら、ノルドの出方を探るしかなかった――。

読んで頂きありがとうございます(*´∀`)♪

もし、面白い!続きを読みたい!と思ってくださって頂けるなら、ブックマークや☆評価など頂けると幸いですm(_ _)m


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