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落ちこぼれ聖女候補に転生した魔王は静かな隠居暮らしを目指す~今度こそブラックな人生はごめんです!~  作者: あんずのかおり


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第81話 異質な二人

馬車が止まったのは、森の奥にぽっかりと開けた空き地だった。


ユティナとロクサーナは、男達に乱暴に馬車から降ろされる。


「おら、さっさと降りろ!」


怒鳴られ、二人は大人しく従った。


地面へ足を着けた直後――ユティナは、その場にいた“異様な存在”に気づく。


黒いローブを纏った、二人の男女。


一人は若い女、紫がかった長い髪はゆるく癖があり、不気味なほど妖しく揺れている。


もう一人は、赤髪の壮年の男。大柄な体格と鋭い眼光が、周囲に重苦しい威圧感を放っていた。


どちらも、ただそこに立っているだけで空気が張り詰めるような異様さを纏っている。


やがてこちらに気づいた女が、眉をひそめながら口を開いた。


「あぁ? ……なんでガキが二人いるんだぁ?」


その問いに答えたのはボーレックだった。


先程まで馬車の中で見せていた横柄な態度とは違い、今の彼は、どこか相手を恐れているように見える。


「ひ、一人は今回の仕事のボーナスだ。……ほら、あんた達に頼まれてたのはこっちだ」


そう言うとボーレックは、ロクサーナの腕を掴み、自分の前へと引き出した。


突然前に押し出され、ロクサーナの肩がびくりと震える。


怯えた表情のまま、彼女は小さく俯いた。


「……確かに。その娘で間違いないみたいだな」


赤髪の壮年の男は、ロクサーナを確認しながら低く呟いた。


「ほら、これで仕事は完了だ」


ボーレックはそう言って、ロクサーナの身体を赤髪の壮年の男へと押し出した。


「お姉ちゃん……!」


ロクサーナの不安に震える声が響く。


その声に、ユティナは思わず叫んだ。


「待って! ロクサーナちゃんをどうするつもりなの!?」


だが、返ってきたのは冷たい反応だった。


「あぁ? お前には関係ねぇだろうが?」


紫髪の女が、喧嘩を売るような視線で睨みつける。


さらに壮年の男も、感情のない声で言い放った。


「答える義理はない」


「っ……!」


ユティナは唇を噛む。


(くっ……どうにかしないと……!)


両手は後ろで拘束され、武器も奪われている。


何より――目の前の二人が放つ空気が危険過ぎた。


まるで猛獣を前にしているような、肌を刺す威圧感。


下手に動けば、ただでは済まない。


今は圧倒的に分が悪い。


「ゼーグルぅ、ガキは受け取ったんだ。さっさと行こうぜぇ〜」


紫髪の女が気怠そうに肩を竦める。


「ああ。もうここに用はない」


赤髪の男、ゼーグルも短く答え、踵を返そうとしたその時――


「ま、待ってくれ!」


慌てたようにボーレックが声を上げる。


「こっちはちゃんと仕事を果たしたんだ! 報酬は払ってもらわねぇと……!」


その言葉に、ゼーグルは僅かに振り返った。


「……そうだったな。ヴァレリア」


「あー、忘れるとこだったぜぇ〜。危うくボスに怒られるとこだった」


ヴァレリアは面倒臭そうに懐へ手を突っ込み、小さな袋を取り出す。


「ほらよ。受け取りな」


無造作に投げ渡された小袋を、ボーレックは慌てて両手で受け取った。


「おっと……へへっ、これよこれ」


ボーレックは投げ渡された小袋を受け取ると、いやらしい笑みを浮かべながら中身を確認した。


そして袋の中から、黒い粒を摘み上げる。


それを見たユティナは、怪訝そうに目を細めた。


(……何、あれ?)


ただの薬には見えない。


どこか禍々しく、不気味な気配すら感じる黒い粒だった。


「これで、また仕事が楽になるぜぇ……」


ボーレックは嬉しそうに口元を歪めた。


すると、それを見ていた部下達が我先にと群がってくる。


「ボス! オレ達にも分けてくれるんですよね!?」

「お、俺にも下さいよ!」


欲に染まった声が飛び交う。


「わーってるよ。ほら、テメェらの分だ」


ボーレックはニヤつきながら、黒い粒を数粒ずつ部下達へ放っていく。


その光景を、ゼーグルとヴァレリアは冷めた目で見つめていた。


「我らはもう行く」


ゼーグルは興味を失ったように背を向けた。


「へへっ、また何かあったら言ってくれ。あんたらの仕事は優先的にやらせてもらうぜ」


媚びるように笑うボーレック。


――その時だった。


ヴァレリアの目が、ぴくりと細まる。


「あぁ? ……おい、これはどういうことだぁ?」


先程までの気怠げな雰囲気が消える。


低く押し殺した声には、明らかな苛立ちが滲んでいた。


その空気に呑まれ、ボーレックの肩がびくりと震える。


「い、いや……な、何のことだ……?」


ボーレックは状況が飲み込めず狼狽える。


すると、ゼーグルが静かに口を開いた。


「……付けられたか」


その言葉に、ボーレックは弾かれたようにゼーグルの視線の先へ目を向ける。


森の奥――。


木々の隙間から、複数の影が飛び出してくる。


馬を駆る十数人の兵士達。


土煙を巻き上げながら、一直線にこちらへ向かって来ていた。


――今より少し前。


「ジーク、本当にこっちで間違いないのか?」


森の中を馬で駆けながら、レイモンドが問いかける。


その胸元から、ひょこりと小さな顔を覗かせているのは、彼の聖霊獣ジークだった。


「ああ、間違いない。あっちから霊獣王の力を感じる」


真剣な声で答えるジーク。


その言葉に、レイモンドはさらに馬を走らせた。


ユティナとロクサーナの姿が店から消えた直後――レイモンドとカナリーは即座にレブン公爵の元へ戻った。


事情を聞いたレブン公爵も素早く動き、領軍の兵士達を招集。


ユティナ達の捜索と救出が、すぐさま開始された。


さらに、カナリーの証言から、ユティナの叔父が事件に関わっている可能性が浮上。


冒険者ギルドに問い合わせた情報の結果、その男が“ボーレック盗賊団”に所属していることも判明した。


そして何より――。


ジークなどの聖霊獣が感じ取れる“霊獣王の力”。


その力を辿ることで、ユティナ達の居場所も大まかに特定できたのだ。


だからこそ、今こうしてレイモンド達は森を駆けている。


全ては、ユティナ達を救い出すために。


「レイモンド……もうすぐだ」


ジークの言葉に、レイモンドの表情が鋭くなる。


手綱を握る手にも、自然と力がこもった。


(ユティ……!)


焦りと不安を押し殺しながら、レイモンドは前を見据える。


その時だった。


木々の先に、開けた場所が見える。


そして――そこにいた人影を、レイモンドの目が捉えた。


一方、その光景を見たボーレックは顔色を変える。


「な、なんでこの場所が……!?」


ここへ来るまで、誰にも尾行されていないことは何度も確認した。


それなのに、居場所を突き止められた。


予想外の事態に、ボーレックの声は明らかに動揺していた。


「はぁ……ったく、面倒だなぁ」


ヴァレリアは心底うんざりしたように肩を竦める。


「ユティ!」

「ロクサーナ様!」


レイモンドとカナリーは、ようやく二人の姿を捉えた。


「レイ……!」


ユティナが思わず身を乗り出す――だが。


「動くなっ!」


ノルドが乱暴に腕を掴み、その動きを封じる。


「っ……!」


その光景を、レイモンドは鋭く見据えた。


(やはり……ユティナの叔父もいたか)


冷静に状況を確認しながら、レイモンド達は一気にその場へ踏み込む。


「ボーレック盗賊団だな?」


レブン公爵が剣を抜き放ち、鋭い切っ先を突きつけた。


「大人しく投降した方が身のためだぞ」


その一言を合図にするように、兵士達が馬から降り、一斉に動く。


ガシャリ、と鎧の音を響かせながら、盗賊団を包囲していく。


「くっ……」


ボーレックは悔しげに後ずさる。


突然の急襲に、部下達の顔にも明らかな動揺が走っていた。


そんな中――


「おいおい、お前達の不手際だろー?」


ヴァレリアは呆れたようにため息をつきながら、冷たく言い放つ。


「ちゃんと自分達で何とかしろよなー」


「あ、ああ……分かってる……!」


ヴァレリアから向けられる無言の圧力に気圧されながらも、ボーレックは震える声で答える。


「て、てめぇら……!」


ボーレックは部下達を睨みつける。


「ノルド! テメェはそのガキを抑えとけ!」


「へ、へい!」


ノルドは慌ててユティナを拘束し、逃げ出せないよう力を込めた。


そして、ボーレックは先程受け取った小袋へ慌てて手を突っ込んだ。


取り出したのは、あの黒い粒。


ボーレックはそれを躊躇なく口へ放り込む。


続くように、ノルド以外の部下達も次々と黒い粒を飲み込んでいく。


――次の瞬間。


「っ……!?」

「がっ……!」


その場の空気が変わった。


ボーレックやその仲間達の身体そのものに大きな変化はない。


だが、彼の内側から何か禍々しい気配が溢れ出してくる。


重く、淀み、肌にまとわりつくような異質な圧迫感。


まるで空気そのものが塗り潰されていくようだった。


「はっ……ははっ!」


ボーレックの口元が歪む。


「この力さえありゃあ……テメェらなんざ相手じゃねぇ!」

「ひゃはっ! この感覚たまんねーぜ!」

「あぁ……この感覚、クセになりそうだぜ!」


盗賊達は異様な高揚感に酔いしれたように笑い声を上げる。


その姿に、ユティナは目を見開いた。


「これって……」


これに覚えがあった。


ボーレック達から漂う、この嫌な気配。


以前、ロクサーナを襲っていた盗賊達からも、微かに感じたものと同じだった。


あの時はロクサーナ達を助けることに必死で、深く考える余裕はなかったが、今なら分かる。


(まさか……あの時の盗賊達も……)


その時だった。


(ユティナ……あの人間達……)


頭の中へ、ルナの緊張した声が響く。


ルナもまた、ボーレックの異変に強く反応していた。


「よし、お前ら行くぞ!」


ボーレックの号令と共に、周囲の盗賊達が一斉に動き出す。


その異様な気配に、レブン公爵も即座に反応した。


「皆、来るぞ!」


鋭い怒声が飛ぶ。


同時に兵士達も武器を構え、臨戦態勢へ移行する。


だが、その直後にピタリと、突如として盗賊達の動きが止まった。


「が、ぁ……っ!?」

「う、あぁ……!」

「く、苦しぃぃ……!!」


苦悶の声が次々に漏れる。


そして突如、ボーレック達が苦しげな声を漏らした。


その様子を、ノルドは不安げに見ていた。


「ぼ、ボス……? どうしたんで? そ、それに皆も……!」


「ぁ……あ、熱い……! 体が……がぁぁぁぁぁっ!!」


ボーレックは胸を掻きむしりながら絶叫する。


全身から噴き出す汗。


筋肉が不気味に膨れ上がり、血管が浮き出る。


その様子は、まるで体の内側から何かが暴れ狂っているかのようだった。


そして、それはボーレックだけではない。


周囲の盗賊達も同じように苦しみ始めていた。

読んで頂きありがとうございます(*´∀`)♪

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