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落ちこぼれ聖女候補に転生した魔王は静かな隠居暮らしを目指す~今度こそブラックな人生はごめんです!~  作者: あんずのかおり


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第75話 家族という絆

「ロクサーナちゃん? どうしたの、こんな時間に?」


部屋の扉を開けると、そこには落ち着きなくそわそわとしたロクサーナの姿があった。


どこか緊張しているようで、視線もあちこちに泳いでいる。


「あ、えっと……夜分遅くに申し訳ありません……」


そんな彼女を、ユティナは不思議そうに見つめた。


その視線に気づいたのか、ロクサーナはさらに慌てた様子で言葉を続ける。


「そ、その……! ユティナさんと……もう少し、お話がしたくて……」


頬をほんのり赤く染め、照れくさそうにそう告げるロクサーナ。


その姿が微笑ましくて、ユティナは思わず小さく頬を緩めた。


「私は別に構わないけど……」


そう言いながら、ユティナはちらりとブレア先生へ視線を向ける。


つい先程まで、こってり説教を受けていたばかりだ。


そんな状況で「ロクサーナとお話したいので、説教はまた今度で」などと言えるはずもない。


気まずそうに視線を彷徨わせるユティナを見て、察したのだろう。


「話はもう終わりましたので、私は部屋に戻ります」


ブレア先生は、淡々とそう告げた。


「へ?」


あまりにも予想外の反応に、ユティナの口から間の抜けた声が漏れる。


「いいんですか……?」


ユティナにとって、ブレア先生は怖い師匠だ。


だからこそ、あまりにもあっさりと許可が出た事が信じられず、恐る恐る尋ねてしまう。


「あまり遅くならないようにするのですよ? それではロクサーナ様、私はこれで失礼します」


「おやすみなさい、ブレア様」


ブレア先生はロクサーナへ軽く一礼すると、そのまま静かに部屋を後にした。


扉が閉まる音が響き、部屋に少しだけ静寂が落ちる。


「じゃあ、お話しようか」


「はい……!」


ぱっと表情を明るくするロクサーナ。


その嬉しそうな様子に、ユティナも自然と笑みを浮かべた。


それから二人は、時間を忘れるほど話し込んだ。


ユティナの学園での出来事。

最近好きになったお菓子の話。

小さな失敗談や、子供の頃の思い出――。


どれも他愛ない話ばかりだったが、不思議と尽きる事はなかった。


気づけば夜もすっかり更け、ロクサーナはそのままユティナの部屋に泊まる事になった。


二人でひとつのベッドに入り、静かな夜の空気に包まれる。


そんな中――


「ユティナさんって……本当に凄い人ですよね」


ロクサーナが、ぽつりと呟いた。


「え? そうかな……? 一応、学園では落ちこぼれなんだけど……」


ユティナは困ったように苦笑する。


「そんな事ありません」


ロクサーナはすぐに首を横へ振った。


「大聖女様みたいな方しか使えないような奇跡の魔法を使えて、剣の腕だって凄いじゃないですか。私とあまり歳も変わらないのに、盗賊達をあっという間に倒してしまって……」


そこまで言って、ロクサーナは少しだけ悔しそうに眉を下げる。


「……あの時、私はまだ目が見えていなかったので、ユティナさんの勇姿を見られなかったのが本当に残念です」


「そ、そんな大袈裟な……」


照れ隠しのように視線を逸らすユティナ。


だが、ロクサーナは真っ直ぐな瞳で続けた。


「大袈裟なんかじゃありません。ユティナさんは、本当に凄い人です」


その言葉には、一切の迷いがなかった。


「だから、学園で落ちこぼれなんて言われている方が、私には信じられません」


真正面から褒められ、ユティナの頬がほんのり赤く染まる。


「あ、ありがとう……」


「はい!」


嬉しそうに笑ったあと、ロクサーナは少しだけ表情を曇らせる。


「……それで、ユティナさんに一つお願いがあるのですが……」


「お願い?」


ユティナは隣に寝転ぶロクサーナへ顔を向ける。


ロクサーナは布団を口元まで引き上げ、恥ずかしそうにもじもじとしていた。


「そ、その……“お姉ちゃん”って呼んでも、いいですか?」


「え?」


思わぬ言葉に、ユティナは目を瞬かせる。


「あっ、その……! ユティナさんは、もう私達の家族なんですよね!? だったら“ユティナさん”って呼ぶのも変かなって……! それに私、前からお姉ちゃんっていう存在に憧れてましたし……!」


照れを誤魔化すように、ロクサーナは早口でまくしたてる。


その必死な姿が可笑しくて、愛おしくて――ユティナは思わず小さく笑った。


「ふふっ、いいよ」


「……!」


「ロクサーナちゃんが、そう呼びたいなら」


その瞬間、ロクサーナの顔がぱっと花が咲いたように明るくなる。


「ほんとですか!?」


「うん」


ユティナは優しく微笑みながら続ける。


「それと、そんなに堅苦しい話し方もしなくていいよ? もっと気楽に話して。……私達、姉妹なんだから」


その言葉に、ロクサーナは少し照れたように目を伏せる。


「あ、はい……じゃなくて……うん」


小さく息を吸い込み、はにかむように笑った。


「これからもよろしくね、お姉ちゃん」


その呼び方に、ユティナの胸がじんわりと温かくなる。


ヒュラッセン公爵家の養女になったのは、様々な事情が重なった結果だった。


当然、血の繋がりはない。


それでも今この瞬間、確かに“家族”になれたのだと、ユティナは感じていた。


血ではなく、もっと温かい何かで結ばれている。


そう思えたからこそ、自然と笑みが零れる。


「私こそ、よろしくね。ロクサーナちゃん」


柔らかな夜の空気の中、二人はそれからも、ベッドの中で楽しそうに語り合うのだった。


翌日――。


「まぁっ!! やっぱり私の目に狂いはなかったですわ!!」


部屋いっぱいに響いたのは、シリメル夫人の弾んだ声だった。


その視線の先にいるのは、豪華なドレスに身を包んだユティナ。


青を基調とした華やかなドレスは、彼女の銀色の髪と澄んだ青い瞳によく映えていた。


気品がありながらもどこか可憐で、まるで物語に登場する令嬢のように。


「本当です、お母様! お姉ちゃん、すごく似合ってる!」


ロクサーナも目を輝かせながら声を上げる。


二人から熱烈な視線を向けられ、当のユティナはというと――


「あー……はい……」


どう反応していいのか分からず、引きつった笑みを浮かべていた。


「次はこちらのドレスなんてどうかしら!?」


シリメル夫人は興奮気味に手を叩くと、待機していたメイド達に次々とドレスを運ばせる。


淡い水色のドレス。

白銀の刺繍が施された上品なドレス。

可愛らしさを前面に出したフリル付きのドレス――。


次々と並べられていくそれらを前に、ユティナの目は完全に泳いでいた。


「あら、お母様。こちらも素敵ではありませんか?」


ロクサーナも負けじと別のドレスを手に取り、真剣な表情で吟味し始める。


「え、あ、あのぅ……?」


完全に置いていかれ、おろおろと視線を彷徨わせるユティナ。


しかし、そんな小さな抵抗など二人には届かない。


「あぁ……それも捨て難いですわね……。そうだわ!」


シリメル夫人がぱっと顔を輝かせる。


「ロクサーナとお揃いのペアドレスなんて、どうかしら!?」


「それは素敵です、お母様!」


さらに盛り上がる母娘。


もはやユティナに逃げ場はなかった。


完全に“着せ替え人形”と化したユティナは、されるがまま次々とドレスを着せ替えられていくのだった――。


(な、何で……こんな事になってるんだろう……)


次々と着せ替えられながら、ユティナは遠い目で事の発端を思い返していた。


きっかけは、今日の朝食の席での事だ。


レイモンドと街を巡ると話をしたところ、ロクサーナが、「街を案内したい」と嬉しそうに提案したのである。


それを聞いて、真っ先に食いついたのがシリメル夫人だった。


――街へ出かけるのなら、公爵家の娘として相応しい装いをしなくてはいけませんわ!


そんな勢いで張り切り始めた結果――現在に至る。


実はシリメル夫人、服作りを趣味としているらしく、屋敷には数え切れないほどのドレスが保管されていた。


可愛らしいもの。

上品で落ち着いたもの。

舞踏会向けの豪華なもの。

街歩き用に仕立てられた軽やかなものまで。


用途に合わせ、実に様々なドレスが揃えられている。


「はぁ……本当に楽しいわぁ……」


幸せそうに頬へ手を添えながら、シリメル夫人はしみじみと呟く。


「昔からの夢でしたのよねぇ。姉妹に、自分の作った服を着せるの」


その声は、どこまでも優しかった。


「良かったですね、お母様。夢が叶って」


ロクサーナも嬉しそうに微笑む。


そんな二人の姿を見て、ユティナは思わず言葉を失った。


先程まで「勘弁してほしい……」と思っていたはずなのに。


本当に幸せそうな二人を見ていると、不思議と悪い気はしなかったのだ。


むしろ胸の奥が、少しだけ温かくなる。


(……なんだろう)


くすぐったいような、照れくさいような感覚。


けれど――嫌じゃない。


そんな気持ちを抱きながら、ユティナは再び新しいドレスをあてられるのだった。


読んで頂きありがとうございます(*´∀`)♪

もし、面白い!続きを読みたい!と思ってくださって頂けるなら、ブックマークや☆評価など頂けると幸いですm(_ _)m


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