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落ちこぼれ聖女候補に転生した魔王は静かな隠居暮らしを目指す~今度こそブラックな人生はごめんです!~  作者: あんずのかおり


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第55話 取り巻き達

「ユティナ・ハーリット!!」


昼下がりの学園校舎の玄関ロビーに、鋭い呼び声が突き刺さる。


思わず肩を跳ねさせたユティナは、アルマにしがみついたまま振り返る。


そこに立っていたのは、ネイビーブルーの長髪を風のように揺らし、青い瞳でユティナを鋭く射貫く女生徒。


「あっ……貴女は……!」

マリアベルが気まずそうに目を見開いた。


「マリアベル様! 何故、いつもこの落ちこぼれなんかとご一緒に!?」


険しい声を放ったのは――


クロエ・ガーバイト。


ヴォルディス帝国の名門・ガーバイト伯爵家の令嬢であり、マリアベルの元取り巻き筆頭だ。


「クロエさん……」


マリアベルの眉がわずかに曇る。


「おかしいと思っていたんです! 最近、マリアベル様が私たちをお連れにならないなんて……。だからずっと観察していたんです!」


するとクロエの後ろには、いつの間にかずらりと女生徒たちが集まっていた。


マリアベルの元取り巻き全員だ。


「マリアベル様、どうされたのですか!?」

「私たち、何かしてしまいましたか……?」

「よりによって、なぜ“あの子”なんかと……!」


一斉に詰め寄られ、マリアベルは慌てて手を振る。


「お、落ち着きなさいませ……!」


しかしクロエは聞く耳を持たず、ユティナを鋭く睨みつけた。


「ユティナ・ハーリット。貴女がマリアベル様に何かしたのは明白です! でなければ、こんな身分の低い者と一緒にいるはずがない!」


クロエの言葉に便乗して、他の取り巻きたちも声を荒げる。


「そうよそうよ! 絶対裏があるわ!」

「マリアベル様の何か弱みに漬け込んで……卑怯者!」

「一体何が目的なのよ!?」


しかし当のユティナは、彼女たちの怒りなどまるで聞こえていないかのように――


アルマに抱きつきながら、


すりすり……すりすりすりすり……。


「ユ、ユティナ先輩……! この状況でそれは……っ」


エドナはさすがにドン引き。


「え〜? だってアルマにスリスリするの気持ちいいんだもん」


さらに、すりすりすりすりすりすりすり……


「あ、あな、貴女……!」


クロエたちがわなわな震える。


怒りに震えるのか、呆れて震えるのか、もはや判断がつかない。


「もうユティ、離れなよ……」


アルマが呆れ半分でため息をつくと、


「ユ、ユティナ先輩っ! 離れてくださいですのぉぉぉ!」


エドナが赤面しながらユティナを必死に引き剥がそうとする。


「え〜、まだスリスリしたい――」


「いい加減離れなさい!!」


ズゴッッ!!


マリアベルの手刀がユティナの頭頂に炸裂した。


「いたっ……!」


ようやくアルマから離れたユティナは、涙目で頭を摩る。


「貴女は時と場合を考えなさいと言っているのです!」


その隙に、クロエの怒りは頂点へ達していた。


「ユティナ・ハーリット……! よくも私たちを愚弄して……!」


剣呑な空気が立ちこめる。


マリアベルはすぐにユティナの前に立ち、クロエとの間に壁を作った。


「お、落ち着きなさいクロエさん!」


「落ち着けませんわ! マリアベル様、私はどうしても許せません! なぜあんな者と……! 何か弱みを握られているのでしたら、私が……いえ、私たちがなんとか致します! 貴女には、あの落ちこぼれなど相応しくありません!」


マリアベルの肩がわずかに震える。


しかし、その瞳にはゆっくりと強い光が宿っていく。


静かに、確かな決意とともにマリアベルの口が開いた。


「クロエさん……そして皆さんも。私はユティナさんに弱みなど握られていません。私はただ――ユティナさんと一緒に居たいから、ここにいるのです。彼女は……私にとって、とても大切な“ご友人”ですから」


その瞳は揺らぎのない、真剣な光を宿していた。


「マ、マリアベル様…… !?」


クロエはもちろん、他の取り巻きたちもその言葉に顔を青くする。


「マリー……」


ユティナはその言葉を受け、心底嬉しそうに微笑む。


だがクロエは唇を噛みしめ、怒りで震える声を吐き出した。


「み、認めませんわ……! 私は、絶対認めませんわっ!」


その鋭い瞳が、真っすぐユティナを射抜く。


そして――


「ユティナ・ハーリット! 私と勝負しなさい!」


凛とした声で指を突きつける。


「クロエさん!? 一体何を言って……!」


マリアベルだけでなく、アルマもエドナも元取り巻きたちも驚愕する。


「私が勝ったら……二度とマリアベル様に近付かないと約束しなさい!!」


「そんな! そんなことに何の意味が――」


「意味ならありますっ! これ以上、マリアベル様の品位を落とさせない為ですわ!」


「そうよそうよ!」

「マリアベル様には目を覚ましていただかないと!」


元取り巻きたちも次々とクロエに同調し始める。


マリアベルは肩を震わせた。


「そ、そんな……!」


その肩に、ぽんと手が置かれる。


それは、ユティナだった。


「ユ、ユティナさん…… !?」


ユティナは一歩前へ出ると、クロエが言い放つ。


「ふん……勝負を受ける気になったかしら?」


ユティナは真剣なまなざしでクロエを見返し――。


そして、とても丁寧に頭を下げて言った。


「ごめんなさい。嫌です」


ぺこり。


(この流れで断ったーーー!?)


その場にいた全員の心の叫びが重なった。


しかもユティナは、胸の前で手を組むようにして、しんみりと言う。


「貴女の気持ちに応えられなくて……ごめんなさい……」


その声音はやたらと切なく、妙に優しい。


(いや待って!? どう見ても“告白を優しくお断りしました”の空気なんだけどーー!?)


再び、全員の心のツッコミが一斉に炸裂する。


「な……ななな…… !?」


クロエの顔は一気に真っ赤になり、完全にフリーズしてしまった。


(ユティナ先輩……! さすがにこの流れで断るのは……!)


あたふたするエドナ。


(えー、だって……面倒くさいんだもん)


ユティナは涼しい顔。


(面倒くさいって……ユティ、それは……)


アルマが頭を抱える。


(だって私に何のメリットもないじゃん)


(そういう問題ではありませんわーーー!!)


マリアベルのツッコミが炸裂する。


ひそひそ声で話していたが、全部クロエに丸聞こえだった。


クロエの体はぷるぷると震えはじめる。


怒りとも、羞恥ともつかぬ震えが、今にも爆発しそうな表情で。


それを落ち着かせる様に、クロエが息を吸い込む。


震える手をぎゅっと握りしめ、怒りを噛みしめながら言葉を絞り出した。


「……わかりました。では、どういう条件なら勝負を受けてくださるのですか?」


その声は怒りの熱を含みつつも、なんとか理性で押しとどめたものだった。


「え……? 条件?」


ユティナはこてんと首を傾げる。


「んー……条件かぁ……」


(条件……以前マリーと勝負で勝った時は“お小遣いの一部”をもらうって話になったけど……あれ思ったより貯まらなかったんだよね。……地味だし。なんかこう……まとまって欲しいんだよね……)


その目には嫌なキラキラが宿っていた。


アルマとマリアベルに、同時に戦慄が走る。


(な、なんだろう……妙に覚えがあるこの嫌な流れ……)

(ま、まさか……またあの思考に至るのでは……)


ユティナはうんうんと考え込み――


「なら、私が勝ったら……」


声を上げた瞬間、周囲の視線は一斉にユティナへ吸い寄せられる。


クロエもごくりと息を飲んで構えた。


ユティナは真顔のまま、はっきりと言う。


「金目の物を頂戴!!」


沈黙。


その次の瞬間――


(やっぱり出たーーー!!!)

(俗物ーーー!!!)

(ていうか言い方が完全に盗賊ーーー!!)


その場にいた全員が心の中で一斉に突っ込んだ。


マリアベルはこめかみを押さえ、深々とため息。


「ユティナさん……せめて言い方を選んでくださいませ……」


アルマも頭を抱える。


「ユティ……盗賊ムーブがすぎるよ……!」


そして、エドナは呆れた目でユティナを見る。


「ユティナ先輩……それ、聖女候補生が言う言葉じゃないですよ……」


一方、クロエは予想外の俗物要求に逆に戸惑い、少し後ずさる。


「……か、金目……? そ、その……具体的には……?」


ユティナはにっこり笑って言った。


「高い物ほど……嬉しい!!」


(結局そこーーー!!!)


ツッコミの嵐が、ホールの全員の心で鳴り響いた。

読んで頂きありがとうございます(*´∀`)♪

もし、面白い!続きを読みたい!と思ってくださって頂けるなら、ブックマークや☆評価など頂けると幸いですm(_ _)m

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