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落ちこぼれ聖女候補に転生した魔王は静かな隠居暮らしを目指す~今度こそブラックな人生はごめんです!~  作者: あんずのかおり


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第50話 私、貴女の後ろに居るの

初等部校舎の白い石床に、規則正しい足音が静かに響く。


コイフを纏わず、紺色の修道服に身を包んだ一人の少女――

エドナ・シンクレア、十一歳。


初等部の制服は修道服を基調としているものの、頭部を覆うコイフは省かれた簡素な造りだ。


そのため、彼女の赤いツインテールは、結われたリボンと共に窮屈さを感じさせることなく、柔らかな波を描いて揺れている。


差し込む陽光を受けて、その髪はまるで磨かれた宝石のようにきらめき、白い石床の上に淡い彩りを落としていた。


澄んだ翠眼は廊下の先だけをまっすぐに見据え、その歩みはまるで「この校舎の廊下は私だけの道よ」とでも言いたげな堂々さだった。


初等部三年の成績トップ。


それだけでも十分目立つのに、気品を漂わせる仕草や立ち居振る舞いが、周囲の生徒たちからは“近寄りがたい優等生”として扱われていた。


だから、彼女の周囲にはいつも距離を置いた囁き声が絶えない。


「ねぇ、シンクレアさんだわ……今日もオーラすごい」

「成績も見た目も完璧なのよねぇ、初等部の女王様って言われるだけあるよね」

「魔力量Cランクって噂、ほんとなのかな……?」


しかしエドナは、そんな声などどこ吹く風と廊下を歩いていた。

むしろ――


(ふふ……そうよ、もっと誉め称えなさいですの。私はエドナ・シンクレア。レディア聖王国の名門、シンクレア伯爵家の令嬢ですのよ? 崇められて当然ですの)


外見とは裏腹に腹黒い心の声を聞かせるなど、もちろん周りは夢にも思わない。


だが、その涼しい顔が一瞬だけ固まった。


「知ってる? シンクレアさんってさ、初等部時代の“あの”シェルフィード先輩の総合評価に迫ってるって噂!」


その言葉が耳に入った瞬間、エドナの足がピタリと止まる。


(……シェルフィード先輩に “迫る” ですって?)


握る手にキュッと力が入り、外面の完璧な微笑みが危うくひび割れそうになる。


(ふっ、ふざけないでっ! 私があのシェルフィード先輩に届くわけないでしょうが!)


怒り……いや、違う。


シェルフィード先輩と聞いた瞬間、エドナの脳裏には“彼女”の麗しい姿が鮮明に再生された。


(あの完璧な頭脳に、神業の魔法技術……そして何より、あの美しく可憐な顔っ!)


頬を押さえ、恍惚とし、そして——


(はぁ……想像してるだけで……あっ、やばっ、よだれが……)


慌てて袖で口元を隠し、誰にも見られない角度で素早く拭う。


深呼吸、姿勢を正す。


そして「さも興味ありません」と言わんばかりの顔で歩き出した。


(……まったく。私をシェルフィード先輩と比べるなんて無礼にもほどがあるわ。尊敬対象を一緒にしないでほしいのよ!)


さっきよりわずかに早足になりながら、エドナは足音を響かせ廊下の先へと消えていった。


当然ながら、生徒たちは誰一人として知らない。


“初等部の女王”と讃えられるエドナの裏の顔が、シェルフィード先輩ガチ恋勢・最上級クラスであることなど――。


——


放課後の中庭。

夕暮れはすでに濃く、橙色の光が噴水の水面を細かく揺らしていた。


静まり返った中庭の中央――澄んだ水音を立てる噴水の前に置かれたベンチには、アルマとマリアベルが並んで腰掛けていた。


その前に――まるでステージに立つアイドルのように胸を張った少女、ユティナが立つ。


長い銀髪が陽光を受けてきらりと揺れ、本人は妙に真剣な表情だった。


「……で、私思ったんだけどさ」


「何ですの?」

「なにかな、ユティ?」


唐突な前置きに、二人は同時に首をかしげる。


「お金を増やすにはね、商売が一番なんだよ!」


堂々と宣言するユティナ。


だがそれを聞いた瞬間、アルマとマリアベルは、ぴたりと動きを止めた。


特にアルマの脳裏には、以前ユティナが生み出した“例のポーション”の記憶がよぎっていた。


「え、えらい突然だね……?」


引きつった笑みとともに漏れたその声には、「また何かやらかすのでは」という不安と警戒が色濃く滲んでいる。


「ですけれど、ここは学園ですわよ? お店なんて出せませんわ」


一方でマリアベルは事情を知らない分、至って冷静に、常識的な観点から返した。


「知ってるよ〜? だから“グッズ”を作って売るんだよ!」


グッズ――。


聞き慣れない単語に、二人は揃って首を傾げる。


「グッズ……?」

(なんかユティが作るものって、嫌な予感しかしない……)


アルマは内心でそう呟きつつ、さらに警戒を強める。


「グッズ、ですの?」


対照的に、マリアベルの声には純粋な疑問だけが乗っていた。


「うんうん! 学園のマスコットキャラと言えば……ソディナ様でしょ?」


「……え?」


「ソディナ様って、マスコットですの? 貴女、相当バチが当たりますわよ……」


しかしユティナは二人の反応などお構いなしに、手にしていた袋をゴソゴソと探り始めた。


「実はね、私なりにソディナ様のマスコットを作ってみたんだよ!」

(ふふん……憎き相手を利用して金儲け! これこそ天才の発想……!最近は、アイテムクリエイションの技術も上がって作れるものが増えたんだよね〜♪)


そして満を持して取り出した。


「じゃんっ! ソディナ様R-EXプロトタイプ!」


「R-EX……?」

「プロトタイプ……って何ですの?」


ユティナが胸を張って掲げたそれは――


ソディナ様を模した“ぬいぐるみ”…ではなく、明らかに中の機械部品が透けて見える“ロボット”だった。


しかも、その造形は可愛らしさとは程遠く、妙に関節が長く、表情もどこか硬質で……不気味なシルエットをしていた。


「……何ですの、これ?」

「ぬいぐるみ、じゃないよね……?」


「ん? ロボットだよ?」


「ロボット?」

「何ですのそれ?」


「え?」

「え?」


意味が分からない三者の“え?”が混ざり、絶妙な沈黙が降りる。


この空気を打破しようと、ユティナは強引に話題を進めた。


「とっ、とにかく! これすごいんだよ!」


「あ、はぐらかした」

「ですわね……」


「見て見て! 背中のボタン押すとね――」


 ピッ。


 ソディナ様R-EXの目が赤く点滅する。


「『私ソディナ様。今から、貴女に会いに行くの』」


 アルマとマリアベルがピタッと固まる。


「で、二回目押すと――」


 ピッ。


「『私ソディナ様。今、貴女が見える所にいるの』」


「ちょっ……」

「ちょっと待ちなさいユティナさん……?」


「で、最後にもう一回押すと!」


ピッ!


「『私ソディナ様。今、貴女の……後ろにいるのぉぉぉ!!!』」


「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「きゃあああああっ!!」


中庭に響き渡る二人の悲鳴。


鳥たちが一斉に飛び立つレベルである。


「ね? 凄いでしょ?」


得意満面のユティナの声だけが、妙に明るい。


「い、いらないですわこんな物っ!!」


マリアベルは反射的にソディナ様R-EXをバシィッと叩き落とした。


「あぁぁぁぁぁ!! 私のソディナ様R-EXプロトタイプがぁぁぁ!!」


地面に吹っ飛んだR-EXを、ユティナはまるで瀕死の子犬のように抱き上げる。


「ひ、酷いよマリー……」


「酷くありませんわ!! 一体誰がこんなポンコツ買うのですかっ!」


「ぽ、ポンコツ……」


「マリー、落ち着いて……! 顔が怖い……!」


アルマが必死で宥めるが、マリアベルの怒りゲージは振り切れている。


そんな三人の騒動を、噴水から少し離れた場所でそっと覗き見ている少女がいた。


赤いツインテールの髪、翠の瞳。


初等部トップ、エドナ・シンクレアである。


しかしその顔は、いつもの気品あふれる完璧令嬢のそれではなかった。


(はぁ、はぁ……今日も天使……)


頬を赤らめ、涎まで垂らして、視線の先にいる“栗色の髪を持つ美少女” ――アルマ=シェルフィードをただただ見つめている。


(しかも、今日はランカスター先輩まで……美少女が二人並ぶなんて……神々の祝福……っ)


うっとりと瞳を細めるその表情は、端的に言えば、“変態”に分類される。


しかし——ふと別の人物が目に入る。


(……ちっ。またいるのですね……ユティナ・ハーリット)


さっきまで蕩けていた瞳が、一瞬で氷のように冷える。


(落ちこぼれ聖女候補生のくせに! どうしてシェルフィード先輩といつも一緒にいるんですの!? 邪魔……本当に邪魔ですの……!!)


もはや睨むというより射抜くレベルの視線を送るエドナ。


だが幸運にも――


(……あら、ユティナ・ハーリット、どこかへ行ったわね? ふふ……これでゆっくりシェルフィード先輩を眺めれるですの……)


エドナの機嫌は急上昇。


まるでデザートが運ばれてきたかのような笑顔で二人に視線を戻す。


その時だった。


「『私ソディナ様、今から貴女に会いにいくの』」


(……今、何か聞こえて……?)


聞き覚えのない不気味な声。


だがエドナは、推し観賞を優先して聞き流そうとした。


「『私ソディナ様、今、貴女が見えるところにいるの』」


(……え? 私が……見える……?)


エドナはピタリと動きを止めた。


周囲を見るが、誰もいない。


(い、イヤな予感ですの……)


背中がゾワリと震える。


ゆっくりアルマたちの方向へ視線を戻す――その瞬間。


背後に“何か”の気配。


耳元で、低く囁く声。


「『私ソディナ様……今、貴女の……』」


エドナの身体がビクッと跳ね上がり、完全に硬直する。


恐る恐る振り返った。


そこには、赤い目を不気味に光らせた“人形とも機械ともつかない何か”が目の前にいた。


そして――


「『貴女の後ろにいるのぉぉぉぉぉ!!』」


「ぎゃあああああああああああ!!!」


エドナは白目を剥き、泡をぶくぶく吹きながらその場に倒れ込んだ。


完璧令嬢の終わりは、あまりにもあっけなかった。


「……あ」


ソディナ様R-EXを抱えるユティナの顔が明らかに引きつる。


そこに駆けつけてきたアルマとマリアベル。


「ど、どうしたの!? 今すごい悲鳴が……!」

「え、これは……」


二人の視線の先には――


ソディナ様R-EXを片手に立つユティナと、仰向けで失神しているエドナ。


「ユティナさん……貴女まさか……?」


「え、えへへ……あ、あの……なんかコッソリこっち見てたから……その……ちょっと、からかってみようかなって……」


「や、やりすぎですわぁぁぁぁ!!」


バシィィッ!!


「いたぁっ!?」


マリアベルのチョップがユティナの頭上に炸裂した。


「だ、だって! でも! これでソディナ様R-EXプロトタイプのすごさが証明されたでしょ!?」


「お黙りなさいっ!!」


再度バシィッ!!


ユティナが頭を押さえしゃがみ込む横で、アルマは気絶したエドナにおそるおそる触れながら呟いた。


「と、とりあえず、保健室に運ばないと……」


中庭は混沌と静寂の二つを同時に抱えながら、放課後の鐘の音を静かに響かせた。

読んで頂きありがとうございます(*´∀`)♪

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