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落ちこぼれ聖女候補に転生した魔王は静かな隠居暮らしを目指す~今度こそブラックな人生はごめんです!~  作者: あんずのかおり


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第46話 ユティナの実力

早朝訓練での模擬戦。


ユティナは、アニヤ先生と激しく刃を交えていた。


(やっぱり……力では敵わない……)


二人の間には、歴然とした差がある。

子供と大人――その隔たりは大きい。


身長差はそのまま間合いの差となり、体格差は純粋な力の差として現れる。


ユティナはその不利を、身体強化魔法と加速魔法で埋めていた。


だが――限界がある。


魔力には上限があり、強化すればするほど消耗は激しくなる。


以前より魔力量は増えているとはいえ、まだ大幅な強化を行った状態を長時間維持できる域には達していない。


アニヤ先生の鋭い攻撃を捌きながら、隙を見ては踏み込む。


しかし――


そのすべてが、紙一重でいなされる。


浅い一撃では届かない。

読み切られているのか、それとも経験の差か。


決定打を打ち込めないまま、攻めあぐねていた。


(それに、なんだろう……)


一度距離を取り、呼吸を整えながら思考を巡らせる。


(試されてる……?)


違和感。


攻めれば受け流され、下がれば詰められる。

まるで、動きを見極められているかのような感覚。


ユティナは警戒を強めながら、ヒットアンドアウェイを繰り返す。


そして――


次の一手を、静かに探っていた。


当然――ユティナのその動きに、アニヤ先生が気づかないはずがなかった。


(上手い……)


鋭い視線の奥で、静かに分析する。


(ギリギリの間で捌き、躱し……わずかな隙を逃さず、すぐに攻撃へと転じる)


受けに回っているようで、決して崩れない。

むしろ、常に機を窺っている。


アニヤ先生もまた、警戒を強めながらユティナの動きを見極めていた。


(ふふ……では――これはどうでしょう?)


空気が、張り詰める。


アニヤ先生の重心が沈み――そのまま、地を蹴った。


弾けるような踏み込み。


その姿が、視界から消える。


(なっ――!? 速っ!!)


視界が追いつく前に、間合いが消える。


反射的に、全身の感覚が警鐘を鳴らした。


目の前に現れたその気配に、ユティナは一瞬で最大限の警戒態勢を取る。


アニヤ先生の右足が、深く踏み込まれる。


次の瞬間――その脚に、爆発的な力が流れ込んだ。


石畳が沈み、ひび割れる。


斬撃は、下から。


剣先は石畳を抉りながら、地を裂くように駆け上がり――

神速の一閃が、ユティナを下から斬り上げた。


(よ、避けられない……! なら――!)


ユティナは咄嗟に剣を構え、その一撃を受け止める。


だが――


(重っ――!!!)


衝突と同時に、凄まじい斬撃が腕を貫いた。


それも、ただの斬撃ではない。

“質量”そのものを叩きつけられたかのような、圧倒的な重み。


身体が、わずかに浮く。


(受け切れない……!)


思考は一瞬で切り替わる。


足に力を込め、地を蹴る。


受け止めるのではなく――“流す”。


自ら跳ぶことで、衝撃を逃がす選択。


その判断だけが、今の一撃を凌ぐ術だった。


その威力は殺しきれないが、それでも直撃は避けた。


だが、その代償に軽い体は、大きく弾き上げられる。


自分の跳躍をはるかに超える高さへ――


空中へと放り出される。


(……っ!)


しかしユティナは、即座に体勢を立て直す。


宙に浮かされたその時でさえ、次の動きへと繋げるために。


(アニヤ先生の上は取った! あとは、このまま――上から一気に!)


空中で体勢を整えたユティナは、地上へと視線を落とす。


だが――


(い、いない……!?)


そこにいるはずの姿が、ない。


一瞬、思考が空白になる。


その直後。


背筋をなぞるような、鋭い悪寒。


(……上!? まさか――!)


反射的に視線を跳ね上げる。


そこにいたのは――


すでに上を取っていた、アニヤ先生の姿。


振り下ろされる剣が、視界いっぱいに迫る。


(っ……! これでやられてたまるもんですか!!)


ユティナは咄嗟に体を捻った。


空中で半身を回転させ、その遠心力をそのまま剣へと乗せる。


狙うのは、刃ではない。


――剣の“腹”。


それを打ち払う。


鈍い衝撃がぶつかり合い、軌道を逸らす。


弾いた反動を逃がすように、ユティナはそのまま距離を取り――


地面へと着地。


(今……!)


足が地を捉えた瞬間、間髪入れず踏み込む。


着地直後、まだ体勢を整えきっていないアニヤ先生へ――


(一気に、間合いを詰める!)


だが――ふと、先ほどから胸に引っかかっていた違和感が、どうしても拭えない。


先ほどまでのアニヤ先生の戦い方。


まるでこちらの動きを見極めるような、無駄のない対応。


いや――あれは、見極めているだけではない。


(やっぱり、完全にこっちの動きが読まれてる……)


一歩、踏み込みながら思考が走る。


(ただ攻めるだけじゃ、ダメだ……)


その瞬間、ユティナの脳裏にひとつの閃きが走った。


戦いの流れを変えるための、一手。


一方――


アニヤ先生もまた、ユティナの動きに確かな手応えを感じていた。


(今の判断……見事ですね)


先ほどの斬り上げ。


受けきれないと即座に見切り、衝撃を逃がす判断。

さらに、空中という制約の中でなお、自分の攻撃を防いだ。


(あの状況で、あそこまで動けるとは……)


口元に、わずかな笑みが浮かぶ。


(ふふ……元冒険者の血が、騒ぎますね……!)


地面へと着地する。


視界に飛び込んでくるのは、一直線に間合いを詰めてくるユティナの姿。


(着地の隙を狙っての攻め……いい判断です)


だが。


(――それだけでは、届きません)


静かに目を細め、剣筋を見極める。


(ただ攻めるだけでは……私には勝てませんよ)


思考が、ひとつに収束する。


迎え撃つための、最適解へと。


(――ここですね……)


甲高い音が、空気を裂く。


キィィンッ!!


ユティナの剣が、弾かれた。


アニヤ先生は、ユティナの攻撃に合わせて正確に刃を打ち据えたのだ。


その一撃は重く、鋭い。


普通なら――体勢を崩す。


そして次に訪れるのは、決定的な隙。


そこへ、迷いなく。


アニヤ先生の剣が、まっすぐユティナへと伸びる。


無防備な――はずの、その身体へ。


――だが。


(――なっ!?)


アニヤ先生の目が、大きく見開かれる。


ユティナは――


崩れてずに、踏みとどまっていた。


いや、それだけではない。


視線が、自然とその手元へと引き寄せられる。


ユティナの剣は――


弾かれた衝撃のまま、宙を舞っていた。


(弾かれた瞬間に……自ら……武器を捨てた……?)


理解が、追いつく。


(いや――違う)


思考が一気に繋がる。


(……誘導されたのは――私の方……!?)


ユティナはアニヤ先生の迫る刃を、紙一重でかわし――


ドンッ!!


鋭く放たれたローキックが、アニヤ先生の右脇腹を正確に捉える。


――一瞬の、静寂。


「あ……」


ユティナは確かな手応えを感じた、はずだった。

だが――


寸前――アニヤ先生の左手が、放たれた一撃を確かに受け止めていた。


「……ふぅ……」


アニヤ先生は低く息を吐く。


(シェルフィードさん達から、静密の森でのハーリットさんがインフェルノベアーに“剣で傷を入れた”と聞いた時は、正直耳を疑いました)


視線を落とし、アニヤ先生は静かに剣を下ろす。


(前回の訓練でも、彼女の成長には驚かされましたが……)


その視線が、再びユティナへ向けられる。


(これは……想像以上ですね)


その表情には、驚愕と――そして、確かな評価が滲んでいた。


「この勝負――ハーリットさんの勝ちです」


「え……? でも、止められて……」


「確かに止めました。しかし、“蹴りが当たる瞬間”は成立しています」


その言葉に、アルマとマリアベルが息を呑む。


「信じられませんわ……アニヤ先生に……一撃を……」

「……凄いよ、ユティ……本当に……」


アニヤ先生は、深くユティナを見つめた。


「私も……正直、驚いています」


少しだけ、苦笑する。


「剣術評価Fランク――そう判断したのは、私自身です。ですが……ここまでとは……」


一拍置き、はっきりと告げた。


「今でも……信じられません」


訓練所には、朝の風だけが静かに吹き抜けていた。


――この日を境に、

ハーリット・ユティナという存在は、“特別”として、確かに刻まれ始めていた。


「……しかし、ここまでお強いのでしたら」


少しだけ唇を噛みしめ、マリアベルが言った。


「私達の護衛など、必要無いのではありませんか?」


その声音には、悔しさが滲んでいた。


だが――


「そんなことはありません」


アニヤ先生は、即座に、そして真っ向から否定する。


「一人の力で対応できる範囲など、たかが知れています。どれほど強くとも、すべてに対処できる者など存在しません」


視線が、アルマとマリアベルに向けられる。


「だからこそ、貴女達の護衛は“必ず”必要です」


「……」


「そうだよ、マリー!」


沈黙を破ったのはアルマだった。


「私達、もっと強くならないといけないんだから」


「その通りです」


アニヤ先生が静かに頷く。


「そのために、私がこうして指導しているのです」


「……そう、ですわね」


マリアベルは一度息を吐き、頭を下げた。


「申し訳ありません。少し、弱気になってしまっていましたわ」


「気にすることはありませんよ」


そして、少しだけ視線を逸らしながら、ぽつりと付け加える。


「私からすれば――ハーリットさんが“異常”なのです」


「え?」


(その言い方、ひどくないですか!?)


思わず心の中で抗議するユティナ。


「確かに……最近のユティって、成長の速度がおかしいよね?」


アルマも首を傾げる。


「本当ですわ。どうすれば、あそこまで……」


「え、えーっと……」


ユティナの視線が泳ぐ。


(これ……絶対疑われてるよね……でも説明できないし……)


「ほら、あれじゃないかな!?」


思いついたように手を叩く。


「今まで落ちこぼれだった分、伸び代が大きかったんだよ!」


三人は、そろって深いため息をついた。


「……え? な、なに?」


「いえ、何でもありませんわ」

「まぁ……そういうことにしておこうかな」


なんとなく、納得したような、していないような空気が流れる。


「それと、ハーリットさん」


アニヤ先生が、改めて問いかける。


「先ほどの戦闘中、貴女が一瞬“消えた”ように見えた場面がありました。あれは体術の一種ですか?」


「消えた……? あ、違いますよ」


ユティナは首を振る。


「あれは加速魔法です」


「……加速魔法?」


アニヤ先生が眉をひそめる。


「聞いたことがありませんわね」

マリアベルも首を傾げ、

「うん、私も……」

アルマも同調する。


三人の視線が、一斉にユティナへと集まった。


「え、そうなの? てっきりアニヤ先生は、強化魔法とか加速魔法を使っているのかと思ってましたけど……」


「いえ。私は一切、魔法は使っていませんよ?」


その一言に、ユティナの思考が一瞬止まる。


(……え? 素で、あの速度に追いついてきてたの……? 私から見たら、そっちの方がよっぽど異常なんだけど……)


「そうなんですか? 強化魔法や加速魔法って、わりと一般的な魔法だと思ってたんですけど……」


「……強化、加速?」


アニヤ先生が、言葉を繰り返す。


アルマとマリアベルも、まるで初めて聞く単語のように目を瞬かせた。


三人の目が、ぱちくりと瞬く。


訓練所に、妙な沈黙が落ちた。


(あれ? これ……やっちゃった感、あるよね?)


「ハーリットさん! それは一体どんな魔法なのですか!?」

「ユティ、それ私にも教えて!!」

「貴女、洗いざらい全部話しなさいな!!」


三方向から一気に詰め寄られる。


「ひっ!? あの、ちょっと……!」


たじろぐユティナだったが――


結局、その場で身体強化魔法と加速魔法の理論と使い方を説明することになった。


「……こんな魔法が存在していたなんて……」

「自分の肉体そのものを強化する魔法……」

「これは……大発見では?」


三者三様の反応が飛び交う。


その様子を、ユティナは少し後悔しながら眺めていた。


(この時代では、強化魔法って失伝扱いなんだ……

大事にならなければいいけど……)


内心、冷や汗が止まらない。


「それでユティ、この魔法って、発動中は……?」


「う、うん……魔力を消費し続けるから……」


「でしたら、使うタイミングが重要になりますわね……」


顎に手を当て、考え込むマリアベル。


「加速魔法……これは制御が難しい……」


アニヤ先生が、低く唸る。


「身体強化も、全身に魔力を巡らせないといけないから……慣れるまで大変かも……」


集中するアルマの額に、一筋の汗が流れる。


「他の魔法と併用するなら、なおさらですわね……」


真剣な瞳で魔力制御を試みるマリアベル。


三人とも、完全ではないながらも、

少しずつ魔法の形を掴み始めていた。


(……え、ちょっと待って? 私、魔族だった頃、習得するのにかなり時間かかったんだけど……)


(皆さん、普通に才能高すぎません? なんか……地味にショックなんですけど……)


誰にも言えないところで、静かにへこむユティナ。


やがて――


「この魔法に慣れるには、時間が必要ですね……」


アニヤ先生が息を吐く。


「今日はここまでにしましょう」


「はい」

「分かりましたわ」


「訓練は少し逸れましたが……この魔法を習得すれば、状況は劇的に変わるでしょう」


「私も、そう思います」

「慣れるまでが大変そうですが……」


「ええ。じっくり時間をかければ良いでしょう」


マリアベルが、じっとユティナを見る。


「それにしても……今まで、こんな魔法を黙っていたなんて。貴女、一体何を考えていましたの?」


「い、いや……普通に常識だと思って……」


「……」


「で、でも!」


慌ててアルマが割って入る。


「ユティのおかげで、私達もっと強くなれるんだから……そこは大目に見てあげよう?」


「……まぁ、今更ですわね」


肩をすくめるマリアベル。


「どうせ、どうして知っているのか聞いても答えてくれないのでしょう?」


「あぅ……」


俯くユティナ。


「それより、アニヤ先生。この魔法……広めるのは流石に問題が大きすぎません?」


「そうですね。カトリット先生とブレア先生に相談しましょう」


「それが良いと思います」


「では、朝の訓練はここまでです」


「ありがとうございました!」

「ご指導ありがとうございました!」


(……想像以上に疲れたぁ……)


ユティナは大きくため息をついた。



訓練後、学園寮へ向かう道すがら。


「朝からスパルタすぎるよぉぉ……!」


肩を落とすユティナ。


「厳しいですが、とても有意義でしたわ」

「うん、新しい魔法も学べたしね」


「そのしわ寄せが、全部私に来てるんですけど……」


「それは貴女が黙っていたからですわぁぁぁ!!」


マリアベルが、ユティナのこめかみを両手でぐりぐりする。


「痛い痛い痛い痛いっ!!」


「マ、マリー……そこは大目に……」


「アルマさんは甘すぎますわ!!」


さらに力が込められる。


「いだだだだだだだ!!」


「ちょ、まっ……待って! そ、そうだ! 今日のお昼は中庭で食べな――」


「話を逸らすんじゃありませんのぉぉぉ!!」


「いだだだだだだ!!」


朝の静かな学園に、ユティナの悲鳴が、元気よく響き渡っていた。


読んで頂きありがとうございます(*´∀`)♪

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