第53話 河村しげあき
「私に対する当てつけかしら?」
吉岡があからさまな不機嫌で言う。
「あてつけ? 吉岡さんともあろうお方がそんなくだらないこと言うなんて」
「くだらないですって? 手を繋いで私に会いに来て何を言ってるのよ! はる様もこの修羅場どうしてくれるのかしら?」
キー! と敵意をむき出しにしてくる。
「いや。どうもしないって」
「それで。2人で河村くんのことを聞くのね?」
入って。と吉岡は俺とコンを自宅に招き入れた。
「私がはる様と同じ小学校に転校したのは5年生の夏。その時はもうはる様はクラスの人気者で中心人物だったわ」
そう前置きをして、吉岡は語り出した。
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セミの声が煩いこの地域は、前の都会と比べると違う煩さがあった。
私はどうせまた転校すると思ってたから友達なんて作る気はなかった。
私には友達と呼べる存在はおらず、親は勉強のことばかり。
自分の居場所を確保するためだけに、親の言いつけを守ってた。
とっくに自分の居場所なんて無かったのに……
そんな状況だから。
ある意味ちょっと魔が刺しただけだった……
「あの……吉岡さん……」
一発で私に気があるって分かった。
ほんの少し、気晴らしがしたかっただけ。半分はからかったつもりだった。
「この学校のこと分からないことばかりだから教えてくださる?」
「え? もちろんいいよ!」
先ほども言ったけど、はる様はもうクラスの人気者だったわ。
けど、当時の私にはどうでもいい存在で、私を救出してくれるまでは鬱陶しい存在だったわ。
この河村くんがはる様の親友であることは知ってたから、鬱陶しい存在に仕返しをしようと考えたの。
「また来たの?」
私は不機嫌な声を出したけど、心のどこかではる様が家に来ることを期待していた。
さすがの両親も使用人も、子供であるはる様を無下に追い出すことはしなくなった。
以前、はる様が殴られた時に顔に傷ができたことでちょっとした騒ぎがあったから。
私の親はそういう世間体を気にする家族だから。
「見ろよこれ!」
はる様が意味不明のガラクタを私に見せる。
道端で拾ったらしいけど、正直綺麗とは思えなかった。
「宝の山だろ?」
目を輝かせるはる様。
「うん」
はる様の笑顔が見られる。
それだけで私は幸せだった。
河村くんは、面白いくらい私の言うことを聞いてくれたわ。
そしてどんどん私のことを好きになってくれた。
でも。私の心が満たされることはなかったわ。
私の心は既にはる様のものだったから。
でもはる様が私に振り向くことは無かった……
コンとかいう存在がずっとはる様を縛っていたから。
私は、容姿も運動神経も頭にも自身があった。
だからこそ許せなかった。
コンという存在が。
私を選ばないはる様が。
自分自身が……
「はるくん!」
「吉岡?」
「私の気持ちに気づいているよね?」
「俺の気持ちも知ってるよな?」
「コンって人のこと? はるくんは、私を一般人にしたのよ? その責任を取ってちょうだい」
「俺も吉岡もずっと一般人だろ?」
「私はずっと特別な存在よ?」
「そうか。特別でも何でも俺はコンだけだから」
「そう……私は覚悟してるわよ?」
「カッター? 俺を脅す気か?」
「最後よ。私の気持ちに応えて」
「悪いけど無理だ」
「そう……さよなら……」
私は分かっていた。
はる様なら絶対に私を選ばないことを。
だからこそ、私ははる様のことを好きになったのに……
「吉岡! 吉岡ー!」
私ははる様の目の前で、自らの手首を切った。
数日間、私は生死を彷徨ったらしい。
私がいない世界は、無意味だと思った河村くんは、はる様の目の前で首を切ったらしい。
「吉岡……しげが……しげが……」
泣きながら私が寝ているベッドで、はる様が呟く。
私が目を覚ましたのに、気がついていない様子だった。
「はるくん……私と結婚して……」
「バカを言うな……けど……それで許されるならそうすべきかもな……」
その翌日、はる様は引っ越してしまった……
私との約束をそこに置いたまま……
●
「ここから先は人づてに聞いた話しだけど。河村くんは私が寝ている病室で首を切ったらしいわね……」
「そう……だ……」
病室がやけに懐かしくも息苦しくも感じたのはそのせいか……
「しげは……吉岡にキスをしてから自分の首を――」
その後は言葉にならなかった。
コンがそっと俺を支えてくれる。
「はる様は知らなかったでしょうね。取り残された私がどんな目で見られたのか……」
その目は俺のことを責めているわけではなかった。
「私は、心の支えだったはる様と、自分の自信の象徴だった河村くんの両方を同時に失ったの……」
そうか……吉岡も傷ついていたんだな……
俺は、こうした人たちを置いてけぼりにしてたんだ……
「私ははる様を何度も恨もうとしたけど無理だった。私の心が……体がはる様を求めていたから……」
胸の痛みがこみ上げてくる。
俺はやっぱり――
自分を罰しないといけないんだ……
「違うでしょ?」
白石がきっぱりと言う。
「あなたのはただの執着でしかないわ」
「執着?」
挑むように吉岡が問う。
「あなたは、ユイに振り向かれなくてそれが許せないだけの愚か者じゃない」
「何を言って」
「ユイに振り向いて欲しかったんでしょ?」
「ちょっと話しを聞きなさ」
「ユイのことを本当に好きだったわけじゃなくて、射止めようとした相手から相手にされなかったプライドが傷ついただけでしょ?」
「そんなこと……」
「あるでしょ?」
「……」
きっぱりと白石に言われて吉岡は観念したかのように、天を仰いだ。
「そうね……私はモテない自分が許せなかっただけ……好かれない自分を認めたくなかっただけだわ……」
「それが分かれば成長よ」
「けど改めて宣言するわ」
吉岡が白石を見る。
まるで睨むかのうよに……
「なに?」
白石もにらみ返す。
「私ははる様を絶対に諦めないから! もしもはる様を不幸にさせるようなことがあったら絶対に許さないから!」
「大丈夫」
コンは俺を見て微笑んだ。
「コンはユイのことを幸せにするから!」




