第52話 クリスマス
「お待たせ」
白石が笑顔でやって来る。
安定の可愛さだ。
「今日はどこに行くの?」
息を切らしてまで走らなくていいのに。
しかも途中で転んでるし。
「ショッピング? 映画? ご飯?」
「あの場所に行かないか?」
白石の顔から笑顔が消えた。
「いつもそう。ユイは期待を裏切る」
電車の中でもずっとブツブツ文句言ってた。
「やっぱりいいところだなー」
冷たい風が心地いい。
「ぜんっぜんおしゃれじゃなーい」
白石はまだむくれてる。
「しかもこの前さくみと来たばっかだし」
「俺とは久しぶりだろ?」
「コンはおしゃれなカフェとか行きたかったのー。もっと青春したかったのになー。クリスマスだよ?」
「だからだろ?」
「んえ?」
「俺たちのクリスマスは毎年秘密基地で祝ってたろ?」
「おー。よく覚えてるねー」
ここに来て初めて見せた笑顔だ。
「コンが大きな石見つけてケーキとか言ったの覚えてる?」
「あったなそれ! あの石まだあるのかな?」
大きな石。と言いながら両手を広げるあたり、コンらしい。
「本当に色んなことがあったんだな」
「そうだねー。想い出って一言では言えないくらいにたくさんのことがあの時期に凝縮してたね」
ゴロン。とコンが寝転がる。
「これからもたくさん楽しいことがあるんだな」
「そ! 私たちはあの時のまま止まってちゃいけないの」
「じゃあまずはあの時に埋めたタイムカプセルを一緒に掘り起こそうぜ!」
そう言って気がついた。
ちゃんとしげのことを知る必要がある。
「どうしたの?」
きっと俺の表情が暗くなったからだろう。
白石が訊いてくる。
「最後に1つだけ。やることが残ってた」
「やること?」
「河村しげあき。覚えてるか?」
「ごめん。たぶんその人ユイが引っ越した後に出会った人だと思う。コンは知らない」
「やっぱりか。俺はしげのことをちゃんと思い出さなきゃいけないんだ……そうじゃないとずっと心のどこかが過去にいてしまうから……」
「もぉー。しょうがないなぁー」
寝転びながらコンは俺をそっと抱きしめた。
「大丈夫大丈夫」
頭をそっと撫でてくれた。
「え?」
「ん? なに?」
にこっと微笑まれた。
「前にも――」
「したことあるよ」
ますますにっこりされた。
不思議と、心が軽くなった。
「俺……ずっと小学校の頃までコンと一緒だと思ってた」
「途中でユイが引っ越しちゃったんだよ。確か3年生の時だったかな?」
「その転校先でしげと出会ったのか……」
「その子のことをちゃんと思い出さないと前に進めないの?」
「あぁ」
そっと俺もコンのことを抱きしめる。
「きっと、しげのことをちゃんと思い出さないと俺はずっと後悔する」
「じゃあコンがずっと傍に居てあげるよ」
「ねぇユイ……」
コンが俺から離れて仰向けになって言う。
「ん?」
俺は振り向きもせずに相槌を打った。
「最高のクリスマスだった。ありがとね」
見なくても分かる。
コンはきっと満面の笑みだ。
そんなコンの隣で吉岡にメッセージを打つ。
隣でコンも覗き込む。
「覚悟。決まったんだね」
「コンが傍に居てくれるなら大丈夫だから」
<今度。しげのことをしっかりと教えてほしい>
「大丈夫?」
震えて送信ボタンが押せない俺の手を、コンがそっと優しく包み込む。
「無理しなくてもいいんだよ? コンはいつでも傍にいるから」
「コンはそうだな。いっつも俺の傍にいてくれた」
俺が人混みが苦手で不安な時はいつもいつも傍に居てくれた。
いつだってコンは俺の味方であってくれたんだ……
「大丈夫」
コンの手を乗せたまま指をスライドさせて、送信ボタンを押す。
「あのねユイ……」
「ん?」
「1つ。勘違いしてるから伝えとくね」
コンと目が合う。
「コンがユイの傍に居たのはユイのことを支えたい気持ちももちろんあったけど、それよりも――」
一瞬コンは目を閉じ、それからゆっくり開いて微笑んだ。
「コンがユイの傍に居たいんだ……どんな時でも。少しも離れたくないだけなの……」
そう言って抱き付いてくるユイの体は、さっき抱きしめた時よりも小さく感じた。
「コンはね……ユイが思っているような強い存在でもないし、ユイのことを独り占めしたいだけなの……」
「分かってるよ。コンが自分勝手でわがままで強がりで、そして誰よりも強がってるだけの弱虫だってことは。俺が一番分かってるから」
俺の胸に押しつけていた顔を上げて、俺のことを見上げてくる。
「大丈夫大丈夫して?」
見よう見まねでコンの頭を撫でる。
「大丈夫大丈夫」
幼い頃から俺たちは似た者同士だった。
それはこれからもきっと変わらないんだろうな――




