第51話 髪留め
「ここってタイムカプセルを埋めた神社?」
「そう。私とユイはここら辺に暮らしてたの。もうずっと前のことだけどね」
「どうして私をここに?」
「さくみがお人好しだからかなー」
「お人好し?」
「ユイのこと好きなのに諦めて私のことを応援したりとか」
「確かに。本当なら嫌な女になってでも朝倉くんのことを振り向かせるべきなんだろうけど。白石さんは友達だから」
「友達でもじゃない?」
「だって。2人の絆が強すぎて、誰も入っていけないじゃん」
「絆?」
「うん。言葉に出さなくても出てるよ。信頼感っていうのかな?」
「全然気付かなかった。私とユイってそんな感じだった?」
「そうだね。仲良くなればなるほどに、2人の絆を感じれるよ」
「絆かー」
「私が思うに、2人は切っても切れない繋がりがあるんだと思うな」
「確かに繋がりあるかもしれない。ここはね。私とユイが秘密基地を作ってた場所なの。誰にも教えたことないし、誰にも言わなかった2人だけの特別なばしょ」
「何でそんな大切な場所を私に教えるの?」
「もう場所に依存するのは卒業! これからは私も自分の足で歩かないといけないからね」
「私も朝倉くんからは卒業だね」
「もう2人だけの特別は必要ないんだね」
「いいところだね」
「うん……本当、いいところだった……」
●
「あ。ごめん。ユイから電話だ」
私はさくみに断りを入れてユイからの電話に出た。
さくみは見守るような笑顔で私のことを見る。
なんか、人前でユイと電話するの緊張するな。
「もしもし?」
「白石か? 今どこにいる?」
「え? あの秘密基地があった場所だけど?」
「何でそんなとこに1人でいるんだよ」
「失礼だなー。さくみと一緒だよ」
「え? 塩田? なんでまた」
「どうしてユイは私が1人だと思ったのかなー?」
さくみが苦笑いしてる。
「ねぇユイ……」
「ん?」
「覚えてる? あの頃に嗅いでた草の匂いとか風の音とか、春先の鳥のさえずり、夏のセミ秋に入る頃のトンボ、秋の虫の鳴き声に冬の雪景色……」
「あぁ。昨日のようにな」
「雨が降ると隠れる場所無くてずぶ濡れになったよね」
「コンは体が弱くていっつも次の日風邪引いてたよな」
「コンはね。ユイとの場所ならどんなところでも幸せなんだよ? ここじゃなくても今の高校でも一緒に食べたハンバーガー屋さんでも映画館でも。その全てが特別な場所なんだって気づいたんだ」
「そうか」
「ユイは今……」
「ん?」
「好きな人いる?」
私は本当は誰が好きなの? って聞こうとしたのに怖くて聞けなかった。
「そうだな……たぶんいる……」
「そっか……」
少し気まずい沈黙が流れた。
「よかった……」
それだけ言って私は電話を切った。
さくみが目を丸くしてこっちを見る。
「何で切っちゃったの?」
しまった。
気が動転していた。
ユイは何か用事があったはずなのに。
「白石さんって朝倉くんのことをユイって呼んで、朝倉くんの前では自分のことをコンって呼ぶんだね」
うっわー。私さっきから自然にユイとかコンとか言ってた。
色んなしがらみから解放されて気が緩んでるのかも……
「良かった」
「良かった?」
さくみの言葉を私は繰り返して聞き返す。
「だって。白石さんも人間なんだなって思って」
「なによそれ。私は悪魔かなんかだって思ってたの?」
「ちょっと人間味は無かったかな」
ふふふ。と笑うさくみは私よりもかなり大人に見えた。
●
その夜またユイから電話がきた。
「さっきはごめん。勝手に切っちゃって」
「あぁ。塩田も一緒に居たんじゃ気まずかったろうしな」
「で。何?」
「クリスマスって予定ある?」
「え? いや。特に今のところないけど。同好会の活動は?」
「落合がクリスマスくらい休ませろって言うから多分なしになるんじゃないか?」
「そっかー。それじゃあ予定は無さそうだなー」
「なら。どっか行かねぇか?」
「いいよー。デートってことでいいんだよね?」
「あぁ。デートだ」
「クラス一の美女をデートに誘うとはやりますなぁ」
「アホか。幼なじみだわ」
良かった。ユイはいつも通りだ。
「ところで何でさっきあの場所に塩田と居たんだ?」
「んー。あそこが特別な場所って再認識するためかなー」
「は?」
「ユイは分からなくてもいいの」
さくみに教えたことで、私とユイだけの特別な場所じゃなくなったけど、それだけ大切な場所だったんだって分かったし、誰かに教えてもあそこは私とユイにとっては特別な場所で秘密基地なんだ。
●
<今日はクリスマスだけど、何かするの?>
私は朝倉くんにメッセージを送った。
<白石と遊びに行く予定>
<おめでとう! デート頑張ってね!>
<そんなんじゃねーって>
<良いクリスマスを!>
これで私の初恋は本当に終わった……
<おーっす。今からちょっと会えないか?>
落合くんだ。
正直そんな気分じゃないけど、家にいたら悲しさで押しつぶされそうだった。
気晴らしも兼ねて落合くんに会いに行った。
「よ。ちょっとだけいいか?」
なんだか落合くん。いつもと様子が違う。
私は落合くんの後に付いて行った。
「頑張ったんだな」
唐突に落合くんが言ってくる。
「え?」
「いや。色々とよ」
「色々? 私は特に何も頑張ってないけど?」
「頑張ってるよ」
それだけ言って落合くんは、私に小さな包みを渡してきた。
「これは?」
「頑張ってる塩田にご褒美だ。クリスマスプレゼント」
「開けていい?」
落合くんは黙って頷いた。
「わぁ。可愛い髪留め」
「悪いな。そんな物しか買えなくて」
「ううん。嬉しい。クリスマスプレゼントなんて初めて貰ったよー」
本当に嬉しい。
今年のクリスマスは最高のクリスマスだった。
「落合くん! 今日は最後まで付き合って貰うからね!」
「え? おう!」
頬をポリポリ掻いている姿が何だか可愛く見えてきた。
「ほら! 早く!」
私が引っ張らないとだね!




