エピローグ
年が明けた。
俺とユイの関係は相変わらずだ。
付き合っているんだか付き合っていないんだかよく分からない関係だ。
はっきりと告白をしたわけではないから、付き合っているとは言えないのかもしれない。
けど、ユイはいつも俺の傍に居てくれていた。
それが俺に安心を与えつつも、焦りも与えてもいた。
けど結局俺は、今の状況が居心地がいいと感じてしまっていた。
「ユイ! ほら行くよ」
コンが俺の手を取る。
その足取りは軽やかだった。
俺とコンは過去に埋めたタイムカプセルを開けに行く。
「いつからあの秘密基地は更地になってたんだ?」
「もうずっと前だよー。ユイはしげくんのことで中学時代を目立たなく過ごしてたんでしょ? その頃くらいに取り壊されちゃったの」
コンは俺の中学時代を聞いてきた。
特に何があったわけでもない中学時代の思い出を語るのは、結構苦労した。
なのにコンは満足そうに、
「ユイの知らない部分が知れたよ」
と言っていた。
コンがかなり素直になったのは大きな変化だ。
変化と言えば塩田にも大きな変化があった。
行動が少し大胆になった気がする。
「何やってるの落合くん! さっさと来る!」
そんなことを言いながら落合の手を引っ張っていた。
「おいおいおい。そんな引っ張るなよ」
「あ。朝倉くん。ありがとね同好会を作ってくれて」
改めてお礼を言われた。
もう既にこのお礼は言われているし、俺も感謝をしている。
「もうすぐクラス替えだね」
塩田が寂しそうにする。
「みんなバラバラになるかもな」
落合がありそうな未来を予想する。
「それは……嫌かも……」
塩田が肩を震わせる。
「まぁクラスが違っても同好会は一緒だし、昼飯とか一緒に食おうぜ?」
俺は元気づけるつもりで言ったのだが――
「違うの」
塩田が涙を零す。
落合がダメだなー。朝倉は。と言わんばかりの表情をしてくるが、絶対にこいつも理解していない。
「さくみ」
コンが塩田を抱きしめる。
「さくみにとっては、今のクラスが居場所で全てだもんね?」
「うん……私にとってクラス替えは、卒業と同じくらい辛くて寂しいものなの……クラスにこんなに感情を移入したのは初めて……朝倉くんが私を見つけてくれなかったら知らなかった感情……」
「あー。これは朝倉が悪いな」
「俺が悪いのか?」
「朝倉くんのせい」
塩田も悪ノリするように、涙顔のまま笑ってくる。
「ユイに変わって謝るね。さくみ! これからもずっと一緒だよ!」
「ふわーん! 何で今そういうこと言うかなー」
「えぇ? 何で泣くのさくみー!」
「もういいからバカップルはどっか行ってー」
落合に追い立てられるように俺たちは教室を後にした。
●
「すっかり寒くなっちゃったね」
「タイムカプセルを埋めたのも確か冬だったぞ?」
「えー! うそー!」
「雪が降ってた気がする」
「コン本当に覚えてないんだよねー。ここに埋めたの?」
ここ。と言ってコンが大きな木の下を指す。
「あぁ。間違いない。この大きな木を目印にしようって言ったのを覚えてる」
「へー。そんなことまで覚えてるなんて、ユイめっちゃコンのこと好きじゃん」
にやーっと笑われた。
何だか、これを認めたら負けな気がする。
言い返す代わりに俺は、タイムカプセルを埋めた場所を掘り返した。
なかなか見つからない。
当然か。
何年も前の物だ。
誰かが掘り返した可能性だってある。
――カツン。
「「あ……」」
俺とコンが同時に口にする。
出てきたのは、お菓子の缶だ。
「懐かし」
口にしたのはコンだ。
「秘密基地でよく食べてたよな?」
「うん! 確かユイが零して虫がたくさん入ってきたよね?」
「いや。零したのはコンだろ?」
「えー? 絶対にユイだよー」
そう言いながら、懐かしーと何度もコンは繰り返した。
俺は覚えている。
中に入っている物も、その時の言葉も。
「コン」
「んー?」
俺が呼んでもコンは振り向かず、上を見ながら懐かしさに耽っている。
「コン。こっちを見て」
「なぁに?」
「見てくれて。これ。覚えてるか?」
俺がボロボロの布切れを見せる。
「わぁー!」
コンは満面の笑みだ。
「あだ名?」
「あぁ。2人だけにしか分からない暗号みたいなやつだ!」
「えー。何があるかなー?」
「……将来俺とかおるは結婚するんだよな?」
「うん!はるとくんのお嫁さんになりたい!」
「じゃあ、かおるがコンで俺はユイな」
「コンとユイ?」
「ユイは結ぶ。コンは結婚の婚。2人合わせて結婚だ。いつまでもずっと一緒にいられるようにって意味を込めて」
「コンとユイかー! いいね!」
布切れには、大きく『コン ユイ』と書かれていた。
「ユイ……覚えててくれてたんだね……コンは約束は覚えてたけどタイムカプセルは忘れてたよ……ごめんね」
コンが泣きながら謝る。
「俺の方こそごめん。同好会でタイムカプセルを埋めるまでは思い出せなかった」
それだけ、俺にとってもコンにとっても当たり前になっていたんだ。
2人が一緒にいることは……
「次はさ……」
ポロポロ涙を零すコンに向かって俺が声をかける。
「何を埋めようか?」
コンが顔を上げる。
「ま。何でもいっか」
次の言葉は言わなくてもコンに伝わっている気がした。
2人がずっと一緒なら――




