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情報弱者

小形は机をバンと叩き、苛立ちを隠せないでいる。暴走族五人の殺害事件の付近の防犯カメラが全く機能していなかったからである。


「何故、監視カメラが壊されてるんだ」


それは不思議であった。半径200mの防犯カメラが、その事件があったであろう時間帯を全く映してなかったのである。


「まぁまぁ、落ち着くっす。カリカリしてちゃ冷静な判断が出来ないっすよ」


「そんなこと言ってられないだろ」


小形が怒るのも真っ当であった。まだニュースでは報道されてないが、沖川の廃屋から4人の遺体も発見されており、被害者の遺体を調査すると、同一人物の事件の可能性が高まったからである。


「これは、テロだ。もう俺たち市警の扱える範囲を超えている」


「けど、これなら何かわかるかもしれないっすよ」


高山はスマホを小形に見せる。それはSNSでバズっているその事件の動画であった。


「これが投稿されてるのは、犯行想定時刻とほぼ同じっす。これは何かの参考になるかもしれないっすよ」


小形は食い入るようにその動画を見つめる。細身の赤い覆面の人が彼らを嬲り殺している動画であった。小形にとってその動画は異様であった。


その画面の男は一発しか殴ってないのである。彼のストレートは吸い込まれるように一つの命を消し去っていた。


「バケモンだな」


「そうっすよね。これを肯定してる奴らなんてバケモンっすよね」


「そっちじゃない。こいつがだ。これは人間じゃない」


小形は身震いした。これが、快楽殺人犯であるのなら如何に楽であったろうか。これは何かモンスターの討伐に向かう、冒険者のような気分であったのだ。


「とりあえず。応援を呼ぼう。それとこれ以上隠し通すことはできないーーー世間に公にするぞ」


時を同じくして、竹田もその投稿を目にした。初めは自身が捕まることを恐れたが、その投稿のコメント欄には褒め称える言葉や、賞賛するコメントが多く寄せられていた。


竹田は無意識に口角が上がってしまう。今までは自分が生きるために仕方なくしていたが、この一連の行動に、丸をつけてくれる人達がいたのである。それも沢山。


竹田は無性にもっと大きいことをしたくなってきた。これは仕方がないことではなく、今の社会に必要なことではないかと思えてしまう。皆は邪悪の私刑を望んでいるのであると。


「義ちゃん。ご飯中にスマホはやめなさい」


「ご、ごめん」


母に制止され、机の上にスマホを置く。


ニュースでは、さっき見た映像が加工され、報道されていた。ニュースでは多くの専門家が批判し、自身に軽蔑の目を向ける。だが、それもまた世論の煽動だと思えた。


「ありがとう。ご馳走様」


竹田はさっさとご飯を済ませ、自室へと戻る。竹田は次の目標を探していた。SNS上にはニュースで報道されたためか、事件の信憑性が増し、皆思い思いの名前を投稿していく。それが事実がどうであれ悪人であることは確かである。


「もっと、でかい獲物を捕まえて時間を稼がないとね」


竹田はそう言い、次の標的を模索し始めたのである。


その三日後、小形と高山は前下の家に向かっていた。あの動画の後に追加されていたコメントと、情報開示の手順を取ったのち、彼のアカウントであることが判明したからである。


インターフォンを押すと、母親らしき声が聞こえてきた。


「吉俣署の者ですが」


はいっと慌てた声と共に、ドタバタと足音が鳴り、ドアが勢いよく開かれる。


「何かありましたでしょうか?」


「最近の事件のことで息子さんに伺いたいことがございます」


「は、、はい」


小形と高山は部屋の一室に案内され、前下が入ってきた。


「何ですか?忙しいんですが」


「君の投稿、随分賑やかじゃないか」


「見てたんですか」


前下は小形らと対した椅子に座る。


「あぁ、君はあの時の様子を見ていたんだろう。どんな様子だったかな」


「凄かったですよ。あの動画の通りです」


「あの後どっちの方に向かったとか、なんか変わった特徴があったとかなかったすか?」


「無かったですね。僕はすぐそこから離れたので」


「警察には通報しなかった。そうだろ」


「はい。前みたいに面倒事は嫌いなので」


「君の投稿を見せて貰ったんだが、君はどうやら彼を賛美しているようじゃないか。もしかして何か隠していることはないかい?」


「賛美?あぁそうですね。僕は凄いと思っていますよ。法や警察で裁けない社会のゴミ掃除をしてくれているので」


前下の話ぶりに、冷たい空気が走る。高山はこの時小形の威圧感が頂点に達したと感じていた。顔は怒っていなかった。しかし、雰囲気が怖かったのである。


「君は、何か誤解しているようだね」


「SNSを見てください。貴方達情報弱者には、今起きていることなんて無視して、どうでも良いことに力を入れる。そんなのばっかじゃないですか」


「わかった。君は何も知らないということだね。もし何かわかったら連絡してくれ」


小形と高山は前下の家を後にする。車両に戻った後、小形はイラついたように煙草に火をつけた。


「ネットに洗脳されたガキは厄介だ。自分の見たい情報しか見ないからな」


「そうっすね。あれが多いとなるとちょっとこの先面倒になりそうっすね」


二人は車を走らせ署に戻る。再び事件の調査のため、一から情報を整理するのだった。


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