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悪人の基準

十月にもなり、気温が涼しくなってきたころ、あの吉俣市を取り囲んでいた噂も次第に静かになっていった。しかし、ネット上では未だに炎上しており、逮捕できない警察への批判や、賛同者で日夜多くの議論を生んでいた。


竹田はそんな中ひっそりと、準備を進めていたのであった。学校の方でもこの怪しげな覆面についての話題が中心であり、その犯人の予想で盛り上がっていた。その犯人が身近にもいるにも関わらず。幸いにもまだ竹田が犯人であるとは気づかれている様子はなかった。


「竹田君どうしたの?」


「あ、ちょっと考え事してて」


浅尾はあの小学校で会った時以来、隣の席から話しかけてくることが多くなった。


「そういえば、最近あの事件の話聞かないよね」


「そうだね。もう起きないんじゃないかなぁ」


「えーつまんない」


そんな会話をしていると、チャイムがその会話の終わりを告げる。


今日は金曜日。あの作戦を決行する日だった。


授業が終わると足早に学校を去り、目的の場所までズンズンと進んでいく。


「タケッチ。一体今日はどうするプワ?」


「プワコ。もう力を使うよ」


「早いプワねぇ。もうすぐそこプワ?」


「いや、そうじゃないよ」


通りすがりの人がチラッとこちらを見て過ぎ去っていく。中には何度も振り返り確認する者まで居た。


そうして竹田は十分ほど歩き、目的の場所に辿り着いた。


「ちょっと君。ここには入れないよ」


警備員は竹田を制止し、困り果てたかのように溜息をつく。


「どいてください。貴方は悪人ではありませんから」


「何を言ってるんだ。ここは市議会だ。一般人の立ち入りは禁止されている」


「なら仕方がありませんね」


竹田は警備員のみぞおちに一発喰らわし、ダウンさせる。


「大丈夫です。死にはしませんから」


竹田はそのまま建物に入り、他に目もくれずただ一つの部屋を目指した。その部屋のドアを開けると市長を含めた数人が会議を行なっていた。


「えーと、、貴方は?」


「市長、、いえ唐端千恵さん。貴方は不正に民間企業からお金を受け取っていますね」


「あれは、デマよ。そんなことはしてないわ」


「ダメです。世間がそう言ってますから」


小形と高山が市議会に着いたのはそれから十分後のことであった。民間人から不審な人物が建物に入っていったとの情報があり、現場に訪れたのである。


「まさか、市長が狙われるなんて思わなかったすね」


「全くその通りだ」


市長を含めた数人は見るに耐えない姿になっていた。この場所で無事だったのだ。裏門の警備員のみであった。


「警備員の方はどうなんだ?」


「意識は戻ったみたいっす。犯人は変な覆面を被っていたと」


「奴だ。間違いない」


小形は確信した。今までは世間の小悪党を対象にしていると考えたが、市長が狙われたとなると対象は、社会悪である可能性が高い。段々と狙う規模が大きくなっていることは確かであった。


「明日、私は東京の本部に協力を頼みに行く。まぁ、私が行かなくても、市長が暗殺されたとなれば嫌でも動くだろうがな。それまでは高山。お前に指揮権を渡しておく」


「分かりました。まぁ、進展はないと思いますが」


その夜。ニュース、夕刊の一面を飾ったのは、市長暗殺のニュースであった。前までは批判の的はこの覆面を被ったこの男であったが、今となっては警察の対策への批判で持ちきりだった。


SNSでは、市長暗殺に歓喜する声もあり、世情全体の風潮的に肯定するかのような流れまでも生まれていた。ただそれはネットの中の鳥籠に過ぎず、未だ社会においては恐怖と不安が支配しているのであった。


「プワコ。今日は一体どれくらい稼げたの?」


「今日は一週間プワ」


「一週間?そんな訳ないじゃないか。あの悪徳市長を討伐したんだぞ。一ヶ月、、いや一年はあってもいいじゃないか」


「でも、タケッチはあまりそう思ってないプワ」


「いや、だって皆がそう言ってたし、、」


竹田はそこで気がついた。正義の目安は罪を犯した数ではないと。そうこれは自分自身がどれほどその対象を悪だと思っているか。それが基準になっていることを。


「さぁ、タケッチ。悪をどんどん討伐していくプワ!」


「ならどうしたらいいんだ。人を殺したいと思うほど憎んだことなんてないし」


「タケッチが悪だと言えば、皆悪プワ!タケッチ!これを見るプワ」


プワコは竹田のスマホを差し出す。そこには、熱狂する自身の信者が多くいた。今まで弱者だと虐げられていた立場の人間が盛り上がる。


ピンポーンとインターフォンが鳴る。この時間帯にインターフォンが鳴ることなんて滅多にない。あるとすれば何か特別なことが起きた時だけ。


「義ちゃーん。貴方の友達?が来てるんだけど」


「わかった。すぐ行くよ」


竹田はわかっていた。自身に友達なぞ居るはずがない。竹田は警戒しながら階段を降り、玄関へと向かった。


「じゃあ、お母さん片付けしてくるから」


母はその場を去り、台所へと向かった。


「お久しぶりです。あの時の、、いえ、、正義の覆面ヒーローさん」


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