ヒーローは如何にして生まれるのか
川はギリギリのところで耐えたようで、翌朝には避難指示が解除された。竹田は家に戻るとすぐにテレビをつけた。
幸いにも昨日の事件よりも、台風の被害の方が大々的に取り上げられていた。安堵したのも束の間、竹田は次の作戦を計画する必要があった。
「義ちゃん。聞いた?なんだか避難所で事件があったって。吉沢さんから聞いたんだけど、何か知らない?」
「知らないよ。トイレに行ってたから」
「そう。なんかみんな話そうとしなくて」
あの事件は既に警察も周知の事実なのであろう。浅尾が警察に話していれば、既にこの仮面のこともバレている。確かにこの仮面は力を使うと決めた時以外は発動しないようだが、この先不便になることは必然であった。
「もっと大きい悪を倒して、時間を稼がないと」
竹田は焦っていた。現に後一週間程度しか猶予がなく、それに細々と時間を稼いでも結局のところ無意味であるからだ。
決めるならこの休校期間中しかない。学校が始まってしまえば、時間を思うように使うことはできなくなってしまうからである。竹田は小物よりも大物へとシフトチェンジすることにした。
それから三日後の夜中。台風によって散乱した木々が撤去されたころ、竹田は駅前の大通りに向かっていた。
「タケッチ。今回はどんな悪党を倒すプワ?」
プワコは竹田の周りを飛び回り幾分楽しそうである。プワコは母にバレることを防ぐため、家の中では極力話すことを制止されているからだ。
「夜にうるさい人達だよ」
吉俣駅の前はロータリーになっており、駅から道沿いに沿って吉俣商店街が立ち並んでいるのだが、その辺りには一つの問題を抱えていた。
竹田の目の前で、爆音を鳴らしながらいくつものバイクが通り過ぎていく。その音だけを置き去りにし、竹田とプワコは顔を見合わせた。
「ね」
「これは確かに悪プワね」
数分後再び音が段々と大きくなってくる。竹田は誰もいない道路の真ん中に立ち、堂々と右手を掲げた。向こうもこちら側に気づいたのか、竹田の周りをぐるっと囲み、竹田に詰め寄った。
「お前どこのもんや」
竹田は沈黙を貫く。焦ったくなった一人がバイクを吹かせ、圧力をかける。
「おい、聞こえてねぇのか?」
そこからは一瞬であった。竹田の拳は彼らを蜂のように捉えていく。バイクで逃げる暇もなく、その場に居た五人はあっという間に鎮圧された。
竹田は急いでその場を後にする。人気のなくなったところで竹田はプワコに尋ねた。
「今のでどれくらい増えた?」
「三週間プワ。流石タケッチプワ」
竹田はホッと一安心し、家路へと向かった。
塾から帰宅途中の前下幹樹は、夜の商店街を歩いていた。彼は数日前あのカツアゲにあった人物であった。彼は中学三年生。受験シーズンの真っ只中である。
バイクの轟音が彼の隣を通り過ぎると、前下ハァと溜息をついた。
「あんな奴らがいるから俺が苦労するんだ」
前下は難関高校を目指していたが、現状ではその 目標とする高校には手が届きそうになかった。そんな中で前下は鬱憤が溜まってたのである。
「死んでしまえ、死んでしまえ。あんな奴ら」
前下はそう吐き捨てた。
その少し後、あの暴走集団が一人を取り囲んでいた。前下はすぐにスマホを構え、その場面を動画に収めようとした。これをSNSに投稿すればバズること間違いなしであった。
だが、その動画は驚くべきことを捉えた。赤い覆面を被った人が一人、また一人とその男達を倒していく。前下はその赤い覆面の人物に見覚えがあった。あの時路地裏で自分を助けてくれた人物であった。その爽快感は前下を魅了するには十分であった。
前下は咄嗟に隠れてバレないように立ち回る。前下はすぐにSNS、Netterに投稿した。彼はすぐに家に帰り、その投稿のインプレッションを眺めた。彼が今まで投稿したどんなものよりも、伸びていく、その動画に彼の気は高まり続けていった。
その投稿のコメント欄には色々なコメントが書かれていた。
AIやCGなどいう者や、怯えている者様々居た。だがしかし、そこには圧倒的な賛美のコメントが寄せられていた。
彼らは不満に飢えていた。その欲を満たしてくれる存在を見つけたのである。
前下は追加で投稿することを決意した。
あの吉俣市で起きた、事件も彼が救済した事件であると。
その日の日本のハッシュタグ一位は赤いヒーローが占拠することになった。




