覆面を被った者
台風惨禍の中、小形率いる調査隊は吉俣小学校へ足を踏み入れた。小形と高山がパトカーから降りると、横なぶり雨が二人を打ちつけた。
「本当にここで事件が起こったんすか?」
現在外では風雨が唸っている現状、避難所で殺人事件が発生するなんて考えられなかった。
「おい、事件の話は極力するな。まだ知らされてない避難民も多くいるはずだ」
校舎に入り二人を出迎えたのは、その避難施設の責任者であった。
「あぁ、刑事の方ですか。こんな時にわざわざありがとうございます」
「いえ、それで現場は?」
「こちらです」
三人は再び雨の中に入り、現場へと向かう。雨は先程よりも強まり、カッパに打ちつける雨音が次第に大きくなっていった。
「これは、、、」
校舎のすぐそこに仰向けで倒れている死体があった。
「この上の階から転落したのか?」
「はい。その三階からです」
「でもそれなら事件じゃなくて、事故の可能性もあるんじゃないっすか?」
「いえ、三階はまだでしたし、それに目撃者が居たんです」
「その目撃者はどこに」
「別室で待機してもらっています」
小形は被害者の様子を確認する。側から見たらただの転落死ではあるものの、小形一つ気になる点を見つけた。それは手首のあざである。彼の手首には手形のようなものがくっきりと残っており、それが事件の香りを漂わせていた。
その時、施設長の携帯が音を立てる。施設長が少し話をした後、小形の元に近づいてきた。
「刑事さん。今河川の水位がかなり上昇していて、不味い状況なんです。一体ここから離れて校舎の中に入ってください」
「この遺体を保存しておかなければいけない。何かブルーシートと固定できるものを持ってきてくれ」
「ブルーシートは既に避難用で使い切ってます。それにこの風じゃ、固定なんてできません。さぁ、早く避難してください」
「くそっ!」
小形はなくなくその場を離れるしかなかった。本部は既に現状の対応に手一杯であり、増援を呼ぶことも厳しかったからである。
三人は校舎に入り、目撃者がいる別室へと向かった。
「君が目撃者の浅尾さんすか?」
「はい」
「一体何があったんだ?」
「私その男の人に腕を掴まれて、逃げようとしたんです。ですが、力が強くて、、その時にあの覆面を被った人が助けてくれたんです」
「覆面、、覆面を被っていたのか?」
「はい、赤色の覆面を被っていました」
現在調査している事件の目撃者も、覆面を被っていたと言っていた。これは同じ事件の可能性があると彼は考えた。
「体格は!ごつかったか?」
「いいえ。普通の感じでした」
「レスラー体型じゃないんすかぁ。まさかっすね」
小形は悩んでいた。今まで力の強い大男だと考えていたが、この証言が本当なら今までの捜査を一から組み立て直さなければいけないからである。
「わかった。ありがとう」
小形と高山は部屋を後にし、人が溢れる廊下を歩く。もし、目立った体格であるのなら、この事件は早期に解決したはずだ。だが、それが一般体型なら話は別だ。ここには無数に居るからである。
「けど、これは不味いっすね。犯人の動機が掴めないっす」
小形は高山のぼやきを他所に、自身の頭の中で犯人像を模索していく。前回の犯行の計画性の無さ、それに今回の事件。犯人もこの事件は突拍子に発生し、予想していなかったに違いない。
「高山これは、愉快犯ではないかもしれないな」
「え?なら望んで正義のヒーロー気取りをしている奴が居るってことっすか?」
「そうじゃないといいがな」
小形と高山は再び歩みを進める。外では風はいかんせん強いものの、雨は次第に小康状態になっていった。




