妥協正義
あの事件から二日が経過した。学校は事件の調査や安全性を懸念して、一週間の休校措置を取った。普段なら学生らは歓喜の舞を踊り、祝杯をあげるのだが、今回ばかりは皆外に出ることを控え、家で大人しくしていたのである。竹田は、母の出勤を待ち、十時ごろ財布とスマホだけを持ち外に出かけた。
「タケッチ。ついにやるっプワね」
「うん。こうするしかないから」
竹田はぐっと力を込めて拳を握った。
竹田は、私鉄吉俣鉄道の駅である吉俣市駅に向かった。吉俣市のメインストリートなっているこの駅は、通勤ラッシュではないこの時間であっても多くの人の賑わいがあった。
竹田は普通冨田行きに乗り込み、二駅先の沖川駅で下車した。この沖川駅は吉俣市の隣にある海苔町の市街地に位置する駅であった。竹田は駅から降りた後、その駅の名前にある通り、沖川に向かった。
一級河川沖川には、河川敷に野球場や駐車場があるほどの大きい河川であり、休日は賑わいを見せている。だが、今日は人気はなくがらんとしていた。
竹田は迷うことなく目的地の場所まで歩き続けた。しばらくすると、沖川にかかる古旗橋の高架下に辿り着いた。
ここの古旗橋の高架下は、不良グループの溜まり場になっており、地域住民も近寄り難い場所になっている。
竹田は昨日ネットでそのようなことを書いてあるブログを見つけ、この場所に足を踏み入れることにしたのである。
案の定、高架下には数人のグループがたむろしており、煙草、酒といったものが散乱していた。
「あ?なんか変な奴がこっち見てるぞ」
「ちょっと呼んでこいよ」
仮面男と不良。側から見たら異様な光景ではあるが、今日に限っては無観客開催である。声援も悲鳴も聞こえてこない。あるのはただ風の音だけである。
「おい、そこの変な覆面被り。何か言いたそうだな」
不良の一人が、竹田の前に詰め寄る。竹田とは同じぐらいの年齢ではあるが、体格は一回り、いや二回りは大きい。
竹田とその男の間には沈黙が走る。痺れを切らした不良が拳を振り上げた時であった。
竹田の拳が彼の顔を貫いた。倒れる男。その後ろからは幾人もの男が竹田の前に繰り出していった。だがそれは無力であった。
血が真夏の公園の噴水のように湧き上がる。その涼しげな風流など存在はしないが、ただそこにあるのは無情だけであった。
竹田は全員を倒しきるのに、かかったのは一分程度であった。格闘家なら褒められたものであるが、彼は一般人である。ただの犯罪だ。
「やったプワ。タケッチ流石プワ!」
プワコは竹田の周りをプワプワと飛び、喜びの舞を見せる。竹田はただ沈黙しているばかりであった。
「プワコ。これで一体どれくらい伸びた?」
「一週間プワ。悪人レベルが低過ぎたプワ」
「そう、、」
「タケッチ。そういえばこれはどうするプワ?」
「それも考えてきたんだ」
竹田はその倒した一人の足を持ちズルズルと引っ張っていく。竹田はある目星を付けていた。大規模な河川敷にはもはや人が住んでいるのか分からないプレハブ小屋が建設されており、この沖川の河川敷にも存在している。竹田はその中に六人の男を隠し、駅へと向かって歩き出した。
「タケッチ。あの血はどうするプワ?」
橋の下の石や草には、飛びちった血がべっとりとついており、ここで何かがあったことは明白であった。
「大丈夫。もうすぐ洗い流してくれるから」
竹田は行きと同じ方法で家に帰り着いた。家に着いた直後からポツリと雨が降り出し、次第には雨は窓を叩くようになっていった。
「タケッチ。どうして雨が降るって分かったプワ?」
「これだよ」
そう言うと、竹田はテレビを付ける。テレビでは台風19号が接近しているとのニュースが行われていた。
「大変、大変。大分降ってきてぇー」
ドアが開く音と共に、母が家へと帰ってきた。
「母さん。早かったね」
「電車が止まる前に早く帰ってきたの。ほら、思ったよりも強くなっているって言ってたし」
母はタオルで頭を拭きながら、竹田と同じくテレビを見ていた。
竹田は作戦が思うように進み安心していた。台風の日であるのならば、態々河川敷に行くようなもの珍しい人はおらず、雨で血を洗い流してくれるのには、十分であるからだ。発覚するのもしばらく後だろうと竹田は考えていた。
だが、彼は想定外の事態に遭遇することになる。




