決意を胸に
吉俣市警捜査課課長、小形秀。彼は非常に悩んでいた。検死官の情報によれば何か鈍器のようなもので殴られたと記されてあるが、その鈍器のような物が見つかっていないことに加え、付近の監視カメラ一帯がその時間だけ停止していたからである。
「これは結構八方塞がりっすね」
部下の高山颯が割り込んできた。
「これは計画犯だと思うか?」
「確かに監視カメラがここまで映してないことを見ると計画的にも見えますが、それならこんなにもわかりやすく遺体を放置しておくとは思えないっすね」
「そうだ。これは突拍子に起きた事件だ」
だが、小形はなお一層頭を抱えていた。これでは物的証拠がなく、容疑者を特定することは不可能に近い。走ったか、歩いたかそれとも車に乗ったかもわからない犯人を特定することは不可能に近かった。
「だけど、これ不思議っすよね。鈍器を使った割には傷は一つしかありませんし、どんなふうに振り回したらこんな狭い路地裏で、あんな力が発揮できるんでしょうか」
被害者の顔面は酷く陥没しており、被害者特定まで時間を要したこともまた事実であった。現状では、被害者は非行に走っており、その線で捜査するのが本筋ではあった。
「小形課長。目撃者が現れました」
それは一筋の光であった。捜査に王手をかける存在かもしれない。小形は高山に命じ、一つの部屋を準備させた。目撃者を怖がらせないよう普段使わない部屋を使うことにした。
部屋に入ると、そこに居たのは一人の少年であった。
「名前は?」
小形は取り調べに入るような顔つきで少年と目を合わせる。
「課長。それじゃあ喋ってくれることも喋ってくれませんよ。じゃあ君の名前はなんて言うんすか?」
怖面の小形に比べて、満面の笑みで少年を見る高山。この二人の飴と鞭のような審問の前では、誰も真実を話すことは部署内では有名であった。
「えっと、、、前下です。中学二年で、、その、、被害者の人には、直前までカツアゲされてたんです。ほら、、僕ひ弱そうに見えますから」
「なら、君はその後解放されたと?」
「いえ、、そうではなくて、、なんか謎の仮面?を付けた人が助けてくれたんです」
「仮面すか?その人は何か持っていましたか?」
「何も持ってなかったと思います。僕は一目散にそこから逃げたので何か見ていたんではないんですが、、発見場所と同じところでしたので」
「成程、分かった。協力感謝する」
小形は持っていたノートをバンと机に叩き、部屋を後にする。
「課長。まだ聞かなくていいんすか?」
「大丈夫。おそらく犯人はヒーローごっこに溺れた奴だ。所謂愉快犯というやつだろう」
「ですが、そんな愉快犯が武器なしで勝てるとは」
「馬鹿それを探すのが俺らだ。ほら聞き込みに行くぞ」
小形と高山は街へと向かった。小形は危惧していた。もし本当に犯人が愉快犯だとするのなら、犠牲者は更に出る可能性が高いからである。
そのころ竹田は、憂さ晴らしに叫んだ後、トイレを出た。あまり遅過ぎて、誰かに探されでもしたら面倒だからである。
「あ、竹田くん居た!」
そうやって声をかけたのは浅尾であった。浅尾は竹田を見るなり、急いで近づいてきた。
「休み時間終わってて、戻ってこないからさ。みんなあの事件の後だし、心配してたよ」
「あ、ありがとう。ちょっとお腹が痛くて」
「なら早く教室に戻って。今日はもうお終いだって」
浅尾は回れ右をして、教室の方へ戻って行った。教室に戻ると原田が竹田に酷く注意をした。あの時間の後だからみんながピリピリとしていた。
帰りも同じく集団下校であった。帰り道では皆はなぜ登校させられたのかについての不満を言い合っていた。
家に帰ると母さんは仕事に出かけた後らしい。冷蔵庫にはラップをかけて、オムライスが置かれていた。
「さぁ、タケッチ悪を裁きに行くプワ」
学校では窮屈そうに黙っていたプワコがワクワクとした表情で竹田に促す。
「無理だよ。もう人は殺したくない」
「タケッチは死んでもいいプワか?」
「良くない!!けど、、けど、、」
「タケッチももう分かってるんじゃないプワ?もう覚悟を決めるプワ」
竹田は否定していた。自身が生きるために悪人といえど、人を殺すなんて一線を超えているからだ。だが、どこかで巻き込まれた自分も被害者で仕方がないことであると思っているところもあったのだ。それに母のためにも死ぬわけにはいかないかったのである。
苦虫を噛み締めるような気持ちで竹田は決意をした。人を殺すと。
「俺に残された時間は後どれくらいなんだ?」
「4日プワ。悪人のレベルによって、エネルギーの蓄積具合が変わるプワ」
後四日、長いようで短いその期間は竹田を焦らすには十分であった。竹田は入念な計画を立てるために準備を進めることにした。




