Justice Is Power
竹田は毛布の中で朝を迎えた。どこかで泣き疲れて眠ってしまったみたいだ。
朝日を浴びると昨日のことが嘘であったかのように思える。ただその嘘を否定する存在が彼の隣にいた。
「よく寝れたプワか?」
空を飛ぶ謎の存在プワコ。犬のように見えるし、天使のように見えるこの存在は、いつしか忌々しい存在へとなり変わっていた。
部屋から出ると台所で準備する母がいた。母は彼に気がつくと、フライパンを持ちながら彼に話しかけた。
「昨日は大丈夫だった?降りてこないから心配していたのだけど」
「大丈夫。ちょっと風邪気味だったぽくてさ」
竹田は、表面だけの嘘で取り繕った。
「そう、なら早く朝ごはん食べなさい。何も食べてないからお腹空いてるでしょ」
その母の言葉に共鳴するかのように、竹田の腹はぐぅと鳴った。食欲はなかったが、何か食べなければいけない。
母の料理を待つ間に竹田はふと付いているテレビに眼をやった。天気予報では晴れとなっており、占いもどんどん発表されていく。いつも通りうお座が12位だったようだ。
そんな中朝のトップニュースが流れる。
「まずは、本日の朝、吉俣駅付近で発見された遺体についての最新情報です。吉俣駅付近で発見された遺体には、鈍器のようなもので殴られたような跡があり、警察は逃亡している容疑者を捜索中です」
「あら、ここら辺じゃない」
ソーセージと目玉焼きを持ってきた母がそう言った。
竹田は、焦っていた。いくら面を被っていた、いくら鈍器を持っていなかったとしても、自分が見つかるのは時間の内だったからだ。彼の頭の中では言い訳ばかりが浮かぶ。異星人に誑かされたから、そんな力があるとは思ってもなかったから。そんな言い訳が通用するわけがない。竹田は自問自答に苦しむばかりだった。
「義ちゃん。学校集団登校するって」
母の携帯には学校からのメールが記されていた。竹田は、もはや休校になった方がありがたかったが、行かなければ容疑者としての可能性が高まるかもしれないと思うと、ふぅーと一息つき、母の食事を堪能した。
「道中話しかけるなよ」
竹田はそうプワコに警告した。
「わかったプワ、けどタケッチ。悪いやつを倒してなんでそんなに怯えてるプワ?」
プワコの純粋な疑問が竹田の心を刺す。人間の法律など知らないプワコにとってはそれが疑問だったのであろう。
「お前らとは違うかもれないけどな、人間は悪いことは出来ないんだよ」
「でも、あいつも悪いことしてたプワ」
「それでも、、、ダメなんだよ。殺しちゃ」
竹田は捻り出すように言葉を吐露した。
「おーいこっちだぞ」
そう呼びかけるのは香取地区代表の田端であった。
「お前らも大変だな、こんな事件があったのに学校だなんて」
田端はやれやれと言った顔つきで、竹田を見ていた。次第に人が集まり、大体四十人ほどの大規模な集団となった。皆はそれぞれ仲の良い友人と共に噂話をしているが、竹田はそれは出来なかった。気持ちの面ではなく、物理的に。
学校に到着し、それぞれのクラスに入る。窓側から二列目の一番後ろが彼の席だ。竹田の隣に一人の女子が座る。浅尾祥子、どんな人にでも話しかける分け隔てない人、悪く言えば八方美人な人である。
「おはよう竹田君。今日のニュース見た?」
「あ、うん。見たよ」
「ここだけの秘密なんだけど、あれ殺されたの、うちのクラスの津川君らしいよ」
「へ、へぇそうなんだ、、大変だね」
竹田は浅尾の視線を外し、床を見つめる。浅尾にバレることが怖かったのではなく、ただ話すことに緊張感を覚えたからだ。
そうこうしていると、担任の原田先生が入ってきた。
「お前ら静かにしろ!席につけ」
原田がそう号令をかけると、生徒たちは各々の席に付き、一同同じ方向を向いた。
「お前らも聞いてると思うが、昨日この辺りで殺人事件が発生した。容疑者は今も逃亡中だ」
ざわざわする教室。無理もなかった。彼等を突き動かすのは恐怖よりも好奇心だからだ。
「それと、もう一つ。これはまだ公開されてない情報なんだが、、、殺されたのはうちのクラスの津川だ」
知っている者知らぬ者。その反応はくっきり分かれていた。さらに一層クラス中が騒がしくなる。
「静かに。騒がしくなる気持ちも分かるが、今は落ち着いてくれ。誰にも言うなよ。勿論親にもだ」
皆は理解した。先生のくっきりとした顔は後にも先にも見たことがないからである。
休憩!との合図でクラス一同は教室の至る所に散らばっていく。そんな中竹田は一人、トイレに篭っていた。
「ここが学校と呼ばれるところなんだプワねぇ」
プワコは不思議そうに辺りを飛び回ってる。宇宙からきたプワコにとっては全てが新鮮なのであろう。
「で、どうするんだよ。この後」
「また、悪人を懲らしめにいくプワ」
「無理だよ!もう!何もかも。俺は終わりだ捕まるんだ!」
トイレの中で彼の声がこだまする。幸いにも教室から離れたトイレであるため、人はいなかった。
「何も終わってないプワ。始まったばっかりプワ」
「俺は、もう降りる。他の人をヒーローにしろよ」
「それは無理プワ。ヒーローになったからにはヒーローを続けなければタケッチは死ぬプワ」
「え?」
プワコから放たれた衝撃のひと言に竹田は硬直してしまう。
「あの力は命を動力源に使えるプワ。あの力を放棄することは死ぬことと同じプワ」
「そんなもん、勝手に付けるなよ」
竹田の怒りはもっともであった。ただ彼が不幸なのは、リコールできない事である。
「大丈夫。タケッチは強いプワ」
竹田は歯を食いしばり、どこにもやらない怒りを飲み込むしかなかったのである。




