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正義のパンチ

プワコに促された竹田であったが、悪なんてそんな簡単に見つかることなく、家についてしまった。


「プワコを飼ってもいいか、母さんに聞かないと」


「大丈夫プワ!プワコは姿を隠せるプワ」


プワコはドヤァと顔をしているが、竹田はホッと安心するばかりであった。


「さぁ、荷物を置いて人が多いところに行くプワ」


プワコに促され竹田は、家のドアを開ける。


「あら、今日は遅かったじゃない」


「ちょっと、色々あって」


さっさと自分の部屋に入り、荷物を置く。その足で再び外に出ようとした時、母に呼び止められた。


「こんな時間からどこに行くの?」


「ちょっと買い忘れたものがあって、、」


「早く戻ってくるのよ」


はーい。と軽く返事をし、竹田は再び外に出る。夕日は既に西に傾き、辺りは段々と暗くなってきていた。


「さっきのは誰プワ?」


「俺の母さん。最近は家にいることが多くて」


「タケッチと同じで優しそうプワ!」


竹田達は人の多い駅前へと向かった。帰宅時間のためか、人は多くみんなそれぞれの家路へと向かっているばかりであった。


竹田は半分諦めていた。悪人がそう簡単に見つかるのならば、犯罪者に懸賞金をかけるなんて存在していないからである。


辺りは既に暗くなり、駅前から少し離れると、街灯の灯りが照らすのみであった。


「なぁ、もう帰らない?俺も遅くなると困るからさ」


「夜は一番危険プワ。早く悪人を見つけるプワ!」


「そう会えるものでもないのに、、」


「極悪人だけが、ターゲットじゃないプワ。タケッチに反抗するのは全て悪人プワ」


「それはちょっと過激じゃない?」


そんな話をしていると路地裏から声が聞こえてきた。竹田らはひっそりと道影からこっそりと様子を伺う。


「おい、ちょっと金出せよ」


いかにも人生の道から外れてそうな、外見と発言に、竹田はこれがカツアゲであると瞬時に理解した。声をかけられているのは、竹田よりも幾分小さい少年であった。


「あ、あいつってもしかして」


竹田には心当たりがあった。竹田の通う吉俣高校には、ほとんどクラスで見かけたことのない、津川という不良がいた。入学式の際に一度だけ見かけたことがあり、その目立つ髪型とピアスは彼であるということを証明していた。


「さぁ、今こそ力を使うプワ!」


「待って待って、幾ら力が強くなったって、あそこに乗り込んでいける程、自信がないんだけど」


「大丈夫!タケッチは強いプワ。さぁレッツゴープワー!」


プワコは竹田の肩をポンと押し、足音が路地裏にこだまする。


「あ?なんだお前?こっちは忙しいんだよ」


竹田はビビっていた。生まれてこれまで一切喧嘩というものをしたことがないからである。だが、ここで引き返して仕舞えば、あの少年がどうなるか、考えても恐ろしい。


「い、今すぐその手を離せ」


竹田はそう震えながら声を絞る。津川がこっちに関心が向いている間に、少年は隙を見て逃げていった。


「変なお面被りやがって、そのツラ拝ましてもらうぜ」


津川の一発が竹田の横腹を襲う。あまりの衝撃に竹田はその場にうずくまってしまった。


「早く立つプワ!正義のパンチを喰らわすプワ」


竹田は躊躇っていた。人生において人を殴ったことがない。その一線を越えてもいいのかと。だが、津川の顔を見るとその考えは消えていく。彼の顔は人を殺す顔をしていた。


津川の一発がまた顔に入る。その尋常じゃない痛みに、竹田は決心した。


「うわぁぁぁぁぁぁ」


彼は自身の右ストレートを思いっきり、津川の顔に向ける。彼の突発的な攻撃は津川の腕をかわし、彼の顔面へと吸い込まれていった。


グシャ


殴ったとは思えない音が辺りに響いた。竹田は閉じていた眼を恐る恐る開ける。自身の右手は既に赤色に染まっていた。


目線を上げると津川は、壁にもたれかかっている。だが、彼にはもう顔がない。誰が誰かわからない様相になっている。


「やったプワ!悪を倒したプワ!」


「ちょっと待って待って、、あれ死んでる?」


「プワ?そうに決まってるプワ!やったプワ」


喜ぶプワコを他所に竹田の脳内コンピュータは膨大な情報量を前にパンク状態であった。彼は一歩また一歩その場所から離れていく。この場所に残れば捕まることは必然であるからだ。


路地裏を出ると、ダッシュで家へと帰った。家に着くやいなや右手をゴシゴシと洗い続ける。色が落ちてきたとしても、ただずっと洗い続ける。


「ちょっと、帰ってきたのなら言いなさいよ」


母の声で竹田は我にかえった。蛇口を閉め、後ろを振り返る。


「ごめん母さん」


「あら、どうしたのその顔の傷」


「転んだんだ。だから汚れたから手を洗おうと思って」


「もう、ドジなんだから。ご飯出来ているけどどうする?」


「今はいいかな」


「そう、ならまた食べるときにいらっしゃい」


竹田は二階にある自身の部屋に向かった。自分が人を殺したことを受け入れることは出来なかった。ただ毛布を被り泣き叫ぶだけだった。

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