聖奈と結菜の物語が始まった
結菜と聖奈はここからは漢字表記です。
いつも誤字脱字を報告してくださる皆様に私は大感謝しております。
いつもありがとうございます!!!
聖奈と結菜はこの国にやってきた時から、このウランバルブ王国の貴族に辟易していた。
「正直貴族なんて日本で会うことがないからわからなかったけど、とっても面倒な存在ね」
聖奈がため息交じりに結菜に愚痴をこぼすと結菜も苦笑いをした。
「貴族の方達って生まれた時からたくさんの決まり事を背負わされているのよ。私たちが住んでいる現代のような世界になるまでこの国はさらに時間が必要になるわ。まあそれが正しいかも分からないんだけどね。私たちがここに居る間は変わらないでしょうから、私は日本が恋しくなっちゃうな」
そう聞くと聖奈は安心したように微笑む。
「私もだよ」
ウランバルブ王国の人間に分からないようにきちんと日本語で話していると二人は少し本音が語れて息抜きができる。異世界転移のお約束で言葉に困らないが、敢えて日本語が話せるこの能力は正直ありがたい。
二人は聖女として同時にこの世界に転移してきたが、相棒となる日本人が自分の常識と近い感覚であり、年齢は違えど友人になれたことをとても心強く思っている。
二人でなければ乗り越えられなかったことが多々あり、今でこそ笑いながら日本語でこっそり話せるが、こんなガス抜きができなければとっくの昔に心を病んでいたかもしれない。
転移した当時、聖奈は二十六歳。地方都市のデパートに隣接する高層ビルが職場であった。近代的なデザインの職場は地方都市では目立つ場所で、そこのスポーツジムのトレーナーとして短大卒業後からずっと働いていた。
その日は早番で、昼過ぎに退勤のタイムカードを押し、いつも通り更衣室で着替えていたら突如衝撃が襲い、気がついたら転移していた。
ブラトップとショートパンツ。その半裸状態で多くの人前に飛ばされたことを今でも恥ずかしく思っており、神様に恨み言をチクチク伝えているが、神様からお返事をもらったことは未だにない。
よくある小説では聖女と言われる女性は十代で学生が多いのに自分はガッツリ社会人で、なんなら彼氏もいたので正直とても凹んだ。
日本で精一杯生きていたし、自分の人生に満足していた分転移した事実が暫く受け入れられなかった。もしウランバルブ王国に飛ばされる要因があったとすれば、付き合って半年目の彼氏に、ちょっかいをかけていた同じ会社の後輩が呪いをかけたとしか思えなかった。
そして聖女としてもう一人の女性がいたことに今は感謝しかない。
よくある小説では二人の聖女が転移した話では王道として、できる聖女と不出来な聖女……などが登場するが同じく転移してきた結菜は非常に常識的で、自分と同じような環境で育った、善意と悪意のバランスの良い人間であった。
太りやすい聖奈とは真逆の小柄で華奢な彼女は身長の小ささとは裏腹にしっかり者で前向きな女性だった。そして、聖奈の好むタイプの女性であった。
聖奈は自分がトレーナーという職業柄『サバサバしてるんです〜』という女性の言葉を何よりも信用していない。なんならサバサバを男の前で気取っている人間が一番ねっとり粘着質であると思っている。
ジムに通う女性は様々だ。基本的に自分の体を真面目に変えたいと全力で取り組んでいる女性はポジティブで結果を素直に喜んでいるし、自分に目を向けている。
対して、『体動かさないと落ち着かなくって。私って男っぽいんですよ〜』と男性会員に向かって話している女性ほど、男目線を気にして、気に入った会員がいたらすごい勢いでロックオンし、気絶しそうなくらい計画的にアプローチをしているのを六年間見続けていた。筋肉がつき過ぎるトレーナーの女性をほんのり小馬鹿にして『私頑張ってるのに、筋肉になりにくいんですよね〜』と微笑んでいる姿に偶に殺意が湧いていたのは今でも秘密だ。
聖奈は、明るく運動好き。そして体の動かし方にこだわりが多かった。
父親が整体師という職業であったことも大きく影響し、筋肉と骨の仕組みに詳しく、トレーニングは短時間でもかなり効くと好評を得ていた。その上顔立ちが整っていたこともあり、人気のトレーナーであったがそういった女性たちからの指名は本当になかった。
そんな聖奈が分析する結菜は『俺の嫁にしたいぜ!!世の中見る目のない男が多過ぎる!』といったタイプの女性だ。
年齢は三十五歳。化粧品会社に勤めており役職についていたらしい。仕事柄か、元からなのか肌はとてもきめ細かく美しいし、顔筋のトレーニングのおかげか、シワや弛みもない。顔立ちは超絶美人とは違うが、雰囲気があって品があるのだ。
残念ながら二年ほど彼氏はいないそうだが『元彼は六歳下だったの。五年付き合って振られたのよ〜やっぱり私の顔に「結婚して欲しい」って書いていたみたいで……』と話してくれたことで色々と察した。
元彼は五年も付き合っていたのに『結婚』を決断できずに三十歳を過ぎた結菜を捨てたのだ。
そのあとの展開は読めたので
「へ〜その元彼、結菜に復縁迫ったでしょ?」と聞くと
「え!なんでわかったの?一年経ったくらいからRINEがあまりにも来るからブロックしたり大変だったの。会社の前で待ち伏せは引いたかな〜ストーカー?って言いたくはないけどしつこくて。向こうから別れてって言ってきたのになんでかしらね?」と首を傾げていた。
結菜は見た目の可愛らしさは勿論だが、何となく声が良い。少し高音で嫌味がない。そして彼女は信頼が失われた関係に縋るタイプではないと思ったがその通りであった。
彼女は女性ながら役職に就いており、仕事も細やかだし、人への気遣いも丁寧だ。
聞けば弟二人の姉であった。
おそらく、気が利いて、世話を自然に焼くタイプだろうと見当がついた。
『ついでだったから』が口癖で、討伐中もいつの間にか荷物の整理をしてくれていたり、お菓子を分けてくれたり、聖奈の下着をサッと洗ってくれたり(恥ずかしかったがそのうち慣れた)、周辺を簡単に片付けたりとマメなのだ。
二人の姉を持つ聖奈は時間もかけずに彼女に懐いた。妹気質の人間は、自分の世話を上手に焼いてくれる女性に対して目敏い。
聖奈とは九歳の歳の差があったが、二人はウランバルブ王国の人々からどうやら二十歳前後だと思われているとすぐに気がついた。
『月のものは始まっていらっしゃいますか?』と侍女長からユイナが聞かれているのを耳にして(流石にそれはないじゃない?初潮も来ていないように見えるの?)と焦ったりもした。
国民からは二人に年齢差があるとは思われず、聖奈も同じ扱いであると分かった時はなんとなくホッとした。彫りが深く、高身長で大人っぽいウランバルブ王国の人々と自分たちのギャップには戸惑った。だが日本人の見た目年齢の誤解を『訂正するのもなんとなくねぇ』と完全黙秘で過ごしていた。
今思えばこれが自分たちの最初の間違いであったような気もするが、結婚年齢が非常に若いこの国で『私たち三十五歳と二十六歳なんですよね〜』というカミングアウトは非常にしにくい。いや、敢えて言おう。自分の年齢を履歴書を書く必要のないこの世界で明言できる女性はいるのだろうか?
『年増の聖女』『おばさん聖女』と言われるのが正直に言って本気で嫌だった。
貴族の若い女性は十六歳で嫁いで子供を産んでることも多いため侍女の一人が
『アタクシは今三十歳です。女としての先輩ですから悩みはなんでも聞いてくださいな。はい、息子はあと二年で成人致しますのよ』と話しているのを聞くと震え上がってしまう。
年齢差別はこの国では絶対にある!!二人はそう思っていた。
そして実際社交界を幾度も覗いていると『お若く見せようとされていますけど、二十一歳になられるのですって。未だにお相手がいらっしゃらないなんてね。これはどこかの後妻に出されるでしょうねぇ』などという会話を聞くたびに『とんでもない世界だ。女性が仕事に就きにくい一昔前の日本と同じ感覚だ!ここは《女》の寿命が早過ぎる』と二人でヒソヒソ話し合うことも多かった。
ウランバルブ王国の平均結婚年齢は十八歳前後から二十歳が一般的なようだが、十六歳くらいの出産が可能な女性は貴族であれば嫁がされ、家に囲われているのはすぐに分かった。
男性の結婚年齢もそれに近く、中年である男たちは離婚したり、妻を亡くせば再婚を考えている人間も多い。
家の血を残すというのはどこの国でも世界でもそれなりに浸透している考えなのであろう。男の下半身寿命は残念ながらウランバルブ王国でも長いらしい。
結菜は転移当初よく夢で魘されていた。
「ごめんなさい。本当は年増のおばさんで…………」寝言が日本語であったので聖奈しか理解していなかったが、魔物討伐よりこのことを隠し通している現実の方が重荷であった……とのちに語っている。
聖女の力が上手く使えるようになる頃には聖奈と結菜はお互い打ち解けており、結菜は『ごめんね。私がアラフォーだからやりにくくない?』と聞いてきたことがある。
「いやいや、結菜私と見た目も変わらないし、なんだったら私より若く見えるから!それに本当に図々しいのを承知で言わせてもらうと、結菜みたいな女の人って落ち着くんだよね〜常識が一緒っていうのかな?変に気を遣わなくっていいし気軽な気持ちなの。だから結菜もわたしに心を開いてくれたら嬉しいよ」
ニッコリと笑いかけながら気さくに話すと結菜は少し肩の力を抜いた。
「ありがとう。そう言ってもらえたらとても助かるんだけど、私前の職場で後輩から年齢のこと言われて考えちゃったのよ。二十代の人から見て私ってウザいのかな?って距離の取り方が迷子になってて」と自分のことを珍しく語り出した。
自分が勤めていた会社は化粧品メーカーである。
だからこそ肌が美しく、見た目の良い女性は出世しやすかったり、コスメカウンターでも売り上げを伸ばしやすいそうだ。
美しい顔立ちも、肌や、髪の艶、美意識が全て武器の世界……そこに関してはジムインストラクターの聖奈も激しく同意だ。
美人は二十代の時はチヤホヤされるが三十代に入ってくるとそれなりに加齢による肌悩みで格差が徐々に生まれる。マウントを取ったり取られたりもあるそうで、結菜は深く考えるタイプではなかったが、見た目の衰えを気にして退社に至った同期も何人か居た。
そんなある日表面上は『結菜先輩!』と慕ってくれていた後輩が
「あの先輩三十五歳にもなるのにまだ結婚もしないで居座る気みたいなんだよ。彼女がいなくならないと、私ずっとチームリーダーになれないんだよね〜分かってるのかな?」
「え!結菜先輩って三十五歳なんですか?!そりゃやばいですね!今時会社に骨を埋めるとかは勘弁して欲しい感じですねぇ」
「その時はおばあちゃん向けブランドの部署に異動してくれてると助かるんだけど。自分が邪魔な存在になってきたって早く気がついて〜」アハハハ……フフフ……
……と悪口を偶々聞いてしまった。
仲がよく、食事も度々行っていた関係だったのでその言葉はショックだった。落ち込んだ気持ちを引きずって本社のエレベーターに乗り込んだ瞬間に結菜は転移した……
落ち込んだまま、なんの解決も出来ず、この世界に来てしまったから後輩を嫌いになりそうなんだよね、と聖奈に告白した。
「いやいや、嫌って当たり前だから。その子性格に問題がありすぎでしょう。別に結菜が邪魔とかなくない?」
「そうね……でも彼女からすれば三十代の私がいなくなれば所属していた部署では出世の一歩が踏み出せたかもしれないって思っていたと思う。実際一人しかなれない役職だったから若い人たちのチャンス奪ってるのかな?って考え込んじゃって」
「結菜はそんな風に考えるの?後輩は人を思いやれることができない性格だから上に上がれなかったんだよ。会社だって馬鹿じゃない。その結果、結菜の方に仕事を任せていたのは間違いないわ。逆にチームをまとめられる人間性に年齢関係ないよ」
「彼女が言うことにも一理あるって思っちゃって」
「でも、人は年齢じゃ判断できない。人から好かれたり共に歩みたいって思うのは年齢だけじゃ計れないものがたくさんあるよ。優秀ならきっと後輩の子が指名されるはずよ。それに私はその後輩と歳が近いかもしれないけど、そういう考えを持っている人と仲良くなりたいって思えないから」
聖奈がキッパリと告げると結菜は嬉しそうに笑った。
「今の言葉勇気出た。ありがとう」
聖奈は(やっぱり結菜は年上だけどこういうところ可愛いな〜)と思うのだった。
この次の話を書くために私はこの話を書き始めたのではないかと思うくらい書きたかった笑




