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聖女二人はサバサバ系  作者: 三輪 有利佳  (旧 美輪 伊織)


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11/21

思った通りにならない(後編)

ここは前後編になってしまいました。一気読みしていただけるように同日にアップします。

 王が演説を始めるのだろう。

 ホールに響いていた音楽が鳴り止み、王妃が席を立ち、王の側背後で背筋を伸ばしたのが合図だ。


 王は二階席からホールを見渡した。

「皆の者。今夜集まってもらったのは国の厄災に勇敢に立ち向かった神の子『聖女ユイナ、聖女セイナ』を讃えるためでもある。私はこの場を借りて二人に褒美を与えようと思う」

 大きな拍手が沸き起こり、歓声が上がる。

 それを合図に聖女二人はスッと立ち上がり、国王の前に進み出た。


「二人とも、この二年間本当に身命を賭して国のために働いてくれた。先ずは私たちからこの国唯一の称号『聖女』を改めて授ける。この称号を持つ二人は貴族院、神殿にも影響を与えることが出来るということを皆に知っておいて欲しい。尽力してくれたこの功績に王として敬意と感謝を形にする」

 聖女は神殿、貴族たちと同等の扱いだぞ、と国王が決めたのだとホールの皆は再確認をする。そして、この国でも上位の権限を与えたのであるから、〈簡単に出ていくことは許さない〉と言っているとも取れる。


 聖女二人は恭しく頭を下げ『誠にありがとうございます。謹んでお受けいたします』と声を揃えてお礼を伝えた。

 宰相が「それでは今回の報奨の目録をお伝えします」と話し始めるとどの貴族も聞き逃すまいと口を引き結んだ。


 まずは子爵位の貴族たちが与えられる広さの領地の裁量権とその資金が読み上げられる。女性に渡す資産としては十分に大きいと思われる内容に貴族たちは大きく頷いた。

 続いてその場所。

 聖女に与えられたその内容は少々期待外れではあった。セイナに渡された場所は、以前から国預かりだった大きすぎない土地で、作物が育ちにくく乾季が長い南側。聖女ユイナは鉱山としてすでに廃坑となった山々が連なる東南。


 誠実な貴族は『もう少し色をつけてあげても良いのでは?』と騒つくが聖女たちは済ました顔をしたまま正面を向いていた。

 

「そして、今宵は良い機会を得て貰いたく多くの未婚の男女を呼んでおる。魔獣被害から国を守り、己の責務を果たしてくれた国民の気持ちも晴れた今だからこそ!であるな。今宵は大いに楽しんでくれ」

 いよいよ婚活パーティーの始まりだ!と王が宣誓したも同然である。


 大きな拍手と共に楽団が打って変わって明るいワルツを演奏し始めた。



 ユイナとセイナは深くお辞儀をすると壇上から階下のホールへと降りていく。


 オスカーやジェラルド、パーカーが聖女二人の前に先頭に立って進み出た。


「ユイナ、セイナ。二人とも本当に討伐では力を尽くしてくれてありがとう。ここからは僕たちにエスコートさせてくれないか?」

 オスカーがニッコリと微笑んだ。

 背後でどこかの令嬢があまりの色気に気を失ってフラリと倒れかけている。


「ダンスは苦手かもしれないけど一緒に少し踊ってみない?人目につかないバルコニーなら楽しめるよ」ジェラルドが長い手を伸ばしてユイナの髪を一房手に取り口付けをする。

 それを見た子供もいるような夫人が頬を真っ赤に染め上げた。


 ジェラルドのテクニックに十歩は離れている女性まで一撃だ。


 パーカーがセイナの背後に回って腰に手を回す。

「もしダンスに気が乗らないなら、向こうでお酒と食事を準備させよう。人目が多いと気疲れするからね」

 普段冷笑しか浮かべなかった貴公子の本気の口説き文句に男たちは性別を超えて震える。


 三人男の本気の口説きが凄すぎてホールの貴族たちは暫し物語を見せられているようだと放心した。



 しかし……



「うーん、嬉しいけれど私は討伐隊の皆さんと今夜はまずは乾杯をしようと思います」セイナがキッパリと告げ、その手からスルリと身を捩った。


「私も今夜は約束があるので、もしダンスをするなら彼と踊ろうと思っているんです。オスカー様。ぜひ可愛らしい、その地位に相応しいご令嬢を選んでくださいな。私がお相手では他のお嬢様たちが納得しませんわ」

 ユイナがコロコロと笑った。

 やんわりとした拒絶の姿勢である。


 三人は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。


 まさか断られるなんて夢にも思っていなかったような……



「だが……」

「でも……」と三人がそれぞれ話し始めようとしたとき、ホールの扉が再び開かれ、ウィリアム副司令官と総司令官が入場した。


「あ、ウィリー」

 ユイナがクルリと後ろを振り向くと副司令官が見たこともないような満面な笑みを浮かべ両手を広げた。

 『え?』と会場中の人々が思っている間に二人の距離はあっという間に縮まりユイナが抱き上げられた。


 それは年が離れた兄が妹をあやすような……いや、親が子供を抱き止めるような姿だった。



「ユイナ殿、最初に踊る権利をぜひ私めにいただけないだろうか?」

 熊のようにむさ苦しい男が今日は幾分小ざっぱりとした姿で驚くべき発言をすると周囲が『ええっ!!』とさらに声なき声をあげる。


 ユイナはとろけるような甘い微笑みをウィリアムに向けると

「喜んで」

 と頷いた。


 ウィリアムは平民の男で婚期を逃した四〇歳手前の騎士だ。昔、平民の婚約者はいたのだが二十歳を迎える前に心変わりされ、婚約が解消された。

 その過去を引きずっていたのかは定かではないが、彼はそこから縁がなく、軍に骨を埋めていた実直な男だ。だが年齢が非常に上に見える……歳の差二十歳といった風でひと回り以上下のユイナが娘のようだ。周囲の貴族は呆気に取られた。


 見た目も、地位も、年齢も何もかもが不釣り合いな男が手を差し伸べているのだから。


 そしてその横に総司令官のディケンズが同じように膝をついた。


「セイナ。君をずっと知りたいと願っていた。今夜をキッカケの日にしていただけないだろうか?私は貴女より年もずっと上だし容姿もこんな風だ。だが君の傍に誰よりも居たいと切実に願っている」


 オスカーたちは驚き過ぎて声も出ない。


 ディケンズは総司令官として確かに優秀であるが討伐軍の人間だ。


 ウィリアムと同じく平民に毛が生えた程度の地位しかなく、今回の討伐で子爵の地位へ陞爵されたものの財産が有り余るような人間でもない。

 そしてその容姿は女性から忌み嫌われるものだった。


 高山地区からやってきた食べても太れない民族出身で、ヒョロリと背が高く目が糸のように細い。

 魔術の力は圧倒的でその総司令官の地位まで瞬く間に駆け上がったと聞いているが、一番はその不気味な色合いだ。

 魔獣に幼少期襲われた後遺症で、額から耳にかけて大きな赤黒い痣がある。

 吊り目とその痣のせいで彼に声をかける女性など皆無で、特に貴族の女性から彼らの名前が挙がってくることはなかった。


 部下は彼らを慕っては居たようだがとてもじゃないが聖女たちが彼らを好きになる要因が見当たらない。

 なぜなら、彼らは聖女たちに媚を売ることもなく、淡々と接していたはずだ。

 甘い言葉をかけるどころか、聖女たちの奇行を止めに入って揉めているのも彼らだった。オスカーたちは聖女に嫌な思いをさせないように、いや、……嫌われる要素を排除するため、その仕事を全てウィリアムに振っていたのだから。


「セイナ?いつディケンズ殿と踊る約束をしたんだい?」

 パーカーが震える声で聞くとセイナはフフフと微笑った。

「いつだって彼らは私たちと行動を共にしていましたから。その機会はたくさんありましたよ?いつって言われても逆に分からないくらいです」


「もしかして彼らに脅されているんじゃないのか?」ジェラルドが訝しげに彼らを見ると一瞬で総司令官と副総司令官の表情が憤怒のそれに変わる。貴公子のジェラルドは普段見せない彼らの深層に触れてしまったのを感じ思わず言葉を引っ込めた。

 

「ユイナ……その…………君は彼が平民だって知っているのかな?なぜ彼と踊るんだい?ウィリアム副司令官は……年齢も父親ほどの歳だよ?」

 オスカーが信じられないものを見るような眼差しを聖女たちに向けてもユイナは平然としていた。


「年齢……ですね。私とちょうど釣り合いますから、気が合ったのもあるのかもしれませんね。オスカー殿下、本当にずっと私のお話を聞かなかったのですね。この国の国民性なのかしら?自分が思ったことを情熱的に伝えるばかりで人のお話に耳を傾けないというか……」

 うーん困りましたね。と言うとユイナは眉尻を下げ困ったように微笑んだ。


 その表情は本当に困っているようでセイナとユイナが彼らに強要されているようには感じられなかった。


 それも一瞬であった。

 ユイナが答えを探して沈黙している間に、討伐軍の面々が彼らをグルリと取り囲んでいた。


「総司令官!!良かったですね!!ぜひダンスを!!」

 部下の誰かが声を上げると

「ユイナ殿!!是非うちの朴念仁と踊ってやってください!!意外とダンスは上手いんです」

「そうですそうです!今夜は楽しみましょう!!」

と口々に囃し立て始めた。

 貴族にはない威圧感と、その大声にその場が圧倒される。

 

 兵士たちの誰もが聖女たちとこの不釣り合いな大男たちのカップルを歓迎するように拍手すると、貴族たちも珍妙な雰囲気に納得しきれないようではあったがパラパラと手を叩いた。


 王と王妃は二階席からそれを眺めながら一体どう言うことだろう???と首を傾げた。


 聖女たちの男の趣味が悪過ぎてこんな状況になっているのだろうか?


 首を傾げて宰相の方に視線をやれば『まさか国一番の美貌の息子が振られるなんて……』と呆然としていた。


 貴族たちはその日いつもは少ない討伐軍の人間の空気に飲まれ小首を傾げながら状況を把握しようとするがその真相がわかるものは殆どいなかった。


 聖女たちは二階席の王家に再び礼をするとオスカーたちに軽く会釈しダンスホールに向かって歩いていく。エスコートはもちろん糸目の中年ディケンズ総司令官とむさ苦しいウィリアム副司令官の二人だ。


 自分たちが思っていた展開にならないことに貴族の皆は、狐に摘まれたような気持ちでダンスをする男女を眺めているのであった。

 


  

やっとウランバルブ王国の貴族と聖女たちの食い違いを答え合わせします!

この話のメインディッシュと言っても過言ではありません(過言かもしれません)

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