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封神千希「俺は新人対魔剣士」  作者: アリエス
一章

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19/20

四、弍-後「役割」

ざわめきの質が違う。人の動きが、どこか一点へ引き寄せられている。


その方向へ、ツカサが自然と視線を向けた。

「おっ、なんだ?」


隣でジンも、遅れて反応する。

(うん?……)


耳に、断片的な声が飛び込んでくる。


「おいっ、囲め!」


「うっ、うわっ」


「どうする!?」


人の壁の向こう側で、緊張が一気に高まっている。


兵士たちが円を作るように構え、その外側には野次馬が膨らんでいた。

距離を取ろうとしながらも、完全には離れきれない群衆。


ケイがその様子を見て、わずかに目を見開く。

「え、ええ……」


ツカサは一歩、視界を確保するように位置をずらし、その中心を捉える。

「おっ、あれ獣魔じゅうまか!」


その一言で、ジンの意識も引き寄せられる。


人の隙間から覗く“それ”を、目が捉えた。


「……」


(じゅ、じゅうま……)


兵士に囲まれた中心。

そこにいたのは、虎に似た異形の獣。

背の高さは人の腰を超え、全身にまとわりつくような黒い気配。

筋肉の動きに合わせて、空気が微かに歪む。

低く唸り、牙を見せるその姿は、ただの獣ではない。


ケイはすぐに動き、周囲の市民へ声を張る。


「非常に危険です!ここから先は立ち入らないでください!」


手で制しながら、少しでも距離を取らせようとする。


その横で。


ツカサは、まるで軽く様子を見るように、

腕を緩く下げ、獣魔じゅうまへ顔を向けたまま、ジンに言葉を投げる。

「おい、ジン。あいつちょっと倒してこい」


さらりとした一言。


ジンの体が、わずかに固まる。


「えっ、俺!?……」


ツカサはそのまま、口元だけで笑う。

「お前、魔王を超えたいんだろ?」


ジンの思考が、一瞬だけ空白になる。


「えっ、あー、えっと……」


(あれ、魔王を超えるなんて、ツカサさんに言ったかな......

 それで......ど、どうしよう……あ、あれと……)


視線がわずに獣魔へ向かう。距離。動き。兵士の配置。逃げ道。人の集まり。


頭は動いている。だが、体は。


その間にも、ケイの声が挟まる。

「ツカサさん、ジンさん、よろしくお願いします!」


期待と現実が、同時に押し寄せる。

獣魔は、体を低く沈め、周囲へじわりと気を放っている。


——さらに空気が、流れる。


ツカサは腕を組み、顔は獣魔へ向けたまま、目だけをジンへ滑らせる。

「ほら、ジン」


ジンの肩がわずかに跳ねた。

「えっ……」


(い、いや……)


思考がまとまらないまま、じわりと額と背に汗が滲む。


(ど、ど、どしよう......)


意識が散り、あちらこちらに動く、言葉だけが遅れて追いつく。


ツカサは、その様子を正面で見ながら。

「うん?どうする?やめとくか?」


少し離れた位置では、ケイもすでに状況を測りながら、

獣魔じゅうまへの対処に加わっていた。


ジンは喉を鳴らす。声が震えてうまく出ない。


「い、い、い、いきま……」


(さ、さ、さ、里で教えられた......こういう時は自分を変える、変わる時だと......)


言葉が揺れる。足も指先も、どこかぼやけて震えている。


ツカサは何も言わず、その様子をそのまま受け止めている。


ジンに涙がにじみ、視界が揺れる中で——


「……いきます……むしろ、行かせてださい......!」


かすれた声。それでも、無理やり押し出す。


ツカサは短く頷き、ジンを見る。

「よし」


ツカサはそう言うと、間を置かず一歩踏み込み——わずかに腕を引いた、その次の瞬間。

背の上の肩のあたりを、パン、と強く短く打ち込んだ。

押すというより、弾かれる感覚。ジンの体が、抗う間もなく前へと踏み出される。


(うっ......結構、強めだ......)


ジンは、獣魔の方へ震えた足を運ぶ。一歩ごとに、地面の感触が遠い。

踏んでいるはずなのに、確かじゃない。


「あっ、ジンさん!よろしくお願いします!」


ケイの声に、近くの市民が顔を向ける。


ジンも、それにびくりと反応した。


「は、は、はい……」


(俺はやれる、やるだけだ……!)


背後からもツカサの声が飛ぶ。

「おいっ、剣も元に戻せよ!」


ジンの肩が、また跳ねる。

(はっ、そ、そうだ......!)


そして、ツカサの方に少し振り向き。


「ツ、ツ、ツ……」


ツカサは何も言わず、ただジンを見て。


「ん?」


そのツカサの様子を見た瞬間、ジンの中で何かが緩んだ。


(そ、そうだ……俺は対魔一族……剣士……)


ケイはジンのその様子に、わずかに動きが止まる。

違和感を覚えながらも、視線だけで追う。


ツカサが、通り全体に響く声で、ジンへまた声を飛ばす。


「ジン!霊力を剣にこめろ!魔力は体の方に使え!」


その声に、通りにいた人々が、まばらにジン達の方へ顔を向ける。


(えっ、今!?......そんな一気に……やれるのか……)


ジンは、ほとんど泣いていた。

だが足を止めない。一歩、また一歩と、距離を詰めていく。


通りの人々が「なんだ?」とざわめきながら視線をジンに向けている。


その動きに反応するように、

獣魔を囲んでいた兵士たちの空気が一斉に張り詰めた。


一人が前に出る。槍の穂先をわずかに持ち上げ、

進路を遮るようにして声を張った。


「おい、そっち来るな!危ねぇぞ!」


鋭い制止に、ジンの足がぴたりと止まる。

ほんの半歩、踏み出しかけた重心が宙に残ったまま、戻せない。


(……俺が、今、ここにいる理由……)


その隙間を埋めるように、横からケイが一歩前へ出た。

現場の緊張をなだめるように、だが声ははっきりと通す。


「大丈夫です、この方は泰黎たいれいから来ていただいた対魔の方です!

 対処はお任せください!」


獣魔の後ろに居た兵士の視線がジンへいく。

値踏みするような、疑うような、そして焦りを含んだ目。


「……はぁ?」


眉をしかめて。


「こんなガキに任せる気かよ」


別の兵士も、遅れて構えを解かないまま低く。

「ふざけんな、遊びじゃねぇんだぞ」


ジンの喉が乾く。汗がこめかみから顎へ伝い、妙にゆっくりと落ちていく。


(なんだ......体が、軽い......いや、違う......)


地に足がついていないような感覚。立っているはずなのに、どこか浮いている。


それでも、無理やり声を押し出す。


「ま、ま、ま……任せてください……!」


明らかに震えた声、それでも言い切る。その後に、


いけます……


ほとんど聞き取れないジンの声がした。


だが、ジンの言葉に被せるように返ってきたのは、即座の拒絶だった。


「いや、いい!お前は下がってろ!」


槍がわずかに前へ出る。守るというより、“これ以上前に出すな”という明確な意思。


「こっちはこっちでやる!足手まとい増やすな!」


空気が、さらに一段きつく締まる。


ジンはその場に立ち尽くす。進むことも、引くこともできないまま——

ただ、呼吸だけが浅く速くなっていった。

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