四、弍-前「価値」
その場に残ったのは、ツカサとジン、そして新たに加わったケイの三人。
ケイは場の空気を確かめるように、わずかに視線を巡らせ、軽い足取りで一歩前へ出る。
探るように間を置き、だが明るさを崩さずに口を開いた。
「じゃあ、僕たちはどこから周ります?」
ツカサは腕を組み、視線はすでに通りの奥へ流れていてる。
「そうだなー」
その横で——
ジンはわずかに視線を落としていた。
(か、かまうなって……かまっても別に……)
「おい、ジン!」
前から飛んできた声に、ジンの体がびくっと反応する。
「あっ、はい……!」
ツカサはすでにジンの方へ体を向けて、視線を定めている。
「じゃあ、まずどうする?」
「えっ、どうするって!?」
反射的に返すジン。
ケイは一歩分距離を保ったまま、二人のやり取りを静かに見ている。
ツカサの口元がわずかに緩む。そのまま、間を置かずに言葉を続ける。
「お前、話聞いてたのか?」
「えっ、あっ……」
言葉が詰まる。
(聞いてなかった……)
ジンの視線がほんの一瞬だけ逸れる。
ツカサは一度だけ短く息を抜くと、すぐに前へ視線を戻す。
「カエデ達は北の東の方から、俺たちは、南と西の方からだろ」
そう言いながら、向けた顔はそのままに、視線だけをジンへと移す。
ケイもその後ろにつき、その二人の様子を変わらず見ている。
ツカサの言葉を受けて、ジンは一瞬だけ間を置き、
とりあえず合わせるように、ぎこちなく笑みを作る。
「ああ、そうでした?えーとじゃあ、どうします?」
ツカサは一瞬だけ視線を落とし、間を置いてからジンを見る。
「俺苦手なんだよなー、こういうの、任せるわ!」
ジンのわずかに泳いでいた目が、急に定まる。
「えっ、俺がですか!?」
思わず声が上ずる。
三人のやり取りに、通りすがりの視線がときおり向けられる。
ツカサはもう前を向いている、 躊躇はない。
「ほら、さっさと行くぞ」
そのツカサの様子を見て、ジンは慌てて腰装から地図を取り出す。
視線を落とし、紙面をなぞる。
カエデから送られた情報が、頭の中で重なる。
さらに、自分自身で見た気の流れとの、位置を照らし合わせていく。
「えっ、えっとじゃあ、ここから行きます?」
差し出すように持ち上げた地図へ、ツカサがそのまま踏み込むように一歩寄る。
肩先の距離がぐっと詰まる。
覗き込む勢いのまま、じわりとジンの肩がツカサの腕に押し込まれる。
(ち、ちかっ……)
一瞬だけジンの意識がそちらに引かれるが、
ツカサはまるで気にした様子もなく、地図へ視線を落とす。
一瞬だけ目を細めて——すぐに口元が動く。
「おっ、よさそうだな!行くか!」
「いや、でも、ここって、カエデさん達と、被らないですかね?」
ジンは少しの慎重さを残し、確認するように言葉を置いた。
「まー大丈夫だろ」
ツカサは軽く腕を組み直し、そのまま空へ視線を流す。
「そ、そうですよね!」
ジンの表情がぱっと明るくなる。
自分を納得させるように一度頷き、そのままツカサへ返した。
その横で——
ケイは、指し示された場所をじっと見ていた。
わずかに視線が止まる。
「あっ、そこ……」
ジンがすぐにケイに顔を向ける。
「えっ?、どうしました?」
ケイは一瞬だけ言葉を探すように間を置き、考えるように目を細め。
「い、いやなんでも……」
「えっ?......」
間を埋めるように、ケイはジンを見て軽く頷いた。
「大丈夫です!」
「そ、そうすか……」
ジンはそう返事をすると、ケイからゆっくりと視線を外す。
(な、なにが……)
ツカサはそんな空気を気にも留めず、すでに歩き出している。
二人も遅れて続く。
——
襄桜の宮城、城壁を背に、三人は市街の中へと入っていく。
人の流れが一気に濃くなり、声と足音が重なり合う。
行き交う人々の視線はどこか遠く、互いを捉えきらないまま、ただ前だけを見据えて流れていく。
その中で、ジンは無意識にもう一度だけ地図へ視線を移した。
通りを進みながら、ジンはふと足を緩める。
視線が街の上へと上がる、空気の流れを追うように。
手にした地図と、頭の中の情報を重ねる。
「あっ、このあたりですね、少し上の方に、あの上から見た気もありますし」
そう言いながら、ジンは視線を上げたまま、空の一点に指を向ける。
ツカサもその視線の先を追うように、軽く顔を上げた、どこか探るように。
「ああ、確かに見えるな」
少し後ろを歩いていたケイが、ぱっと顔を上げる。
「えっ、本当すか!?」
ジンは一度だけケイの方へ顔を向け、すぐにツカサへと移す。
「じゃあ、とりあえず、あの見える気を中心にして、この辺りを見ていきましょう」
返事を待つように、短い間が流れる。
そして——
ツカサはふと、通りの脇へと視線を流した。
立ち並ぶ店、その奥から漂う匂いに、ほんのわずかに興味を引かれる。
「あー、腹減ったな、とりあえず飯、行かね?」
一瞬の間。
そして、ジンの声が揺れて出る。
「え?......い、いや、駄目ですよ!......」
戸惑いながらも、少し強い口調。
ツカサは少しだけ目を開けた。
「なんで?」
ジンの表情が、そこで一度止まる。
ジンはわずかに震わせながら口を動かす。
「い、いやなんでって.......」
そう言いながら、自分でも引っかかる。
なんでだ?……
通りの喧騒が、その間をすり抜けていった。
通りの流れに紛れて歩いていた、その先——
わずかに空気が乱れている。




