表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封神千希「俺は新人対魔剣士」  作者: アリエス
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/22

三、四-後「鏡」

カエデは視線を落とし、ゆっくりと街全体を改めて確認するように見渡している。

屋根の連なり。人の流れ。煙のように立ち上る生活の気配。


それらの向こう側に、意識を合わせるように——

「……見えていますか、リン」  


リンは、わずかに顎を引いたまま視線を止める。    

「……うん」


ジンは呼吸を押さえ込むように、言葉を外へ出す。


「俺も見てます......」


測るような間のあと、カエデが振り返り。

「......はい、お願いします」


リンはジンへと視線を向け、その様子を静かに追う。


ジンの瞬きも少ない。


(集中、出来ている……俺は見えている……)


一見すれば、ただの街の呼吸だった。

人の営みから立ち上る、淡く揺れる気の流れ。

それは薄く、軽く、風にほどけるように広がっている。


だが——


その中に、わずかに異なる“色”が混じっていた。

淡い気の流れに絡みつくように、粘りつくような濃さを持った、

くすんだ桃色の揺らぎ。煙のようでいて、煙ではない。


ふわりと上がるのではなく、どこか重さを引きずるように、

ゆっくりと、途切れながら立ち昇っている。


ときおり、空気に溶けきれず、その場に“滞る”ように残る。

風に流されても、完全には散らない。


まるで——

そこに「居座っている」かのように。

ジンは目を凝らす。


(こ、これが......魔族のだ!?......確認するか?......)


その瞬間。


今まで見ていた城下の上に、何かが重なる——……

いや、違う。


それは外側に現れたものではなかった。

ジンの意識の内側へ、直接“差し込まれる”。

見たことのない町。全体が、淡く、確かに“黄金色”に染まっている。


そして、そこに——


“なにか”がいる。

気配だけが、確かにそこに在る。


ジンの呼吸が止まる。


次の瞬間、胸を何かが通りすぎる感覚が走った。

視線を胸へ移し、そのまま手を当てる。


(な、なんだ……)


息がしづらい。


鼓動とは違う。静かな衝動。

そのまま立ち尽くすジンの横で——


カエデは視線を落としたまま、城下全体を捉え続けている。

「......やはり、宮城での様子が、そのまま周囲にも現れていますね」


リンはその言葉を受け、そのまま続ける。

「己の生存を懸け、正義を証明し、自らの存在価値を確認するため......」


カエデは城下から視線を外しながら。

「ええ、誰もがただ自分を、守りたい、生きたい」


ジンはまだ、自分の胸に手を当てたまま、頷いた。

「はい......」


その返事を言い終えたあと、何か音のような響きがジンに直接、流れる。



█▚ █▓ █▚▞〓▒▒█ ∴∵゜・:.。



!?


か、風の音か......?


ジンは言葉も出ないまま、その場に止まる。


そんな様子のジンへ、カエデの視線が、流れた。

「......どうしました?ジンさん」


リンがジンに振り向く。

ツカサも視線だけを動かす。


「い、いえ......大丈夫です!......」


(たぶん、風の音だったのか......たぶん......)


カエデはあらためて、ジンを見て。

「......そうですか、それでジンさん、なにかわかりましたか?」


ジンは一瞬だけ言葉を飲み込む。

胸に触れていた手に、力が入る。


「あっ......そうですね、な、なにか見たことのない町みたいなところが、見えました......」


(......言い切る......俺には見えている......なにかの声か......)


カエデは、城下とジンの間に視線を落として。


「具体的には?」


ジンはカエデを見て。


「全体が……なんていうか、金色っぽくて……整ってて……でも、静かで……」


頭の中に残っている像の断片をそのまま繋ぐように。


カエデの視線がジンに向けられたまま。

「うん......おそらく、ジンさんに見えたのは、この襄桜じょうおうかもしれませんね」


ジンの声が思わず。

「えっ!?」


(た、たしかに似てる......)


さっき見たものと、今目の前にある景色が、重なり始める。


カエデはそのまま、間を空けずに続ける。

「他には?」


ジンの目が、わずかに動く。

「あとは、なにかの気配がありました......」


言葉に出した瞬間、ほんの少しだけ呼吸が浅くなる。

(言い切った……)


カエデは何かを感じるように。

「気配?......人間......なにか」


ジンは伺うように、確認するようにカエデを見て。

「なんでしょうか?.......もしかして......魔王ですか?......」


口にした瞬間、自分でも引っかかる。


(あっ、なんで魔王って、さっきのことがあったから?......)


その場に、わずかな沈黙が落ちる。


リンの視線が、はっきりとジンへ向く。先ほどよりも、わずかに鋭い。

ツカサも、そこで初めて完全に意識をこちらへ寄せた。

腕を組みながら、興味を乗せる。


カエデは軽く腕を下に組み、一考、置き。

「おそらくそれはないでしょう、

 それほどの者が来られるほど、ここはまだ魔が強くはないので」


ジンは小さく息を抜く。


「そうですか……」


(今の俺なら......いや、さすがにか?......)


一瞬だけ浮かぶ思考を、自分で抑え込む。


カエデはそのまま、腕を解く。

「とにかく、なにかあればすぐ私達を呼ぶ事」


ジンはカエデをまっすぐに見て。


「は、はい」


カエデの視線が、ふとジンの腰元へ落ちる。

「それと、ジンさんの剣、元の大きさに戻しておく事」


「えっ?」


一呼吸、遅れて、ジンの意識が自分の身体へ戻る。

(剣?......)


視線が下がる。腰にかかる対魔剣。


その瞬間、思い出す。


(あっ!そうだあの時、里から出る前に大きさを変えたままだ......)


「あっ、あの.......」


言いかけて、止まる。


カエデの視線が、静かに返る。

「なんですか?」


(こ、これ元の大きさに......なんて、言ってもたぶん自分でって言われそうだ)


ジンはカエデを見たまま。


「いっ、いや、あの……」


言葉が続かない。

そのジンの様子を見ながらも、カエデは特に追わず。


「ともかく、わかったのがやはり、その魔族であろう気は中心に寄っているということ」


ジンの息が小さく抜ける。


(そ、そうだよな……)


思考を切り替えようとする、その内側に——

すっと差し込まれる、リンの意識。

(そうだ、自分でだ)


ジンは視線を落としたまま。


(……)


カエデは続ける。

「そして、先ほどの目撃場所と合うところは、三の通りの、東川……」


マサキがその言葉を受けて。

「なるほど、まずはそこから当たって、あとから痕跡だけの場所や、目撃のみの地点も追っていく、ということですか?」


カエデは小さく頷く。

「ええ、それらはあくまで目安に過ぎません。魔族が、必ずしも気の重い場所に現れるとは限りませんし、そして、実際にその魔族の討伐を行うとなれば、襄桜じょうおう側の協力も不可欠になります」


マサキは、わずかに苦笑を滲ませた。

「……正直なところ、内部でも足並みが揃わないことがありまして。対応が難しくなる場面もあるかもしれません」


カエデは一瞬だけ視線を上げる。

「いずれにせよ、まずは、こちらで動きながら確認していきます」


「はい、よろしくお願いします!」


そのやり取りの側で、

ジンはわずかに視線を落とす。


(少し、ツカサさんにコツを教えてもらおうか……できるのか俺……何か言ってたのか……)


そのまま、一行は石段を下り始める。


足音が一定の間隔で重なる中——


カエデの心念しねんが、静かに三人へと飛ぶ。

(今、上に羽織っている装衣そういは外して、里を出る際から身につけている、この襄桜じょうおうの装いで動きます)


ジンは一瞬だけ反応が遅れる。


(......はい)


手を動かしながら、理解が追いつく。


(なるほど、これならこの襄桜じょうおうの都でも、目立たずに動ける……剣を……)


視線を上げると、すでにカエデとリンは自然な動きで装いを整えている。

ツカサも慣れた手際で、同じように馴染ませていた。


ジンも少し遅れて、それに倣う。


(あれは、なにか言ってたのか……)


石段を下りるごとに、視界は再び人の流れの中へと戻っていく。


だが。

胸の奥に残る、あの意識の内側で見た景色は、まだ消えていなかった。


░▒ ░▒ ... ▂

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ