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封神千希「俺は新人対魔剣士」  作者: アリエス
一章

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14/22

三、四-前「永遠」

——その中心。襄桜じょうおうの都の中へ——視界を広げる場所へと。  


石畳の大通りは、昼の光を受けて淡く輝いていた。  

整然と敷かれた街路はまっすぐに伸び、

均一に整えられた衣をまとう人々が、絶え間なく行き交う。

ざわめきは途切れない。笑い声もある。だが、視線は不用意に交わらない。


通りの両脇には、精緻な彫刻を施された建物が並ぶ。

柱や壁面には人物や神話を模した浮き彫りが刻まれ、都市そのものが権威を帯びているかのようだった。

兵の姿が、間隔を置いて配置されている。

槍を持つ者、剣を帯びる者、ただ静かに立つ者。


さらに奥——段を重ねるように築かれた宮城がそびえていた。

幾重にも連なる屋根と、その上に空に向かうように重なる構えは、

都市のすべてを引き寄せるような威圧を放っている。


その光景を、四人はそれぞれの距離で受けていた。


カエデは歩調を崩さない。

視線だけで街の構造と人の流れをなぞり、必要な情報だけを静かに拾い上げていく。


リンはわずかに顎を引き、兵の配置を順に追っていた。


ツカサは肩の力を抜いたまま、通りを流し見ている。


そして——


ジンだけが、わずかに遅れていた。


(……)


視線は落ちたまま、先ほどの感覚がまだ内側に残っている。


(あれは……)


思考がまとまりきらない。


それでも、胸の奥に残る言葉だけは、はっきりとしていた。


——利用され、捨てられる。


ジンの目元が、わずかに動く。


「俺は超える……魔王を……」


ほとんど息に近い声が、足元へ落ちた。


その言葉に、隣を歩いていたリンの視線が一瞬だけ横へ滑る。

何も言わない。ただ、その揺れを確認するだけで、すぐに前へ戻した。


ツカサは気づいていないように見えて、口元だけがわずかに動く。だが、何も言わない。

カエデもまた、振り返らない。ただ、歩調を崩さずに前へ進む。


——やがて。

城を囲う城壁へと続く石段の前で、マサキが足を止めた。

「こちらから上がれますので、どうぞ」


そう言って、自ら先に一歩踏み出す。その動きに合わせ、四人も続いた。

石段は広く、傾斜は緩やかに見えて、確かに上へと導いている。


上がるにつれて、兵の数がわずかに増える。

すれ違う視線が、今度は明確に四人へ向けられていた。


一瞬だけ足を止めかけた兵がいる。

だが、マサキの姿を認めると、そのまま無言で道を開けた。


カエデはそれを横目で受けるだけで、何も変えない。

リンもそのカエデの後ろを追う。

ツカサは、すこし珍しそうに、中を見ながら歩いていく。


ジンは、その背中を前に感じながら、足元に視線を下げ、ついていく。


(……俺は超える……)


段を登りきった、その瞬間——


視界が一気に開けた。


街が広がる。人の流れ、建物の重なり、通りの交差、そのすべてが一望の下に収まる。

風が変わる。地上とは違う、少しだけ乾いた流れが頬をかすめた。


——襄桜じょうおうの全景が、静かに四人の前に広がっていた。


マサキが振り返る。少しだけ様子を窺うように、それでも務めて自然に。

「ここからどうされますか?」


その言葉を受けて、わずかに間。


そして——カエデが一歩前へ出た。

「まずは、ここから魔族特有の魔力の痕跡を見ていきます、リンもお願い」


隣で、間を置かずにリンの応じる声。

「うん」


二人の視線が、同時に城下の方へ。


ツカサはその横で、陽を遮るように軽く額に手を当て。

「おーいい眺め」


少し遅れて、ジンも視線を上げた。


(俺も見る……見れるのか……いや、見る……俺の目は……!)


言葉には出さない。だが、その体は確かに前へ出る。


その流れのまま、カエデの視線がわずかにマサキへ。

「それでは、マサキさん。魔族らしき者が見られた場所、今把握されていますか?」


急に向けられ、マサキの目線が一瞬だけ揺れた。

記憶を探るように、わずかに上を向く。

「えっと、そうですね…」


言いながら、すぐ近くに控えていた兵へと小さく合図を送る。

記録を持ってくるように、短く指示を飛ばしていた。


そのやり取りを待つことなく、カエデの静かに重ねる声。

「どうですか?」


マサキは軽く頷き、言葉を繋ぐ。

「えー、今ちょっと持って来させてまして、でもおおよそなら」


その曖昧さを受け止めるように、すぐに返る。

「ええ、それでも構いません」


それに押されるように、マサキは意識を切り替える。

「はい、えーとですね、都の通りの名や区画などはわかりますか?」


確認するような声音。

「ええ、大体は」


そのやり取りの横で、ジンの思考がわずかに遅れる。


(城下の事はわからない……が……見る……とにかく)


視線、体を前へ向かせながら、理解を追いつかせる、離れないように。


マサキはその返答に小さく頷き、視線を前へ戻した。

「はい、それではまずは……」


指先が持ち上がる。

遠くの街並みをなぞるように、ゆっくりと動いた。

通りの位置、辻の形、魔族らしきものが報告された時間帯。

断片だった情報が、指先の動きとともに繋がっていく。


それを受けるように、カエデの視線が示された地点を追う。

リンも同じ方向を見ている。言葉はない。ただ、情報をそのまま噛み砕いている。

ツカサは少し離れた位置で、城下のなにかを見つめている。


そして——


カエデはマサキを見つつ、軽く下に腕を組み、城下の方へも視線を向け。

「要するにその報告は、この城周辺だと言う事ですね」


腕を解き、そのまま城下へと体を向け、

そのまま呼吸を繋ぐように、続ける。

「魔族は、気が停滞しているところや、落ちているところに引き寄せられます。

ですので、まずは報告のあった場所と、気が落ちている地点が重なる箇所から見ていきましょう」


風が、上からゆるく抜ける。高所から見下ろす城下の空気は、どこか層を分けて流れていた。


マサキはその説明を受け、わずかに背筋を伸ばす。

理解が追いついた分だけ、目線が“案内する側”から“追う側”へと変わっていく。


「はい、なるほどそうですね」

マサキの素直な納得。


その横で、リンは視線を細めている。

城下へ落とした目は一点に留まらず、広がりの中から沈みを拾うように滑っていく。


ツカサは腰に手を当てたまま、視線を流しながら街を眺めている。


ジンも視線を落とし、城下を見ている。


(なるほど……俺は、わかる……

 見えているもの自体は同じ、どう見るか、どう捉えるかが違う)


さっきの“あれ”の感触が、まだ奥に残っている。


それでも、何かを感じるように視線を広げた。


カエデの声が、再び静かに重なる。

「魔族特有の色に共通しているのが、

 暗く、重く、密度が濃く、粘り気があるということ。

 そして、それに加えて、各個体ごとの固有の色が混ざっています」


「はい......」

今度のマサキの返答は短い。だが、その目はすでに街へと向けられている。


ジンが軽く一歩前へ出る。

視線をカエデやマサキへと向け、わずかに間を置いてから口を開いた。


「......俺も昔、その事は里で習いました」


カエデが否定も肯定も広げず、ただ事実として受け止める。

「……そうですか」


少し遅れて、マサキの目もジンへと向く。

その視線に、わずかな戸惑いが滲む。


そのさらに横で、リンはほんの少しだけ眉を寄せた。

声は出さない。ただ、違和感を測るような短いジンへの視線。


ジンはその三人の様子を見て、なにか違和感を感じた。


(ん?……)


そして、一間。


カエデが、自然な流れのまま口を開く。

「この街の人々の気に混ざる、その色があるのは……」


カエデ、リン、マサキ、そしてジン。

四人の視線が、重なり並ぶように城下に向いている。

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