ただそれだけだ
お久しぶりです。更新させていただきまふ。
再び引き戻された意識が覚醒するともう一人の自分がいた。………いや、もう一人というにはあまりに穢されたそれは、黒い塊で縛り付けた自分から徐々に力を奪っていく。
―――― ようやっと、堪忍したか、
上記を逸した声でパクパクと口が動いた。『存在』を取り込んだ事で幾分か話し方が同じになった。
「ふっ……」
思わず失笑を溢した自分にそれは首を傾げた。よもや、そこまで化け物になっているとは思わなかった。
ぎゅっと力を奮い立たせて、魔力を回す。
「そうよの、このままヌシのような感情を忘れた怪物に押されては於けぬ!」
侵食をネスクが結界で抑えてくれた事で本来の力の幾分かを引き出せる。
「部分解除―――――〈解放〉!!!』
人と龍が混じったような声でそう叫んだ。
龍の魔力は膨大だ。膨大な魔力は人となっても流れる量は変わらない。その膨大な魔力を人の身で留めて置くことは徐々に爆弾に近づいていく導火線のような物。いずれ爆発を起こし身体が木っ端微塵となってしまう。
魔力制御で微々たる魔力を流していた魔力をミレドは今、本来の魔力量で体に流し始めた。
今まで溜まっていた聖の魔力が黒い塊を押し返し拮抗していく。
「いずれ、ヌシのように感情を忘れた化け物になるくらいなら今ここで…………!」
―――――― この体ごと滅する!!!
聖の魔力が黒い何かを押して行く一方で、ミレドの体を徐々に焼いていく。
あまりに強すぎる光がその身すら焼いている。
このまま行けば、いずれ人の姿をしたミレドはその光に焼かれ、消滅する。
だが、これを野に放ち、大切な物達をこれ以上傷付けるぐらいなら、死んだ方がマシ。
「あと……………少し…………」
黒い塊の面積がついさっきの半分以下になって行く。
自分の体ももうボロボロ。根競べだ。
『ったく、昔から変わらねえなお前は!』
強い衝撃が首裏に走った。
(一体………何………じゃ)
衝撃で沈んだ視界の前に誰かが立っている。
『そうやって自分が犠牲になれば、何でも解決なんて考えじゃぁ、いつまで経っても半人前。前に言ったよな、ミレド』
肩まで無造作に伸びた黒髪が見慣れた黄金の鎧で一纏めで括られている。
それを見た瞬間、背筋がぞわりと逆立った。
「な…ぜ、なぜヌシがおる。レイブ!!!」
記憶の中にいるかつて友人。遠い昔に死んだ筈の姿をしたままレイブは青い目で見下ろした。
『これは、あの『クソ眼鏡』が残した過去の残像だ。お前と交わせる言葉も少ないが、まぁいい。今の腐ったお前に言えることを言えるからな。』
「残像……!そんな物が…………」
『あのクソ眼鏡にしか出来ないいわば、保険だ。守護者の後継が試練を受けた後のな。』
「そうか、『ネスクの結界』」
『ちっ、面倒なのが入って来てんじゃねえか?あのクソ眼鏡。あいつこうなると分かってて俺を残したな。』
レイブの言う『クソ眼鏡』とは先代守護者である『ジル』のことだろう。
生前もそう言って罵っていた事を今も思い出す。
レイブが片手剣を引き抜いて黒い塊へと駆け出した。
今でも見切れない速さの剣戟が一気に黒い塊を剃り削って行く。
そして、スライムサイズほどまで削り切った所で片手を翳した。
『消え失せろ、この世にあってはならない残滓―――――【聖擊】』
光魔法の魔力砲が吹き飛ばした。
圧倒的な強さに、閃光のような剣撃あの頃のまま…………妾は………
レイブ達を亡くしたあの時を今も後悔している。自分がもっと慎重であればあんな最悪な事にならなかったのでは……と。
『何辛気臭いしてんだお前は。どうせ邪の蛇の時について考えてんだろ?』
近くにまで戻って来たレイブがじっ、と顔を覗き込んだ後、ずばりと言った。
思わずビクッと肩が跳ね上がった。図星だ。
「おぬしらが死んだのは妾のせいじゃ!妾が調子に乗って、一人でヘヴラに挑んだせいじゃ!!それでぬしらはわらわ………わらわが…………ごめんなさい、ごめんなさい!」
『別にお前のせいじゃねぇ。人間いつかは死ぬもんだ。それが後だったか前だったかの違いだ。魔王の時はは運良く生き延びたただそれだけだ。』
怯えた少女にぽんと片手を置いた。
その足元はちりちりと光が舞っていく。
それに気付いたミレドがはっとして顔を上げた。
『やっぱ今の状態じゃ。3分の2を削るのがやっとか』
レイブが消し飛ばした先には黒い塊が徐々に集まって再集結を始めている。
「レイブ、おぬし………」
『俺達の事は構わねえ。だがな、最後にした〈約束〉はしっかり果たせ。俺達はあの時、お前に任せたんだ。俺達の後を継いだ守護者の面倒をな。だから、頼んだぞ
守護聖龍ミレドグラル!』
ミレドに力が注ぎ込まれる。それと比例するようにレイブの姿は透けて消えて行った。
レイブの手の感触が残った頭を少し触った後、ミレドは再び立ち上がる。
――――今度は間違えない。生きて再開するんだ。ネスクと………!
手の中に残ったそれを胸に当て、回した。
それは奇しくも、ネスクが『禁書庫』を開く際の行動と瓜二つであった。
―――― 『ニュクス・フリソス』




