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守護者が織り成す幻叡郷  作者: 和兎
4章 奈落の底編
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ネスクの答え

いつもと時間が異なりますが、更新させていただきます。


「さて、………その時が来たようだ。答えは見つかったのかな?」


―――パチンッ、とジルが指を鳴らす。

 凄惨な光景が一瞬にして消え、どこか懐かしい書庫の中へと戻ってきた。


「最後のあれは………何だ?」


 未だに残る最後の光景が咀嚼したまま呑み込めない。

 ソフィアの雰囲気が突如、変わったかと思えば、左手に生み出した禍々しい『黒い本』。今思い出しても、あの本を見た瞬間、背筋がゾクッと得体のしれない何かに撫でられたようにヒリついた。


「正式名、魔導書―――グリモワール。ありとあらゆる魔法を記したその本は『魔導』の究極の頂き。

 そこに記された魔法は多くの人々を導く物であり、人々に混乱をもたらす物。それ故に、過去の者達からは疎遠され、別名、『悪魔の書』と呼ばれた代物だ。」

 

 そっと、近くの席に腰を落ち着けたジル。生み出した紅茶入りカップを手に取り一口啜る。ゆったりと優雅に飲むジルが飲み干す間に考えを巡らす。

 こちらの呑み込めていない様子を察知しいるのかジルはそれ以降口を出さずに妙な空気が流れる。


―――――あの黒い本は本当にソフィアの物なのか………

 あまりに強大に感じたあの本はまるで人の為に作られた物ではないように感じられる。

 どちらかといえば、そう、魔族………。


 そこでふと、以前ソフィアから教わった事を思い出した。

 魔法は元々魔族が生み出した物。その力を抑えるために女神・セレネが人族側に教えた。

 そのせいなのか、まるで元々別々だった物をコネ合わせて2つを1つにした。

 そんな印象を感じた。


「その表情……呑み込めたようだね。」


「ああ………何とかな………」


「君は表情に出やすいから分かりやすい。」


 そうだろうか?いや、そうなんだろう。


 以前にも感じたが、精神が体に引きずられている。そんな気がする。


「それで、これからどうするんだ?」


「………まずは状況を説明しよう。」


 カップを机に下ろしたジル再び指を鳴らした。スクリーンに景色が映し出されるように辺りが変化する。


「ここは………」


「ここは奈落の底。深淵の森の中央部………今、彼女――――ソフィアは彼女達と戦っている。」


 ドンッという轟音の後に砂煙が上がった。


「な…………なんで………」


 そこには龍化したミレドが彼女の配下であるエリュトロンと()()()()()


「何で………どういうことだ」


「聖龍・ミレドグラルは今操られて体を乗っ取られているのさ。ここ、奈落の底の『怪異』によってね。まぁ、それをお膳立てしたのは彼女―――ソフィアいや、ここはあえて『グリモア』と呼ぶべきかな。」


 場面が切り替わった。そこには別の竜がグリモアと呼ばれるソフィアと戦っていた。確か名前はメイと言っていたっけ。

 凄絶な攻防の末、ソフィアの方が先に膝を地面に着けた。

 何か会話をした後、ソフィアの様子が変わった。


「…………っ!」


 堪らず駆け出そうとした所で待ったが掛かった。


「君は何をしに、今からあそこへ向かおうとしているのかな?」


「決まっているだろ!助けに行くためだ!!」


「それはあの竜少女の方かな?それとも、グリモアとなって覚醒してしまったソフィアの方………かな」


「決まっているだろ!ソフィを、だっ!!」


 一瞬迷ったが、ソフィアを救い出す事は結果的にメイを助ける事にも繋がる。


「彼女の意識は黒く汚れ、既に手遅れ。今行った所で彼女の意識が戻る事はもう無い。全てを思い出した彼女は、罪の重さに堪えられず、後は意識が瓦解する――それだけだ。」


「何を…………言って………だって、ソフィは俺を………」


「それは彼女が最後の力を使い、起こした奇跡に等しい物さ。その奇跡を起こしたことで更に深く沈んだ彼女は既に引き上げることが出来ない深い深い深淵の向こうへと去った。」


 ぴしゃりと告げたジルがメガネを取るとレンズを磨いた後にかけ直した。

 嫌な間に、冷たくなっていく体がブルブルと震え出す。

 だが、その震えを振り払い一歩、また一歩―――歩き出した。


「君が行った所で状況は何も変化などしない。逆に君が向かえば、おそらく悪化する

これは忠告じゃない――――"警告"さ。

 彼女は君を求めている。」


「何で俺を…………」


「彼女がソフィアだった時の『思い』が歪な形となってグリモアの表面に現れている。それはいわば、――――狂気だ。

 彼女はもう止まらない。彼女を止めたければ消滅させるしか道は残されていない。」


 淡々とした物言いにまるで感情が読み取れない。

 それで確信した。―――ジルとは分かり合えないと。


「まだ試してもいないのに、諦めるなんて早過ぎだ!………俺は行く。例え可能性が低くても、俺にはソフィに手を伸ばす!!」


―――― 諦めてたまるか!


 ここで踏ん張らなければ一生後悔する事になる。そんなの、まっぴらごめんだ。


「君が行くのは茨の道。針の穴に糸を通すほどか細い可能性の道だ。ネスク君、それでも君は行くんだね?」


「……ああ。俺はあんたほど賢くない。実際あんたは凄い人だよ。あれだけ自分の残した痕跡が今もあるんだからな。」


 思い起こされるのは、初めてあの洞窟で見た扉や石碑。あれ等は全て、ジルが作った物だろう。

 音声認識の扉、後継者を選別する石碑。それらは並大抵では出来ない代物。

 探せば、彼女が残した物は他にも沢山残っているのだろう。


「……驚いたね。君の口から褒め言葉が出るなんて。私はてっきり君には嫌われているものだとばかり。」


「あんた、ホントいい性格してるよ!」


 この人、絶対分かってていっているたろ。


「オホンッ、とにかく。賢くない俺は最後まで足掻き続ける。後悔なんてしたくしない。それが大事な相棒なら尚更だ。」


 ここが書庫なら…………。右手に集中して、鍵をイメージする。すると、手の中にいつの間にか『透明な鍵―――ソフリア・クレ』が出現した。


「よしっ!―――――開けっ!!!」


 思いっ切り右回した。

 ガチャリと何かがハマった音。空間が螺旋状に捻れ、光が溢れ出した。

 その中へ飛び込もうとした時、トンッと背中を押された。


「えっ………」


「―――餞別さ。 持って行くといい」


 光へ倒れ込む中、振り返るとジルがいたそして意識はそのまま光の中へ呑み込まれて行った。


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