白い本ー原初の書ー
これまでのあらすじ
体の自由を奪われたミレドと二つの権能を宿したエリュトロン、『黒い本』を開いたグリモアと竜化と権能を駆使してメイが激突している頃、ネスクは書庫で先代の守護者であるジルの紙片に触れていた。
そこで聞かされるのはソフィアの失われた過去の記憶。まだソフィアが『人』として生きていた頃の記憶である。
幸せな記憶、そこに忍び寄るのは残酷な運命であった。
ネスクが見たその光景は年頃の少女が行なったとは――――思えないものであった。
虚空から生み出した『白い本』を開いたかと思えば、次の瞬間にはギガントが無残にも切り裂かれた。巨体のバランスを崩したギガントは地面に転がる。
ギガントの上に飛び乗ったソフィアはその身体に片手を突き刺す。
未だに何が起こったのか理解していないギガントを前に、ソフィアはそれを鷲掴み、ギュッと力を込め引き抜いた。
ソフィアの手には掌に収まる紫の丸い石がギガントの血に塗れてある。
それはギガントの魔物の『核』。
パラパラと捲られる白い本を片手に悪あがきのように、ソフィアに向かって再生しつつある大きな手を伸ばしていた。
ソフィアが更に力を込めると、『核』はミシミシと歪み、ヒビが入った。
その行動は魔物の存在を示す『核』――――その破壊だった。
パリンと、『核』が砕かれると、ソフィアに向かっていた手は後一歩の所で次第に動きが止まり、魔力の淀みが塵となって崩れ去った。
その場に残ったのは、ギガントの残した跡のみ。満開に咲いていた花畑はその面影すら残っていない。
地面に着地したソフィアはゆらり、と体が傾くと、地面に倒れた。手に持っていた『白い本』はいつの間にか消えて何処にもない。
「これがこの時点であの子の中にある歪さ。あの年の子が、あんな大人すら歯が立たない魔物を相手に生き残るなんてことあり得ない。」
淡々と語りだしたジルに耳を傾けつつ、何も触れない世界を眺める。
騒ぎを聞き付けた村人衆が村のある方角からやって来る。
「この歪を観た者達は、この後、彼女をどう思うだろうね?まあ、人間が取る行動なんて決まっているがね?」
含みを持った笑みを浮かべるジルが楽しげにこちらへ視線を向ける。
「ソフィアの持っていたあの本は何だ?書庫ではあんな物、無かったが?」
「――――『原初の書』。魔法の祖にして、今は失われた書さ。この時点ではまだ彼女の元にあった。」
「『あった』?………それはどういうことだ」
「長い年月の果てに失われたのさ。その存在すらも………。
――――よくある話なのさ。その本はあらゆる魔法を記した本。森羅万象に干渉し、世界を生み出した力を有していた。ある場所では国を興す聖書として、またある所では大陸の覇者になろうとその力を利用された。血が血を塗り、再び血を流す。その本を巡って人々は争いを繰り返した。
結果、本は次第に人々の悪意で穢れ、徐々にその穢れが溜まっていく。その果てに最後は人々の記憶の中から消失し、本は最初から無かったように綺麗サッパリと失われたのさ。」
「なら、何であんたは知ってるんだ?」
「それは簡単なことさ。ここが世界を記した『書庫』で、世界の『理』、秩序を守る"守護者"だからさ。人々の記憶からは失われていても、この世界で起きたあらゆる物はここに記録だけが残る。君も。運命という楔に定められ、"守護者"に選ばれたその役割からは逃れられない。私達はそういう存在なのさ。」
「あんた、そんなにお喋りだったか?」
「ああ、そうとも。私はこう見えて結構お喋りなのさ。」
先程の冷酷な部分が角を立つジルだが、彼女の言い方はまるで先輩が後輩に言うような言い方であった。彼女という人間性を鑑みたと思っていると、再びあの、気が遠くなる気持ち悪い感覚が始まった。
次の場面に移り変わる時の感覚だ。
『そっちに逃げたぞ!!探せ!!!』
怒鳴り散らす野太い男の声が飛び込んできた。
走っていないのに自然に視界が付いて行く。その光景に何故か見覚えがあった。
松明を片手に男衆が森の中を駆ける。それを振り切ろうとするのは、ソフィア。
この光景は…………あの夢の………
「いよいよ、クライマックスのようだ。その目で然と焼き付けるといい。ここから始まるのは、彼女の犯した――――『業』
そして選択の時も近い。君はどんな選択のするのだろうね?」
あらすじを簡潔に差し込んで見ました。
今月中にあと数話更新する予定ですので、少々お待ちくださいm(_ _)m




