グリモアVSメイ
お久しぶりです!一ヶ月ぶりになりましたが更新します。
体に纏わり付く水気を受けながら、数メートル先が見えない視界ゼロの霧の中で、殺気と気配を頼りに背丈よりも大きな金槌を一振りした。
ブワッと巻き上がった扇状に広がる衝撃波が霧の中を蠢く生物の体を巻き上げた。
「打ち砕け!【地奮起】!!!」
振り上げた大槌を地面へ叩きつける。
金槌部分の魔法陣が輝くと、生物の足元から杭のように先の尖った岩が地面から飛び出し生物なのかも怪しい魔法でできた生命体にトドメを刺す。
「あーあ、残念。折角遊び相手を作ってあげたのに、壊しちゃうなんて酷いですよ〜!」
衝撃波で晴れた霧の中からぷりぷりと怒るグリモアが現れる。その手には、『黒い本』が開かれており、紫の光を放つ。先程の黒い生物もあの黒い本から生まれた存在である。
「次は……あなたの番です!!!」
地面に叩きつけた大鎚を構え直すと、一気に飛び出した。
「きゃははっ!」と笑みをこぼしたグリモアが頭を狙った攻撃をグリモアが体の重心を後ろへと引かせる事で躱す。
「隙だらけですよ〜!!」
再び、グリモアの持つ黒い本に紫の光が灯ると、本の中から黒い触手が飛び出した。
触手は四肢に纏わり付くと、ヌメヌメした液体をたらしながら両手足を拘束する。
「っ!」
「キャハハ!引っかかった〜!!
じゃ〜あ、いただきます♪」
グリモアが顔を近づけてきたかと思うと、首筋に噛み付いた。そして、チュウチュウと血を吸う。
「く、う………ぁ……あ……」
魔力が減り、体から力が抜け脱力感が湧き上がる。首筋に噛みつき、そこから魔力を吸い取るそれは、まるで吸血鬼種のようだ。
「くっ、この!」
咄嗟に『権能』を発動させた。
力が滾り、縛っている触手の拘束力を上回り引き千切る。
竜化により硬質化した皮膚を更に硬くしていく。首筋に噛み付いたグリモアに拳を振るった。
拳が振られると、グリモアの体は霧となって消えた。首筋には吸われた際の傷口だけが取り残された。
「ふふふ、ご馳走さま〜♪
中々良い魔力でしたよ〜?」
いつの間にか姿を現したグリモアが妖艶に血の付いた口元を舌で舐めた。
―――――血と共に魔力を吸われた。
幸い首筋の噛み傷はそれほど深く刺さらなかったこともあり、竜化の力を使えばすぐに癒える。
「味はまぁまぁですね〜。熟成した果実のような甘い味。ですが、私が求めるのはこんな平凡な味でありません。やっぱり、あの方じゃないと〜私のこの渇きは癒やされないようですね〜。残念残念〜♪」
「………打ち砕け【地奮起】!!」
手に持つ大鎚を再び叩きつけた。先程よりも、広範囲――――グリモアが絶対に避けられない範囲がすべて土の杭で埋め尽くされていく。
「その魔法、見飽きました〜」
そう呟くと、グリモアが持つ『黒の本』がペラペラ捲れた後、一つのページへと辿り付くと再び紫の光を放ち停止した。
「【砂塵化】」
グリモアへ迫っていた【地奮起】の杭が一瞬で砂となった。
「なっ!」
「お返しで〜す!そ~れ!!」
土の杭が今度はメイへと迫る。
驚きはしたが、魔力の流れを読んで先に土の杭を大鎚で叩いて破壊する。
絶え間ない土の杭の猛攻を受けながら魔力を滾らせ、別の魔法を発動させる。
「我が下僕となりて顕れよ―――【岩人形】!!」
地面を素材にして岩のゴーレムを生成。余裕が無いためそのゴーレムを盾に使いながらその体を足蹴に空へ飛んだ。
「撃ち抜け!【岩の散弾】」
周りに生み出した頭程の大きさの岩をグリモアへと撃ち放った。
グリモアは――――というと、不敵な笑みを浮かべ全く動じていない。
「遅いですよ〜!そんな魔法、私に効く筈無いじゃないですか!」
無詠唱、無呼称でグリモアの周りに炎の槍を生み出す―――【炎槍】だ。
炎の槍が石つぶてとぶつかり、双方が弾け飛ぶ。互角に見られるが、徐々に炎の槍の方がメイの作る石つぶてを上回り始める。
魔法の才で劣る所から魔法同士の撃ち合いでは、メイに分が悪い。だが、時間稼ぎにはなった。
最後の石つぶてが炎の槍とぶつかり爆ぜると、上回った数の炎の槍がメイへと向かう。
――――フゥ、と一呼吸整えると、先程の一時的な『権能』ではなく、完全な『権能』を発動させる。
土竜の特徴ともいえる岩肌のようなザラザラとした皮膚が体全体へと回っていき、尾骨辺りから先が三又に分かれた尻尾が生える。
頭からは羊のような捻れた角が両側から生え、瞳の瞳孔が縦長に変わる。
メイの授かった『権能』は、発動までに時間がそれなりに要する。
竜化は自由に可能だが、『権能』も。―――となると戦闘中にはあまり向いていない代物だ。
だがその分、一度発動すると鋼のような強靭な肉体、絶対的な魔力への耐性と変化する。竜族の中で『最強』といわれる所以だ。
「やぁあ!!!」
握り直した大鎚を思いっ切り横薙ぎで振り払った。金槌部分が発光したかと思えば、一斉に襲いかかる炎の槍が跳ね返った。
向きを変えて発動主であるグリモアに襲いかかる。
グリモアが魔力供給を絶ち後方へ飛んだ事でグリモアのいた足元が炎の槍によって削り取られた。
その光景を目の当たりにして自然とグリモアは口から舌打ちをこぼした。
「ちっ、絶対的な魔法耐性ですか。あなた、玩具のクセに生意気……」
「―――これで最後の忠告です。グリモア。
あなたが何者だろうと関係ありません。いますぐ、ミレド様を元に戻しなさい!
さもなければ、あなたは一生後悔しますよ。」
「はぁ?貴方こそ、その頭が高い頭を今すぐ地面に擦りつけ許しを請いなさい。
そして生まれて来たことを懺悔なさい」
メイの忠告に従うつもりのないグリモアがその手に持つ黒い本を起動させる。
パラパラ捲れる本が一つのページで止まると同時に紫の光を発する。
――――まただ。
黒い本の起動に備えて身構えていると、空で轟音と共に大気が揺れた。
聖龍・ミレドグラルとなったミレドが崩れて落ちていく姿が目に入った。
「なっ!?どういうこと……」
その光景でグリモアに一瞬の隙が出来た。意識がそちらに逸れた事で警戒していた魔法に、見えなかった道筋が鮮明に見えた。
自分の得物である大鎚を放り投げる。
クルクルと回転して飛んで行くメイの大鎚はグリモアの頭目掛けて飛んでいく。
一瞬気が逸れたが、それでもグリモア。反応速度は群を抜いており、瞬時に魔法防壁を展開する。
だが、メイが大鎚を放り投げたのは、ただ単に物理的な攻撃を仕掛けるためでは無い。
大鎚が魔法防壁に触れた瞬間、金槌部分の刻まれた魔法に光が灯る。
グリモアの足元が崩れて変形する。
そして、杭となってグリモアの体目掛けて突き出した。
「くっ、この!『二重詠唱』【砂塵化】!!」
飛び出した杭は瞬時に砂と化す。だが、先程と異なり選択を誤った。
足元が砂と化した事で足の踏んばりが緩み、バランスを崩す。防壁で防いでいるとはいえ、メイの大鎚の勢いは留まらず、グリモアにその重たい一撃が加わる。
「あなたは確かに凄い魔法使いです。ですが、その戦闘方法は魔法へと偏った物です。戦闘に関しては、素人。―――まるで子供のじゃれ合いのように純粋過ぎます。咄嗟の判断もそうです。」
足元から今も尚、迫り上がってくる杭に気が取られ、いつの間にか手前まで踏み込んでいたメイに向かって反応が遅れながら、三つ目の魔法を発動させる。
「『三重詠唱【凍らせる大地】」
「遅いです!」
素手のメイが思いっ切り右拳をグリモアの鳩尾に叩き込んだ。
叩き込まれた衝撃でグリモアが吹っ飛んだ。
初めて通った一撃にグリモアは後方で膝を付いた。その痛みで顔を歪ませた。
口の端から血がこぼれている。
「私の体質は先程ご自身で確認していたのに、もう忘れていますね。私に魔法は効果ありません。」
右手の甲に付いた氷薄がポロポロと落ちた。
「…………終わりです。さあ、今すぐミレド様に解除を――――」
メイはどすんと落ちた自身の大鎚を引き上げた。未だに立ち上がらないグリモアはボソボソと何かを呟いた。
「………を…………よ。」
「?」
「私を―――見下して、いるんじゃありませんよ!!!!」
グリモアの内に秘める魔力が大気に乗って溢れ出した。それはまるで、竜巻のようだ。
溢れ出した魔力でパチパチと空気が歪む。
グリモアが近くに一緒に落ちていた黒い本を掴み上げると、その瞬間、赤い光が溢れ出し、まるで始めから分かっていた様にそのページを開き指し示した。
「『人の叡智を以て 全てを無に帰せ 全てを壊せ 汝は個にして群 群に全 汝は破壊の使徒 鉄は覇となりて灼き尽くし ――――滅せよ』」
ここまで何節もある長い詠唱は今までグリモアが使ってい魔法の中で初めてだ。無詠唱使いのグリモアがここまで長い詠唱を唱える程の大魔法。完成させてしまえば、何が起きるか分からない。その為、発動させる前に潰しておきたい。
だが、大気を軋ませる程の魔力の渦を生み出しているグリモアに近づけない。
「【破壊の天使】」
グリモアが呟いたその魔法に聞き覚えがある。それは、かつて一つの文明を滅ぼした伝承に伝わる魔法だ。
吹き荒れていた魔力の渦がまるで嘘のように一瞬にして集束した。
先程高密度の魔力が一瞬にしてグリモアから綺麗さっぱりに消え失せている。
先程の感情をそのままの笑顔から狂気に満ちた笑顔に変わったグリモアが空を見上げる。
同じように空を見上げて固まってしまった。
ここは奈落と呼ばれる洞窟だ。目に見える空は本当の空ではなく、高密度の魔力が擬似的な空を模しているだけであって、本来、太陽の光などは差さない。
だが、一筋の光と共に、天使が舞い降りてきた。
「きゃははは!これでおしまいです!!さあ、終焉を始めましょう!!!」
妖しく光るグリモアの紫の目に宿る狂気と、彼女が多大な魔力を用いた目の前の『魔法』にメイは大鎚を更にしっかりと握り直すのであった。




