堕ちた龍 後半
更新します。内容を詰め込んだ結果、こうなりました。(いつもより多め)
本当はクーシェvs英雄達を描きたかったですが、文章量が多くなっちゃうため今回は省かせて頂きました。
もしかしたら、別の話で書くかもしれません(笑)
「ぐ………ぁ…………ぁ………あ………」
「良い加減教えて下さいませんか?龍の君。お口が固いにも程があります」
鎖で縛られ、倒れた自分をまるで汚物を見るようにあの金髪の貴族という男が格子越しに見てくる。
雷魔法で痛みつけられた傷も体に流れる魔力で徐々に治っていく。
結界で周りの魔力関連を遮断しても、体に流れる魔力までは遮断出来ないようだ。
「誰が………教えるか………!」
「おや、まだ元気がおありのようで………やれ」
「はっ!」
一緒にいる供の魔法使いが詠唱を開始した。
そしてしばらくして、再び雷魔法が身体中に襲いかかる。
「ぐああああァァァッ!」
「くくく、もっと痛めつけてやりなさい。そう、石のように固い口が割れるまで………ね。」
ここに閉じ込められ、何日立っただろう。
絶え間ない拷問で意識がチラつく中、そんなことを考えてしまう。
体に流れる魔力も極小の為、回復に回すのに精一杯で魔法へ防御を回せず、生身で受けてしまう。(最も、外部への魔法が使用出来ないためどの道、回復にしか使えないのだが。)
しばらくしてから魔法の行使を止めた。
こうやって、痛めつけて口を割らせるつもりなのだろう。
「まだ粘りますか。あなたの知っていることを教えてくだされば、私の妻としてここから出して差し上げようと考えていますが………」
「………はっ。所詮、貴様は小悪党に過ぎぬ根性じゃな。妾を手に入れることで自身の名を上げようとな。」
自身を手に入れる事で、千年経っても今も根強い伝説のあるミレドを手にした者として世に広める魂胆なのだろう。もしくは、ミレドを助けた英雄として自身を売ろうとそういうのが透けて見える。
「あなたにとって、悪く無いはずです。
ここから出れるのですから。私も名が広まりお互い良い条件………」
「寝言は寝て言うのじゃな。ヌシのような魂の捻れた輩と契りを交わしてまで世に出ようとは全く思わぬわ!!」
この世に未練など、もう無い。
大切な者達は自分を置いてとうに旅立っていった。そんな世界をこれ以上生きても仕方がない。
「そうですか。では、ペルメス連合を滅ぼすとしましょう。そうすれば、正当な後継者は私となり、この『神器』も使える事でしょう。」
「なっ!そんな事に何の意味もないのじゃ!!よせ!辞めるのじゃ!!!」
「くくくっ、今更後悔しても遅いです。
あなたはそこであなたのせいで国が滅びる所を見ていれば宜しいですとも………。」
その男はクックックと喉を鳴らして出ていく。
ペルメスほど個の力が強い国がそうそう落ちる事は無いだろうが、それでもペルメスは、クーシェとポーアの『故郷』。
力の無い体で縛り付けた鎖を必死に引き千切ろうと試みるもガチャガチャ言うだけで全く千切れる様子はない。
それから一月後。
――――― ペルメス連合の『滅亡』という訃報が届いた。
「…………………」
気分が淀み、体は壁に背中を預けたまま何も湧き上がって来ない。
気力はとうに力尽き、目に入る視界はまるで何も移さない。
私のせいだ。 またしても私のせいで
後悔の念だけが沸き起こって来る。
そんな中、檻の外から騒がしい足音が響いてきた。ガチャリと扉が勢いよく開かれると、胸倉を掴まれて持ち上げられた。
「どういうことだ!?何で、何で神器がこんな事になっているだ!!!!」
久しぶりに見た貴族と名乗った男の表情には焦りのような表情が見える。そして、口調がいつもの口調から荒い言い方へ変わっている。
男の首から掛けられたネックレスの宝石は光を失い、宝石はまるで石になってしまったように石化してしまっている。
それを意味するところはずばり、神器が、聖遺物になってしまった事を意味する。
「はっ、ははは……」
「何がおかしい!」
自嘲混じりの笑い方に彼の癇に障ったようで床に叩き落とされ、踏みつけられた。
「言えっ!何がどうなっている!」
「おぬしは……してはならぬことをしたんじゃよ」
「何だとっ!?」
「神器は……『種』を全て滅ぼした瞬間、その役割を失い『名』を失くし、只のガラクタになり果てるそう言っておるのじゃ。分かるかのう?この暴君が……!」
「貴様っ!いますぐ処刑してやる!!
おい誰か!武器をもってこい!!!」
「最後じゃから色々と言ってやろう。
貴様は臆病者じゃ。こんな衰弱した老人をわざわざ自身の得物を殺そうとするとは。屈強な戦士ならば、この場で妾の首を締め殺したであろう。この卑怯者め。ヌシのような奴はそのうち、悪魔の迎えが来るであろう。せいぜい、怯えてその股を濡らして待っておるが良い!」
自分でも分かるくらい口の悪い言い方。こんな言い方をすれば、ポーアが………
「そんな言い方していては、ポーア様に怒られますよ?ミレド様。」
「へっ?」
懐かしい声に幻聴が聞こえたのかと思い、思わず耳を疑った。
だが、それは幻聴ではなく、間違いなくその声の主がいた。
「な、何だ貴様は!?」
「あー、うるさいので寝てて下さい!」
俊敏な動きで男に近付き、男の懐に一撃。吹き飛ばされた男は壁にめり込んだまま、気絶。
啞然としているミレドの前に赤い毛が舞った。
「助けに来ました。ミレド様、遅くなってしまい申し訳ありません。」
「クー……シェ。おぬし死んだのでは……」
間違いなくクーシェだ。幻覚ではない。
「ミレド様が庇ってくださったあの時、私と仲間たちはポーア様によって近くの森の中へ転移させられました。ポーア様はあの場に残られてそのまま………」
影を落とすクーシェの様子からあの巨大な魔物を仕留めたのは、ポーアだ。
「私もあの後体を動かすのもやっとでしたので、暫く王都を離れていました。そんな中、街であの国の事を聞きまして。」
「…………」
クーシェも思うところがあるのか色々複雑な表情をしていたが、頭を振って頬を引っ叩く。
「長い話は後にしましょう。先にここを脱出します!」
「………妾は………もう良い。罪を沢山積み上げた。妾は死を持って償うのじゃ。」
「ダメです!ミレド様にはまだやってもらわなくてはいけません!!」
クーシェは思いっきり壁を殴った。
ドン!!という音が響いた後、鎖を取り付けた金具を壁から引き剥がす。
「死ぬのはその後にしてください!あっ、別に死んでほしいとか、そういうのじゃなくてですね!……んん、とにかく。ミレド様には生きていて欲しいのです。そのために私もこんな頑丈過ぎる場所に来たのです。しっかり、その対価くらい払ってください!!」
そういうクーシェは身構えた。すると、ここの兵らしい者達がわんさかと現れる。
彼らが攻撃を仕掛ける前に、クーシェは飛び出した。
お得意の素早い動きからの格闘技を駆使して翻弄しながら迫りくる兵士をなぎ倒して行く。
そんな動きはまるでネスクのようだ。
「…………よか、ろう。もう少しだけ、生き足掻いてやろう。おぬしへの対価しゃ。」
ずるずると鎖を引き摺りながら地下牢から出た。
地下牢から出て、暫く歩けば広い庭へと出た。絶え間無く現れる兵士をクーシェがなぎ倒して、撃ち漏らした兵士はミレドが対処する。
枷によってうまく魔力は集められない物の結界から出られた事で手足を使わない魔法は行使できる。
「……クーシェ、遅い。ささっとズラかりますよ。」
「クルムごめんなさい。ミレド様が地下牢で愚図ってしまわれて……。それより何食べているのですか?」
「………タイヤーキ。あげませんよ」
「要りませよ!それより、この数……」
「ん、多過ぎる。ちょっと捌くのが面倒です。」
合流した青髪の少女が加えた魚型の食べ物をパクパクッと口の中へ収めると、両手に槍を発現させた。
「―――【氷雪の聖槍】」
冷気を放つ槍を投擲した。
槍はいくつもの魔法の弾をすり抜けた後、敵地のど真ん中で氷開した。
何百もいた兵士が一気に氷漬けとなった。
「おぬし……神器使い……か?」
「………正解です。お初にお目にかかります。冰狼族のクルム。以降の自己紹介はまた今度で………。まずは、あっちです。」
素っ気ないクルムが指差した先には、ありえない魔力量を秘める者達が居た。
その魔力量は常人の何十倍もあり、一個人が持つ量だとすれば、間違いなく英雄クラスの物。
「いよいよ、お出ましです。魔王を討った者達です……。」
* * * * * * * * *
「クーシェ?…………クーシェ!クーシェ!!」
眼の前には大量の血を流すクーシェが横たわる。
「本当にこんな少女が今回の叛乱を起こしたのか?河野」
「ええ、間違いなく。私の張った結界を破ったのは彼女達です。その証拠に侯爵も、彼女の姿を目にしています。」
「…………けど、こんな子どもを………」
「不穏な芽は今の内に処分しておきましょう。彼らは、魔王軍の残党です。富樫君達のように情けを掛けて、再びこの国に災厄を齎すのですか?」
「くっ、仕方ない……か。」
コウキと呼ばれる者の攻撃を受けたクーシェ。クーシェを治そうにも、両手の魔力を封じられているため治療が出来ない。
「治れ!早く、早く治れ!!なんで、………治らない……のじゃ………なんで、妾は……ここまで、無力………」
何か、ドロっとしたような感情がもう一度こみ上げてくる。ドロッとした物はだんだん真綿をしめるように徐々に広がり、全体へと行き渡っていく。
「ミレド………さま………わた、しはだいじょう、ぶです。………だから、どうか……ご自身を攻めちゃ………だめです。ああ……どうしてわたしは………いつも……………………これ、たの…………」
無慈悲に振り下ろされた剣がクーシェの体を刺し貫いた。貫いた剣が引き抜かれると、大量の血が溢れ出す。
クーシェの瞳から光が失われていくと、同時に自分の中の『黒い感情』が外へと溢れ出した。
「あああああああああああああああ!」
黒い霧は体に纏わり付き、汚れに染まった服を黒く染め、再構築していく。
そんな中、彼女の手の中にあったのは、クーシェが最期にミレドへ託した物であった。
『鍵』の形状を取ったそれを持った瞬間理解した。あの日、ネスクを『諦めた』あの日にネスクの意識と共に放り出された書庫はあの場にいたクーシェとポーアによって回収されていたのだ。
彼女達はネスクを元に戻す方法を探していたのかもしれない。
理由はともあれ、ミレドはその『鍵』を持ち上げて、そして――――呑み込んだ。
その日、邪竜ヘヴラ、魔王――――と続いた災厄が取り除かれ、平和だった大陸は再び絶望の中に叩き落された。
黒く染まったかつて、『聖龍』と呼ばれた龍は、『堕ちた龍』または、『災厄の龍』と呼ばれるようになった。




