私と誰か
更新します。 今回は精神世界のミレドメインです。
意識が戻った時、広い草原が広がっていた。
芝生以外水平線の先まで何もない空間に自分一人がポツンといる。まるで自分一人が世界に置いてきぼりにされたようだ。
――――― 寂しい 悲しい どうして…………私はあの時…………
誰かの感情が流れ込んでくる。
「妾を呼んだのはぬしか?」
振り向くとそこに立っていた。
真っ黒なドレスを身にまとい、黒いヴェールで顔を隠したその人物が………。
「…………返して………」
「はて?妾がぬしからなにを取ったとな。ぬしと会うのはここで初めてのはずじゃが…………」
こんなおぞましい魔力を持った人物は知らない。魔力量からして、全盛期の自分すら遥かに凌駕する。ここまで特徴的な魔力なら、流石のミレドも忘れる事は滅多に無い。
「――――ううう…………………… 返してっ!!!」
声に乗った凄まじい魔力が『圧』となって振り掛かる。
魔法すら使っていないのにこの力。この人物は一体、何者なのか………
「何を返せと言うておるか分らぬが、ここから出してもらおう。外でエリュトロン達が戦っておる筈じゃ。妾はこんな所で油を売っておるほど暇じゃない故。それが叶わぬのなら…………押し通ろう!!!」
魔力回路を起動させて、魔力を流し込む。既に慣れた魔力が呼称名を言わずとも簡単に【鋭爪】の形状を取った。
黒い女の足元から霧のような黒い何かが溢れ出た。
その霧が触れた芝生が枯れて腐り、そして黒い塵となって消えていく。
その事に思わず驚愕して、叫んでいた。
「それは邪龍の、ヘヴラの力 !何故貴様がその力を有しておるかっ!!!!!」
「……………………」
「答えぬか…………ならば、それも含めて聞かせてもらおうぞ!」
叫んだミレドが動き出すと同時にその女は片手をミレドの方へ突き出した。
気づいたミレドが左へ、二、三歩と避けた。ついさっきいた所に黒い霧が何もかもを吞み込んで一直線に通過した。通過した芝生は枯れ果て、通った先には正しく何も残っていない。一点集中して狙ったその攻撃はまるで吐息のよう……………………いや、吐息その物。
思考加速していく頭で考えても、未だに答えは出ない。
(あれを食らえば、妾でも一発アウトじゃ!今は戦闘に集中じゃ!)
放たれた二発目の吐息に似た何かを再び左に躱した。
通過して行ったそれを見た後、その特性を観察しながら距離を詰める。当然距離を詰める毎に攻撃の激しさが増す。
一点集中させていた攻撃を拡散させる。拡散されたことで溜める動きが無くなり、発動までの時間が短くなる。
(こやつ、己の弱点を理解しておる!)
分散して襲い掛かってくる黒い霧を【鋭爪】でいなす。【鋭爪】の霧に触れた部分が徐々に染まっていく。浸食されている!
(これは―――ヘヴラ以上に厄介じゃ。早めに片をつけねば…………!!)
そう判断したミレドは【鋭爪】を解除した。そして代わりに手の平に魔力を溜めた。
「『吐息』!!!!」
手の平から撃ち出された『吐息』が火を吹いた。螺旋を描いてヴェールの黒い女へと向かう。
対して、その黒い女はこちらも『吐息』に似た黒い霧のような物を撃ち出した。
光と闇の咆哮がぶつかる光景はまるでミレドとヘヴラが戦ったあの時に酷似している。だが、唯一違うのはミレドが『吐息』を囮として使った事にある。
ぶつかり合う咆哮は徐々に黒い霧の方が打ち負かしていった。
辺りに振り撒かれるのは生命を吸い上げる死の霧。当たれば一瞬で命を奪うその霧がばら撒かれた事で黒い女の前方の視界は奪われる。
「【聖弾】!!」
黒い女の体が空中へと投げ出された。
下から彼女へ放たれたのは【聖弾】。聖の魔力を弾き飛ばし下から斜め上へ撃ち出したその攻撃がミレドの本命だ。
直でその攻撃を受けた黒い女は弾き飛ばされた後に、背中から倒れ伏した。
「くくくっ、見たか妾の一撃を!!さて、その面。しかと拝ませてくれようぞ!―――――――!?」
ミレドは驚きのあまり息を呑んだ。
のそりと立ち上がった黒い女の頭から黒いヴェールが地面へと落下し、黒い霧となって消えた。
「な、何故じゃ……………………なぜ、ぬしが死の魔力を…………!答えぬか!!!」
ミレドと瓜二つの人物が目の前に立つ。同じ顔立ち、同じ髪に髪色。唯一異なるのは、目の前の人物の右側から黒い線のようなヒビが入っている。
自分がもう一人いるというだけで理解不能なのに、追い打ちをかけるように目の前の人物は当たり前のようにヘヴラの魔法に似た何かを使う。
「…………返して、私の…………ううう…………力!!!!」
ミレドが後ろへ回避すると同時に元いた場所に衝撃が走った。
避けても大きな衝撃波で地面を滑るのは避けられず、防御体制のまま地面を転がった。
そこに襲い掛かるのは、黒い霧が形を取って具現化した【鋭爪】のような武器を振り下ろすもう一人のミレドであった。




