ミレドと竜達 五
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轟々と燃え上がる炎の竜巻が地から天へと吸い上げる。生身の人がこの竜巻に飛び込めば、たちまちに炎に焼かれてしまうだろう。
「これで無力化出来ていれば幸いなのですが…………」
「そう甘い相手じゃないでしょう…………あれ。どう見てもミレド様レベルのばけも――――」
「あ゛っ?」
「あ、何でもないっす」
幾ら強いといえども、乙女に対して化け物は無いだろう。ミレドがグィンダルを睨みつけた後、竜巻へと視線を映した。言い方はどうあれ、グィンダルの言う通りそれほど柔な相手なら、あの戦争でその名を轟かせはしなかっただろう。
「もう、酷いじゃないですか~」
予想通り、というか。あのふざけたような声が聞こえた。
一瞬で炎の竜巻が搔き消え、静寂が訪れる。
再び深い霧が下りて来る中、竜巻が消えた中心部に舞い降りてきた。
あれほどの攻撃を受けておきながら、全くの無傷。一体何をしたのだろうか。
「あーあ。逃げちゃったじゃないですか~。せっかく優しく殺してあげようと思ったのに~」
「うわ~優しく殺すとかマジ、サイコパス。何がどうなったらこんな子に育つんですか?」
「グウィンダル無駄口を叩いていないで集中なさい。あれの相手をなさるなら。さもないと、以前以上の痛い目を見ますよ」
引いているグィンダルを諫めながら、既にエリュトロンは戦闘態勢に入っている。流石、竜族の代表をを務めるだけあり、冷静で肝が据わっている。
それより、ずっと疑問に思っていることをグリモアに投げかけてみる。
「おぬしネスは一緒じゃないのか?」
空気が一瞬、凍り付いたように動きを止めた。空気の不穏な動きにグウィンダル、エリュトロン、ミレド全員が身構えた。
「……………………知りませんよ!!!」
突然の激昂で空気が重圧に似た重い空気がグリモアから発せられる。
「私が目覚めた時にはあの女と二人だけ!愛しい主は姿形もいませんでした。ああ、主あなたは何方に?
マスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスターマスター
マスター!!!!」
「マズいですぜミレド様。あの子の魔力、一体どれだけ跳ね上がるのですか?」
既に狂気にも似たあの言動で高まった感情に揺られて、空気に魔力が溢れ出し魔法を行使しているようになっている。
「ソフィアはこれ程魔力が不安定になることは一度たりとも無かったんじゃが……。まるで魔力に振り回される幼子のようじゃ。」
「ミレド様、今が好機。一気に畳みかけましょう」
「ちょっ、子供にその仕打ち。代表、大人げないですよ!」
「この場に大人も子供もありません。彼女は既に我々に牙をむいたのです。そんな相手に情を掛ければどうなるのか。貴方が一番理解なさっていらっしゃるでしょう。」
「っ。」
エリュトロンのぐさりと鋭いその言葉にグウィンダルの古傷が疼く。
過去に犯した自身の行いがどんな結末に繋がったのか。それは自身の体に刻まれ、忘れることのない傷となって残っている。
「ああ……そうです。こんな所で油など売っている場合ではありません。早くあなた方を消し去りあの方に会わなくては……」
「…………来るぞ二人とも。気を緩めるでないぞ!」
「「畏まりました(了解!)」」
濃霧がグリモアの体を包み込んでいく。
今までの彼女の特性から考えると彼女の使う魔法はネスクに関連した物だろう。そう考えるとこの妙な霧の答えは簡単。【深淵へと誘う霧】。
ネスクが得意とする魔法の一つであり、彼が扱う戦術の要ともいえる魔法である。厄介な特性を持つ霧が相手となると、流石に骨が折れる。
「グィンダル!」
「分かってますぜ!―― 風よ 吹き荒べ 【つむじ風】!!!」
三人を中心にサークルを描いて風が吹き荒れる。風が霧を退け、三人を霧から守るように遠ざけた。
これで霧に魔法を阻害される可能性が無くなった。さて、この後グリモアはどう攻めて来る。
視界の外から黒い一閃が飛び込んできた気配で展開していた戦鎚を鋭爪に戻してはじき返した。
「やはり貴方が一番厄介です!聖龍・ミレドグラル!!!」
「何とでの言え!おぬしはここで妾達が止めるのじゃ!!」
高速の打ち合いはさらに加速する。エリュトロンの炎攻撃、グウィンダルの風の援護、二人の後押しを受けながら鋭爪でグリモアが使う刀を打ち返した。
「あなた方はどうして私とマスターの再開を邪魔なさるのですか!」
「はっ、何が再開の邪魔じゃ。今のおぬしを見れば、ネスは嘆くじゃろうな。おぬしのその変わり様にのう。」
「ああ、うるさいうるさいうるさい!!」
ボンボン放つグリモアの魔法攻撃を鋭爪で切り裂く。以前のソフィアの高度な魔法式に比べ、威力は確かに勝るが、あれ程の厄介さが微塵も感じない。
「ミレド様!」
エリュトロンの必死な叫び声の後、足元が輝き出した。
「ぬっ!?」
見れば足元に巨大な魔方陣。今までに見たことのないその魔方陣は丁度ミレドが立つ位置に設置されていた。
グリモアに視線を向ければ、口角を上げてニヤついていた。
つまりここまで誘い込まれた。そういう事である。
あのお粗末な魔法はフェイク―――囮であり、本命はこっちにあったそういうことである。
「引っかかりましたね~では、始めましょう。あなた方とのラストダンスを…………!」
グリモアがパンッ!と一回両手を叩いて鳴らした。魔方陣から溢れ出してくるドロドロとした黒い何かがミレドの中へと入りこんでくるのだった。




