ミレドと竜達 四
今回はいつも通りの時間に更新できて一安心です。
仮眠を取っていたミレドは微かな気配で目を覚ました。ここは安全地帯の為、魔物が近付くことは全く無い。という事は、残った選択肢は限られる。
「ミレド様」
エリュトロンも気配に気づいたようで、体を起こしたらすぐに現れた。
「どうやら偵察から戻って来たようじゃのう」
「流石はミレド様。竜族一の偵察といわれるローグの気配を感知するとは……!」
ミレドに酔いしれているエリュトロンを放置して、立ち上がった。
隣で涎をたらして眠っているメイはそのまま寝かせて置き、ミレドは安全地帯から少し離れた場所にいるローグの元へと向かった。
木に囲まれた中に一人の男が口元をマフラーで隠して立っていた。額には、一本の立派な竜の角が生えている。
「戻ったかローグよ!!無事で何よりじゃ!」
「……………………」
無言のローグはジッとやって来たミレドを見つめる。銀の縦長の瞳孔が特徴的な目がミレドを観察するように見ている。
そんなローグの様子にミレドは首を傾げる。
「どうかしたのか?ローグよ」
「……………………」
何も語らないローグをジッと見つめ返す。
どこからか吹いてきた風が濃い霧の中でミレドの白い髪を揺らした時、何かがスッと動く気配がした。
「ミレド様!!!」
エリュトロンがミレドを庇うように飛び出した。
片手は竜鱗が展開され、動いた何かの攻撃を弾いた。それを皮切りにメイが大きな槌をローグ目掛けて振り下ろした。
振り下ろされた槌はグニャリとローグの姿が歪ませると共に塵となってかき消えた。
「惜しかったですね~あともう少しで一番厄介な龍を仕留められのに、残念です」
「おぬしは…………!?」
霧から現れたその人物に驚愕する。
黒い軍服のような恰好をしているが、それは紛れもない禁書庫にいる筈の『ソフィア』だ。魔力の反応も彼女であると示している。
「どうしておぬしが…………『書庫』はどうした?!あれはソフィア、おぬしあってこそ、本来の役目を発揮するはずじゃ!!何故ここに!」
「ざんね~ん。私はあなたの知るソフィアちゃんではありませ~ん♪
私は――グリモア。以後、お見知りおきを~なんちゃって♪」
「!!!?」
ミレドは驚きを隠せないまま、固まってしまった。以前、書庫であったソフィアは自分の知る無口なソフィアであった。相変わらず表情が乏しかったが、それでも人間味のある優しいそんざいであった。だが、今、目の前にいる存在はなんだ。言葉の裏に潜む悪意の塊が、そのまま形になったようだ。
それだけでは無い。
『グリモア』というその名は千年前の大戦中、幾度となく耳にした
―――史上最悪の『魔導書』の名だ。
「あなたがどちらの方なのか存じ上げませんが、私達の仲間。…………ローグはどうしたのですか?」
スッと横に現れたエリュトロン。いつものエリュトロンより格段に冷え切った声音には彼の怒りが灯っている。
「………ああ。あのトカゲちゃんですね~。視界に入っちゃって目障りだったから軽く遊んであげたんですよ~。もう飽きちゃったから返しますね~」
そう言って『グリモア』と名乗ったソフィアそっくりの少女が指パッチンを一回鳴らした。パチンと乾いた音の後、霧の中からボトッ、と何かが飛び出した。
「ローグ君っ!!!」
近くにいたメイが落下したボロボロの人物に駆け寄った。
銀色の髪のその人物は、先ほど霧となって消えた人物である。メイが必死に呼びかけるが、反応がない。浅くか細い呼吸音がするから生きてはいるようだが、かなりの重傷である。背中に生やした鈍いシルバーの色が輝く翼は無残に切り裂かれている。
「あちゃ~前の俺以上にボロボロ。」
メイが泣きながらローグの名を呼ぶ中、グィンダルが後からやって来た。そんなグィンダルを一瞥する事なく声で脅す。
「グィンダルは黙っていなさい。今、貴方に構うほど感情に余裕がありません。八つ当たりとして貴方の尻にブレスを吹きかけてしまいますよ?」
「八つ当たりでブレスとか冗談ですよね!?子供の躾でよく聞くけど、……………………マジ?」
人間でいうと、悪いことをすれば親に尻を叩かれる。というのが、竜族風になったのが『尻にブレス』である。
「………………(ニコッ)」
無言で冷笑を浮かべるエリュトロンにグィンダルの顔は引き攣っている。
――― 冗談ではなく、本気。グィンダルはそう判断した。
「あはっ!愉快なお仲間ですね~ミ・レ・ド・さ・ま。己の力を割譲してまでそんなおもちゃを生み出すなんて~気持ち悪いですよ。」
「…………メイ ローグを連れてアクアリスのおる安全地帯まで行け。アヤツならば、ローグの生命維持が可能だろう。」
「え~私を無視ですか?つれないですね~ミレド様~。いえ、その方がいらっしゃるからつれないのですか~。なら、そんな玩具は奪っちゃいましょう~!!」
雰囲気の変わったソフィア……いや、『グリモア』を前にメイとローグの元まで飛び出した。限定解除模倣魔法【鋭爪】を発動させる。
「くっ!」
爪の形状になった鋭爪を両手二つで受け止めた。黒い刀身のそれは、以前ネスクが愛用し、ドルイドの内乱で破壊され修復不可になった『刀』だ。それを今はグリモアが使っている。
刀の元となった宝武珠は使用者にあった形に変化する武器。同じ物を赤の他人が使えることなど有り得ないのだが…………
二手、三手と打ち合いながら鋭爪を振るう。
上段構えからの振り下ろし―――その動きはまるで、ネスクを相手取っているかのような錯覚に襲われる。
「なら―――」
一度見たことのある動きにタイミングを合わせる。振り下ろされる刀身が数センチ横に振り下ろされる。――――ここだ !!!
「――――――【戦鎚】!!」
手元のズシリとした重い感覚でそのまま、思いっきり横から降り抜いた。
――― 相対していたグリモアが吹き飛んだ。
木々をなぎ倒して飛んで行ったグリモアに追撃を加える事を後回しにして、メイに向かって叫んだ。
「今じゃ!!!」
ミレドの怒号にメイがローグを抱えて思いっきり、走り出した。
ここから安全地帯までそう遠くない彼女の足なら、数分で辿り着けるだろう。
「逃がすと思いますか~~?」
「思わぬよ。じゃが、おぬしも忘れておるじゃろう。妾は一人ではないということをのう」
メイ、ローグに向かおうとするグリモアの前に炎の壁が立ちふさがる。
「グィンダル、合わせなさい!!」
「分かってます、よ!」
グリモアの周りを不自然に揺らめく風が囲い込む。その風に炎が乗り、『炎の竜巻』となって、グリモアを完全に封じ込めた。




