ネスクとソフィアの過去 -幸せな時間-
更新します。
村へと入った小さなソフィアの後を追っていく。
ソフィアの姿を確認した村人達がよそよそしく家の中に入ると、扉と窓を閉める。村人達のその目、嫌悪するその目には見覚えがある。
俺がかつて、両親と暮らしていた俺達を捨てた村の人たちとそっくり。
「君が何を考えているかは分かるが、ここは過去の記憶。何度も繰り返すが、君と私は彼らに触れない。会話も出来ない。当然さ。映像の中の物語には介入な出来ないのだから。」
ジルのその言い方に堪らず感情が溢れ出した。
「分かってる!!!けどな!分かっているからと言って何も感じないわけないだろ!」
近くにある壁を思い切り、叩いた。叩いた拳から血が溢れ出す。
自分で言うのも何だが、物凄い音が鳴った筈だが、行く人々は全くの無反応。
それが如実にここが現実とは異なる所なのだと物語る。
「感情の起伏。君は実に人間らしい感性だ。そう、『人』と獣との違いとはまさにそこだね。悪には感情を高ぶらせ善を掲げる。弱きを助け、強きを挫く。君は実に彼とそっくりだ。」
ジルがまた顎に手を当てて再びぶつぶつと発症した。その物言いは科学者のような言い方。彼女の様子を見ていると自然に先ほどの怒りが引いていった。
「……行くぞ。俺は知りたい。いや、知らなきゃダメなんだ。俺がソフィアの相棒であるために。」
今も進んでいくソフィアの後を追って、村の中を進んでいく。
まだぶつぶつとつぶやくジルだが、やはり一緒の付いてくる。あんな状態でもちゃんと周りのことは見えているようだ。
目的地にたどり着いたらしいソフィアは一つの建物の扉を軽くノックした。
そこは小さな教会。なんでわざわざこんなところに来たのか疑問が、絶えないその理由もいずれ、分かるはずだ。
中から一人のシスターが出てきた。その人の目はさっきまでの村人達と異なりとても優しい友好的な物だ。
ソフィアは持ってきたバスケットをそのシスターに渡した。
『いつもありがとうね、クイル』
『ううん、だいじょうぶ!いつものことだから』
『お礼にご飯食べていってね。フィナも喜ぶから』
『フィナちゃんは?』
『今は朝のお勤めをしてるから。先に中に入って』
『は~い!』
シスターに手招きされ、ソフィアは招かれるまま中に入っていった。
「『クイル』とは彼女が"ダンタリアン"になる以前の名前さ。最も、私と出会う以前の名は彼女自身が忘却の彼方に封印した事で今まで覚えてもいなかっただろうけどね。」
「…………フィナは誰だ。」
「彼女の友人さ。親友ともいえる間かな。」
ジルが向けた先に茶色の髪を左右に束ねた少女が神父らしい老人と共にやって来る姿あった。少女はソフィアと同じ背丈の子供で年も似たり寄ったり、といった感じだ。
彼女達が中へと入っていく姿を見届けた後、窓からその様子を眺める。
とても賑やかそうな食卓の様子。フィナという少女が小さなソフィアに笑いかけるとつられるように笑顔になる。
ソフィアの両親らしい人は見当たらなかったが、彼女にとって今のこの時間は幸福に包まれた優しい日々なのだろう。
だが、―――――なぜこの記憶を封じることになったのか。
その答えがこの先にあると思うと…………
「胸が苦しいかな?ネスク君。この幸せな時間を見てしまった君は彼女の待つ運命に心を痛めている。君は本当人間らしい。」
「あんたはこんな所を見て何も感じないのか?」
「もちろん、心は私でも痛むとも。無垢な子供がこれから待ち受ける運命を思うと…………ね。」
その言い方はどこか胡散臭い。芝居かかったような物言いはまるで三流のピエロのようだ。
「あんたは…………」
「人間らしい感情はないのか――――君の顔は実に素直だね。
昔は私にも、偽善を語る感情が存在したとも。だけどね、そんなものは記憶の中に置いてきたとも、今に彼女のようにね。」
その言葉で戦慄した。ジルはどこかおかしいと思っていたが、ここまでズレているとは思っていなかった。
口にする言葉とは裏腹に心の中では、しっかりとソフィアの事を思っている。そう、思っていた。
「今は私のことなどどうでもいいさ。さ、再び場面が移り変わる。身構えても仕方がないとは思うけど、心構えはしておくといいともさ。」
ジルの言った通りに再びあの浮遊感が襲ってくる。グルグルと回る視界が収まった時、場面は夜中に移り変わっていた。
ブシャアアァァ!!!と何かが溢れ出した音がした。その方向へ視線を向けて驚愕した。
強大な魔物がそこにいた。
リザードフレア―――――地を這う巨大な竜種の魔物。口から吐く炎は一息で広域の森を焼土に変えてしまう巨大な魔物である。
魔物がいた事には別に驚いていない。何を驚いたかといえば、その魔物が倒された人物にある。
月下の下で彼の竜の亡骸の上で一人の少女が手についた竜の血をペロリとひとなめした。
月に照らされる真っ赤な瞳が妖しく輝く。先ほど無邪気に笑っていた小さなソフィア。彼女が竜の上で静かに倒した竜を見ていた。
「この頃の彼女の仕事は『魔物退治』。元々彼女には特殊な能力を宿していた彼女はその能力を買われ、彼女が守っている村の村長に拾われたのさ。君の状況と似通ってはいるが、彼女の場合は強制に近いかな。」
再び拳に力が籠ったぽたりぽたりと流れ落ちる血が地に染みていく。
どうする事の出来ない怒りをどこにもぶつけられないままただ見上げる事しか出来なかった。




