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守護者が織り成す幻叡郷  作者: 和兎
4章 奈落の底編
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あり得た世界と決別の時 その三 真実

二話目を更新します。

 

 あの幻術のような世界はで記憶の中の物から生み出したようであった。まるで頭の中をまるでこね繰り回されたようだった。そう考えると思わず、目の前の人物の顔を殴りつけてやりたくなった。


「おや、私はこれでも一発ぐらい殴られると覚悟して試したのだが、君は案外大人の思考を持ち合わせているようだね。少し驚いたよ。」


 全然驚いた表情をしていない彼女を見ても、全く説得力が無い。


「はっ、今もその片眼鏡をかち割ってやりたいが試した理由を先に聞いておきたい。何でこんな真似をしたんだ?」


 殴りたい衝動に駆られるが、今は止そう。彼女、ジルは『英雄』と呼ばれる偉大な人物であり、ソフィアのかつての主。

 冷静に考えれば、何もないのに試すような真似はしない。


「なるほど、衝動より倫理が勝ったというわけか。それとも奥手なのか、臆病なのか………」


 顎に手を置いて何かぶつぶつ言いながらじろりと見てくる。


(なんなんだ………この人………)


 その変人っぷりに先ほどの衝動が露となって霧消してしまった。


「うん。結論からいえば、君は童貞という事だ。」


「な、何でそうなるんだよ!飛躍し過ぎて意味わかんないんだが!?」


「君の歳を考えると、まだ純潔を守っていても仕方ないさ。まあ、もう少しグイっと攻めても良いと思うよ。」


「あんた、一体何しに出てきたんだよ本当………。」


 いきなりの人生の慰めで毒気が更に抜かれた気分だ。

 見た目は美人なのに中身が残念。これが残念美人というものなのだろう。


「冗談はこの辺りにして、君を試したのは、君が『後継者』として相応しい者かを試す必要があったからだね。」


「………………で、合格ラインに達したのか?」


「いーや。君に対する私の評価をいえば()()()()()()()()だね。」


 先程のふざけたような目が冷え、鷹のように鋭い目つきに変わった。その眼は間違いなく”人を|見る<見定める>目”である。能ある鷹は爪を隠すとはまさにこのことだろう。

 二つ顔を見たような気がして、思わず背筋が寒くなった。


「そうか。やっぱりな。」


「君はその評価に納得しているんだね。」


「ああ、情けないことにな。」


 この試しの最終的な目的は、あの(何もかもが幸せな)世界から抜け出すこと。それも、記憶を宿していないあの状態で。

 記憶が無いという事は本当の現実を忘れているという事。たとえ覚えていたとしても、現実と比較してしまうと間違いなくあっちの世界を選んでいたあろう。


「うん。彼女の助けがあったからこそ、君は今ここにいるのさ。」


 ジルのその一言で腑に落ちた。

 あんな、無理ゲー状態から抜け出ることなど絶対に有り得ない。あるとすれば、外側―――第三者の介入があったとしか考えられない。


「不正で"不合格"か………。何とも情けない終わり方だな。で、俺からソフィアを引き剝がすためにあんたが出てきたんだろ?やるならさっさとしてくれ。」


「勘違いしないでくれたまえ。誰も君が不合格とは言っていない。そんな君から彼女を引き離すわけないだろう。………はあ、初めに言っただろう。『称賛を言いに来た』―――と、」


 ジルが深い呆れたようなため息をこぼした。


「は?けど、さっきあんた落第点だって………」


「"私の"評価はそうさ。けど、結局の所、君を選んだのは彼女だ。確かに君を試したのは私だとも。けどね、彼女が君自身を選んだという事はそれはもう合格という事さ。おめでとう、大朏君。いや、こちらではネスク君だったね。」


 またふつふつと殴りたい衝動が湧き上がってくる。

 揚げ足からの『おめでとう』を言われても全然嬉しくない。


「おや、納得いかないと顔に出ているね。何が不満なんだい?」


「こっちとしては、不満しか無いんだが?ソフィアに選ばれたから合格?つまり俺自身はあんたに認められてないってことだろ。違うか?」


「なるほど、君は合理的な考えしかない貴族達とは違いとても高潔なようだ。」


「おいっ!!話を聞いているのかっ!」


 また顎に手を当ててブツブツ言い出したジル。昔からこんな人物なのか分からないが、彼女は自分の世界に入るとしばらく戻ってこないようだ。


「ああ、そうか。君は昔の彼女を知らないからか。なるほど、そういうことか。ならば、少し彼女の昔話をしよう。

 と言っても、私も女神セレネから聞いただけだがね。」


「あんた、本当に何なんだよ。死んだんじゃねぇのかよ。」


 ジルはどこからどう見ても二十歳後半にしか見えない。邪龍と戦ったのが二十歳後半だった筈。ということは、死んだのは嘘で実際は書庫の中にいたということだろうか。


「肉体は死んださ。今いる私は生きていた頃の思念体。書庫の中の記録の一部が私の思念を具現化しただけさ。この姿はあまり時間が無いからね。すぐに始めたい所でだけど一つだけ君に聞きたい事を思い出したよ。」


「なんだよ急に?」


あの(何もかもが幸せな)世界に思い残しはもう無いんだね?」


「当たり前だろ!俺は皆と出会えたこっちの世界が好きなんだ!」


「へぇ、即答か。そういう所は()()()に似てないね。うん、清々しい答えを聞けて良かったよ。今なら私の力で、無理やり『可能性の世界』にねじ込んであげようとも考えたけどね………」


「え………………」


「さあ、彼女の昔話の始まり始まり~」


 フリーズを引き起こしていたネスクが現実に戻った時に、目を細めてにこっと笑ったジルが手の平を一回パンッと叩いた。足元から光り出し、思わず目を瞑った。

次回、『ネスクとソフィアの過去』

 何話分になるか分かりませんが、お楽しみに!!

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