あり得た世界と決別の時 その二
朝は更新出来ず申し訳ありません。昨日は、コロナの予防接種で熱が出ていたため執筆できませんでした。いつもと時間が異なりますが更新します。
「あ……ああ……ああああ……――」
喉の奥底から声にならない魂の声が溢れ出した。首を締めていた黒い手の力が緩んだ。
―――― 人だ。
それも恐らく、知っている人物。
見える黒い何かを本能的に記憶の欠片の人物と、分かってしまった。
『見えるか?これが現実だ。彼女の意識はもう事切れた。お前がここから抜け出しても、既に彼女はいない。
彼女のいない世界をお前はこれ以上の苦痛に耐えられるのか?』
無造作に投げられ、そのまま地面に転がった。………痛い。
じんじんと地面の砂利によって手の平に出来た擦り傷が脈打つ感覚。――――ここが現実なのかもしれない。
さっき見た物が妄想でこっちが現実。
なら、この在りもしない記憶は只の妄想なのかもしれない。………いや、違う。
「諦めてたまるか!ここは俺の望んだ世界じゃない!!あっちが現実だ!!!」
虫食いだらけの記憶が徐々にはまっていく。ピースがカチリ、カチリと一つずつはまり穴だらけの記憶が蘇る。
赤い狼人がクーシェ、蔓を纏った美女がポーア。ルリに、ネア。マロンにフルール。パルメルスとフィアール。
『そんなに残酷な世界の方が大事か?お前には嫌な事しか無かっただろ。』
「確かにあっちは嫌な事だらけだったさ。嫌な気持ちにもなった。けどな、皆との出会いを否定するほど俺は腐っていない!!!」
師匠であり、頼れる存在のミレド。
そして、…………いつも無口で、時々口を開けば毒しか吐かない。けど、一番の相棒でいつも、俺のことを思ってくれる………大切なかけがえのない存在―――――、
(この記憶は本物だ。こんな嫌な記憶でも。現実じゃなかったら、胸がこんなに痛くなる筈がない!!)
記憶と心の痛み、それは彼女が最後の力で俺に齎した物だ。
たとえ記憶の中に残っていなくても………。
『まだ、諦めてないのか。無駄だ。ここからは出られない。何せここが現実なんだから。―――――――諦めな』
複数伸びてきた黒い腕が両手足、脇腹、首に巻き付いた。
首を絞められ、ゴキ、ゴキと骨が軋む嫌な音がするが、そんな物に屈するほど軟な心は持っていない。
「死んでも……絶対に(負けるものか)――――!!!!」
『強い信念を検出しました――――
これより起動プログラムの起動を開始します。――――』
謎の声と共に眩しい光が体を包んだ。
* * * * * * * * * * * * *
目覚めた時、懐かしい風景が広がっていた。
ステンドグラスに反射した太陽の光が差し込む。
古本の匂いと本棚が立ち並ぶ図書館のような出で立ちは間違いなく、いつもの書庫内である。
本棚の間をすり抜けた先にはテーブルが並ぶ。
そこはいつもソフィアが本を読んでいた場所である。
だけどソフィアは座っておらず、主のいない机と椅子が静かに鎮座するだけだある。
――――― パチ パチ パチ パチ
突如、響いた乾いた音に身構えた。
「ああ、そう構えないでくれたまえ。私は君に称賛をしに来ただけだ。」
カツカツと響くブーツの音が鳴り響く。
ここに知らない人が現れることはない。だが、目の前の銀髪の人物は知らない。
「………誰だ、あんた………」
「初めまして、と言っておこうかな『禁書庫の後継者』。
私は―――ジル。ジル・エーデルフェルト。
君の先代であり、今、君を試したものさ。」




