ミレドと竜達 二
ネスクサイドは一旦置いといて、その頃のミレド達の様子を挟みたいと思います。
長く続く空洞を抜けると、辺り一面に広がるのは広大な森―――。
霧が立ち込める森を見れば、奈落の底の外に出てしまったのかと思えるほど緑一色である。
「やはり、そう簡単にはゆかぬか………」
ぽつりと呟いた一言を具現化したかのように【探知】に敵反応が突如現れた。
ぐねぐねと唸る触手のような蔦が不意にミレドの足を掴んで持ち上げる。
足を取られた事で体が逆さまになるその真下――――大きく開けた花の口から無数の歯が生えている。
「ここまで成長した『人喰い植物』は魔王時代にしか見たことが無いのう。これも『奈落』の影響故、……か。」
ドロドロとした粘液が花の中で溢れている。あの消化液に触れれば忽ちに骨まで溶かされてしまうだろう。今にも喰い付かんとばかりに大きく開かれた口を前にミレドは至って冷静である。
長年の経験という物もあるが、こういう時に冷静さを欠くと、それが死に直結する。―――――油断は出来ない。
「ミレド様っ!!」
「来るでない!そこでじっとおれ!!」
後から追ってきたメイとグィンダルに言った。焦った表情を浮かべ彼女の身体程もある大きな戦鎚を構えるメイに対してグィンダルはミレドの事が分かっていたかのように微動だにしない。
魔力を探り、核の位置を探る。大抵の魔物は、身体の中心に核があるのが普通だが、偶にコアの位置が異なった部位に存在したり、核自体を自在に動かすことが可能な『異形種』が存在するため探っておくに越したことはない。
(うむ、通常種か。ならば………)
狙いを大きく開かれた魔物の赤い花に向け人差し指を立てた。身体を吊り上げられた事で逆に狙いが定まりやすい。
「【聖弾・拡散】!!!」
人差し指の先に集まった魔力の弾が無数に拡散するように放たれる。
魔物に取って有害以外、何物でもない光の弾が分厚い肉質の花に容赦なく穴を開ける。
足を縛って吊り上げていた蔦が段々と枯れていく。空中に放り出されたミレドが再び、地面に降り立った時、既に人喰い植物は消滅寸前であった。
【聖弾・拡散】が核を砕いた事で残った身体の残骸が魔素へと変換されているのだ。
後は自然と何も残らなくなるだろう。
「ミレド様さすがです!」
「見事な勝利、私は今、感動しております――――」
「エリュトロンやめぬか!!………先に進むぞっ」
キャッキャッと飛び跳ねて喜ぶメイと片足を地面に付けて忠誠を誓う姿勢を取るエリュトロンに堪らず恥ずかしくなった。
この程度で喜んでいられる程、ここは甘くないのだが、二人といると、何故かその感覚も薄れて来る。
「あ―――やっと追い付いた。………疲れた。マジで。俺、ここまで頑張ったの、ボルケーノドラゴン以来だよ……ホント。」
いつもよりドスの利いた声でげっそり疲れた様子のグィンダルが修復した翼を羽ばたかせて通路からやって来た。
「あ、グィ。生きてたんだー」
「フム、あの程度では力尽きない程の力はありましたか。生存出来てざんね………良かったですね。」
どこかどうでも良さを醸し出す二人がグィンダルを出迎える。グィンダルは、ところどころ切り裂かれたような切り傷があったであろう身体の傷は全く無く、既に完治して服だけがそのまま残されているようだ。
「お前、さりげなく残念って言おうとしただろ。………はぁ、まあいいや。で、ミレド様。ここからどうします〜?」
奈落の底にいるため時間感覚が分からないが既に夜だろう。ここで休憩するのも一つの手だが……。
「ミレド様、失礼ながら一つ助言をよろしいでしょうか?」
「何じゃ?エリュトロン」
「ここより、少し離れた場所になりますが、安全地帯があることを先遣のアクアリスと、ローグから報告を受けております。いかがいたしましょうか?」
アクアリスとローグは、今回の奈落の底に同行したメンバーの残り三人の内の二人である。
「そうか。では、そこで暫し休憩としよう。そろそろ中盤に差し掛かる筈じゃからそれ以降の休憩も限られてくる故な。」
「承知しました。では案内を…………」
ゆっくりと歩き出したエリュトロンの後に続く。前方からエリュトロンその後ろにミレド、左右にメイとグィンダルがミレドを囲むような陣形で進む。
この先、何が待っているかは不明であるが、一つ言えることは
――――この一行の前を阻む魔物は欠片の一片も残らないほど粉々にされるということだ。




