ソフィアとグリモア
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――― ポタリ 、ポタリと地面に血が滲んで広がる。
「あははっ!!大丈夫ですか?」
黒煙が広がる視界の中で真っ先にめに入ったのは笑顔でにたりと笑うもう一人の私という『グリモア』だ。
「……………うるさいです。あなた、私にしてはおしゃべりですね。」
額から溢れる血を拭う。先程の攻撃は危なかった。
【樹龍】に【爆発】を仕込んだ魔法を使うとは予想していなかった。さらに【風鎖】の同時発動、――――途中で魔法への魔力供給を切り、防御に回っていなければ今頃その辺の倒木と同じく消し炭になっていた。
「まあ、余裕でしょうね。あなたも、――『私』なのですか、ら!!」
そう言ってもう一人の『私』が魔法を発動させる。
風が巻き上がり、黒煙が砂煙となって再び視界を奪う。
そんな中、拳大の大きさの石礫が飛来する。
【地奮砂塵】に土魔法の【石散弾】の二重発動だ。
先程は三重発動を難なく繰り出していたことから予想はできたが、ここまで派手に魔法を連発してもつのだろうか。
「あなた、そんなに魔力消耗の激しい魔法を連発して構わないのですか?」
通常、魔力消耗の激しい魔法はそんな連発をする代物ではない。〈マナポーション〉のような魔力回復を促すものを持たない場合は、上手く魔力制御して、魔力消耗を抑えて魔法を行使する物だ。
『魔力を見る眼』で見た限りでは、もう一人の私からはそんな痕跡が一切見られない。
「あなたは知らないのですね~。私とあなたの違いを―――!」
飛来する石礫を【水刃】で砕き、走る。そのまま突っ込んでも、的になるだけ。避けつつ、横へ横へと走る。
「……はあ はあ はあ」
今までずっと『禁書庫』を管理していたため、ジルがいた頃よりも体力の限界が早い。
「ほ~らほ~ら!!しっかり走らないとその体に穴が開きますよっ!!!」
息苦しいのを我慢して、グリモアを中心に見た所をグルっと回転するように距離を徐々に詰めていく。
詰めている内に巻き上がる砂煙が収まればもういけものだったのだが、晴れる様子はなく、石礫の攻撃は更に増し最悪の一途を辿る。
(しっかりと【探知】で私の位置を把握してますか………敵に回すと厄介ですね、私。)
皮肉を混ぜながら、詰めていく。一気に踏み込める距離にまで縮めた所で魔力を込めて発動させた。
「――――【聖雷】!!!!」
ネスクが得意とする魔法【聖雷】をここぞというタイミングで発動させる。
最も身近で見ていたためその魔法のコツも制御も十分に理解している。
体力のない私でも、これを使えば人の域を超えた力が出せる。
【聖雷】で動体視力も強化されているため、量の増した石礫も余裕で避けられる。
――――ビュンという風を切る音が礫が取り過ぎていく中で鳴り響いた。
「【血造構築】」
手の平から溢れていた血が魔法を通じて、剣の形に変化した。【血造構築】によって思いのままに形を変えられた血の剣が黒い影を捉えた
(…………………取りました!!)
グサリと剣が何かを刺した貫いた確かな手応えを覚える。
「ざ~んね~んでした。それ、外れです」
「!!」
視界が明けた先には血の剣が深々と岩を刺し貫いていた。
背後からした声の元へ、新しく生み出した血の剣を空いた片手に持ち、声のした方へ振り払った。
カンッ!!と硬い金属音が砂煙の上がる戦場でしたかと思えば激しく飛び回る火花が散った。
徐々に視界が晴れていき、視界がクリアになる。
「――― えっ…………どうして、あなたがその姿をしているの…………ですか」
「あはっ!知りたいですか?それはですね…………『私』が正式な管理者だからですよ!!」
火花と共に驚愕と困惑が押し寄せる。
もう一人の私の姿が私と同じ白いドレスではなく、黒い軍服を思わせる衣装へ変化していた。
その姿はかつて、ネスクが邪龍へヴラと戦った時に見せたその衣装そのものであった。
そして今、打ち合って握っている剣はネスクがミレドから与えられた『刀』そのものである。
凄い力に押し返された。
「くっ…………なんて、力………」
「さあ、あなたとの踊りも、そろそろ、フィナーレの時間です」
後退したソフィアに追い付いてきたグリモアが振るった刀がソフィアの持つ剣とぶつかった時、血の剣が真っ二つに切り離される。なんとか、もう一つの剣で防いだものの勢いが余り地面を転がり停止した。
「ぐふ、ぐふっ…………」
「まだ生きていますかぁ~~しぶといですね。」
ケラケラと笑うグリモアを睨みつける。
片目は目に血が入ったせいか、片方しかよく見えない。
口の中は砂と血の味が広がり今すぐにでも口を洗いたい。
「う~ん、そんなに睨まれちゃいますとただあなたを殺すのも味気なく思っちゃいました。では、趣向を変えて、あなたの心も追ってしまいましょう。」
――彼女の思い通りになってたまるか!!
途切れた魔力をつなぎ合わせて、【聖雷】を発動させた。
「【深淵へ誘う霧】」
ネスクが使っていた【深淵へ誘う霧】をあろうことかグリモアが発動させた。
右上から左下へ斬ったグリモアの姿が濃霧となって消えた。【深淵へ誘う霧】は相手の索敵魔法から自らの姿を隠し、偽り、騙す魔法。
『深淵』という伝説にも登場する場所の人の心を惑わす霧を模したその霧はソフィアであっても、破るのが困難。
全神経を五感に集中させる。
風が凪ぐ音、その風から香る仄かに湿気を含んだ草木の匂い。些細に感じていたものが濃い霧の中。ありとあらゆるものが索敵に必要な『情報』
静かな静寂の中、ソフィアは剣を振り払う。
びしゃりと返り血がソフィアに付いた。べったりとついた真っ赤な花が目の前いっぱいに噴出した。
ソフィアは大きく目を見開いた。
ドクンドクンと脈打つ心臓が急にギュッと掴まれたようにい痛みを発した。
「…………ど…………どうして…………」
倒れているの自分の姿を探していたソフィアの目が一人の少女に釘付けとなった。
ブラウン色の髪に左右に分けた彼女の体から溢れ、口から血を出す少女の目は困惑した表情をしている。
そして、溢れ出る『赤』が封じた筈の扉の最後の錠前をガチャリと外した。扉が開くと共に洪水のように溢れてくる『情報』はかつて、私が持っていた記憶の欠片。
「あ、あ……ああ、ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」
ポトリと落とした剣はソフィアの悲痛な叫びと共に形が失われて解除された。同時に使っていた【聖雷】も安定性を失った雷が周りの建物や草木を燃やす。
全てを焼き尽くさんと放たれる雷を見つめるグリモアがにやりと笑った。
『お休みなさい。もう一人の――――私』




