幻夢
遅い時間になりましたが、昨日の続きが出来上がったので更新します。久しぶりの二日連続です。
エリュトロンが竜の力によって竜化した手で拳を振るう。
「ふっ!」
蜘蛛型の魔物の腹部の甲殻をいとも容易く打ち抜いた。ギチギチギチギチと悲鳴を上げ後退する。
「逃がしません!」
エリュトロンが後退した魔物との攻撃を詰める。下手に間を開ければ、糸玉、更に硬糸が飛んで来る。
魔物の鋭い前爪が鎌のように横から凪いでくる。
唯一の救いはこの魔物は霧による特性の他は、特に相性の良い属性を持っていないことだ。
『風』の能力を有していれば、例え竜の力を使っていても、鱗が数枚容易く貫かれていた。
「『全てを燃やし尽くせ、業火の爪よ。此処に顕現せよ』」
両手でガードしながら爪がメラメラと燃え始めた。蜘蛛型の魔物の鋭利な部分を過ぎた所で上へ――――、
ズバッ!
―――― 上から燃える爪が左右の前足を切り落とす。
グギュギギキ―――――!!
痛みで魔物が悲鳴を更に強くさせる。
「私は、こんな生易しくはありませんよ。」
炎の爪を引っ込めた後、それに回していた魔力を爪先に集中させた。
指先で上から残った足をなぞっていく。収束させた炎が極細のレーザーとなって残っていた足全てを焼き切った。高熱の炎で焼き切ったため高熱が魔物の再生を害して、この魔物はこれで足を生やす事が不可能になった。
上空を飛ぶ最中、グィンダルの失敗も踏まえて翼を羽ばたかせる。高速で飛び出した何かが下から横をすり抜けて行った。
「一度見せた能力です。何度もその攻撃が通じるとお思いで?」
火竜だというのに体の底から底冷えする冷徹な眼差しが飛んで行った何かをがしりと捕まえた。
それは、糸で編まれた棘である。その棘はこの魔物が切り札として隠し持っている使い捨てではあるが、非常に優れた武器である。
グィンダルの右脇と、左翼を撃ち抜いたこの棘の威力は言うまでもない。
「竜の翼を撃った事は称賛に値しますが、その代価。その身で味わいなさい。
体内へ繋がったその二本の棘に力を込めて、思いっきり振り上げると、やはりまだ切り離せていないようでマグロの一本釣りをするように容易く持ち上がった。
そしてそのまま、振り上げたそれを地面に何度も何度も叩き付ける。
刃よりも強固だったその甲殻はいとも容易く振り下ろされ叩きつけられた重圧に耐えかねて砕けて行く。
ドン ドン ドン ドン ドン ドン
地響きがなり、空に蜘蛛型の魔物が何度も舞っては落下を繰り返す。
最後の叩きつけで、既に体の甲殻はその意味を成さないくらいひび割れている。
だが、この程度で終わらせるほど甘くない。塵も残さず燃やし尽くす!
地面に転がる魔物へ近づく。
「………すぅ―――っ」
気力を込めて体内に巡るエネルギーを口の中に溜める。その反応に魔物は対応できないまま、発射する。
零距離からのブレス。たとえ邪龍の力を持ってしても、竜の力になった上からの近距離ブレスだ。大抵の魔物はこんな力を底上げしてからの底上げをされた竜族最強とされるブレスを喰らえば、魔物は容易く消え去る。
目の前にいた蜘蛛の魔物が肉も骨すら残さず消え去った。そのあまりの威力に隕石が落下したようなクレーターが出来上がった。
背後をちら見してグィンダルの様子を確認。重傷ではあるが、息はある。
「チッ、面倒ですね。あの邪龍は本当に………」
視線を戻して、本日二回目の舌打ちをしてクレーターの中心。黒い霧が揺蕩っている。
先ほどより再生の力が弱まったのか復活速度が遅い。
やはり、邪龍の力も大元じゃないようでその力は三流。グィンダルとの戦闘も含め、これまで幾度となく消して、復活させて、を繰り返したため。
既に蜘蛛の魔物本体の生物としての身体が再生を出来なくなりつつあるようだ。
「こんなっては、仕方がありません。少しばかり命を縮めることになりますが……」
心臓に魔力を溜めよう試みる。
それは、ミレドがもしもの時に、竜族へと渡した権能の一つである。その力を使えば、確実に目の前に邪龍の残滓は滅ぼせる。だが、その力と引き換えに命を少々削ることになる。
「出し惜しみしては、この先。要らぬ厄介事を振り撒くのみ。ここで――――!?」
その力を繰り出そうとした時、
―――――― 横を黒い影が通り過ぎた。
その瞬間、空間が歪み、軋んだ。
ぐにゃりと曲がる感覚が元に戻った時、邪龍の残滓であるその蜘蛛の魔物は、今度こそ完全に、
――― 骨も肉も、霧さえも残さず消えていた。
ネスクは変な夢を見ていた。
『殺せ――――!この■■■!!』
『この■■■を滅ぼせ!』
『こいつは、神敵!必ずあの方の邪魔になる!今ここで淘汰されるべきだ!』
人々に終われながら、心が"逃げろ"という言葉に従ってどこか分からない森の中を走っていた。
後ろからは恐ろしい形相の村人と思われる者達が松明を持ったり、農作用のクワやカマを持って自分を追いかけて来る。
それは、まるでとても現実過ぎるくらいリアルで、額を流れる汗や息切れ呼吸がままならなく息苦しい。
必死に逃げていると、右手を誰かに掴まれ地面に転げ落ちさせられた。仰向けの体勢のまま両手を上で固定される。
そして、恐ろしいその形相が目に入る。。まるで"悪魔"のように血走ったその目が自らを捉えた。
次の瞬間、場面が変わった。
両手両足が固定され張り付けにされている。司祭と思われる人物を中心に囲まれ、下には燃える物が沢山積み上げられている。まるで映画の『魔女狩り』を彷彿とさせる光景である。
司祭が何か呟いた後、火が放たれる。
――――― 熱い………熱い
その感覚が脳に焼き付いていく、皮膚を焼いた火が全身へと周り焼いて行く。痛い・熱い・どうして私が……。
そんな感情がどこからか湧いてくる。
そして―――― 憎い こんな目に合わせるあいつらが
業火で頭がどうかしてしまったのか。死がすぐそこまで来ているせいか。訳の分からない感情が脳裏を支配する。そして、願う。――――生きたいと、
その願いの次に願ったのは―――――殺したい。
また、場面が変わった。
焼かれた筈の自分が立っている。
周りは火の海と化している。阿鼻叫喚の地獄絵図通りとなった。
焼かれつつある人物が一人近づいてくる、
それは、先ほどの場面で司祭の格好をしていた人物だ。焼かれながら、ぶつぶつと何か呟いている。
炎に喉を焼かれたせいか声になっていない。
唇の動きで読み取る。
―――― 誰か あの、グリモアを…………………




